僕らの戦い
大戦の発端となった紅魔館襲撃から数ヵ月後、欧州一帯が戦場と化していた。人間を滅ぼす―――――――――――――そう宣言したフィナンシエ・スカーレットを頭とする妖怪の軍団は各地で様子見を決めていた妖怪たちすら己の陣営に引き込み、人間たちに牙を剥いた。だが人間たちも無抵抗ではない。騎士団を筆頭に各地で義勇軍を募り、大砲や鉄砲、科学によって生み出された武器を手に取り闘っていた。この話は、その中で同類と闘ったとある妖怪たちの物語である。
国立図書館 語られぬ大戦より抜粋
「と言うように、私は後世に名を残す妖怪になりたいの。だから参加しましょう」
「・・・つまり目立ちたいんだよね?」
太陽が頭の上を通過する、普段は眠っているはずの時間。紅魔館の一室、レミリアの私室に集まっているのはレミリア・フランドール・パチュリー・アキナ・僕の四人。輪になってそれぞれの意見を述べているところだ。所詮秘密会議というものである。そして今はレミリアが自分の案を通そうとしている。もっとも、みんなそれぞれ似たりよったりの意見を既に言ったのだけれども。
「妖怪の一生は、その人が何為したかで決まるわ。レミリア・スカーレット此処に在り!とその名を歴史に刻むのよ!!」
人間の一生もです、とのつっこみは入れても無駄なんでしょうね。
襲撃から数ヶ月、外の景色が雪景色に変わってからは、紅魔館の生活は今まで通りに戻っていた。「こちらが手を出さない限り何もしないなら、手を出さなければいい」とのアルフォードの宣言を受け、僕らは何もせず普段通りの生活を送っている、ことに異を唱える集団です。
ケビンさんを始めとする騎士団のみんなは各地を転戦、その血で真っ白な大地を紅く染め上げている。正直、心配で気が気じゃない。盟約云々の話もあったけど、それは秘密裏に結ばれたものであって、妖怪と手を組んでいたなどと公に晒してしまえば騎士団の存続すら危ぶまれてしまう。そう言っても人間が滅んでしまえば意味ないんだけどね。
「いいねレミリアちゃん。私もそろそろ暴れないと駄目だと思ってたし、何よりまだお仕事終わってないしね~」
「フランもね、おつむにきてるの。だからきゅっとしてあげたいな」
アキナとパチュリーのケガも完治した。そのアキナはキリシマを捕まえるまで帰れないと言っている。元々協力を頼まれていたので今更断ることなんて選択肢はない。その上レミリアとフランもヤル気満々だ。美鈴もアルフォードというよりも二人に仕えているみたいだし、僕に至ってはただの客人兼お手伝いだ。駄目と言われても聞く義理がないのです。それに何より、
「「「「やられっぱなしはムカツク」」」」
「「「「……………………………………プッ」」」」
何だ、やっぱり皆そこに行きつくんだ。
「あら?大和は反対じゃなかったの?」
「そんなこと言って、レミリアも戦場で泣かないでよ?迷子になっても探しに行かないから」
「なあ!?私は子供じゃないわよ!!」
「お姉様泣き虫だからね~」
「あはは!カワイイ子たちだなぁ!」
そんなこんなでただウサ晴らしのためだけに僕らが戦場に行くことが決まった。軽いノリで決まったけど、僕たちの戦う動機なんてそんなものでいいと思う。フィナンシエみたいに魔女狩りで妖怪の存在が~~、なんて小難しい話はこの際いい。ただ腹が立ったからぶん殴る。自分に正直に生きるのっていい生き方してると思わないかい?
「仕方ないわね。帰ってくる場所くらいは守ってあげるから、存分に暴れてきなさい」
今までだんまりだったパチュリーも賛成してくれた。これでとりあえずの方針は決まった。後は夜になれば紅魔館を抜け出す。おそらくこの戦いが終わるまで紅魔館には帰って来れないだろう。皆それを理解した上での行動だ。
「悪いわねパチェ。お父様とお母様への言い訳もお願い」
「・・・善処するわ」
「そんなこんなで今は戦場を駆け抜けるーーーーーー!!??」
「大和君後や!!」
「おわ!?コンチクショーーーーーー!!!!」
あれから更に数週間!ケビンさんたちに合流して共に戦場を駆けています!何?レミリアたちは妖怪で盟約うんぬんじゃないのかって?型破りな人の率いる聖堂騎士団の中に入っちゃえばそんなことどうにでもなったよ!!
