幻想郷のために
独自設定まみれの大結界始まります。
境内に咲いていた桜の花も全て散り、爽やかさを感じさせる柔らかな緑色の葉で覆われだした初夏。僕は母屋の縁側に座りながら、今年に入ってからよく見る『悪夢』 について思考を巡らせていた。所詮は夢、ただ寝ている間に見る夢だ。そう決めつけようとしているのだけど、現実のように思えてしまうのは僕の能力に原因がある。『先を操る程度の能力』…未来を読みとることすら可能なため、一概に夢だと決めつけることが出来ないからだ。
「暑くなってきたわね。そろそろ夏用の巫女服を用意しないといけないわ」
難しい顔で考え込んでいる僕の隣に座っているのは神社の主、博麗零夢だ。巫女服の胸元を大きく開いて少しでも風を通そうとしている。僕とは違い、暑くなってきたことに顔を歪めているみたいだ。
零夢と出会ってからこれで5年目。15歳になった零夢は完成された美少女と言っていいだろう。何気ない仕草にも艶やかさというものが見え隠れしてきている。今もさらしがほぼ丸見えなのだが、僕が何も感じない…のは真っ赤な嘘だけど、何か行動を起こそうと思わないのは常に隣で見てきたからなのだろうか。
「そうそう、その夏服でも一悶着があった。まったく紫様には困ったものだよ。大和殿、君もあの人の酷さは知っているだろう? あの人はこの前も―――――――――――」
「藍さんも大変みたいだね」
「と言うか、何で毎回ここまで愚痴りに来るわけ?」
零夢の反対側で愚痴を言っているのは紫さんの式である八雲藍さん。事あるごとに愚痴をしに来ているため、聞き流すことももうお手の物となっている。それでも紫さんに尽くしているのだから良い主従関係が築けているのだろう。文句の中にも紫さんへの親愛を感じ取ることができる。
「狐、あんたまさか愚痴を言うためだけに来たわけじゃないわよね?」
「……ああ、そう言えば紫様と幽々子様から君たちに伝言があったのを忘れていたよ」
そう言えば、と九尾をピンッと立てて言う藍さんの尻尾が凄く気になる。触ると気持ちいいんだろうなぁ、あの尻尾。もふもふしたいなぁ、そう思って考え込んでいると零夢に抓られた。この巫女、最近カンが鋭くなったのか知らないけど、邪な考えをしたら直ぐに針とか飛ばすようになって来た。おかげで清く正しい僕が維持出来ているのだけど。
「『今夜2人で白玉楼に来なさい。御持て成しをするわ』 だそうだ」
「へー、それは楽しみだね。せっかくだし行こうか」
「…そこまで言われたら行くしかないわね」
そう言う零夢からはそれほど嬉しそうな感じがしない。面倒臭いのかな? 前に一度行った時も一人で早く帰っていたし、それほどいい思い出もないのだろう。でも今回は最初から御持て成しされに行くのだから、暇になるなんてことはないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇
「よく来て下さいました。白玉楼の主として、今宵は精一杯の御持て成しをさせてもらいます」
「お招き頂きありがとうございます」
「はいはい、挨拶はいいから早く飲ませて頂戴」
「まあそう言わないの。貴方も大和を見習ったらどうなの?」
本当にすいませんね、家の巫女が自分勝手で。申し訳なさでいっぱいですよ。西行寺さんと紫さんも笑っているみたいだけど、零夢も最低限の礼儀は覚えた方がいいと思う。2人がそうだとは言わないけど、笑顔で人を惑わせる人だっているのだから。
「どうやら答えが出た様ね」
「おかげ様でね。もう何も迷うことはないわ」
「それは良かったわ」
「ど、どうかしたんですか?」
柔らかい眼差しで見つめる西行寺さんと、睨みつけて吐き捨てるように言う零夢。初めて会った時に何かあったのだろうか、2人の放つ気が凄く怖いです…。助けを求めようと紫さんを見るも、何故かこちらも難しい顔をして黙りこんでいる。あの~、何が起こってるんです?
