一人じゃない
精神コマンドは熱血です
~騎士団拠点より少し離れた場所~
アキナがケビンさんたちに追いつき、戦闘が開始される少し前。ようやく一つの弾に魔力が込め終わった後、僕たちは広い場所に移った。
「時間がないから早速始めるわよ。さっき私が貼った魔法陣に乗りなさい」
目の前にはさっきパチュリーが地面に描いた複雑な魔法陣が描かれている。過程や何やら色々と飛ばした上での魔法使いになるための魔法陣らしい。何それ怖いんですけど。
「ちょ、ちょっと待って!何も今魔法使いにならなくったって・・・」
「今のままじゃ絶対勝てないわよ」
「ッ!・・・なんのこと?」
「はぁ、気がつかないとでも思った?私も『魔法使い』なのよ。少しでも可能性を上げるなら私の言うとおりにしなさい」
「・・・ごめん」
空に輝く魔法陣を見上げる。僕がアレを見て感じたことは、豪快かつ繊細。何に使う魔法陣かは解らない。けれど、あれほどの魔力を使える存在は正しくバケモノと言える。
「いい大和?作業は単純。自分に正直になりなさい。そうすれば後は魔法が応えてくれる」
言われ、魔法陣の上に立つ。自分に正直に、か。いろいろな過程をすっ飛ばしているために少し頼りなく感じるのは、魔法陣の輝きが儚く見えるからなのだろうか。術失敗のリスクは・・・ええい、ままよ!!男は度胸だ!!
大きく息を吸い、想いを自分に言い聞かせる
昔の僕は弱かった。・・・いや、今の僕も十分弱い。いくら身体を鍛えても、いくら魔法を憶えても、心の強さはどうにもならなかった。昔のままだ。それがはっきりと出たのは、紅魔館が襲撃されたと聞いた時。フランに言われるまで僕は我を失っていた。それじゃ駄目なんだ。それじゃあ皆の横に並ぶことすらできない。だから、
「だから、力を!!自分を誇れるだけの力を!!」
どうだ?これが今の正直な気持ちだ。これでいいんだろう?と思ってパチュリーを見やる。目を見開いて僕を見ている。ふっふっふ、感動でもしてくれたのかな?
「・・・まさかそこまでやるとは思わなかったわ。嘘なのに」
思わずコケた。そりゃもうコケた。コケる前に何を言われたのか数秒考えた後、思いっきりコケた。
「パ~チュ~リ~!!??」
「別に騙したわけじゃないわ。あなたが魔法使いに値する人物ならば魔法陣が応えてくれるだけ・・・来るわよ」
「眩し!?」
魔法陣が輝きだし、コケている僕を包み込む。魔法陣に描かれた文字が身体に刻まれ、染み込むように体の中に入って行くのがわかる。魔力が身体の中で一ヶ所に集まって行くのが感じられる。光が収まったあと、弾に込めて少なくなったはずの魔力が回復していた。
「おめでとう。これで貴方も魔法使いよ」
「・・・納得いかないなぁ」
こんな簡単に、しかもただ僕が恥かいただけじゃないか!?謀ったなパチュリー!!
「基礎が出来ていたからこれですんだのよ。師に感謝しなさい」
はいはい、そういうことにしときますよ。
「・・・しかしこれが魔法使い、凄まじい魔力が「あるわけないでしょ」なんでだよ!?」
「元々足りてない貴方が少し背伸びしただけじゃない。魔力量が増えるわけないの。多く感じるのは、貴方の中にある魔力が魔法使いになった影響で一時的に活性化されただけ。何か特典があるとしたら、不老とか、ご飯食べなくても大丈夫とかだけね」
「なん・・・だと・・・?」
魔法使い大和、始まったけど終わった。・・・いいさいいさ、不老に成れただけでもいいさ。そう思わないと目から滝が流れそうになるから、別にいいさ!!
