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東方伊吹伝  作者: 大根
第五章:幻想となった故郷
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人生相談と動くお嬢様


文の家に泊まり込んで幾日。春の朝日が気持ちいい今日も僕と文は出かける準備をしていた。



「人里に行ってみたい、ですか?」


「うん。妖怪たちが生きている世界で人間がどうやって生きているのかを知りたいんだ」



幽香さんとの邂逅のあと色々考えてみた。弱肉強食。勝った方が正義で負けた方が悪。幽香さんらしい何とも解りやすい主張だと思う。でもそれって負けた人を完全に否定することになるよね?僕は先生たちをスッパリ切り捨てるなんてこと出来そうにない。


とまあ色々考えたんだけど、結局他人の意見を批判するなら自分の意見を固めろよ、なわけでして。せっかく先生が望んだ世界にいるのだからその世界に住む人の意見を聞きに行こうというわけ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「そこの二人、止まれ。ここから先は人里だ。何用でここに来た?」



何人かの退治屋のような人に囲まれての厳しい声。声の聞こえた方向を見ると長い髪、意志の籠められた強い目、堂々と立つその姿は見た目以上に大きく見せる女性がいた。



「慧音さん、射命丸ですよ」


「ん?ああ君か。すまない、どうも最近の幻想郷は騒がしいのでな。執拗に反応してしまった」


「んん?妖怪?人間…?」



気の質が違う…とでも言えばいいのかな?気の質には大きく二つの種類がある。一つは僕みたいな人間が持つ少し柔らかい感じのする気。もう一つは美鈴など妖怪が持つ力強い気。目の前の人からはその両方の気を感じ取れる。



「…鋭いな。私は半妖だ。そういう君も普通の人間とは違うようだが」



ああ、じゃあこの人が文の話していた人里に住む半妖、上白沢慧音さんか。確かワーハクタクの半獣だとか言ってたような気がする。



「初めまして。一応魔法使いの伊吹大和といいます。よろしくお願いします」


「上白沢慧音だ。射命丸に聞いているだろうが、ワーハクタクの半獣だ」



ああ…なんか久しぶりだこの空気。すごく…和みます…。僕の周りって昔から騒がしい人が多かったから、こういう落ち着く人と一緒だと嬉しいなぁ。是非とも御近づきになりたい。



「慧音さん慧音さん。それより幻想郷が騒がしいってどういうことですか?何かいい新ネタですかね?」


「なんだ、文屋のくせに知らないのか。実はな、新しく幻想郷に来た妖怪の一派が暴れてその対応に八雲紫たちが追われているらしい。どうも多くの妖怪を支配下においていっているようでな、もしもに備えてこうやって私が先頭で里を守っているのだ」


「あやや、おかしいですねぇ。私のところにはそういう情報は入ってきてないんですけど…」


「文は最近僕と一緒にいるからじゃない?ほら、何故か天狗たちも近寄ってこないし」



ほんと、何でだろうねぇ。天狗は定期的に連絡は取り合うとか聞いてたのに最近はまったく音沙汰なし。その上河童を探しに行っても誰も川から出てこないし。これもその騒動が原因なのかなぁ。



「むむむ…それもそうかもしれません。ですが記者として最新の情報を他人から教わるなんて愚の骨頂!慧音さん、私は里で聞き込みをして来るので適当に大和さんの相手でもしてやっててください」


「え?ちょっと文!?…行っちゃったよ」



シュバッ!なんて擬音を残して文が人里の中心地に向かって飛んで行った。それにしても記者かぁ、文も自分のやりたいことが見つかってよかったね。



「お互い苦労するな」


「それほどでもないですよ」



気の良い友人ですから、これくらいはね。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「すまないな、最近忙しくて家の中を片付けられてないんだ」


「御気になさらず…と言っても、文の家よりはだいぶマシですから気にすることないと思いますよ」



道中にはいろいろと人里のことを教えてもらったりした。どこのお店が美味しいとか、特に新鮮で良い野菜や魚を売っている御店などなど。あれこれ教えている時の上白沢さんはすごく輝いていたんだけど、小さな子供に教えるような感じは男として嬉しいのか悲しいのか…。