「お待たせした。料理を持って…何かあったのですか?」
「何もないわ。さあ、宴を始めましょうか」
◇◆◇◆◇◆◇
宴会とは言ってもお酒はあまり出ず、豪華な料理とお茶が中心になっていた。何でもこの後に難しい話をするらしく、それはお酒が入った状態でできるような軽い話題ではないらしい。しかし、お酒が出ないことを気にさせない程美味しい料理だった。
「ところで西行寺さんに質問があるんですけど…」
出てきた料理を堪能し、少し落ち着いた所で僕は前来た時に気になっていたことを聞くことにした。
「何かしら?」
「あの大きな桜の木、あの木から異様な感じを受けるんですけど、何か謂れでもあるんですか?」
「………………そうねぇ、私よりも妖忌や賢者様の方が詳しいと思うわ」
「え? 何でですか?」
長い空白の後、少し寂しそうに微笑んだ西行寺さんに僕は自分が聞いてはいけない類の質問をしてしまったのだと気がついた。やってしまったと思ったけど、今更訂正してもあまり意味はないだろう。ただ、そんな僕を見てか、紫さんや妖忌さんは苦笑している。零夢にいたっては我関せずと少ないお酒を飲み続けている。
「私から言わせてもらうと、もうあの桜の木が咲くことはないと言うことだけよ」
紫さんの言葉に妖忌さんも深く頷いている。だけどその表情からは…いや、これ以上は藪蛇だろう。それに何かあるにしても、妖忌さん程の達人が露骨に顔に出すようなこともないはずだ。
「…そろそろ良いかしら? 私からも大切な話をしたいのだけど」
そう言って紫さんは真面目な顔で僕らを見つめてくる。何時もはふざけて人を煙に巻く人だけに、真面目な顔をされると何故か怖くなる。普段とのギャップの差が激しすぎるだけに。だから今から話される内容は、それほど大切な話だということになるのだろう。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――」
このあと紫さんから聞かされた話に驚きを抱くのと同時に、自分の見た悪夢が未来に起こるであろう事件だとの確信を得た。
◇◆◇◆◇◆◇
「本当に手伝うの? 危険が大きすぎる、やっぱり僕が…」
「これは博麗の名を受け継いだ者の使命よ。私じゃないと駄目だと八雲紫も言ってたじゃない」
「だけどさ…、命を落とすかもしれないんだよ?」
「もしかしたら、よ。博麗が幻想郷のために尽くすのは、何も今始まったことじゃないわ」
白玉楼からの帰り道、紫さんから話されたことについて話し合う。どうやら紫さんは幻想郷に結界を張るらしい。最近になり、幻想郷から離れた場所では妖怪の存在が否定され始めたようで、このままでは妖怪が絶滅する恐れがあるからと。
まるで魔女狩りが行われていた時みたいだ
そう思った。でも結界が貼られるため、前みたいに人と妖怪の大規模な戦争が起きるようなことはないと思う。でも幻想郷内では解らない。悪く言えば妖怪は幻想郷に閉じ込められることになるのだから。そうなった時、結界の張られた理由を知らない妖怪たちが暴れ出すかもしれない。紫さんは、既に妖怪の山を始めとする幻想郷の各所に説明を終えていると言っていたけど、末端までその考えを理解出来ているとは到底思えない。
結界構築には博麗神社の地下に眠る地脈エネルギーを利用し、それを結界の主な力とする。ただそれでも結界を補える程ではないため、零夢と霊力と紫さんの妖力を使うのだけど…。最悪の場合、霊力が枯渇して死に至る可能性が否めないのだ。そこまで激しい消耗はほぼないと言うことだけど、もしもの場合がある。
更に結界を張る時、紫さんと零夢は完全に無防備になる。だから僕が呼ばれた。僕と藍さんで2人を死守して欲しいと頼まれた。また、出来ることなら人里・紅魔館にも協力を要請して欲しいと。でもそれは難しいと思う。人里にも妖怪が押し寄せる可能性があるから妹紅と慧音さんは動けない。紅魔館には一応協力を要請するけど、あのアルフォードが僕らのために動くなんて考えられないし、僕自身があいつに頼りたくない。
