博麗の巫女って強いんだよ?
博麗大結界が幻想郷を覆う約4年前の話
あれから更にウン10年。いやウン100年? 長く生きてくると感覚が麻痺してよく解らないよ。
月に一度の地獄巡りと、美鈴との組み手を欠かさず行ってきた成果が漸く目に見える形で出てきだした。師匠に一撃当てることが出来たんだ! 本気を出した師匠に頬を掠った程度だけど、お話にすらならなかった頃に比べればもの凄い成長だ。むしろ師匠に僅かでも本気を出させた自分を褒めていいと思う。
魔法の方も成果が出ている。紅魔館の蔵書とパチュリーの知識、そして図書館の奥深くで眠っていた先生の研究所、更にはレミリアとフランの斬新なアイデアを元に幻術の術式を再構成した。有幻覚には未だ程遠いけど、脳に向けて精神的ダメージを与えられるという結果は出ている。…まあ意志の強い人にはやっぱり効かないんだけれども。
日々の暮らしの方も慣れてきた。今では人里の人と一緒に農作物作って分け前を貰ったり、僕にしか採りに行けない妖怪の山の幸や竹林のタケノコと物々交換してもらっている。商人の仲買役として働くことも多いのでお金にも恵まれ出した。溜めておいても使い道がないので、良いお酒があったら買って家に持ち帰っている。そのお酒を飲みに来る人が多いので、これぞ! という秘蔵の逸品には5重の結界を施している。でも見せかけだけの結界なので妹紅・レミリア・母さんには力技で破られることが多い。最高級のものをレミリアに飲まれた時には1人枕を濡らした。
あとは妖怪退治かな。退治と言っても殺したり消滅させたりするのではなくて、殴って蹴って更生させる方だ。人里の人には甘いんじゃないかと言われるけどこれだけは譲れない。僕の目の前では殺しも殺されも許さないと決めているからね。
そんなある日のこと、博麗の巫女が代替わりしたと聞いた。あそこの巫女とも付き合いが長い。先々代から妖怪退治の時には協力関係にあったからね。その先々代から巫女は温和な人が多かったのでこちらとしても付き合いやすかったし。聞いた話によると、どうやら最年少で博麗の巫女を襲名したらしい。しかも若干11歳で歴代最高と言われる腕前。興味を持つなと言う方が無理な話だ。
これはそんな巫女に興味を持った僕と歴代最高の巫女、博麗零夢の話。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「妖怪が暴れてる?」
「そうなんだ。最近は深夜の襲撃が多くてな…。私や里の退治屋も碌に寝れていないんだ」
「でも人里を襲ってはいけないって暗黙の了解が合ったはずじゃ?」
「最近幻想郷にも妖怪が多く住みつきだしただろ? 新参者が暴れているんだろう」
はぁ…、と気を吐く慧音さんにも活力がない。最近森の方も煩いと感じていたけど人里でも同じことになってたわけか。…ん? 森の方は僕と妖怪が『楽しい話合い』 の結果和やかな雰囲気で過ごしていますよ? まあ魔法の森の生物自体が強いから、並の妖怪は森の不思議生物に勝手に食べられたおかげで話合う数が少なくて良かったよ。
「じゃあ僕も人里の防衛を手伝いましょうか?」
「そっちは妹紅に話を着けてあるから大丈夫だ。君には博麗の巫女と共に奴等を退治に向かって欲しい。向こうにも話は通しているから。…今までと違って凄い巫女だったぞ」
「ははは、そうらしいですね。注意しておきます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
深夜。人里の遙か上空で巫女を待つ。だけど待ち合わせの時間を過ぎても巫女はやって来ない。何をしているのか、どれだけ待っても姿形すら見えない。もう1人で行こうか、そう考えた時に隣から緩い声が聞こえてきた。
「あんたが協力者?」
!? 何の前触れもなく突然現れた巫女に驚きを隠せなかった。僕の驚いた姿に何を思ったのか、
「空間転移してきたんだけど、そんなに下手だったかしら」
と言い放った。眠たそうに欠伸をしながら言い放つ姿からはそんな殊勝な感じはしない。逆に強者たる存在感を放っている巫女は、黒い髪に黒い瞳、整った顔は正しく美少女と呼べる。
「伊吹大和。今夜はよろしく」
「はいはい、博麗零夢よ。よろしく」
握手の為に差しだした手には見向きもせずにそう言い放った。まだ子供だし、こんな深夜には辛いか。そう思って少女を見ていると、その視線すら鬱陶しそうにしていた。
「さっさと行くわよ。こんな面倒な仕事早く終わらせて寝ないと身体がもたないわ」
しかしこの巫女、先代たちとは違って非常にやる気なさげである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ゛~~もう、多すぎなのよ!!」
「確かに多いけど、数ばかりいたってね!」
上下左右を妖怪の群れに囲まれているけど何の問題もない。僕が対処する前に零夢ちゃんがお札や針、陰陽玉から放たれる弾幕で妖怪たちをどんどん地面に堕としていく。まるで全方向が見えているかのように後ろから近づく妖怪にもお札で対処している。…これ、僕いらなかったんじゃない?
