博麗大結界2
今回は短めです
よし、全て予定通りに進んでいるな。
私は目の前で奮戦している2人を見つめながら、計画が当初の予定通りに進んでいることを確認する。幻想郷のために紫様が数百年も前から立てられた計画も、もうすぐ最終段階に入っている頃だろう。
幻想郷を守る博麗大結界の構築。それは博麗零夢の死を意味する。いや、直接殺すわけではない。歴代最高の巫女である博麗零夢を幻想郷の礎にすると言った方が正しいだろう。
紫様の夢。それは人間と妖怪との楽園を創ることだった。
滅びゆく定めであった私たちを救済する最善の一手。外界との繋がりを遮断し、半永久的に続いて行く楽園を目指し、今日この瞬間まで漕ぎ着けた。大陸の妖怪たちが目指し、憧れ、それでも届かなかった夢がもう目の前まで来ている。もうすぐ、もう間もなく私たちの悲願が達成される。全ての妖怪が緩慢な死を避けられる、そんな世界が出来るのだ。
今、目の前では大和殿たちが妖怪たちに大立ち回りを見せている。…残念な妖怪たちだ。我々に誘い出されたことも知らずにわざわざ殺されに来るとは。ここにやって来ている妖怪たちはならず者か、巫女と賢者を倒したという名声欲しさに来た者たちばかり。世界という大局を見ず、己の利権にのみ走る愚か者たち。待っていろ、結界が貼られ次第私が直々に始末してやろう。
そしてこの場に黒い闇に包まれた妖怪が姿を見せた。
これは一つの合図だ。この瞬間から、2人はあの闇を纏った妖怪に引きつけられることを意味する。この妖怪が現れることは前もって計画されていたことであるが、あの闇を纏った妖怪には注意しておかなければならない。何を考えているのか解らない上に、私を以てしても御しがたい存在だから。紫様も何故あのような妖怪を利用しようと思ったのか…
「私がこいつ等を迎撃する! 2人はその妖怪を足止めしておいてくれ!!」
闇の妖怪が大和殿を強襲し、その隙を突いた妖怪共が防衛線を突破してくる。迎撃はするが、わざと何人かの妖怪を素通りさせ、それを追いかけるフリをしながら紫様たちの場所へと向かう。この後、私は2人と距離を取ってからこいつらを始末し、後は何者にも主の邪魔をさせない様に控えておく手筈になっている。
「悪いが、敵対する者は逃がすなとの御命令だ。恨むのなら浅はかな自分を恨め」
前方を飛ぶ妖怪たちに狐火を飛ばして焼き殺す。神社の近くに来た時には、目の前には一匹の怯える妖怪しかいなかった。…仕方あるまい、私は九尾の狐。目の前の小さな存在にしてみれば遙か雲の上の存在だ。だが、どんな相手でも情け容赦はしない。せめて苦しまないように一瞬で殺す。
目の前で怯えている妖怪の首を一瞬で斬り裂き、絶命させる。返り血が私の服に跳んだが、気にもならなかった。
…あまり気分の良いものではない。解っていたこととはいえ、巫女やこの妖怪たちも本来なら救うべき対象だ。こういう結果になってしまって本当にすまないとは思う。
計画の立案当初から多くの犠牲者が出ることは重々承知していた。そのことに何度も迷い、苦悩し、だがそれでも止まらない、止まることを許されない。私たちが止まればより多くの犠牲が出る。悪いとは言わない。謝ることも絶対にしない。だがせめて礼を言わせてくれ。『未来』 の為になってくれて、本当にありがとう。深く頭を下げ、感謝の意とする。何度も、本当に何度も繰り返したことだ。
「ふざけろ、この馬鹿者」
「!?」
そんな私の背後に突如とし現れたあまりにも強大な妖気。振り返って見るまでもない、これほどの力を持つ存在は幻想郷でも限られている。だが何故、何故貴方様が今此処にいるのですか!?
