状況は刻一刻と変わる
あなたの正義って何ですか
~紅魔館門前~
夜も明け、太陽が真上に上がってきたころ、僕たちは紅魔館の門前に帰ってきた。ケガをした二人を担いでいる僕らを美鈴が見つけ、治療の手配をしてくれている。間もなく受け入れ準備が整うところだろう。
「ワイは報告があるから一度本部に帰るわ。・・・気ぃつけえや大和君、何か嫌な予感がする」
「大丈夫。とりあえず紅魔館で二人の治療をするよ。ここなら何でも揃ってるから」
「わかった。それじゃあな」
そう言ってケビンさんは駆けて行った。ケビンさんの言いたいことは分かっている。あの男が何かを企んでいると言いたいのだろう。僕も気味が悪い。能力で見れればいいんだけど、未だに使いこなせていないからか、ピンポイントで見たい未来を視ることはできない。
「大和さん!二人の治療の準備が出来ました!!」
「分かったすぐ連れて行く!」
焦りを隠せていない美鈴が後ろに二人の吸血鬼を連れて帰ってきた。アキナとパチュリーの二人はケビンさんの術で応急処置をされ、今は眠らされている。さあ運ぼうかと思い、二人を何とか抱きあげる。あ、柔らかい・・・
「痛っ!?」
「大和!さっさと運ぶ!!」
「運べ~!」
「はいはい、お嬢様方の言うとおりに」
怪我人がいると聞いて飛び起きたのだろう、私達寝起きですと言わんばかりの寝ぐせをつけたままのお嬢様方がやって来て、僕の脛を蹴りあげた。別に役得だと思うくらいいいじゃないかYO
「「あ゛あ゛ん!?」」
「直ぐに運ばせて貰います!!」
「アキナちゃんのケガが酷いわね・・・。完治には時間がかかりそう」
紅魔館の一室、臨時に病室として使われている部屋に置かれているベッドに寝かされた二人を、シルフィーユさん(先生)は診察していた。
「先生、二人は助かりますよね・・・?」
「安心しなさい。アキナちゃんもパチュリーちゃんも私がしっかりと治してあげるから」
ベッドで死んだように眠っている二人を見て、本当に間に合って良かったと思う。もしあの時僕らが少しでも遅れていたかと思うと・・・
「ありがとうございます」
口惜しいけど、二人を先生に診せたところで僕の出来ることは終わりだ。・・・アレ?安心したら眠く・・・
「今日はもう寝なさい。大丈夫、娘たちにも邪魔しないように言っておくわ」
「スイマセンお願いします」
あ~もう限界。いい機会だから思いっきり寝かせてもらおう。
ト・・・・・・・・て
マト・・・・・・・・・・・・・きて
「ヤマト起きて!!!!」
「はい起きてますとも!!・・・・・・・あれ?何してるのフラン?」
もう夜なのか?部屋の窓からは月光が入ってきている。邪魔はさせないと言ってはいたけど、仕事の時間になったから起こしに来たのかな?でもねぇ、何も起こすのに僕の頭を叩かないでもいいと思うんですよ。そうすれば寝起きに頭がフラフラすることもないと思うから。・・・・・・・フランだけに。
「寝ぼけてる場合じゃないの!!襲撃よ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「だから襲撃よ!!紅魔館が襲撃されてるの!!!!」
「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」
吸血鬼の根城に!?僕と美鈴みたいな馬鹿が来たって言うのか!?紫の魔法使いみたく挨拶して紅茶飲みに来たんじゃないの!?
「とにかく!美鈴とクラウス、お父様が迎撃してるけど数が多すぎるの!!ヤマトも手伝って!!」
いったいどこの誰が来たんだ!?妖怪廃絶の一派なのか!?数は!?戦力は!?戦略は!?レミリアたちはどうする!?動けないアキナ、パチュリーはどうなる!?
最悪の状況を考えてしまい、思考の波に呑まれてしまって動けなくなった。そんな僕の脳天を再びキツイ一撃が襲った。
「しっかりして!ヤマトがこうやっている内にも家族が危険に晒されているんだよ!!ヤマトも紅魔館の一員であるなら、出来ることをやって!!それでも私と姉の執事なの!?」
「フランドール・・・・・・?」
僕の服の襟を両手で掴み、激しく僕をゆすり、声を張り上げた。かつてない程の真剣なフランドールを目にした僕は固まってしまった。
「・・・大丈夫だよヤマト。みんな頑張ってるの。絶対なんとかなるってお姉様が言ってたの。運命を操れるお姉様が言うんだもの、きっと大丈夫だよ」
そう言って何時も通りに戻ったフランドールを見て、僕は自分の頭が急激に冷えていくのがわかった。
………………はぁ、やっぱり僕って駄目だなぁ。こんなにも震えている小さな女の子に言われるまで分からないなんて。しかも子守りしていた子にこんなに言われるなんて思ってもみなかった。お兄さんちょっとショック。知らない間にかフランもレミリアも大きくなっていくんだね・・・。親ってのは、こういう気持ちになるんだろうか?
