▼婚約者の過去
命を奪われた神官は、神官としては未だ新人と言って良いほどの青年で、若いながらにも多くの人々に慕われていた神官だった。
その彼が殺された原因を探る様にと、国王陛下より直々に命じられた私は、彼に特に目をかけていた神官長との面会を願い出て、顔を合わせるなり、殺された彼の私物の提出を求めた。
「サイラス下級神官の私物、ですか?」
だが、神官長から返ってきた答えは。
「サイラス下級神官の私物は、嘗てのご婚約者様と、そのご家族の方が全てお引き取りになられましたよ。お可哀想に。お嬢様は当分立ち直れませんな。」
殺害された神官の嘗ての婚約者と、その婚約者の家族に引き渡したというものだった。
だが、私はそれをすんなりと信じる訳にはいかなかった。何故ならば彼が殺害された事は、極一部の人間を除き、未だ秘されているままだったからだ。
それなのに何故、嘗ての婚約者が遺品を引き取りに来る事が出来たのか?
――疑わしきは罰せよ。
王太子が常に口にしている言葉が一瞬、頭の中でよぎった。と、その時。
「レヴィエ殿。御令嬢のご家族は決して疑ってはなりませぬぞ。彼らは間違いなく被害者ですからな」
「ですが、」
「レヴィエ殿、あなたはご自分のご婚約者様とご家族様を疑われるのですかッ!!」
大喝だった。
私はそれにも驚いたが、神官長の言葉になおさら驚いた。
何故ここで、私の婚約者が出てくる?
驚きで声が出ない私に、神官長は顔を歪め、顔を逸らした。おそらく激情のままに口にしてしまった事を悔いているのだろう。
神官はいかなる時でも平等で冷静であれ、と言われている。なのに、今回のこの失態。
「サイラス下級神官は、三年前のある日までハーラント家に騎士として仕えていたのです。歳が近い事もあり、サイラス下級神官とご令嬢は自然と恋仲になり、婚約を交わしましてな。それがあの忌まわしい事件で・・・、」
だが神官長はすぐに持ち直し、切々と子爵家は被害者なのだと私に訴え続けた。そして神官長は最後にこう締めくくった。
サイラス下級神官は、三年前の口封じで殺害されたに違いないのです、と。
もしそれが真実であるのならば。
「婚約者、か。」
神殿の帰り、夜空を見上げれば、星は空で燦然と輝いていた。
まるで何かを探し出し、真実を照らすように。