零夢と大和。狸はヤメテ
「おはよう!」
神社に通うようになって幾数日。いや~今日も良い天気だね。それに風も心地いい。こういう時は神社で神様にお礼を言いたくなるね! ほら、零夢が境内を掃除するほど良い天気なんだよ!
「帰れ変態」
それが神に使える巫女の言うことか!? 僕の知る巫女はもっとこう、清楚で慎ましやかで、一歩引いて男性を立てて、結婚したら男性に尽くす甲斐甲斐しい大和撫子のような人が多かったよ! ちなみに僕の好きな女性のタイプです。誰かそんな人居ないかな~? 慧音さんとかタイプなんだけどね…。あの人僕のこと何とも思ってないから…悲しいね…。
それはこの際置いておこう。とりあえずこれは今までで一番酷い扱いだ。挨拶しただけで変態扱いを受けたのは産まれて初めてのことだよ。僕のような清く正しい魔法使いにその評価は間違っていると言いたい。
「とりあえず朝御飯ちょうだい」
「はあ!? あんた私にたかる気!?」
「食べて来なかったんだよ。何かおかしい所でもある?」
「非常識だ馬鹿!?」
むぅ…。1人暮らしは意外と寂しいものなんだぞ? だからこうやって会いに来てやって…あれ? 1人暮らしの少女の家に遊びに来る? これってもしかして変態の所業…いやいや、そんなことはない! 何も疾しい気持ちはないのだからドンと構えていれば良いんだよ!!
「聞こえてるわよ変態」
「…口に出てた?」
「ええもうばっちり。このことを人里で言えばどうなるかしらねぇ?」
こ、こいつ、僕を脅そうと言うのか!? しかし、いくら博麗の巫女とはいえ未だ世間を知らない少女、そんな相手に僕が屈するとでも…
「申し訳ありません零夢さん。この通りですからどうか許してくださいorz」
自分、この子には勝てないと本能で察しました。
「………ハァ。とりあえず中に入りなさいな。朝御飯は駄目だけど、昼御飯くらいは用意してあげる」
「おお!? ありがとう零「有料よ」 ケチ「あ゛あ゛ん゛!?」 何も言ってないよ? うん、昼御飯が楽しみだね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あんたの作った料理って残念な味がするわね」
「悪かったね! どうせ下手ですよ!!」
「違う言い方をすれば不味い」
「作らせといてそりゃないよ…」
呼んでもないのに来たんだから飯ぐらい作れ、もちろん私の分も。確かに呼ばれてもないのに来たのは確かだ。でもさ、せっかく作った料理に酷評とか酷いとか思わない? 辛うじて材料費だけは払わずにすんだけどさ、何か納得いかないよね。
「でもさ、こうやって誰かと一緒にご飯食べるのって楽しいと思わない?」
「別に。1人の方が気に掛けることもないからいいわ」
11歳にしてこの素っ気ない態度。もう子供だとかいう考えは捨てた方がいいかもしれない。だってこの年頃の女の子ってもっと可愛げがあるし。
「へ~…。それでも一応僕に気を使ってくれたんだ?」
だけどどれだけ大人ぶってもまだまだ子供。発言に隙があるから揚げ足を取りやすい。つまり逆襲しやすいってこと。伊達に長生きしてないんだよね!!
「やっぱり君みたいな女の子はって!? その針を仕舞えよ! 危ないから!!」
「別に! 私は! 面倒なだけで! 嬉しくないわよ!!」
「そうやって全力で否定するところが…ってこれくらいで本気になるなって!?!?」
問答無用! その言葉と同時に針にお札に霊力弾。バリエーションが豊富なことはいいことですねぇ!? そのまま空に上がって逃走。流石に此処までは着いて来ないだろうと思って振りかえってみた。
「何で今日は着いて来るんだよ!?」
「退治してやる!」
「横暴だーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
行き成り始まった空中戦。もちろん一方的。後ろから飛んで来る弾と針を避けてながら全速力で空を駆ける。なんと逃げ切るのに加速まで使わされた。あんにゃろう本当に11歳の子供か!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「と言うことがあったんだ」
「………よしその巫女殺そう。私のために殺そう」
「何でいきなりの殺害宣言!?」
紅魔館のテラス。月に何度か行われるお茶会に今日も招待されたのでやって来た。折角だから零夢のことを話してみるといきなりの殺害宣言がされた。最近勉強が辛いのか、レミリアのイライラが激しい。今も紅茶を持った手がプルプル震えている。
「ヤマトはその子の神社にこれからも通うの?」