「わかりましたフランドール様。伊吹大和、才無き身ではありますが、この身を賭してお二人をお守りいたします」
片膝をつき、騎士のマネごとのように誓う。僕はまだ魔法使いには成れていない。そしてこの闘いは、守るための闘いだ。約束は守らなければならない。なぜなら鬼は約束を守らない者が嫌いだから。だから僕は死ねない。生きて帰ると母さんにそう誓ったから。
「それでいいんだよ♪」
花が咲いたかのような笑顔を浮かべるフランドール。現金な子になっちゃったなぁ。育て方間違ったかな?
そんなことを考えている暇もない。急ぎ部屋を飛び出して長い廊下を飛んでいく。
「それにしても」
隣を飛ぶフランを見て、ふと思った。
「なに?」
「フランって、あんな一面もあったんだね」
「もう、恥ずかしいから言わないでよ・・・」
帽子を両手で押さえ、少しでも照れた顔を見せないようにしている様を見ると、やはりまだ幼いのだと感じさせる。
「誰かに習ったの?レミリアとか?それともアルフォード?」
「・・・ケビンだよ。こう、カワイイのとシリアスのギャップがイイんだって」
・・・間違ったのは僕の友人を選ぶ程度の能力だったわけだ。
「執事長!敵の数が多すぎます、このままでは!!」
「吠えるな門番!!吠えるくらいなら一匹でも数を減らせ!!」
「そうは言ってもこの数相手じゃ・・・!」
「俺達に後退の二文字は無い。覚悟を決めろ紅美鈴」
倒しても倒しても次々と押し寄せる妖怪の群れ。先の見えない闇の中で私は必死に闘い続けていた。今はアルフォード様も私達と一緒に前線で闘っている。私と執事長は下がって支援してくれればいいと言ったのだけど、この人は大和さん並に融通の利かない人だ。本人が一度決めたことは決して変えやしない。門番としてはいい迷惑だけど、個人としては好ましい人だ。そしてこの吸血鬼、やはり闘いに向いている。本人は嫌だ嫌だと言っているが、一分一秒ごとに動きのキレが増している。大和さんとは馬が合わないはずだ。
「遅くなりました!!」
その声と共に一筋の太い魔砲が戦場を横切った。ようやく登場ですか。それにしても開幕マスパとは、大和さんも中々派手好きですねぇ。今の一撃はあちら側に中々の恐怖心を抱かせたみたいですよ?それなり以上の数が吹き飛びましたからね。・・・それでもまだまだ湧いてきてますが。
「同志諸君、しばらくそこで待っていたまえ。ここからは我々が相手をする」
群れの中から一人の妖怪が出てくる。・・・あの妖怪、強い。それも底が見えない程に。そして背中にあるその翼、何処かで見たような・・・?
「・・・フィナンシエ・・・なのか・・・?」
「久しぶりだな兄よ。こんな形で再開するとは思ってもみなかったが」
フィナンシエ・・・?弟のフィナンシエ・スカーレット!?何故彼がここを襲う必要がある!?実の兄が住んでいるというのに!
その後ろから20人の上級妖怪が出てきた。・・・マズイ、非常にマズイ。私と大和さん、主従コンビだけじゃここを防ぎきれない・・・!
「大和さん、今すぐお嬢様方に紅魔館を脱出してもらうように言ってきてください」
「・・・もう言ってあるよ。怪我人も含めて脱出の準備を始めているはずだ。あとトイレ行ってきていい?」
「ダメですよ、そのまま帰ってこれなくなるんですから。それにそんなことを言う余裕があれば十分です」
こんなときにも冗談を言えるとは頼りになりますねぇ。おそらく本人は本心から「逃げていい?」とか思っているのでしょうけど。しかし流石は大和さん、脱出を既に促しているとは。・・・案外軍師とかに向いているのかも。
「では兄よ、久しぶりにやり合おうか。同志諸君は他の三人を頼む」
「来るぞ!!」
兄弟が戦闘に入ると同時に、私と執事長に7人、大和さんに6人が一斉に襲いかかった。四方八方から迫る弾幕、突きに蹴り。どれもが一級品。多少のダメージは覚悟して攻撃しないと、何もできないままに終わってしまう。私でもこれほど追い詰められているのだ。このままじゃ大和さんと執事長が危ない。そう思っていたが、私は驚くべき光景を目にした。
「老いぼれが!さっさと逝っちまえ!!」
「おやおや、お若い方は元気でいらっしゃいますなぁ。ならば私もそれなりのオモテナシをせねばなりませぬ。例えば・・・・咽喉を食いちぎるとかなあ!!!!」
自身の骨格すら大きく変貌させ、巨大な狼となった執事長がそこにはいた。狼男だということは聞いてましたけど、あれじゃあ神話クラスのバケモノじゃないですか!?
