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東方伊吹伝  作者: 大根
第五章:幻想となった故郷
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僕と閻魔様の奇妙な関係

朝チュンって何だ?

―前を向けない者に明日はない―





「映姫様ー起きて下さいよー。朝ですよー」


「……む~~~、もう朝ですか……?」


「寝ぼけてないで起きて下さいよ。今日も仕事が詰まっているんですから」



眩しい朝日が差し込んでくる部屋の中、苦笑しながら寝室のカーテンを開ける。


僕が生きたまま三途の川を渡ってから早1年。こうやって映姫様の専属秘書となって毎日を過ごしている…とでも思った? こき使われているだけです。本人にはその気がないので何とも言えないんだけどね。


何故僕が彼女の私室、しかも寝室にいるかって? ・・・っふ、坊やには教えられないな。…嘘ですごめんなさい。いや、寝室に入っている事実は変わらないんですけどね! こうなったのも幾つかの理由があったんですよ。


閻魔と言うだけあってその仕事の量も多く、ストレスも溜まるものみたいなんです。だから小町こまっちゃんも誘って飲みに出かけたところ見事に大爆発。普段は酒を飲んでも飲まれることはない、なんてこまっちゃんも言ってたけど何故かその日は全てぶちまけたらしく、僕は普段の映姫様からは見られない彼女を見てしまったと。そして酔い潰れた彼女を家に運んで、翌朝の執務室で会った時、その日のことを聞かれた。隠すのも意味ないと思って全部話したら今まで何処か他人行儀だった映姫様の何故か柔らかくなりましたとさ終わり。そこからはフレンドリー? な仲です。


ちなみに僕、今は映姫様の家の部屋借りてそこで済んでます。なんちゃって同棲とでも言うのかな?この人仕事はきっちりしているのに私生活が駄目なんですよ。だからこうやって私生活の面倒を見ながら、上司と部下でもなく、恋人とかでもない奇妙な関係が続いています。


もちろんただ普通の毎日を送っているだけではないよ?前を向いて歩くために、死者の人生が書かれている書類に目を通してその人が何を思ってい生きていたのかを知ったり、家に置いてある倫理や哲学の本を読んで勉強もしている。今の僕は後ろ向きではなく、前を向いて進んで行こうと思えているんだ。


そして今日も今日とて朝日が昇り、地獄に近い場所での奇妙な一日が始まるのです。



「むぅ……大和の淹れた御茶は美味しいのに、何故ご飯はこうも残念なのでしょうか」



茶の間での朝食。作ったのはもちろん僕です。毎日のように料理の味つけについて文句を言われるけど、僕にとってはこれが普通なんです。



「文句言うなら作りませんよ? 僕だって早起きするの辛いんですから」



寝巻で寝ぐせのついたまま熱い御茶を啜る様子からは厳しい裁判長という印象はなく、見た目相応な女の子だと思える。これが仕事が始まると厳しい御方になるのだから不思議なものだ。



「大和とももう長くなりますけど、どうです? 私を言い負かすことが出来る程度の知識を身につけましたか?」


「言い合いで閻魔様を負かすというのも難儀ですよね…」



映季様を言い負かす。それが僕の今の目標だ。彼女を納得させることができるだけの言い分を持ち、且つそれを認められることによってここを卒業となる…のだけど、閻魔を口で負かすなんてこと出来るのか!?



「じゃあ先に執務室に行ってますんで。洗い物は水につけておいてくださいね」


「わかりました。ボソッ(行ってらっしゃい」


「行ってきまーす」



最後に何を言ったのかは聞こえないけど、僕は何時もこうやって挨拶をしてから家を出ている。さあ! 今日も勉強するぞ!




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「この人物の経歴を見て、大和はどう思いましたか?」


「確かに罪はありますけど、この少年の動機を考えると情状酌量の余地はあると思います」



部屋に置かれているのは黒塗りにされた机とソファーのみ。無駄を嫌う彼女らしい質素で厳格な雰囲気が漂う執務室での意見の応酬。こうやって死者の経歴から学ぶべきこと多い。今見ている書類に書かれている者の罪状。それは窃盗だ。貧しい生活を送り、日々を生きることすら困難な子供が市場から食料を盗み、その罪から行われた懲罰によって死亡した少年の裁判。



「ではこの仇打ちをした人物については?」


「…どんな理由であったとしても、他人を殺すことは駄目だと思います。憎しみは必ず自身に返ってきますから」



父親を殺された青年は仇打ちを成したあと自害。自身の目的を果たすことは出来たのかもしれないけど結果として一人の命を奪った。この一年、僕がここで生活を始めて最初に自分に決めたことがある。それは殺さない覚悟。その人がどんなに悪いことをしていたとしても絶対に殺さない。生かして更生する機会を与える。裏を返せば『それはその気になれば殺せるということですね?』と言われた時には大目玉を喰らったけれど、これについては映姫様も納得してくれている。それを貫き通せれば、それもまた一つの道だと言って。



「ふむ。ではお得意の倫理学でも並べてみますか?」


「勘弁してくださいよ、法を倫理で破れるわけないでしょ。しかも法の番人を相手に」



サディスティックな笑みを浮かべる彼女に溜息が出そうになる。人の数だけ正義があるように、倫理とは人の数だけ答えがある。それとは違い、法の答えは有罪か無罪かの一つしかない。だけど僕は敢て倫理を学んでいる。これはもう意地でしかないんだけどね。なんとかしてこの頑固な人を僕の想いで打ち負かしてやりたい。



