人生の達人との出会い?
おそらくナヨナヨした大和はこれで最後になります
一通り泣いた後、以外にも心は澄んでいた。おそらく全てが空になったからだと思うけど、それはそれで悲しいことだ。その後は文の家に帰るのではなく、かといって人里に向かうのでもなく、僕はただただ歩き続けていた。
日も暮れ、それでもただ歩き続ける。歩いていると露店がある通りに出て、声を掛けられるもそれに反応することもなく歩き続ける。
すると一つの場所にでた。目の前には川。岸辺には舟もあり、どうやらこれを使って渡るらしい。舟に乗るのもいいかな、そう思い舟に触れようとした時に後ろから焦った声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ちな!それを勝手に使われるとあたいが四季様に叩かれちまうよ!」
んー?振り向くとそこにはおかしな鎌を持った女の人がいた。やけに焦っているようで顔から汗も噴き出している。
「いいかい?触れるんじゃない、絶対に触れるんじゃないよ?」
…そう言われると触れたくなるのはお約束です。そのまま触れようと右手を伸ばすも、何故か右手は一向に舟に触れることはなかった。まるで距離が遠くなったように感じたけど、いったいどういうことなんだ?
「ったく、油断も隙もあったもんじゃない。で?あんた何で此処にいるんだい?ここは三途の川。死者の魂が来る場所だよ。健康な奴は帰った帰った」
「気がついたらここに居たのは僕が死んでいるからですかね?」
「はあ?」
手首を振って帰れアピールをしていた女性は、僕の言った言葉に何やら考え込むように後頭部を掻きながら俯いた。
「ま、ここに来たのも何かの縁。どれ、生きている奴の話を聞くのもまた一興だ。何か話してみな」
そう言って鎌を置いて座り込んだ女性は立ったままの僕に早く座れと急かしてくる。三途の川の目と鼻の先で何かを語り始めるのはおそらく僕が最初なのだろう、女性は嬉々として僕が話始めるのを待っていた。
「じゃあ話をしますけど、つまらない「げ、ヤバイ。四季様が来る」うん?」
「ここら一帯の死者を裁く閻魔様のことさ。何時もあたいのサボりを注意しに来るお方だ。今回は真面目に働いてたから怒鳴りに来るわけじゃないだろうけど…」
閻魔様?…嘘吐きの舌を抜くあの閻魔様!?ど、どうしよう僕今までに何回も嘘吐いたよ!抜かれるのはきっと舌だけじゃなくなっているはずだよ!
あたふたとしていると川の向こう側からその姿が見えてきた。片手に棒、大きな目立つ帽子を被った人が飛んで来て僕たちの目の前で着地した。
背はそれほど高くない…といっても目の前の女性の背が高いためその対比で小さく見えただけなのだが。それよりも特筆すべきはその威圧感。小柄でありながら放たれている存在感はアルフォードと互角…いやそれを上回っている。
「小町、久しぶりによく働いたと思えばこれですか。どうやら貴方を褒めることでは何も変わらないようだ。そう、あなたは―――」
「ちょっと四季様、客人です客人。目の前の青年が『俺の話を聞け!』といってきかないので話を聞いてやろうと思ったんですよ!」
「うぇ!?何気に僕のせいにされてる!?」
「嘘はいけませんよ小町。彼を見ればそれが真実かどうかくらい解ります。そして貴方は私に嘘を吐きましたね?だから貴方は―――」
おおぅ、目の前で始まった説教…でいいのかな?は自分の行いを全て赤裸々にされた上で行われている。…聞いててこっちが恥ずかしくなるような話も多い。
「何をボケッとしているのです。次は貴方ですよ」
「ええぇ!!??」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「成程。つまり貴方は友を裏切ったわけですか」
「うぐッ。…そんなつもりはなかったんです」
ああ、夜も更けたと言うのに何故僕は河原で正座をしているのだろう。夕闇が世界を支配しているために死者の魂とやらの仄かな光が辺りを照らし、それはもう不気味な世界を創り上げていた。とは言っても死者の魂も閻魔様には近づこうとはしない。誰だって二回も説教されたくないのだろう。
「死者の魂を裁く時には過程よりも何より結果を重要視します。貴方がどう解釈しようと、私にしてみればそれは立派な裏切りと言う名の罪です。解りますね?」
「はい…」
