▼欠けた片翼
欠けてしまったものは、二度と元には戻らない。なのに、元に戻る様に願ってしまう私は、愚かしくも卑しい人間なのだろうか?
すっかり冷たくなり、ピクリとも反応しなくなってしまった最愛の人は、死してもなお美しくもあり、気高い雰囲気を纏っていて、死んだ事を未だに認めたくない私にとっては、何にも慰めにもならない。美しくとも、以前の様な雰囲気のままでも、彼自身の身から滲み出る輝きが感じられなければ、彼は彼ではないから。
それでも別れ難いのは、彼を本当に愛していたから。
サラ様が彼を愛しいる事を知りながら、彼の父の身分が低いが為に私の婚約者になり、私付きの護衛になった彼。
もう二度と私の名前を紡いでくれない彼の額に最後の口付けを落し、棺の蓋を閉めてくれるように彼の同僚たちだった神官に頼み、ベールの内側ではらり、はらりと大きな雫を頬に伝わらせ、別れを惜しみつつ、彼を見送った。これでもう二度と彼とは会えない。
いつ、如何なる時、神殿に逢いに行っても、彼は私の名前を呼んではくれない。甘い声で私の姫とは呼んではくれない。
「さようなら、私の運命の人、ウォルフ・・・。」
寂しさと辛さを堪え切れずに涙声で別れを告げた直後に、大聖堂の鐘が、荘厳な音を奏で鳴り響いた。それは離別の鐘と言われているもので、真に神に仕えた人でなければならされない神聖なる鐘。それが鳴らされたと言う事は。
「リリーさん、貴女・・・。」
彼が死んだと知らされた時から今日まで泣き続けた私の目は、ウサギのように真っ赤に充血していて、そんな私を心配してくれたサラ様は、私と同じく彼を愛していたから、何も言わずに私を抱き寄せ、慰めてくれた。本当なら憎んでも憎み切れないだろう私を慰めてくれるサラ様。
そんなサラ様だからこそ、私は彼女を本当の意味で嫌いになれない。だから彼女には幸せになって欲しい。
だから私は何があっても彼女の味方になろう。例えそれで命を奪われる事となったとしても。もう二度と、私の大切な人を目の前で失わない為にも。
こうして、私の初恋は悲しみと共に儚く散ったのだった。