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東方伊吹伝  作者: 大根
第六章:君と過ごした最高の日々
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彷徨い続ける紅白の蝶


頭が、イタイ。


伊吹大和。妖怪の山出身。義理とはいえ人間にしてあの伊吹鬼の息子であり、今は魔法使いになって魔法の森の前に居を構えている。


その男がれいむの周囲を騒がしくしてもう2年経つ。始めから嫌な奴だった。初対面の私の中に土足で踏み入り、傍若無人にかき乱す。そしてかき乱すだけかき乱して、それを悪いとも思っていない。私の真っ白な部分を汚した大罪人だ。


あいつと一緒にいると自分のペースを乱される。すぐ怒るになったし、よく喋るようになってしまった。…そしてそれを歓迎し、暮らしの一部として迎えている私に一番腹が立つ。



頭が、痛む。


こんなこと私は望んでない。だって博麗の巫女は幻想郷で中立の存在。誰かと懇意にすることなんてあっては駄目なのだから。先代たちもまた、そうやって生きてきた。それを理解している癖に絡んでくるあいつが本当に大嫌いだ。




◇◆◇◆◇◆◇




「これが届け物です」


「確かに。受け取りました」



藍さんから頼まれていた届け物を渡す。それを受け取ってもらい、頼まれていた仕事は終了。ほっと一息つくと同時に、渡した物の中身が気になった。そしてそんな僕の様子に気がついたのか、西行寺さんは苦笑してその中身を教えてくれた。



「中身はただの手紙よ。紫からの」


「紫さんと知り合いなんですか?」


「ええ、無二の親友といったところね」


「…あの狐、だったら自分で届ければよかったのに」



確かにそれなら自分で持っていけばよかったのにね。しかも紫さんならスキマを使えば一瞬で届けることが出来るのに、なんで僕たちに届けさせたのやら。少し気になるけど、今の僕はそれ以上に気になることがある。



「…儂もお主も武人、考えることは同じか」



魂魄妖忌さん。白玉楼に来てからずっと彼の実力が気になっていた。高齢のお爺さんという見た目に似合わない身のこなしに安定した重心。武の真髄を極めた人たちが放つ人と一戦交えてみたいと言う僕の気持ちはしっかりと届いていたようだ。



「みたいですね…。すいません西行寺さん、庭をお借りします」



2人同時に席を立ち、庭へ向かって歩き出した。木の葉舞う庭で少し距離をとって向かい合う。僕も妖忌さんもまだ始まってもいないのに闘志を剥き出しにしており、身体からは気の揺らぎが大きくなってきた。



「これほどまでに気持ちが高まるのは久しぶりです。良い闘いをしましょう!」


「…勝負!」



互いに相手に向かって駆けだす。僕は左手に逆手で短剣を持ち、妖忌さんは二本ある中の長い一振りを振り抜いた。僕はそれを短剣で逸らし逆襲の蹴りを放つが、後方へ跳ぶことによって避けられた。



「ふむ、手加減は無用か」


「本気を出してくれないと怒りますよ?」



僅か一合い。たったそれだけでお互いの力量を計りきる。この程度が出来ずに何を達人と呼ぶのか。



「では鬼の子の力がどれほどのものか見せてもらうとしよう」



鞘に入っていた残りの一本を抜き、一刀流から二刀流になった時、妖忌さんから放たれていた気は更に力を増していく。それも肉眼ではっきりと彼の制空圏が見える程に大きくなり、ある一定の大きさになるとピタリと止まった。剣気とでも言うのだろうか、甲高い音が響くと同時に彼の周囲にある木から落ちてくる葉は真っ二つになったり消し飛んだりしている。額に汗が滲み、口の中が渇く。正に達人。そう思うと自然に猛獣のような笑みが零れた。これほどの武人と闘えることへの喜びだろうか。だとしたら、僕も相当な戦闘狂だ。



「行きます!!」


「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなどあまり無い!!」



勝ち目は少ないだろうけど、今は出来るだけの力を持って相手をしよう!!