「アッハハハハハハ!たっのしいねヤマト!!!!」
「この状況でそう思えるフランさんは何処かオカシイとお兄さんは考えますよ!?」
飛び交う銃弾と弾幕。血と硝煙の匂いが辺りを包みこむ戦場。血を流して倒れている仲間を踏みつけ、敵を倒すために戦い続ける。降り積もった雪はもはや白ではなく、血の紅に染まっている。もはや白い部分を探すほうが難しいだろう。大砲が直撃し、粉々に吹き飛ぶ妖怪。生きたまま腕や足を引きちぎられる人間。まさに地獄絵図だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんてことはなく、小規模な戦闘が起きているだけです。ただ、局地的に攻撃が激しいだけであって。その理由はまあ、妖怪が妖怪相手に戦っているからかな?
「しっかし雑魚ばかりですねぇ。お嬢様には物足りないんじゃないんですか?」
「そうでもない。私にはいい実戦経験になっている。むろん、フランにもな」
「私には物足りないわ。早いとこキリシマ辺りが出てきてくれないと飽きちゃう」
そんな中でも余裕を持つ者ものが数名。紅魔館勢(僕以外アキナ含む)だ。戦場を散歩するように悠々と歩き、目の前に敵が現れると片手間に片付ける。それが出来るだけの力を彼女たちは持っている。今も彼女たちは目の前に群がってくる妖怪を叩きのめしており、彼女たちの歩いた後には死屍累々の行列が出来あがっている。
紅魔館を出てからの僕たちのリーダーはレミリアだ。リーダーたる人物にはカリスマが求められるとのことで、アルフォードのマネをしている。けどこれが中々『さま』になっており、騎士団内でも評価が高い。そのカリスマ性は流石レミリア・スカーレットと言ったところか、おぜう様は大変輝いています。その妹は狂ったように戦場に酔っているんですが。
「お、あいつら引いていきよるな」
「ふぅ・・・終わったぁ~~~~~」
妖怪が引きあげていくのを見てその場にへたり込んでしまう。僕も何回か戦場に出ているけど、この独特な空気は嫌いだ。一対一の決闘ならともかく、四方八方からとんでくる殺気に気が滅入ってしまいそうになるのだ。それでも慣れてきている自分がいることに驚きなんだけど。
「ほれ立たんかい大和君。ワイらも帰るで」
「はいはい分かってますよ」
最近は小規模で散発的な戦闘しか起きていない。初期にはフィナンシエたち大物も戦場に出ていたらしい。そのころ僕たちはまだ紅魔館で普通に生活していたわけで・・・良かった、主に僕の生命的に良かった。
そんな戦場に似つかない馬鹿な事を考えながら荒れ地と化した戦場を後にした。どうやらまだそんなことを考えれる余裕が僕にもあるらしい。
~聖堂騎士団 拠点~
街から離れた平原の聖堂騎士団のベースキャンプ。遮蔽物が少なく、むしろ狙って下さいと言わんばかりの立地を敢えて選んだのは豪快な団長の気質ゆえか。その簡易テントの中で紅魔館メンバーはつかの間の休息を得ていた。
「おかしいと思わない?」
「何が?」
ここには妖怪が三人、人間を辞めている月人が一人居るせいか元気が有り余っている。ただの人間である僕はノックダウン気味なんだけど、僕も男だ。先にお休みなさいなんて出来ないのでこうやって意地を張って一緒にいる。
「フィナンシエのことよ。人間を滅ぼすだなんて、とても正気の沙汰とは思えないわ。大和も私たち妖怪が何を糧にして生きているか知ってるでしょ?」
そう言われればそうだ。妖怪にとって人間の存在は絶対に必要なはず。仮に人間を滅ぼしたところで待っているのは緩やかな消滅だけだ。
「もっとも、そこいらの妖怪は暴れたいだけなんでしょうけどねぇ」
「私も美鈴の言う通りだと思う。あいつらからは目的を達成するとかの覚悟とか意気込みを感じられない。近いうちに自然消滅とかするんじゃない?」
「むむむ・・・じゃあそれまでに何とか名を轟かせないとダメね」
「私は既に伝説ですから」
「兄さんが褒めてくれたらそれでいいの」
「少しはやる気を出してもらいたいものね・・・」