「要勉強ですね」


「返す言葉もありません」



笑顔で頷いている映季様を見ているとここに住むのも悪くないとか思えてきてしまう。それはなんて素晴らしいことなんだろう。でもそれは叶ってはいけないことだ。僕は答えを得てここを出て行き、レミリア達ともう一度向き合って想いを伝えなければならない。いくら居心地がいいとはいえ、出て行くことは確定しているのだから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇




お昼休み。昨日こまっちゃんから昼飯を奢ってやるとの男らしいお言葉を受けたので誘いに乗ったんだ。本来なら男である僕が女性であるこまっちゃんに奢ってあげるのがお約束なのだろうけど、残念ながら僕の現金収入は限りなく0に近い。今までもお金と縁がなかったけど、ここまで引きずると最早呪いか何かと考えてしまう。



「お前さん、遅いよ」


「ごめんごめん、本読んでたら遅れた」



先に注文しようと思っちまったよ、と愚痴りながらすぐさま店員さんを呼び注文をするこまっちゃん。これ以上待たせるのも駄目かと思ったので店員さんには同じやつをと言った。駄目な人の典型です。



「どうだい? 四季様を言い負かすことは出来そうなのかい?」


「こまっちゃんは出来ると思う…?」


「あたいにゃ無理だね」



アッハッハと豪快に笑っているけど、こうやって話を聞く機会を作ってくれたりと、何かと親切な人である。



「んで? 四季様の寝顔は可愛いかい?」


「ブッッ……ゲホッゲホッッ!? 何で知ってるんですか!?」



口に含んだ御茶を吹き出して慌てる僕をニヤニヤした顔でこまっちゃんが覗き見てくる。



「ここらじゃ今一番の話題さ。あのこわ~い閻魔様を骨抜きにした男の噂がね」


「随分とまぁ俗っぽい裁判所とその周りですね……」


「あたい達だって生きているんだ。暇な毎日にそういう話題は付きものなのさ」



フフン、そう鼻で笑っている貴方だけが暇だ暇だと言ってるんじゃないかと思う。そう言ってもこれ以上弄られたくないので黙秘権を行使します。



「で、実際どこまでいったのさ? 一発かましたりした? んん?」


「何にもないですよ! いや本当に! 僕と映姫様にはこまっちゃん達が思っている様なことは何にもないです!」



ニヤニヤしながら男女一つ屋根の下で何もないことはないだろ、と言われるも実際に何もないのだから仕方ない。確かに寝顔とか、風呂上がりの姿とか見てるとドキドキすることはあってもそれはただ僕が男なだけであって恋愛感情とかではないんだから。



「面白くないねぇ。何かある方に賭けていたのにこのままじゃあ負けだよ」


「人を賭けごとに使わないで!?」



四季様には内緒にしておいてくれよ、と言われても意味ないと思うけど。だってあの人、自分のことは一番最後に考えてるから、そういうのに疎いんだよね。



「……まあそれよりも期日だ。間に合いそうなのかい?」


「…正直どうなるか解らない。自分の中にははっきりと答えが見えているんだけど、それが映姫様に通じるかと言われるとどうも自信がないんだよなぁ」



三途の川を生きた人間が長年渡ったままでいるのは本人にも、対外的にも良いとは言えない。それ故にここにいられる期日が始めに定められた。その期日まであと一月。その時までに映姫様を納得させられなければ僕の死後地獄行きが確定される。



「お待たせしました。天麩羅定食と地酒になります」



……一緒のものとは言ったけど、まさかお昼から酒を飲むことになるとは。これは後で怒られるだろうなぁ、と思いつつも飲むんだけどね。出されたものは全部食べないと作った人に迷惑でしょ? うん、そうだ。


一人完結して山菜の天麩羅を齧る…普通に美味しいね。何時もこういったお店の味を目指して料理を作っているのだけど、どうも不評なんだよなぁ。もしかしてお店の味付け自体が悪いのかもしれないね。



「あたいが言うのもなんだけど、四季様はあんたを気にいってるんだ。だから四季様を泣かせる結果になったらあたいが許さないよ。イの一番にあんたの魂を運んでやるから覚悟しな」


「嬉し怖いこと言ってくれるなぁ。でも、僕ももう後ろを向いたりはしないよ。だから意地でも納得させてみせるさ」



その後は食事と飲酒の楽しい時間が続いた。執務室に酒が入った状態で帰った時は棒で思いっきり打たれた。飲んだ勢いでサボってたこまっちゃんも後で打たれたらしい。

やあ、ちょっと溜まったものを吐き出させてもらったじらいだよ。普通なら番外編か何かで甘い話をしていたんだけど、我慢ならなくなってやりました。異議申し立てがあるなら相手をしよう、どんと来い。


だけどこれが本編であることを考えてみてほしいです。本編で朝チュンだよ?番外編ならどうなるの!?R指定ブッチギリとかマジ勘弁です。


ちなみに私は理系なので倫理とか哲学とか知ったかぶってますので間違えてたら言ってもらえると嬉しいです。

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