「・・・魔力量増えないんだったら魔法使いになった意味ないんじゃない?」
「そうでもないわ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい?私は仕方なく、し・か・た・な・く、どうしようもない貴方の為に行う行為だから、決して誤解しないように。・・・目を瞑りなさい」
「へ?」
「瞑りなさい!!そして少し屈め!!」
「イ、イエッサー!!」
目が血走ってますよパチュリーさん!・・・待て大和。前にもこんなことなかったか?そう、たしかあれは蓬莱島での出来事だったはず・・・!目!とりあえず目を開けて話合おう!!
「ちょいm、んんんんんんんんんんんんんんんんんん!!??」
「!!!!????」
硬直。パチュリーもまさか僕が目を開けるなんて思っていなかったんだろう、お互いの目を見つめあったままで固まってしまった。・・・唇と唇が当たったままで。真っ赤、パチュリーさんの顔真っ赤です。そしてそれだけでは終わらなかった。パチュリーの口内から何らかの液体が送られているのが解った。・・・鉄の味がする。血、なのか?眼で飲めと訴えてくる。お嬢さんや、お兄さんは・・・解りました飲みます。(この間も唇は離れません)
「ぷはっ!いきなr「目、瞑ってなさいって言ったのにぃ・・・」すいません!!謝りますから泣かないで!!??」
涙目になって訴えてくるパチュリーを見て、というか涙を流す勢いのパチュリーに僕の心の痛みがマッハです。といいますか、僕も僕ですごい衝撃なんだよ!?でもこういう時は女の子を労わらなければ男失格なんです!!もはや僕が何を言っているのかも解らないよ!!
「・・・今、大和と私は一時的に繋がっているわ。私の魔力が感じ取れるでしょ?」
「あ、ああ感じとれますです」
繋がっているんです。Q.ナニが?A.魔力がです。目の前のお方が頬染めて少しもじもじしているのも、僕は気にならないとです。・・・やばい滾る
「・・・ならいいわ。(今貴方の脳に直接話掛けているのだけど、聞こえるかしら?)」
「わ!?脳に話掛ける・・・(こうかな?)」
「私は戦場に出ないけど、貴方のサポートをするわ。こうすればあの魔法陣を消すのに力を貸すこともできるから・・・」
「・・・ありがとう」
ありがとう。
「生きて帰ってきなさい。それが貴方の責任よ」
「嬉しいこと言ってくれるね。・・・じゃあ行ってくる!」
新たに手に入れた短剣を腰に差し、空を飛んで戦場に向かう。目に映るのは妖怪の大群と僅かな騎士団。生きて帰れる保証はない。でも、
「大丈夫。未来は視えているはずだから」
負ける。この戦い、もうワイらに勝ち目はない。戦闘開始から何時間経った?地上への援護射撃も今は行われていない。行えるだけの戦力がないのだ。辛うじて戦えている状況で、他に手を回すことなんて出来るはずもなかった。
「こんのぉ、諦めるかっちゅーの!!」
「アキナ!突っ込みすぎよ!!」
「お姉様後ろ!!」
「ッきゃあ!?」
アキナちゃんにレミリアちゃん、フランドールちゃんを中心に今まで持ちこたえてこれたけどもう限界や。フィナンシエと魔法陣さえどうにかできれば後はもうどうでもええ。あいつらさえどうにか出来れば今回はどうにかなる。再び決起しようにもこれだけの痛手を与えたんや、数年の月日が懸るはずや。後は産まれてくる新たな者に任せればええやないか。ワイらはもうようやった。
そんなことを考えてしまった。だから、迫りくる危機を察知するのに倍以上の時間がかかった。
「ケビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
副団長の声でようやく自分が危ないことに気がついた。クソッタレ、障壁が間に合わんやないかい!これで・・・これで終わってまうんか、ワイは!!??
―――――――――そんなお前に聖なる一矢をプレゼント?だったかな?――――――――――
煌く閃と共に、光目の前まで迫っていた妖怪が瞬く間に切り刻まれた。これは…糸か?