「そこで待ってな。わたしがあんたの主を止めてやるよ」
視界が暗くなる前に見た人物は、悲痛な面持ちをした大和殿の母であり、紫様の数少ない『友人』 である伊吹萃香様だった。
◇◆◇◆◇◆◇
~神社から少し離れた上空~
「大和さん右!」
言われなくても、右方向から飛んで来る槍で串刺しにされる僕が視えてるよ! 先程から視界を覆い尽くすように目の前の黒い球体から多数の槍・棘や、黒い弾幕が飛んで来ている。辺りは夜の闇以上の漆黒の世界に包まれており、あまりの視界の悪さに能力を使わなければ攻撃を避けられない。
そうこうしている間にも時間は過ぎていく。何故か妖怪は執拗に僕を狙ってくるため、藍さんの援護に行けないでいる。基本的に美鈴を無視しているようなので、美鈴を藍さんの援護に向かわせようとしたんだけど…それは叶わなかった。
美鈴を向かわせるために僕が全力で相手をしているのにも関わらず、その僕を相手にしながらも美鈴の行動を制限させる。背後?(真黒いためどちらが表か解らない) から仕掛けても、まるで後が見えているかのように迎撃される。一つ一つが必殺の一撃であり、出所や初動を見ることが出来ないので厄介なことこの上ない。
「早く零夢のところに行かなきゃならないのに…」
焦りは禁物。そんなことくらい熟知している。でも時間が掛り過ぎている。こうしている間にも零夢の身に何かが起きているかもしれない。紫さんが居るとはいえ、絶対に安全だとは言えないのだから。
焦りは判断を鈍らせ、動きを単調にする。静の気質を持った僕にとって平常心を保てないことは死活問題だけど、今回ばかりは心を静めることが出来そうにない。
「…焦ってるのね」
「!」
相変わらず姿は暗闇に紛れて見えないけれど、今までの沈黙を破って声が聞こえてきた。そこから考えるに、おそらく女性ではないだろうか。
「早く向かわないと手遅れになるけど、それじゃ私は倒せない。 巫女の身を案ずるのならばこそ、全力を以て私と闘いなさい」
それすら出来ないのなら此処で死んでもらうわ、そう言った妖怪から途方もない力が解放される。そこから放たれてるプレッシャーはまるで師匠と対峙しているよう。こんなとんでもないバケモノが幻想郷にはゴロゴロ居るのかと思うのと同時に、僕はここを突破出来るのかと考えた。いや、それ以前に僕はこの師匠クラスの妖怪を前に生き残ることが出来るのだろうか?
あらゆる思考が頭の中を駆け巡り網目のように絡み合う。思考の淵に沈んでいく僕を正気に戻したのは、嘗て大陸を共に横断した相棒だった。
「大丈夫、私が着いてます。勝てますよ…いえ、貴方を勝たせてあげます!!」
「美鈴……」
僕の肩を叩いて強気な笑みを浮かべて崩さない。今も昔も頼れる武の先達を前に僕は目頭が熱くなるのを押さえた。…はぁ、何時もこうだ。僕が周りを守っていきたいのに、誰も彼もが僕の前に出てくる。カッコよすぎるんだよまったく。
「何言ってるんだ、僕が美鈴を勝たせてあげるんだよ。何なら後で寝ててもいいよ?」
「そうですねぇ…。それも魅力的ですけど、せっかくなんで隣に立たせて貰います」
「好きにしたらいいと思うよ?」
ケラケラと笑い合う僕らを見て、目の前の妖怪からもクツクツと笑い声が聞こえてきた。何が可笑しいのか、僕らは狂ったように笑い合った。
漸く何時も通りになりましたね。ありがと。短い一言だけど僕らにはこれで十分。あとはこれからの行動で示せばいい。
「さて、と。じゃあ一発やってみますか!」
「ですね」
魔力を、気を纏い目の前の妖怪を睨みつける。もう大丈夫、何時も通りにやれる。隣には心強い仲間がいる。きっと勝てる。そして零夢を助けに向かうんだ!
「やっぱり貴方、面白いわぁ。ああ! 食べたいなあ!!」
闇が覆い尽くす空を僕らは駆け抜ける。
◇◆◇◆◇◆◇
文「暗黒面ダースシリアスってしってます? 間違ってる? んなこたぁ知ってる射命丸文と」
大「伊吹大和です」
文「色々喋くりたいのですけど時間がないのでさっさと行きましょう。では質問です。『大和君の現状況での好感度が高いのは慧音さん以外では誰?』 もちろん私ですよね。てか私と言えや」
大「じゃあ文で」
文「真面目に答えない人は向日葵のサド丘送りなんですよねー」
大「誠心誠意答えさせていただきます、サー。とは言ってもこの質問抜け道がアルノデス。好感度、つまり好感度ならどう捉えてもOKなのだから。友達的好感度とかどうよ?」
文「…ありじゃないんですかねー」
大「やる気ないね文。じゃあ言うと、零夢だね。一番近くにいるし、何と言っても相棒だし」
文「だそうですよー。次は『ぶっちゃけ誰と結婚するつもり?』 とか逃げ道消す方向で質問したほうがいいと思いますね。 …この人がそれでちゃんと答えてくれるのかは解りませんが」
大「誠心誠意公言してるじゃないか、慧音さんのような人がタイプだって。妹紅みたいなカッコイイ人も好きだけど、あれは憧れみたいなものだからなぁ…」
文「じゃあ輝夜さんって人はどうですか?」
大「…正直、会いに行くのが怖いんだ。何と言うか視線がヤバイ。気がついたら近くにいるし…」
文「…会いに行く時、保護者を連れていくって約束しましたよね?」
大「(隠れてるのに会わせられるわけないよね!?) ではまた次回!」
文「こらッ逃げるな大和!」
2夜連続で投稿するのは久しぶりになります、じらいです。今回は藍様の心情が主になってます。外道は外道、でも綺麗な外道を目指そうと思っているのですがどうでしょうか? 結局は大陸の時の繰り返しのようになるんですけどね。
次回で大結界編は終了です。それほど綺麗には終わりません。むしろ最悪な終わり方に近いかも。零夢・紫が主になるので大和はお休みですね。その代わりに母親が頑張るかもしれませんがw
それではまた次回