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あなたと恋のワルツを  作者: 杏美
2/14

▼波乱の種

 波乱の種は、意外と気付かない内に自分で蒔いているのかもしれない。


 私の両親は完璧な政略結婚で、出会いから結婚、記念日と、ありとあらゆるものが全て仕組まれたもので。

 そんな二人の間に、愛情は生まれるはずもなく・・・、


「おかえりなさいませ。」


「あぁ。」


 なんてことはない。


 お母様は結婚する前から、孤児上がりで、現国王の騎士にまで昇りつめたお父様が、好きで好きでたまらなかったらしい。


 そんな二人の夫婦仲は、その辺の貴族より良好で、私はそんな二人が少しばかり誇らしいと同時に、とても憧れている。


 でも、この事は両親には言わない。それが私の変な拘り。 


「なんだ、リーシェ。もう起きていたのか。」


「おかえりなさい、父様。もう太陽は出ていますわ。」


 お父様はお母様に脱いだ上着を渡しながら、朝から秤と金貨を目の前に帳簿をつけている私に気付くなり、特大の溜息を吐いた。


 お父様の言いたい事は判っている。普通の貴族は、夜明けまで騒ぎ、昼過ぎに起きる。だけど私はそれが身体に合わない。


 朝は日の出と共に起き、夜はそれなりに起きてはいるけれど、出来るだけ寝るようにしている。

 そうしなければ、私に付き従っている使用人達が休めないから。

 それを如何に自然とこなせるかは、私の手腕にかかっている。


「お前はまた・・・、そんなに金が好きか。」


「好きです。それに大切ではないですか。このお金は領地改良の借金の返済に使われますし、こちらは橋の架け替えに、こちらは王家に収める分、そしてこちらが・・・」


 チャリン、チャリン、と、金貨や銅貨を秤に乗せ、領地収支報告書に書き込んでいく。


 小さいとはいえ、リエンヌ王国はハーラント領の領主でもある我が家。


 病気に強い麦を作り、かつては『リエンヌの荒野』と蔑まれた領地を、何とか『ハーラントの恵みの地』と呼ばれるまでに立て直した。


 その際に国に借金をしたけれど、それも今年で返済が終了する。

 これもそれも、全ては領民達が頑張ってくれたお陰。


「喜んで下さい。借金の返済が終了します。」

 

 それを伝えればお父様とお母様は途端に笑顔になった。そしてお母様は。


「まぁ、ほんとに、リーシェ?もう旦那様はバカにされなくても済むのね!?」


 ムギュッ、と、抱きしめられ、思いっきり頬ずりされるのは、14歳になった身としては恥ずかしい。

 母様はそれが解っていながら、やめてはくれない。



 そう。これが私の望む平穏。

 ささやかだけど、幸せがすぐそばにある今。

 高望みはしない。

 手の届かない幸せは、波乱を呼ぶだけだから。


 

 母様の熱烈な抱擁から解放され、お茶を飲み、一段落した頃、老執事のセナスが不可解気に、来客の知らせを、私に知らせに来た。


 私に来客を知らせるのは、普段、お父様が屋敷にいないからで、お母様は生粋の貴族だから判断が出来ないから。今日はお父様がいるのに、私に来客を知らされたのは、仲の良過ぎる両親のせい。


「誰なの?」


 今日は誰とも約束はしていないはずなのに。

 ドーニス公爵令嬢だったら悪いけど追い返して、いえ、出直して貰おう。


「それが、シルヴェニエ伯爵家のご令嬢とご夫妻でして。是非ともお嬢様にお逢いしたいと・・・。」


 シルヴェ二エ伯爵家。


 その家の名前に、私は関った記憶がなかった。

 だけどわざわざ我が家に来てくれた、格上の貴族を門前払いするほど、私は莫迦で、礼儀知らずじゃない。(ドーニス公爵令嬢は別として。)


 私はセナスに部屋に通すように言いつけ、部屋着のまま、執務室から客間に足を踏み入れた。

 当然、お母様もお父様も一緒に。(着いて来るならお願いだから離れていて欲しい。)そして何故か、数人の使用人たちも一緒に。


 客間には既に客人が待っていて、私が入って来るのを認めると立ち上がりそうになったので、それを手で制し、来訪の理由を尋ねた。


「お待たせしました。当家の様な貧乏貴族に何か?」


「お姉ちゃんっ!!」


 私が口を開いたと同時に、小さな塊が私に突進してきた。

 その小さな塊は、私にしがみつき、中々離れてくれない。


「あの、失礼ですが・・・」


 離してくれないだろうかと、暗に言ってみたけど、上手く伝わらなかった。

 そればかりか、夫婦は私を見て蒼褪めていた。


 全く、失礼な人達だ。


 私は自力で小さな塊を剥がし、溜息を吐いた。


「用件がないのなら、下らせてもらっても?お金と時間をもてあましているあなた方と違い、うちは何かと忙しいんです。セナス、お帰り頂いて。」


「はい、嬢様。」


「待って下さい!!」


 不快感も露わに言い捨て、客間から退がろうとした時、伯爵夫人と思しき女性が、声を張り上げた。

 顔色は蒼褪めているけど、必死に何か言おうとしていた。


 そんな時、お母様が突然叫んだ。それに呼応するように、伯爵夫人(仮)も・・・。


「貴女、ジュリエッタじゃないのっ!!あの傲慢で高飛車な。」


「マ、マリアなの?あの病弱なマリア?」


「私はマリーナよ。」

 

 二人は知り合いなのね・・・。

 それにしてもお母様が病弱って・・・、


「この私が、今の今まで本当に病弱だったと思ってたんなら、単純なのね。私はね、貴女達が気持ちよく過ごせる為に吐いていた嘘なのよ。そうじゃなきゃ、娘は生まれてないわ。」


「む、娘って、じゃあ、この偉そうで怖い子は貴女の娘なの?マリア、貴女確か、弟と同じくらいよね・・・?」


「私は今年で29よ。アンタの弟よりは二つ上よ。」


 私はちらっと、横目でお父様を盗み見た。

 お父様は今年で42歳。

 そして、目の前でお母様と生き生きと言い争ってる人は、多分30歳くらい。


「それに娘は怖くもないし、偉そうではないわ。偉いし、努力家なのよ。」


「それならなぜ、あのドーニス公爵家のご令嬢たちと付き合ってるのよ。褒められた事じゃないわ」


 お母様やお父様、それに使用人たちは、基本、私に干渉しないし、してこない。 

 だから、私が誰と仲良くしているかは分からない。

 なのに、このご婦人はいとも簡単に、私の秘密ともいえない秘密をばらしてしまった。


 ちくちくと刺さる説明を求める両親と使用人達の視線。

 

 これだから内緒にしていたのに・・・。



 えぇ、えぇ。

 説明します。

 だから、そんなに睨んで、泣きそうにならないで下さい。


 ハァーっ、と、深い溜息を吐き、私は頭を抱えた。 


改稿します

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