フランドールは何時も通りで元気いっぱいだ。あの時から大人ぶるよりも甘えん坊になって僕を困らせてくれる。僕が紅魔館にいる時はアヒルの子のように後ろを着いて来ては子猫のようにじゃれついてくる。甘えられる相手がいない…そう考えると無視するわけにもいかず、流されて相手をすることが多い。でもレミリアに甘えればいいのに、そう考えるくらいは良いと思う。
「一応そのつもり。1人って辛いだろ? だから友達になれたらいいなぁ、とか思ってる」
「うん、その巫女キュッとしよう。これ以上被害者を出さないために」
手を握っては開け、握っては開けしている姿に苦笑いを隠せない。どうやら一度能力の暴走があったらしく(僕が逃げた時)、それから長い間上手く使えなくて暴発していたからだ。今ではしっかり出来ている…らしい。でも何で姉妹揃ってこんな好戦的なんだよ…。お兄さんはこんな風に育てたつもりはないんですけど。
「パチュリー?」
「少しは周りを見なさい」
こちらも通常運転。お茶会の時以外はずっと図書館に引き籠っているみたいだ。日陰に居るせいか、日光に当たったら直ぐに変色するんじゃないかと思うほど白い肌をしている。いつも鬱陶しそうな顔で出迎えてくれるけど、それでも魔法で困ったことがあれば話を聞いてくれる案外優しい御方である。
そしてパチュリー、ちゃんと周りくらい見てるって。魔法使い足る者、常に多くの視点で物事を考えなければならないのだからそれは当然のこと。何を今更そんなことを言う必要があるんだよ。
「ねっねえ大和、今日は泊まっていくの…?」
「いや、今日は遅くなる前に帰るよ。この後博麗神社に行こうと思ってるし」
最近の日課になってるし、巫女のくせにほっといたらずっとぐーたらしそうだからね。それにまだ友達になれていないし。僕、しつこさにだけは定評があります。
「へ、へえぇぇぇぇ~~~~……そう、そう言うことなのね。ワカッタワ」
「だから今の内にウンと遊んでおこう!」
更に不機嫌になったレミリアを見て急いでそう付け加える。ストレスの捌け口は誰にだって必要だよ。我儘なお嬢様のご機嫌を損ねたら後が酷いからね。馬鹿親も煩いし。それにこうやってレミリアを弄って遊ぶのも案外楽しいと最近になって気がついた。教えてくれたのはフランだけど。曰く、お姉様苛めるの楽しいよ? って。
「そ、そこまで言うなら「じゃあ今日はわたしとあそぼっ!!」 「こら、いきなり肩に乗るんじゃありません!」 …………」
レミリアが何か言いかけていたみたいだけど、フランが肩に乗っかかって来たから聞き取れなかった。むしろフランは狙ってやってるのかもしれないけど。
「じゃあ今日は何して遊ぶ? 久しぶりにポーカーでもしようか?」
ポーカーは運がものを言う…とでも思った? 実は紅魔館に於いて、ポーカーという遊びは高度な技術を必要とする実にハードなお遊びなのだ。何故かって? 僕は未来が見える上に幻術つかって手札誤魔化すし、パチュリーはその頭脳とこの遊びの為だけに生みだした魔法で誤魔化そうとする。レミリアに至っては能力全開で運命を感じさせる引きを何度でも出来る。…不正しすぎたら全員からゲーム中に叩かれるんだけどね。もちろん敗者にはそれ相応の罰が待っている。
どのような遊びか理解出来ただろうか? …フランドール? 元々勝ち目がないから不参加だよ。
「え~フラン出来ないのに」
「じゃあこのままで僕と一緒に参加しようよ」
「うん、それならいいよ」
フランはそのまま僕の上で肩車の体勢に移った。僕の頭をポンポン叩いて良い調子だよまったく。テーブルにはパチュリーが既にトランプを取り出して配っていた。さあ、今日罰ゲームを受けるのは誰かな…?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おーい零夢、今日も来たぞー」
太陽が沈みかけた頃に僕は博麗神社に降り立った。晩御飯にありつくためだ。もちろん一人ぼっちの零夢を励ます意味も含んでるよ? うん。
「あれ…? 居ないのか? おーい零夢~………?」
本当に居ないみたいだ。ちぇ、せっかく晩御飯にありつけると思ったのに空振りか…。仕方ない、今日は久しぶりに妹紅に晩御飯作ってもらおう。良いお酒を持っていけばご飯くらい作ってくれるだろう。
本人が居ないことに愚痴りながら僕は妹紅の家を目指して空を飛んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「最近無駄に疲れる。原因は…あいつに決まってるか」
最近私に着き纏うようになった変人。確かとまと? とか言う魔法使い。1人が寂しいとか何とか言って私に毎日会いに来る。正直鬱陶しい。そう伝えたらあいつは苦笑いしてまた来るとか言う。迷惑だということが解っていないのだろうか? だとしたら幸せな奴かとんでもない馬鹿のどちらかだ。
「って何で私は1人分多く料理を作ってるのよ」
