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東方伊吹伝  作者: 大根
第六章:君と過ごした最高の日々
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狐、狸、巫女さんと亡霊の主従


僕が零夢と出会って2年程経った。零夢もあと2年で男性で言う元服を迎える。そんな彼女は成長麗しく、大人と子供のちょうど中間という危うい色気を持つようになってきた。けどまあそんなの関係ないけどね。相変わらず面倒そうに生活してるし、僕に対して酷いし(ここ重要)。


今でも素っ気ない態度をとられているけど、それでも出会った当初に比べればだいぶ柔らかいと言える対応をされるようになった。2年も近くで見ていれば零夢という人間性も見えてくるものだ。



「狸、買い出しに行ってきて」


「自分で行きなよ」



朝以外のご飯は神社で済ませることが多い。そしてご飯を誰が作るにしても材料がいる。そして今日も今日とて晩御飯の買い出しの擦りつけ合い。始めはただの言い合いから始まり、酷くなれば寝技・投げ技なんでもござれの取っ組み合いが始まることもある。



そして僕はほぼ毎日、朝から晩までを博麗神社で過ごすようになっている。魔法の練習や武術の修行も神社の境内で行っている。魔術式の構築は部屋の中でやっているけど。そうしていると零夢が術式の間違いをカンだけで指摘してくる。僕も気が付かないのにカンだけで…しかも的確に言ってくるから年上としての尊厳が危うい…。



「何よ? どうせあんた今日も家で食べるんでしょ? だったら買ってきなさいよ」


「嫌だね」



ホント、僕のお金で材料を買うくせによく言いますね!


実は博麗神社の財政は赤字と言うものでは表わせれない程に酷い。今までの巫女たちはあまり人里に行かないとは言っても、妖怪退治の報告の際にお礼と称して多くの食料や生活用品を貰っていた。でも零夢は妖怪退治をしても報告にすら行かない。だから僕が代わりに報告しているのだけど、そのせいなのか人里での零夢の評判はあまり良いとは言えない。人によっては彼女を無能呼ばわりする人もいる。本人は気にしてないようだけど、否定する僕の身にもなってもらいたい。



さっき妖怪退治の話が出たので、ちょっとそのことを話そうか。僕と零夢が一緒にいるようになってからは自然と妖怪退治でも共闘することが多くなった。前衛・僕、後衛・零夢の布陣で退治に向かっているのだけど……何時も後ろから撃たれます、ハイ。


射線上に入んなボケ、だったらしっかり狙って撃てアホ。妖怪を滅そうとする零夢に止めようとする僕、幻術で出来た僕を躊躇いなく吹き飛ばして舌打ちする零夢、その零夢もろともマスタースパークで吹き飛ばす算段をしている僕。妖怪ほったらかしにしてガチンコしたこともあるよ? どう考えてもはしゃぎす過ぎですありがとうございました。こんな会話とある意味での醜態が戦闘中にほぼ毎回行われている。



「「…ブッ飛ばす(わよ)!!!」」


「………取り込み中すまないが、少しいいだろうか?」


「藍さん?」 「狐? 何の用よ」



掴み合いの取っ組み合いが始まりかけた頃、部屋の入り口から声が聞こえてきた。八雲藍さん。最早伝説となった九尾の狐にして紫さんの式でもある忙しい御方。人里で油揚げを大人買いして喜んでいる姿はなかなか和むと噂の主婦妖怪だ。



「すまない。呼びかけはしたのだが、まったく気づく気配がしなかったのでお邪魔させてもらった」


「いえいえ、別に構いませんよ」


「あんたが言うな」



生活費を全て出して上げている人に言う言葉じゃないね。零夢と一緒に生活してて解ったことがある。こいつ、生活能力が全くといってない。服は脱ぎっぱなし、箪笥は開きっぱなし。境内の掃除はただ箒を持つだけ、料理に至ってはカンで味付けをする始末。いや、料理は何故か美味しいからいいんだけどさ。


洗濯くらいしたら? じゃあやっておいて。そう言われたので下着もろとも洗ってあげたら寝技かけられた。下着見えてますよ、あと首絞まってるから!? 変態は死ね! 四の字固めは人を殺すには十分な殺傷力があるので皆はマネしないように。


とりあえず零夢はご飯以外の生活能力が皆無と言ってもいいのだ。



「実は折り入ってお願いがあるのだが…」


「自分でやんなさい。以上」


「何ですか? 僕『ら』 でよければやりますけど」


「勝手なこと言わないで頂戴。面倒は嫌なのよ」


「困っている人見つけたら力になろうと思うのが普通だろ」


「あんたが常識を語るな!?」



何だって!? 何よ!? いがみ合って取っ組み合いが始まった僕たちに



「荷物を届けるだけでいいんだ! ……ええい聞けお前たち!!」



2人でやり合っている僕らに温和な藍さんも癇癪を起したのか、取っ組み合いをしている僕たちに一発ずつ妖力弾を放つも、それくらいでは僕らを止めることにはならなかった。



「だいたいあんたは無責任なのよ! いっつも私の周りをうろついて!!」



畳の上で転がりながらマウントポジションのとり合い。大人げないとか女の子なのにとか、そう言うのは僕らの間では無粋な物言いだ。常に平等で物事を見る零夢に対して、どちらが上とか下とかそんなことを説いても意味がない。…今は別だけど。



「はん! 寝言で僕の名前を1回呼んだくせによく言うよ!!」


「その後『出て行けって言った』 って言ってたでしょうが! それに1回なんて数に入らないわよ!!」


「いい加減にしないか!!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




結局喧嘩が終わったのは日が沈み出したころ。3人とも服がボロボロになるまで暴れ通した後、全員そのまま畳に仰向けに倒れ込んだ。両隣からも肩で息をしているのだろう、荒い息遣いが聞こえてくる。