お互いの自己紹介も済まさずままに開始された人生相談と言う名のお説教。自分を隠さずに話しなさい、と有無を言わせぬ圧力で僕に迫り、それに応じる形で話してしまった。実際には閻魔様は迫ったのでは無いのだろうけど、自分でも悪いことをしたと思うところがあるため強迫のように感じてしまった。
「そうですね―――――――構えなさい」
「ちょ!?いきなり何するんですか!」
構えなさい、と言いながら既に放たれている弾幕を躱していく。小町さんは我関せずといった面持ちで僕と閻魔様を眺めている・・・あ、流れ弾がデコに当たった。
「動きが悪いですね。聞いた話によると貴方はもっと出来るハズなのですが」
「勝手なこと言ってくれるますね!?」
誰かから僕のことを聞いたのだろう、頭に疑問符を浮かべながらそう言われた。閻魔様と話をすることが出来るのって誰だろう?…紫さんですよねー。 (残念そりゃわたしだよ)
「動きが鈍いですね。それでも鬼の子ですか」
「弱くてすいませんね!!」
「そういう問題ではありません。貴方の悩む心が動きを鈍くしているのです」
弾幕を止め、滞空しながら向かい合う僕たち。厳しい面持ちでお互いを見合う。今までのようなただの会話ではなく、本格的に糾弾するとでも言えばいいのだろうか、全てを見通しているような澄んだ瞳で僕を見つめてきている。
「貴方は何も解っていない。恩師を殺した時、悩んでいるのは自分だけだと決めつけ、恩師の娘たちを見ようともせずに逃げ出した貴方が悩んでいるというだけで既に罪です。あの時貴方は逃げるべきではなかった。逃げずに向き合うべきだったのです。しかも貴方は逃げることに対して正当な理由付けまでした。結局貴方は自分を正当化し、責任を周りに押し付けているだけなのです」
「そして貴方は再び逃げた。つい先ほども彼女を追いかけるべきだったのにもかかわらず。人の一生には掛け替えのないものがありますが、友もその一つです。貴方は我が身可愛さに友を失った。恥を知りなさい」
閻魔様の言うことは何にも間違ってない。冷静な時ならそう判断できただろうけど、たび重なる出来事に僕の心情は不安定であって、突っ掛かっていってしまった。
「僕だって…僕だって何度も向き合おうと思ったよ!でも駄目だった!どう声を掛けたらいいのか解らない、母親を殺した僕が何を言えばよかったんだよ!?」
感情が抑えられずに目から涙を流しながら怒鳴り散らした。
「それを探すと言ったのは貴方自身のはず。死者に報いることが出来るとしたなら、それは己のしたことに恥じず、前を見据えて進むこと。…もっとも今の貴方には到底できそうにありませんが」
だったらどうしろって言うんだよ。閻魔様は言うだけでいいかもしれないけど、当事者の僕にしてみればもうどうしようもないことなんだよ。
親の仇を見るように閻魔様を睨みつける。こうなってしまっては恥も外聞も、正義も悪も関係ない。自分の弱い部分を突かれた人間は自棄になるか、全てを認めて諦めるかの二つに一つだ。それを指摘したのが並の人物であるのならば、ただ指摘するだけで終わっただろう。
だけど幸か不幸か、僕を指摘した人物は並の人物ではなかった。
「もし少しでもやり直したいと思っているのなら私と共に川を渡りなさい。貴方を再教育してあげます」
「! 映季さま、生きている者と親密になるのはあたいたちの法に触れるんじゃないんですか?」
「その分の罰とでも言いましょうか、ある人物と交換条件を既にとってあります。もちろん、彼にその気があればですが」
「…着いて行ったら、僕は変われますか?」
「貴方次第…と言いたいところですが、私が全力を持って面倒を見るつもりです」
僕を見るのではなく、僕の周囲を見渡す閻魔様。何故閻魔様が僕の周りを見ていたのかを、この時の僕には知る由もなかった。
「来ても地獄。来なくとも地獄。さあ、どうします?」
そう言って挑発的に僕を見降ろしてくる彼女に、僕は力強い目で見つめて応えてみせた。
土日にストックを作っておいたおかげでこうやって更新出来たじらいです。前書き通り、ナヨナヨした大和はお腹いっぱいだぜ!な皆様お待たせしました。おそらくこれが最後です。これからはしっかりと前を向いて歩いていきますので遠くから見守ってもらえると私としても嬉しいです。
今までシリアス(笑)が続いていたのでそろそろ甘い話が書きたくなってきたなぁと思った週末。微ハーレムのタグに負けないようにここは一発やりますか!と思ったので次回はライトで甘い話をほんの少し混ぜました。少しでも楽しんで貰えれば嬉しいですねw
ではまた次回