調子狂うわね…。いっそのことあいつを封印するか? そう物騒な考えが浮かぶほどに今の私は機嫌が悪い。今までここまで嫌いな奴が出来るなんてことはなかった。どいつも平等。見る顔全てが同じに見えていたのに、数日前に知り合ったあいつだけ何故か覚えてしまっている。
「やっぱり封印しよう」
邪魔者は排除、それに限る。私が駄目になっても次はいる…。でもその空白を埋めることは出来ない。如何な博麗の巫女と云えども未熟なままでは妖怪に歯が立たない。それ故に博麗の巫女の邪魔をする者は消さなければならない。
「使命感に燃えるのは良いことだけど、あの子に妙なマネされると困るのよね」
「…八雲紫」
「久しぶりね零夢。元気だったかしら?」
目の前で薄ら笑いを浮かべている大妖怪。妖怪の賢者などと呼ばれているが私は全くこいつを信用していない。会ったことがあるのは私が博麗の巫女を襲名した時のみ。一度会っただけの存在を信じられる奴がいれば私の目の前に来ればいいわ。そのおかしい頭をお祓いして治してあげる。
「どういうことよ。人間の1人や2人の命くらい、あんたにとっちゃ何の意味もないでしょうに」
「まあそう言わないで。あの子だって善意で貴方の為を思っての行動なのよ?」
どの口が『善意』 なんて言うのか。知っているのよ? あんたが妖怪の腹を満たすために『善意で』 幻想郷以外の人間をここに生贄として神隠しに合わせていることを。
「あの子はきっと今日も貴方の様子を見に来るわ。だってあの子、しつこいもの」
ニヤニヤと嘲笑うこいつが鬱陶しい。あいつだけじゃない。こいつもたった数回会っただけで私をイライラさせてくれる。
「残念ね。つい最近本気で追い返したの。あんな目に合えば二度と来ようなんて思わないわ」
お生憎様、追い返すのに陰陽玉まで使ったのだ。これで来たらただの馬鹿でしかないわ。
「じゃあ賭けようかしら?」
「何を?」
「大和が来るかどうか」
「……いいわ。その賭け、乗ってやるわよ」
期限は太陽が沈むまで。私が勝てば、これから私が死ぬまで食料を無償で渡すこと。八雲紫が勝てば『出来るだけ』 あいつと仲良くすること。…賭けが不釣り合いだけど関係ない。どの道私が勝つのだから。
そして間もなく日入りという時間。スキマの中に姿を隠し、境内の様子を覗き見る。どうだ、やっぱりあいつは現れなかったじゃないか。そう言って隣を見ても八雲紫は未だ笑みを絶やしていない。まあいい、どうせもう来ないだろう。そう思った矢先のことだった。
「来たわ」
!? ウソ!? あれだけ追いかけ回したのにわざわざ来る!? 馬鹿じゃないの!?
「言ったでしょ? あの子、相当しつこいって」
勝ち誇った笑みを浮かべる目の前の存在に歯ぎしりをして悔しがった。ばれない様にだけど。でもふざけてる。お人好しとか、優しいとかそんなんじゃない。どこか頭イッてんじゃないのあいつ?
「あれ…? 居ないのか? おーい零夢~………?」
「あらあら…。貴方、よっぽど好かれたみたいねぇ」
「馬鹿言わないで頂戴。誰があんな奴」
結局私を見つけられなかったからか、少し境内を見渡した後空へと消えて行った。
「賭けは私の勝ちね。そうねぇ、名前で呼ぶのが嫌なら『狸』 って呼んであげたらいいわ。たぶん喜ぶでしょうから」
そう言って八雲紫はスキマの奥に消えて行った。私は目の前で起きたことに呆然としてしまっていたが、あいつがスキマから私を強制的に外へと出したところで正気に戻った。
「あいつ、今日も来た…」
何故かは知らない。ただ気に喰わないことははっきりしている。でも八雲紫との賭けに私は負けた。…賭けに負けた私は約束を守らなければならない。『出来るだけ』 相手をすることにしよう。
「伊吹とまと…うん。狸で十分ね」
次の日も伊吹とまとはやって来た。名前は大和だから! と煩く言って来るので、その時に狸と読んでみた。すると一度派手に転び、そして誰に聞いたかを問い詰めてきたけどのらりくらりと躱してやった。狸の困った顔を見たその時、初めて楽しいと思った自分に驚いた。
「貴方達は食べても良い人類?」
遠くで呟かれた言葉は風に流されて消えて行った。誰にも気付かれることもなく…
何だろう、巫女が出てきてから妄想が止まらないじらいです。巫女だけじゃなく、原作キャラと大和の絡みを書きたかったので今回は紅魔館の皆さんに登場してもらいました。おぜう様、もう後戻りできないレベルになったような気が…どうしようか。
一番最後のセリフはルーミアですが、彼女の出番はまだ先です。それより先に幽々子様とお庭番が先になるかと。幽々子様……腕が鳴りますね…! 主人公には頑張ってもらわないと。
零夢についてですが、基本的に面倒だ面倒だと言ってますが、博麗の巫女として妖怪退治などの使命感には燃えています。もちろん有事の際にはその才を遺憾なく発揮することでしょう。