◇◆◇◆◇◆◇




…今日は頭が余計に痛むわね。そう言えばあの変態が亡霊に見惚れているところを見た時が一番痛かった気がする。あの変態狸が自分の品を下げるのは構わないけど、一応一緒に居る私にもその影響があることを少しくらい考えてもらいたいものだ。



「ちょっといいかしら?」


「…何か用?」


「2人が遊んでいる間に少しお話でもしない?」


「頭が痛いの。後にしてくれない?」



私に話しかけるな、余計に頭が痛くなる。今も庭で人外な戦闘を繰り広げているあいつの姿を見ているだけで頭に響く。斬られそうになり、泥だらけになっているくせに楽しそうに笑っている。正直理解に苦しむ。だから痛んでいるのか? とにかくこの上会話だなんて頭を使うことなんてしたくもない。



「その頭の痛み、それは貴方自身の心の叫び」


「……何ですって?」


「可哀そうな子。人を知らず、己を知らないから変わることさえ出来ない。いいえ、変えれることすら知らない」


「何言ってんのよ、あんた…」



痛む頭をなんとか起こして亡霊を見る。するとどうしたことか、亡霊姫は心底憐れむような視線で私を見つめていた。そしてその瞳の中には明らかな侮蔑と同情が見てとれた。それと同時に、こいつと私が根っ子の部分で同じではないかと私のカンが訴えてきた。『本当の自分を知らない』 のだと。


…違う……私はあんたとは違う! だからそんな目で私を見るな!



「自分を知りなさい。そうすれば、今の貴方に必要なのが彼のような友人だと理解できるはずよ」


「自分を知る? 必要なのは友人? あんた、頭沸いてんじゃないの? 私は望んで1人で居るの」



何を言うかと思えば…。仕様もない、そんなくだらない話を私にしないで頂戴。


頭に再び激痛が走った。



「孤独を求めるなんて、そんな自分に嘘をついては、自分を知らないままなのは駄目よ」


「お説教でもするつもり? 私は自分をしっかりと理解している。だからいらぬお世話よ」



掌と額が汗ばんできた。目を開けているのも辛いほどに頭が痛む。



「貴方が理解しているのは古い自分よ。それは今の貴方じゃないわ。だって貴方、自分自身さえ愛せてないもの。貴方自身のためにも、自分を知りなさい」


「…私の…ため、ですって? …そんなのただの自己満足よ。成果が上がれば自分の、失敗すれば誰かか何かの事象のせいにする。あんた、本当は自分自身のために言ってるくせによく言うわね」



その点はあいつも同じだ。人・妖怪問わず己の目の前で死ぬのが許せない。とんだ自己満足野郎だ。これが私があいつのことが嫌いな理由の一つでもある。


そして目の前に居るこいつは確実に私と自分を重ねて考えている。馬鹿な奴。私は私、あんたはあんたでしょうが。



「…確かに私自身に言い聞かせてる部分もあるわ。でも私の場合はもう遅いの…。でもね、『愛』 に於いてそれはないわ。だって純粋に、能動的に行われることですもの。自己満足なんて答えでは覆せないわ」


「…あんた、結局何が言いたいわけ?」



もう限界。頭の痛みも、こいつとの会話ももう沢山。早く帰って早く寝よう。明日になればこの頭痛も…



「………彼のこと、『愛』 してしまっているんでしょう?」


「!?」



途端、頭痛が引いた。



「本当の自分を探すために誰かを求める。それは素晴らしいことよ。今まで孤独だった貴方が、彼の隣という漠然とした安心感を求めるようになるのは当然のことだわ。決して恥じることじゃない。でも孤独だったのは貴方が自分自身を愛することさえ上手くいってないからなのよ? 人を愛するのであればまず自分から…。だから自分自身を知り、自分自身を誇り、愛しなさい。何者でもない、貴方自身のために」