ほんの数分で妖怪たちは地面で気絶していた。流石は歴代最高と呼ばれるだけはある。いずれはレミリアたちとも肩を並べる程に強くなるだろう。
「さてと、とどめを刺さないと 「待った」 …何よ、邪魔するの?」
「別に殺さなくてもいいじゃないか。しっかり言い聞かせればもう悪さしないだろうし」
「この数相手に? 私は嫌よ面倒だし。それにあとで何かされたらどう責任とるのよ」
心底面倒くさそうに嫌な顔をしている。小さいのに何故か大人を相手にしているかのような錯覚に囚われそうになるもなんとか踏みとどまる。
「それはそれ、しっかりと責任とるのが僕らの仕事でしょ」
「面倒は嫌いなの。1人でどうぞ。嫌ならこいつ等始末するから」
「ちょっと待って。……おいお前、起きろ。起きろって」
リーダーらしき妖怪を叩き起こす。ココから先は何時もやって来た通りの作業だ。妖怪の目を見て脳に幻術を直接たたき込む。してはならないこと、そしてすればどうなるかを本当に在ったかのように脳に刻みこむ。きっとこれから何日間かは悪夢に悩まされるだろうけど自業自得だ。
妖怪のリーダーは僕の話をしっかりと理解してくれたのか、何度も頷いて夜の闇に消えて行った。
頭を潰せば力のない連中は動かない。これは僕が実地で学んだことの一つだ。
「終わったよ」
「あんた、見かけによらず酷い奴なのね」
「それ程でもないよ」
「褒めてないわよ…」
帰って寝る。送ろうか? 変なことされそうだからいい。そんなやり取りでその日は別れた。…と言うか変なことされるって、僕ってどう思われてるんだよ…。いくらなんでも子供に手は出さないって…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「伊吹君たちのおかげで人里も再び平和になるだろう。礼を言う。助かったよ」
「いえいえ、報酬も貰ってますしお互い様です」
事実、懐は報酬でホクホクであるのだから。
翌日、結果報告のために慧音さんを訪ねたところお礼を言われた。他にも里で贔屓にしているお店の主人や商人の人にもお礼を言われた。こうやってお礼をされると自分が役に立てていると感じられて嬉しい。
「そう言って貰えると嬉しいな。…ついでですまないが、一つ頼まれてくれないか?」
「別にいいですけど、何ですか?」
少し言いにくそうに慧音さんが言う。なんだろう、慧音さん程の人が僕に頼むことなんてそうないと思うけど…。
「実は博麗の巫女の所にお礼の品を運んで貰いたいんだ」
「…? それって僕じゃないと駄目なんですか?」
「彼女はその…私と合わないと言うか、人里の人ともそりが合わないんだ」
「それはまた……」
難儀なことですね、とは口にはしなかったのは僕にも思うところがあったから。でもいったいどういうことなんだ? 今まで僕が知りうる中で博麗の巫女が人から避けられるようなことなかったのに…。まあ、確かにあの少女は人付き合いとか苦手そうだったけど。
「分かりました。今日中に持っていきます」
「おおそうか! 助かるよ! 持って行ってもらうものをここまで運んで来るから待っていてくれ」
一度会っただけだから放っておいてもいいんだけど、何故か放っておけない気がした。だからそのお願いを受けたんだけど、結局慧音さんの運んできた荷物は台車一個分あった。とても飛んで運べる分ではなかったので、結局地面を歩いて行くことになった。トホホ…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「や…、やっと着いた…」
重い荷物を運ぶこと数時間、漸く博麗神社に辿り着いた。今まで何度も訪れたことはあったけど、歩いたらこれほど距離があるなんて思っても見なかった…。
「さて、零夢ちゃんはどこに…って掃除中か」
階段を登り、わざわざ探すこともなく境内を箒で掃いている姿を直ぐに見つけることが出来た。その姿もどこか浮いているようで、やはり面倒くさそうにしているのが見てとれる。どれもが今まで見てきた巫女とは違う雰囲気をしている。
「お~い零夢ちゃん、お届け物だよ」
「……あんた誰?」
ずっこけた。おまけにここまで背負ってきた大量の荷物に潰された。お、重い…
「ちょっと、あんた大丈夫なの?」
「い、いや平気だよ。それよりも本当に忘れたの…?」
「馬鹿にしないで、しっかり覚えてるわよ。…え~っと、とまとさん?」
「大和だよ!!」