「この紅魔館の敷居を跨いで、生きて帰れると思うなよ若造!!」
そして一番心配な大和さん。あのイクシードとか言う不思議魔道機関があってようやく上級と闘えると私は思っていたけれど、どうやらそれは間違っていたようだ。
未来を視て、加速を使った上に制空圏を用いて敵を絶対に近づけさせないようにしている。騎士団での任務で実戦経験が豊富だったからか、闘い方が前よりだいぶ上手になっている。だけどあの闘い方では勝てない。勝てはしないけど、負けもしない。そんな闘い方をしている。おそらく本人はお嬢様方が脱出するまで時間稼ぎをするつもりなのだろう。その後で自分がどうなろうとも、未来より今に全力を注いでいる。
「私も負けていられない・・・!!」
龍人の力を解放し、全身を虹色の気が包み込む。さあ掛ってこい、伝説とまで言われた龍の末裔の力を見せてやる!
「人間の餓鬼が、澄ました顔しやがって!!」
「このガキ、いい加減に!!」
「その餓鬼一匹仕留められないで上級?笑わせる。生まれ直したら?」
闘っていると何故か言葉遣いが悪くなる。僕の悪い癖・・・なのかな。
どうやら今の僕は少しオカシイみたいだ。そんなことを考えられるほど余裕があり、すごく闘いやすい。今の僕、すごくのってる。360度、まるで誰かが教えてくれているかのように周りが手に取るようにわかる。何か、何かが掴めそうなんだ。この先にある何かを・・・。
あと少しで何かを掴めそうだったけど、突然の一言で僕は現実に引き戻された。
「紅魔館から誰か逃げ出したぞ!!」
「!?」
レミリアたちの脱出がバレた!?クソ!今のレミリア達は怪我人を運んでいる最中で戦闘なんか出来る状態じゃない。どうにかしてこの囲いを突破しないと・・・!
「おっと、行かせないぜ」
「ッツ!どけッ!!」
手元にイクシードがないことが悔やまれる。アレさえあればこの囲いを突破することもできただろう。だけども今の僕にはその囲いを突破することが出来ず、今まで見ているだけだった妖怪たちが追いかけるのを見ていることしか出来なかった。レミリアたちは怪我人を運んでいるせいで速度が出ないのだろう、直ぐに追いつかれていた。振り下ろされる爪を前に、僕はどうしようもなく無力だった。
―――――――――――――そんなお前に空の一矢をプレゼント―――――――――――――――
闇夜を貫く一本の聖槍。その槍はレミリアたちに襲いかかった妖怪を全て消し飛ばした。
ああ、どうやら駆けつけてくれたみたいだ。本当に、本当に君は頼りになる人だよ
「聖堂騎士団、抜刀と同時に散開!友軍を援護する!各員、命を惜しむなよ!!」
妖怪の大群の進行を確認した。夜中まで執務室でケビンの報告書を見ていた私、ヴリアントにその一報が届いた。
届けたのはケビン・フォレスト。妖怪の進行方向には紅魔館がある、居ても経ってもいられない。一人でも救援に行くと言う彼を引き留め、準備をすませた私と彼は騎士団を率いて教会を出た。妖怪を守るために妖怪を討伐する。あまりにもふざけた話故に報告は事後にする。一応カーネリアを置いてきたので大丈夫なはずだ。彼女も現場に行きたがっていたが、それでは教皇に言い訳をする人物がいなくなる。もっとも我慢弱い彼女のことだ、直ぐにでも現場にくるだろう。だが、
「それまでに終わらせてもらう!!」
怪我人を連れた少女たちと入れ違いになるように私は戦場に入る。愛剣も久しぶりの実戦を待ち望んでいたのだろう、鈍い輝きをもって私に応えてくれた。フッ、この戦、負けることなど在りはしない!!
「ふむ、ここまでだな。今回は引かせてもらう」
聖堂騎士団が援軍として加わり、戦況が僕らに傾いたのを察してか襲撃の首謀者は妖怪たちに撤退の意を伝えた。
「待てフィナンシエ!何故俺達を襲う!?」
アルフォードが声を張り上げてフィナンシエ・スカーレットに問う。
「兄よ、私は今のこの世界を憂いているのだ。我々は人間を滅ぼすぞ。妖怪を廃絶し、自分たちの事しか考えていない人類は粛清されねばならん。兄は私の考えが理解できないだろう。だからこれは警告だ。邪魔をしないのであれば手を出しはしない。そこで何もせずに見ているがいい」
言いたいことだけ言って彼らは引いていった。いったい何が起ころうとしているのだろうか。二人の会話を前に何も出来ずに呆然としていた僕には、ただ黙って見ていることしかできなかった。
大陸編終わりまであと何話?たぶん5話くらいと踏んでいるじらいです。
役者は全て揃いました。これからの話に出てくる人物は基本的に自己中心的です。人によって違う考えがあると言うべきなのかな?ただ、誰もが自分の正義を持っています。
話は変わりますけど、いいサッカーでしたね。あのように勇気を与えられる人たちは改めてスゴイな、と思いました。