「何故私はここでこんなことをしているのだろうか…」


「そう言うあんたが一番暴れてたじゃない…」


「同じく…」


「…紫様の相手は疲れるからな」



紫さん、か。あの時以来一度も姿を見ていない。何処に住んでいるのか、何をしているのかすら解らない。右隣で横になっている零夢も何か思うところがあるのだろうか、難しい顔をして考え込んでいる。



「大和殿に一つ忠告しておく」



これは老婆心になるのかな…。そう言って左隣で横になっている藍さんがいきなり深刻な様子で話しかけてきた。



「…何ですか?」


「決して紫様を怒らるな。あの御方は普通ではない。敵にすれば全てを失うぞ」



少しの言い淀みもなくはっきりとそう言い切った。私が言ったことは紫様には内緒だぞ、と付け加えて。そう言われ、問い詰めようと隣を覗きこんだ時には、既に藍さんは目を瞑ってしまった。



「ってあんたここで寝る気!? まさか泊まるとか言わないでしょうね!?」


「? 別に構わないだろう?」


「構うわ!」


「紫さんはどうするんですか…?」


「少し困らせて、私が居ることへのありがたさを自覚させてやる」



フフフフ…と暗い笑みを浮かべている藍さんは非常に怪しい雰囲気を醸し出している。紫さんの相手って、相当苦労してるんだろなぁ。僕もいろいろと苦労してるけど。



「じゃあ僕もお休み」


「あんたら帰って寝ろーーーーーーーーーーー!!」



無理もう限界。僕も藍さんもそのまま寝て、結局零夢もそのまま寝たのだろう。朝起きた時には見事な川の字が部屋には出来ていた。




◇◆◇◆◇◆◇




「すごい階段だ…」


「亡霊でお金持ちって…」



白玉楼と呼ばれる場所へ荷物を届ける。ただそれだけの仕事に燻っていた零夢をその気にさせたのは藍さんが「お礼は出す」 の一言だった。…現金な奴め!


そして白玉楼にやって来た。荷物は風呂敷一つだけ。中を覗くなんて野暮はしてないけど、あまりの軽さに本当に何が入っているのか不思議に思う。そして目の前の長い階段。飛べば関係ないけどあまりの長さに僕も零夢も言葉を失っていた。



「話しは通してあるらしいから早く行こう」


「…そうね」



…最近、零夢の調子がおかしい。以前はそれほどでもなかったけれど、痛そうに頭を抱える姿が多く見られるようになった。僕にバレない様にしているみたいけど、それすら僕にバレている。今も少し返事が遅れたのもそのせいだろう。…とにかく、早く用事を済ませて帰らないと零夢が辛そうだ。




◇◆◇◆◇◆◇




「よくぞ参られた。儂は魂魄妖忌、白玉楼の庭師をしている」


「博麗零夢。見ての通りの巫女よ」


「伊吹大和。魔法使いです」



出迎えてくれたのは1人の高齢の剣士…いや半人半霊の侍だ。藍さんからそう聞いておかないと、彼の周りを浮いている魂? に言葉を失って失礼をしてしまうところだった。2本の刀を腰に差し、微動だにせず佇んでいる姿からはある程度以上の実力を感じとれる。おそらく僕と同じ達人の部類だろう。…僕で勝てるかな…?



「魔法使い殿は儂の実力が気になるようだ。だがまずは主に挨拶を通して貰わないとな」


「すいません(バレてたか)。では案内をお願いします」


「承知した」



綺麗に整えられた庭を眺めながら長い廊下を歩いて行く。廊下や襖に張られた障子にも汚れもなく、毎日隅から隅まで清掃している様子が見てとれる。この大きな家を清潔に保つのは並大抵の苦労じゃないぞ?



「随分と綺麗にしてるわね。客人が来るから掃除したのかしら」



零夢は思ったことをそのままを口にしているから、少し失礼な物言いなのはお約束となっている。何時も素直なのは良いことだけど、そろそろいろいろと学んだほうがいいと思う。



「掃除は何時もしておるよ。広い分苦労はあるが、美しくなった時の気持ちはなんとも言えんぞ?」



零夢の皮肉にも笑って返す妖忌さん。庭師と言うだけあって、何かを綺麗にすることを楽しく思えているのだろうか。僕や零夢には到底理解できない考え方だけど流石は侍、この程度で心を乱されるようなことはないようだ。



「ここだ。失礼のないようにな」



開けられた襖の先には1人の女性が居た。桜色の綺麗な髪に、輝夜姫もかくやと思わせる端正な顔立ち。貴族を虜にした輝夜とはまた違う感じを受ける、正しく絶世の美女と呼べる人。この人が藍さんの言っていた亡霊なのだろうか。



「初めまして、博麗の巫女。そして鬼の魔法使いさん。私は白玉楼の主、西行寺幽々子と申します」



見る者を魅了させるこの世のものとは思えないアヤシイ色気と、触れれば崩れ落ちそうな儚さを持ち合わせた、柔らかい頬笑みを浮かべる美女を前に僕は言葉を失った。


つまり、あまりの美人を前に呆けちゃったわけ。…輝夜ではなかったのにね。

GWに子供と遊ぶ以外は暇なじらいです。


次回からは白玉楼での話になりますが、1話か2話で終わってしまうかと。なので、その間に幽々子様のカリスマぶりを書けたらなぁと現在も試行錯誤しています。中々に難しい…。


そして妖忌も変態さんではなく、カッコイイお爺さん目指してます。たぶん出番は中々無い思いますが、大切な男キャラなのでしっかりと生かしていきたいです!



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