そんなこんなで向かった先は上白沢さんの家。とりあえず話を聞くことになった。



「これは歴史書か何かですか?」



まず目に入ったのは机とその上に置かれている巻き物。机の上に置かれている巻き物を見てみると、今まで起こった出来事が年月ことに細かく書かれていた。歴史書なのだろう、今まで高位の魔道書などは読んだけどこういった書物は初めてだからすごく興味がある。



「ん?ああそうだ。私は幻想郷の歴史編纂作業をしていてな、それもその一部だ。…あまり見ないでくれよ?」


「っと、すいません。珍しいものでつい」


「いや構わないさ。そう言えば君の名字は伊吹と言ったな、確か鬼にも伊吹とつく者がいると聞いたことがあるのだか?」


「僕は伊吹萃香の義理の息子ですよ。鬼じゃないんですけどね」



うーむ。やっぱり鬼の四天王だけあって母さんの名も広がっているんだな…。母は強し、と言うやつなのだろうか。まあ昔の都でも名が通っていたくらいだし、当然と言えば当然なんだろうけど。



「上白沢さん、ちょっと話が聞きたいんですけどいいですか?少し込み入った話になるんですけど…」


「慧音でいい。そうだな、なら御茶を入れてくるから少し待っててくれ」



慧音さんはそう言って台所に御茶を淹れるに行った。あまりジロジロと見るのもどうかと思ったけど、紅魔館で手伝いをしていた時によく紅茶も入れていたから気になって目がそちらを見てしまった。その視線を感じているのだろう、御茶を淹れてきた時は苦笑いを浮かべていた。



「視線には慣れているつもりなのだが、こうも見つめられては私も恥ずかしいものがある」


「すいません…どうも前の職業柄気になってしまって」



何処かの家でお手伝いでもしていたのか?と聞きながら僕に御茶の入った湯呑を渡してくれた。ん~いい香りだ、文の家のとは大違いだね。



「ちょっと大陸にある屋敷で執事のマネごとをしてたんです。それでですね、僕の話というのは―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「それでは最近人里の周りにもよく妖怪が出てきていると」


「そうなんだよ、まったく困ったものだ。おちおち魚も釣りに行けない」


「わかりました。どうもありがとうございました」



こんな話でよければ何時でも、そう言って取材を受けてくれた男性の背中を見送る。


う~んそれにしても怪しいわね。今は小~中程度の妖怪が好き勝手に暴れているようだけど、それくらいでは人里がこれほど嫌な空気になるとは考えられない。だとすると、やはり理由は湖の近くに現れた紅い館か。夜にその館に雑魚妖怪共が集まって行くのを見た…という証言があるとはいえ不確かだけど。人間でも危機察知能力というものがあるらしいけど、彼らも無意識のうちに危険を察知しているのかしら?


ペンをフリフリ、手帳を片手に思考を巡らせる。それにしても紅い館…。確か大和のいた屋敷も真っ赤だったはず。仲が良かったから追いかけてきた?そのついでに幻想郷を支配してやるぜ?…なーんてことはないですよね、私の思い込み過ぎでしょう。だいたい、紅魔館とやらの主は争い嫌いだったはず。そんな人がわざわざ幻想郷に喧嘩売るなんて…



「だ、だれか!上白沢さんを呼んで来てくれ!妖怪だ、妖怪の大群が人里に向かって来てるぞ!!」



…あやーなんて間の悪い人達なんでしょうか。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ふむ…なるほど、君の言いたいことはだいたい解った」


「慧音さん自身、そういった葛藤ってなかったですか?」



渡された御茶と、一緒に持ってきた急須の中の中が空になった頃に全てを話終わった。レミリアたちのことは伏せて、人間と妖怪の戦争があったこと、その理由が人間を愛しすぎたからだという話を聞いてもらった。



「私もなぁ、始めはそれほど受け入れられなかった…と言うより、出て行けという雰囲気のほうをよく感じていたよ」



はぁ、と手に持った空の湯呑に溜息を入れるようにそう言う慧音さん。苦労したんだよ…と呟く姿に失礼ながらお婆ちゃんみたいで可愛いと思ってしまった。



「この人里でですか?随分慕われているようですけど…」


「始めから全てが上手くいくわけじゃないさ。何年も掛けてようやくここまで受け入れてくれるようになったんだ。もっとも、幻想郷だからこそ受け入れられたのではないかと考えているが」


