▼友人と私
サラ様視点
リリーと私、サラサ・ドーニスの付き合いは長い方だと思います。なにしろ、私のお父様とリリーのお父様は普段こそはあまり会話こそはしませんが、嘗ては共に陛下の為と剣を振るい、背中を預け合った仲。その事から、私は物心つく前からリリーと付き合っています。
そのリリーが、先日正式に例のアスカール侯爵様と婚約したとお父様から聞かされた時は驚きましたわ。
リリーは私達と同じく、とある事情から『結婚はしたくない同盟』を結んでいたのですから。それが信じられず、詳しくお父様に問い質せば、リリーは嫌だ嫌だと喚き、久しぶりに子爵様に泣き縋ったと言うのに、侯爵様に上手く言い包められ、結果として自分から婚約を受け入れたとのこと。
「やりますわね・・・、リリーを言い包めるだなんて。」
「リーシェちゃんは変な所で意地っ張りで負けん気が強いからね。マリーナさんに似て」
娘である私の言葉にうんうんと頷き、苦笑しているお父様は、その昔、リリーのお母様を虐め、大変な仕返しを受けた集団の一人。
今ではすっかりリリーのお母様を崇拝している一人。
「でも、婚約したからって、リリーは普通の令嬢ではなくってよ。」
リリーの家には跡継ぎがいない。
リリーはそれを理解してるからこそ、普通で平穏な暮らしがしたいと口にしている。
普通で平穏な生活と言うのは、適当な跡継ぎとなり得るヒトと婚姻を結び、跡継ぎを産んで育てるという事。
そこにリリーの幸せは無いと、リリーは気付いてはいません。
いえ、気付いてるのかもしれません。
だからこそ愛や恋と言った感情を忌避しているのかもしれません。
三年前のあの日、あの事件さえなければリリーは・・・・。
「サラサ、お前は今でもウォルフが好きか・・・」
お父様のその突然の言葉に、私の胸は痛みました。
ウォルフは、私の従弟で、今は神殿に仕えています。
だから好きでも想いは伝えられない。
諦めてしまえば、王太子妃になる事を受け入れてしまえば、こんなに心を痛める事もなくなるのは判ってはいても、諦めきれない。
「当たり前ですわ・・・。私はお兄様しか好きになれませんわ。」
恋や愛を忌避するリリー。
お兄様しか愛せない私。
全くの真逆である様な私とリリーは、その実はそっくりで。
多分、リリーは自分でもそうとは判っていないのでしょうけど。
だからこそ、私とリリーは一緒にいるのだと思います。
久しぶりだと思います。
宜しく。