また話が脱線してきてる気が・・・。まあ本人たちは超真面目なんだろうけど。あ~もう駄目、今の内に座ったまま仮眠をとらせてもらおう。
「ヤマト、膝いい?」
「好きにしたら~?」
ごめんよフラン、僕はもう眠さで限界みたいだ。膝に座ってきたフランを後ろから抱き締めるようにして寝る。背が伸びた僕の腕の中ではフランがすっぽり入っていしまうわけで。抱き枕みたいで気持ちがいい。違うのは温かさだろうか。
「えらい面白い顔しとるなぁ。一発ギャグか?」
「目覚めの一発が吸血鬼(姉)の拳っていうのは、ギャグになるのだろうか?」
拠点の作戦会議室。定期会議のためにやって来た僕を見たケビンさんの第一声がこれだ。顔が面白いほど陥没しているのが自分でも分かる。
「…愛されてるなぁ」
「酷い愛情表現だね…」
「たぶんお前はいろいろと勘違いしてるんやろなぁ…」
「黙れケビン。ではこれより会議を始める」
円卓に宛がわれている席に座る。僕は一応紅魔館代表として参加している。参報という面倒でありがたい役職を押しつけられたからだ。僕の他にここに居るのは10人。団長・副団長・ケビンさんたち守護騎士である。それぞれが正騎士・従騎士を率いている。
「まずは悪い知らせだ。・・・伊吹。再び紅魔館が襲撃され、シルベーヌ(先生)が拉致された」
「・・・え!!??」
「悪いが事実だ。証人もいる。・・・入れ」
入ってきたのは紅魔館のメイド長。忘れている人もいるだろうから説明しておくと、いつも先生について世話をしている人?です。何時ものメイド服は所々破け、激しく争った後が見える。
「間違いありません大和様。旦那様方の善戦虚しく、奥様はあ奴らに捕まりました。貴方様方の責任です。手を出さなければこんなことには・・・」
メイド長が大和を非難し、親の仇のように睨みつける。何時もの大和なら萎縮してすぐさま頭を下げるところだが、大和にはそれとはまったく違うモノが視えていた。それを指摘しようとしたところで、再びカーネリアが口を開いた。
「次にいい知らせだが・・・奴等の本拠地が分かった。人質もそこに運び込まれたはずだ。今回の我々のフィナンシエの討伐・可能であれば人質の奪還だ。頭を潰せばやつらも潰れるだろう。数ヶ月に長引いた戦争もここでケリをつける。いや、つけねばならん状況にまで我々は追い込まれた。総力戦だ。ヨハネの連中も来るぞ。総勢2万といったところか。あちらはおよそ6万程の見込みらしいがな」
2万対6万!?会議に参加している誰もがその言葉に目を丸くしている。あの副団長でさえ苦い顔をしている。
「ちょ、ちょっと待ってや!3倍もの戦力差があるいうのに攻め込むんか!?自殺と変わらんやんけ!!」
「では義勇軍でも募るか?ケビンよ、我々は騎士なのだ。民間人を危険にはさらせん。我々だけでやらねばならんのだ。いましがた、強烈な魔力光と共に大規模魔法陣が上空で観測された。外に出れば見えるぞ?解析班によると、あれは大量殺戮ができるほどの魔力を含んでいるようだ。それこそ、欧州すべての生き物を殺せるくらいのな」
「なんやそれ・・・・絶望的やないかい・・・・・」
「以上だ。これで会議は終わりだ。別命あるまで待機していろ」
一人、また一人と席を立って行くけど、誰もが言葉を失ったままだった。見込まれる敵戦力はざっと6万。僕たちは3倍の戦力差をひっくり返し、なおかつ魔法陣の発動を止めなければならない。2万対6万の戦いなんて聞いたことがない。戦いにすらならないのではないか?
「・・・大和君らは逃げえ。わざわざ死にに行くことはない、今すぐ国に帰り」
「・・・生憎と僕らのリーダーはレミリアでね。僕はそれに着いていくだけだ」
俯いたまま動かないケビンさんを後に、僕は席を立った。
読者は着いて来れているのか!?じらいです。大陸編が終わったら色々とこの後書きで何でこんなことしたかとか言えたらいいですねぇ。迷った挙句に書いています。別にキリシマ倒して幻想郷行ってもよかったんですけどね、好きにやらして貰ってます。もうちょい付き合ってやってください