「あ、1人だけ手伝ってくれそうな人がいるのを忘れてた」
「誰よ? こんなことに手を貸してくれる変人って」
引き受けてくれるに違いない。だって僕の本気のお願いを断ったことのない人だから。…だからもう一つのお願いもきっと引き受けてくれるはずだ。
本当なら誰にも頼りたくない。全部僕一人でやりたいけど、それには力が足りない。…悔しく思う。
◇◆◇◆◇◆◇
「藍、帰ったわよ」
「お帰りなさいませ」
八雲邸。誰も知りえない場所に建てられた大きな一軒家には八雲を冠する2人が住んでいる。隙間を繋ぎ、白玉楼から直接移動した八雲紫の顔には深い笑みが刻まれていた。
「引き受けてくれるらしいわ。まったく嬉しい話よねぇ」
「…その件なのですが、一つ気になることが」
流し台に立って洗い物をしていた藍が手を止め、主に己の気がついたことを伝えようとする。その表情は何時も神社で見せている朗らかな笑顔やムスッとした不満げな顔ではなく、見る者を震え上がらせる程に冷たい表情だった。
「伊吹大和が感づいているかもしれません。本日神社へ様子を見に行った時には私の話もどこ吹く風、上の空でした。少し読心を仕掛けた所、心に大きな揺れを感じました。その後には紫様と彼が向き合っている光景が」
「『先を操る程度の能力』 か…。厄介なモノね、飼い犬に手を噛まれるなんて笑える話じゃないわ。だとしてもあの子にはもうどうしようも出来ないし…はっきり言っちゃなんだけど、どう転んでも結界は張られるわけだからどうでもいいのだけど。それよりも術式の方は完成しているんでしょうね?」
「抜かりありません。両方とも問題なしです。」
「よろしい。後はその日を待つだけね」
博麗大結界。幻想郷の未来を守るために2人は動き出す。夢物語のような世界がもう間近まで迫って来ているのだ。きっと上手いく。上手くする。今までも多くの犠牲を払ってきた。もうすぐ私の目指した理想郷が出来あがる。迷いはない。大の為に小を切り捨てることに、今更何の迷いもない。
「ところで、藍は神社で何を話しているの?」
「貴方への不満です」
「…油揚げ抜きね」
「じゃあ紫様はご飯抜きですね」
…この2人にしてみれば、それほど気負う程のことではないのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇
↓この先お便りコーナー
文「シリアスなんかやってられるか糞くらえ! てなわけで、ここからはお便りコーナーで~す! 番外で話数伸ばそうか? なんてマネはもう止めです! 今回からはお便りが来る限り、本編後にやっていきたいと思います!」
大「こうやって少しずつ顔を見せることになるかもなので、興味のある方もない方もよろしくお願いします」
文「基本的に一話に一個か二個しか答えれません。尺の問題です。なので質問等を送ったけど自分のではない! と思った方、次回以降に期待しておいてください。では早速。『胸がない方が好きな僕は変ですか?』 …うわ~ぉ、こいつはヘビィな質問ですね」
大「あれだよ、前にも言ったけどそこに愛があればいいと思うんだ」
文「じゃあ吸血鬼姉妹のどちらかと大和さんの間に愛が生まれれば胸なんて何の問題もないと?」
大「それ、僕答えたらまたロリコン扱いされるよね!? 折角送って貰えたんだから答えるけどさ…。もしもだよ? 仮に僕が2人のどちらかと結ばれることになるとしたら、そんなこと関係ないと思うよ? でももう一回言っておくね? 僕、ロリコンじゃないですから! 慧音さんみたいな人が好みですから!!」
文「そうやって必死になる時点で駄目ですね。ではまた次回にお会いしましょう!」
大結界が始まりました、じらいです。これから先、八雲紫がサド…というよりかなり外道っぽくなりますので、構えておいて下さい。
ここは予告通り行けそうな目途が立ちました。…本当に良かったです。
質問? お便りコーナー? はこれからも続きます。もちろん届く限りの話ですがw