あらそうだったかしら? と零夢ちゃんは本気で思い出そうとしている。あの夜とは打って変わって、ころころと笑っている姿はやはり歳相応の少女のようだ。
「ところで零夢ちゃん 「ちゃんは止めて」 …零夢に届け物だよ。この僕に乗っかってる荷物。人里からのお礼の品だって」
「あら、運んでもらってどうもありがとう」
いろいろと運んできた荷物を物色していく。…あの、出来ればそろそろどかしてもらえると嬉しいなぁなんて。
「疲れたでしょ、お茶でも飲んでいきなさい」
「おお、案外優しい」
「失礼ね。お礼くらい私もするわよ」
荷物を運んでから神社の縁側に腰を下ろす。少し境内を見渡すと、来た当初には気が付かなかった砂や落ち葉で散乱としている。これも今までとは大違いだ。いろいろ考え込んでしばらくすると、零夢がお茶とお菓子を持ってきた。
「お礼の中に羊羹が入ってたわ。せっかくだから頂きましょう」
「お、いいねぇ」
しかも里でも人気の羊羹じゃないか。やっぱり博麗の巫女って慕われてるなぁ。
「いつも人里で買い物とかしてるの?」
お茶菓子を一口。うん、美味しい。特に高級品とかに通じる舌なんて持ってないけど純粋に美味しいと感じることができる。こういうのを良いお菓子って言うんだろうね。
「してないわ。と言うか、人里の人間と触れ合う機会なんてないし」
「え? なんで?」
お茶を飲みながら、ふと不思議に思った。先々代や先代の巫女も、人里ではあまり見かけたことがなかった。会うのは何時も博麗神社か、どこかの空を飛んでいる時だけだったはず。自分で思っていた以上に僕は彼女たちを知らないことに気がついた。
「…博麗の巫女は幻想郷の守り手。それ故にどこかに組することなんてあってはならない。あんた知ってる? 博麗神社が人里からも、妖怪の住処からも離れているのはそういうことなの。まあ、私が先代たちより変なのは違う理由があるんだけどね…」
そう言った一瞬、何かを悟っているような表情が垣間見えた。僅か11歳にして歴代最高という称号を得た少女は、その代償として人の持つ温かさという物を知らずに育ってきたのだとその時気がついた。そして今までの巫女たちもまた…。
「『空を飛ぶ程度の能力』 この能力で私は他のモノ全てから浮いてるの。あんたも私と会った時不思議に思わなかった?」
「確かに零夢の存在はどこか浮いているように感じるね」
何からも、何者にも束縛されない。それはつまり自分以外、外界との接触がほとんどないことになるんじゃ…?
「解ったらさっさと帰って頂戴。私も暇じゃないの」
どこか儚く、そして少し寂しそうに見えた。おそらく彼女にそんなつもりもないだろうし、持った能力からそう思わせることなんてないはずだけど、確かに僕にはそう見えた。そしてこの触れれば壊れてしまいそうな少女を1人にしてはいけないと思ってしまった。
「じゃあ今日は帰るね。また明日」
「明日?」
「そう。明日また来るよ」
「来なくていいわよ面倒だし。私もあんたに構うくらいなら縁側でゆっくりお茶飲むわ」
「じゃあ一緒に飲めばいいじゃん」
「嫌よ」
むむむ…中々に頑固なヤツめ。面倒なことに本気でそう思っていそうだからこっちも対応に困る。どう切り崩そうか? そう考えたけどそれすら無意味に思えてくる。それに今の態度からは、さっきのが幻覚に見えてしまうくらいに素っ気なく見える。
「ええい! 嫌でも来てやるからな!!」
「あ、待て!!」
とりあえずそれだけ言って空に逃げた。わざわざ追ってこなかったのは性格だろう。むしろ追ってこられても反応に困る。
「久しぶりに面白い子に出会ったな」
1人空を飛びながら明日の予定を考える。明日は特に何もないから、朝から行って少し困らせてやろう。
数10年変化のなかった日常に少し変化が出来たのを嬉しく思いながら、茜色に染まった空をゆったりと飛んでいった。
そしてその様子をじっと見つめる影が一つ
「貴方は食べてもいい人間?」
博麗零夢は博麗霊夢ではないです。でも外見はそのままだと思って下さい。名前を零夢にするか零無にするか迷いましたが…。一応大和のこれからの相棒です。
雨にも負けず、子供にも負けずやりきったじらいです。すんごい頑張りました。と言っても実家では何もすることがないからこうやって書けているんですが。
大和の絵を描こうと近所の子供と一緒にお絵描きしてたのですが、無理でした。私にはアンパソマソが限界です。
子供「なにそれへたくそ~」
じらい「じゃあアンパソマソを描いてあげよう」
子供「へたくそ~」
…素直なのはヨイコトデスネ