「………余計な、お世話よ………」



あいつに出会ってから2年。徐々にヒビが入っていった私という器が割れ、中にあった何かが音を立てて流れ出すのを私は感じた。



「…もう帰る。あいつに伝えておいて」



私は逃げるようにその場を後にした。




◇◆◇◆◇◆◇




「ふむ……引き分けか」


「……いいえ、僕の負けですよ」



紙一重で斬撃を躱し、短剣で逸らし、一歩も引かずに撃ち合うこと数十分。僕の浸透勁と、妖忌さんの二刀の斬撃がお互いの身体に当たる直前で停止した。僕の服は所々斬られているけど、反対に妖忌さんは無傷。お互い大きなダメージがないのは、大技を控えて純粋な技術のみで闘ったから。


無傷と多数の浅い切り傷。誰が見ても僕の負けと判断するだろう。



「2人とも凄かったわ。良いものを見させてもらいました」


「お嬢様、少ししか見ておられなかったのでは?」


「あら? 妖忌は余所見するほど余裕があったのかしら」


「嘘!? まだ余裕あったんですか!?」


「いや…うむ。まぁ、な」



嘘だと言ってよ妖忌さん…。魔法を使わなかったとはいえ、それ以外は全力で立ち向かったのに、それでも余裕があったなんて言われたら流石にへこむよ…。



「少し目に入っただけであって、そこまで余裕があった訳ではない」



慰めは要らないですよ…。


でも、まだまだ僕も未熟だなぁ。…よし! もっと強く、もっと強くなろう。僕の周りにいる人たちが何時も笑って暮らせるように強く!



「…ってあれ? 零夢はどうしたんですか?」


「…先に帰ると言ってたわ」


「そうなんですか」



あちゃぁ、退屈させたかな。零夢の体調が悪いことを忘れるくらいに闘いに熱中してた僕が全面的に悪いか。今から神社に向かってもいいけど…



「今日はもう来るな、と言ってたわ」


「あ~…はい、わかりました」



なら仕方ない、今日は僕も自分の家に帰ろう。昨日は結局泊まったから2日ぶりの我家だ。ご飯は…人里ですまそう。手持ちもまだあるし。



「じゃあ僕も帰ります。今日はすいませんでした」


「ええ、今度も2人で来ればいいわ」


「ありがとうございます。それでは」



こうして僕は白玉楼を後にした。


今になって思う。この時、僕は気付いているべきだったのかもしれない。どうして零夢が1人で帰ったのかを。




◇◆◇◆◇◆◇




「…儂にはいらぬお世話と思いますが」


「あら、妖忌も気付いていたの?」


「何分、あの子の何倍もの時間を生きておりますので。何を悩んでいるのかくらい、顔を見れば判断できます故」


「長生きするのも考えものねぇ」



本当、紫も私も長く生き過ぎた。だからこうやって欲が生まれる。いいえ、紫の場合は初めからそれを望んでいたと言うべきかしら。…でもね、



「私まで馬に蹴られるのはごめんだわ…」



出来れば私を巻き込まないでもらいたい。










「さよなら。私の初めての友達…」



深夜の博麗神社に少女の声が響く。それと同時に1人の少女が幻想郷から姿を消した。

サブタイトル、厨二乙。そしてこんな終わり方ですいません、じらいです。ちょっとカッコつけてみました。




ゆゆ様何が言いたいの?


人を愛するのなら自分愛しなさい。何故? 自分すら愛せないのに他人を愛するなんて出来ないでしょうが→自分を愛するには自分を知らないと出来ないでしょうが→だから自分を知りなさい。その後でやっと相手も・・・です。すいません。私のただの戯言だとスルーして下さいw



自答編も次話で終了です。実はもう出来あがっているので投稿しようと思えば何時でも出来るのですが…別に今度でいいですよね? この後は日常を少し挟んで博麗大結界→オリジナル異変→原作準備となる…ハズ。



今日実家を出ました。最後に近所の子供に帰んな! と泣きつかれて逆に泣きたくなりましたw 予定なんて何もなかったけど、いいGWでしたよ…

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