こんのアホンダラ、遅いんじゃボケ!!
思っていたより厳しすぎる戦況だねこれは。おまけにケビンさんが危ない状態だ。大丈夫そうだけど、とりあえずこの前の意趣返しも兼ねて借りを返しておこう。
「そんなお前に、聖なる一矢をプレゼント?だったかな?」
魔力糸を放ち、ケビンさんに迫っていた妖怪を切り刻む。うお!?パチュリーの魔力もあるからか、バターみたいに簡単に斬れるぞ!
パチュリーの力もあるとはいえ、強くなった自分が少し嬉しい。この絶望的な戦況の中、僕は不敵な笑みを抱えて仲間たちに合流する。
「来たんかい!!」
ケビンさんが
「もう!遅いのよ!!」
レミリアが
「待ちかねたぞ、少年!!」
副団長が声を張り上げて僕を歓迎してくれた。さあ、反撃開始だ!!
(いい?まっすぐ魔法陣の破壊に向かいなさい。アレを壊さないとどうにもならないわ)
「わかった・・・ケビンさん!!」
「ワイに任せぇ!!」
僕の前にケビンさんが飛び出し、ボウガンを正面に構える。そのケビンさんの周りには、数えるのも嫌になるほどの槍が待機している。
「空の聖槍・・・・乱れ撃ちじゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
止まることを知らない勢いの、馬鹿げた数の聖槍が敵陣中央に大穴をあける。聖槍の発射は数秒続き、多くの妖怪を屠った。
「行くわよフラン!合わせなさい!!」
「お姉様もね!!」
「言ったわね?じゃあ行くわよ!!!」
その後に続くのは二人の吸血鬼。妖怪にしてみれば若輩の身であるが、身に秘めた力は最上級を誇る。ケビンの開けた穴を更に広げていく。左右対称に動き飛びまわり、時には背中合わせに、時にはクロスするように飛び交い敵を切り刻んでいく二人。
「これが!」
「私の力だ!!」
「ちょ!?私を忘れないでよ!?~~~ッああもう!!!」
聞いていれば微笑ましいことこの上ないが、彼女たちと戦っている者たちにとっては正しく悪魔の所業だろう。
「スピア・ザ・グングニル!!!!」
「レーヴァテイン!!!!」
トドメと言わんばかりの二つの閃光。放たれた槍と剣は立ちはだかる妖怪を吹き飛ばし、城への道を作った。
「「大和(ヤマト)!!」」
「行ってくる!!」
開かれた道を突き進む。城まであと少しだ!そう思い飛ぶ速さを更に加速させる。
「オイオイ行かせるかよ」
「ここは通さん!」
あと少し、というところで城からフィナンシエ・スカーレットとDrキリシマ、その後ろには20以上の上級妖怪が一斉に飛び出してきた。クソ!まだこんなに戦力が残っていたのか!?
「この!しつこい!!」
放たれる厚い弾幕に防戦一方になる。
「何をのんびりしている!!」
「ヴリアントさん!!」
「私たちもいるわよ!!!」
必死に障壁を張って耐えている僕の前に、ヴリアントさん、アキナ、美鈴、執事長が僕の前に立ちふさがる。
「大和さんは先に!ここは抑えます!!」
「そういうこと。さーて、勝負をつけましょうかキリシマ!!」
「伊吹、頼んだぞ」
(大和、魔法陣が稼働し始めたわ。急いで)
皆の声を後ろに、再び勢いを取り戻した空を駆ける。
「ハッハー!直撃だ直撃ィ!次はそのカワイイお顔を消し飛ばしてやるよ!!」
「(ッ流石に厚い弾幕ね、左腕がイッた・・・!)でもまだ!!」
「手間をかけさせるなよ、お前一人に。俺はまだまだ殺さなきゃならねえんだからよ」
ふざけんな、これ以上お前の行いで人を不幸になんてさせない!余裕を見せているクソ野郎に私は右手に残っている銃をぶっ放した!