「どういう意味です?」


「この人里は四方を妖怪の住処に囲まれている様なものだ。だからここの人達は妖怪のこともよく知っている。妖怪がいることに慣れた…とでも言えばいいのだろうか」



狭い世界だからこそ慧音さんを受け入れられた?そんなことはないと思うけどなぁ。だって慧音さん優しいし綺麗だし、何より誠実そうだから。やっぱさ、誠実な人は慕われて当然だと思うんだ。



「伊吹君はどうしたい?」


「どうしたい…と言いますと?」


「君は何がしたいのかと言うことだ。あまりフィナンシエとかいう妖怪のことを引きずり過ぎると己を見失うことになるぞ?君は君だ、やりたいことをやればいい。良いように持っていこうと努力すれば必ず結果はついてくる。有史以来、自らの信念を貫いた者が己の夢を叶えたようにな」



僕がどうしたい、か。実際僕ってどうしたいんだろう?今まで先生への贖罪とか罪悪感?から僕に何が出来るのかを考えていたけど、それじゃ駄目なのかな?僕に出来ることじゃなくて、僕が出来ることねぇ。それも一つの答えなのか。


もう一度御茶を沸かしてくる、と言った慧音さんを視界の端に置いて再び思考の波に身を委ねていた。こうしていると何だか新婚さんみたいだ、なんて馬鹿な妄想をしている僕を叩き起こしたのは春なのに汗をかくまでに急いで来た来訪者の一言だった。



「上白沢さん大変です!妖怪たちが来ます!!」


「何だと!?/…ええー!?」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




~人妖大戦終結後~



「レミィ、大和が出て行ってもう長いわね」


「…知ってる」


「フランドールも地下室に籠って出てこない。食事を運んだ美鈴がすすり泣く声を聞いたみたいよ」


「…知ってる」


「何処に行ったのかしらね」


「…知らない」



知らない。知らない。大和のことなんか知らない。みんな大和のことが心配で優しくしていたのに、出て行った。一人じゃないって、私たちが居るって言ったのに出て行った。お母様が亡くなって、それが自分のせいだって言って。そんなことないのに、あの時私は言った。大和だけの責任にさせないって。私も一緒に背負うと言ったのに。


白。今の私の世界は真っ白。お母様を失い、初めての友人も失った。パチェは声を掛けてくれているけど、それでも前みたいにただ日々を過ごすだけ。笑うことはない。遊ぶことも、本を読んで勉強することも…大和と一緒にいることもない。心にポッカリ空いた穴は塞がれることなく、その穴は今も広がり続けている。


ケビンの奴も大和のことを言いに来たけど、そんなことで納得できるほど私たちの仲は薄情じゃなかったはずだ。だいたい手紙一枚とか舐めてる。家を壊して住み込んで、引っかき回すだけ引っかけ回して勝手に居なくなりやがって。あの馬鹿やまとめ、考え出したら腹が立ってきた。



「仕方がない。馬鹿を探しに行こう」



何時までも沈みこんでいるなんて紅魔館の次期頭首の姿ではない。最強種の吸血鬼が人間に振り回されるなんて愚の骨頂!吸血鬼なら人間の一人や二人、侍らせるくらいの気概を持たなくてどうする!


「確かにあの子は馬鹿ねぇ。でも、そんな子に振り回されている貴方のほうがよっぽど間抜けでしてよ?」


「貴方誰よ?」



癇に障る笑顔を浮かべた人物を前に、私は再び自分の運命が動き出すことを感じた。

ども、じらいです。今まで後書きにいろいろと書いてきたんですけど、後書き読んでる人ってどれくらいいるんですかね?今日携帯でここにある別の小説読んでて後書き読まない自分を見つけたんです。いや、携帯ってページ多くなるじゃない?自分が読まない癖に誰が読むんだよwとか思った次第でありますw読んでる人は一言書いてくれれば嬉しいですなぁ。



じゃあまた何時かに

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