「ハッ!魔法なんざ「実弾なのよね」なんだと!?」
ッチ、言わなきゃよかった。少し身体を動かしたから肩に当たったじゃない。頭狙ったのに。
「テメェ・・・!」
「ハッ!実弾が撃てない銃なんて存在すると思う?馬鹿じゃないの?・・・そして!!」
私は新たな能力を行使する。それはこいつの存在できない時間で銃弾を放つという離れ業だ。放たれた銃弾はキリシマの腹に綺麗に吸い込まれていった。
「ッガァ!!?・・・・・・・なんだと!?俺が反応できない程の弾速とでも言うのか!!??」
「はぁ・・・あんた月の申し子は何とやらって自分で言ってたじゃないの?」
「ああン?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさかテメェ!!??」
「そう!今の私は月の実力者の能力を使いこなすことが出来る!!さっきのは輝夜姫の能力よ。如何なDrキリシマといえど、前情報なしで須臾の時間には対応できないでしょ?私にきっかけを与えた、お前の負けだ!!」
「・・・・・んのクソガァ!!」
「龍の末裔紅美鈴、大袈裟な伝説もここまでだ!!」
「誰がっ!!」
「多勢に無勢なんだよ!いい加減諦めやがれ!!」
諦める?諦めるだって?人間の子供である大和さんが諦めずに戦っているのに、たかだか20強ほどの妖怪に囲まれているだけの私が諦めるなんて出来るか!!
「執事長!突っ込んで下さい!!」
「?!…任された!!」
20以上の妖怪の中に飛びかかる巨大な狼。そこに妖怪の目が行ったところで私は地面を思いっきり踏み込んだ。
「溜黄振脚!」
踏み砕いた地面の亀裂が妖怪の立っている場所まで届き、地を砕いた。不安定な地面に足をとられ、バランスを崩したところを執事長が斬り裂いていく。それを見た私は両手に気を集中!そして!
「星脈・・・地転弾!!」
気を最高まで高めて発射!!放たれた気弾は敵対していた全ての妖怪を包み込んだ。
「ふむ。守護騎士とはいえ人の身でよく此処まで私と渡り合ったものだ。誇るがいい」
「・・・それは光栄だ。だが、まだ終わっていない」
5回。たった5回攻撃を受けただけで私は脚に力が入らなくなってしまった。だが、引くわけにはいかない。少年は魔法陣の停止、私には目の前の吸血鬼を倒すという使命がある。そして、騎士に撤退の2文字はない!
「いや、これ以上の時間は割けん。・・・上客が来てしまった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アルフォード・スカーレットだと!?」
「遅かったな、兄よ。・・・・・・・・・言葉は不要か。では始めるとしよう」
城の中に入った僕は魔法陣の核となっている場所を探していた。
「魔法陣の核はどこにあるんだよ!パチュリー、もう発動しそう!?」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
「パチュリー!?どうかした!?」
一度滞空し、念話に集中する。ッツ!?前方から魔力反応!!??
急ぎ回避運動をとる。ゾッとするほど膨大な熱線がすぐ横を通り過ぎて行った。
「フフ、やっぱり避けるのね。解っていた、いいえ、視えていたと言ったほうがいいのかしら?」
(・・・・・・・・信じたく、なかったけどね)
「・・・・・・・・・・・・・・・先生」
未来は変えられる。僕が変えてみせる。
やる気、元気、勢いだけのじらいです。正に総力戦・・・と言いたいんですけどパチュリーさんの勢いに負けてしまいましたwハァ、何やってんだか・・・。ここはカッコよく決めるところなのに。
長かった大陸編もあと2話です。ヤバイです。今エピローグ書いているのですが、次話が衝撃のラストになります。ホント、書いてて大丈夫かよオイ?!みたいな。とりあえず、あと2話です。それではまた