始まりの都
少し考えている事があります。詳しくは後書きで
長い旅を終え、僕達は大陸の西で最も大きい都にやってきた。
一緒に旅をしてきた商隊のみんなは足早に市場の責任者へと挨拶に行ったみたいだ。
僕と美鈴の契約内容は都に着くまでの護衛であったので、都に着くなり隊長から暇を出されたわけで。
中には専属の護衛として雇うと言った人もいたが、丁重にお断りして諦めてもらった。
そんな一悶着もあったのだが、今は飯屋で貰ったお金をこちらで使えるお金に変換してもらい、
そのお金で西側の食事を堪能しているところである。で、あるのだが・・・
「なーんか視線を感じるんだけど」
フォークとスプーンを持ち、スパゲティと呼ばれる麺料理をつつきながら呟く。
「私たちの格好って此処の人達とは全然違いますからね」
そんな僕の呟きにも律義に返してくれる美鈴。食べるのはいいけど、もうちょっと落ち着こう。
美鈴の言うことも一理あるだろうけどね。美鈴も僕の服装もここで食事している人からはだいぶ浮いているし。ほぼ全ての視線は好奇心と見ていいだろう。
「監視されてる・・・?」
「・・・・」
微かにだけど、好奇心による観察ではなく、敵意のようなモノを感じる。
僕がそう呟くと、美鈴はそっとフォークを置き、目を閉じて俯く。
そして顔を上げた美鈴の顔にいつものような笑顔はなかった。そして僕に向かってこう言った。
「このスパゲッティって、すごく美味しくないですか!?」
「うん!ラーメンと違ってまた別の味がなんとも・・・って違うわ!!
なんか視線感じませんか!?なんでそんな暢気なの!?シリアスぶった僕が馬鹿なの!?ねえ僕がおかしいの!?」
僕が変なのかー!?
頭を抱えて立ち上がる。すると周りで食事をしていた人達は一度こちらを見やり、それぞれのテーブルでヒソヒソと話を始めた。
「大和さん、東側の恥さらしになる前に座ってください」
誰のせいだ、誰の!
思うところはあるけどずっと立っているわけにはいかない。座って残っている料理を再び食べ始める。
「あの服装、東の人間よね?」「野蛮ねぇ、こんな所で騒ぐなんて」「見てよあのみすぼらしい服装」
聞こえない。僕には何も聞こえてませんよ。お金がないから着のみ着のままなことを気にしてるなんてことはまったくありません。だから目の前でスパゲッティを吹き出しそうなほど笑いを堪えている美鈴を気にすることは・・・
「ふん!」
「痛い!?」
思いっきりつま先を踏んでやった。悪いとは思うけど、謝らないから!
「イタタ、酷いですよ大和さん。・・・まあ、酷いのは大和さんだけじゃありませんけどね」
「じゃあ・・・?」
今までのようなふざけた空気は消え去り、今度こそ僕らの間には緊張した空気が張り詰めてきた。
「見られてますね。複数の視線を感じます」
「やっぱり」
「でも心配する必要はないでしょう。こちらが気づける程度と考えれば楽ですよ。
・・・大和さん、私から何か『視え』ますか?」
「特には何も。ただ、広い建物の中にいるね」
先を視ることはできるけど完璧ではない。アキナなら可能かもしれないけど、まだまだ未熟な僕にはそんな芸当はできないので断片的なことしか解らない。
「とにかく、何か動きがあるまで私たちにできることはないでしょう」
そう言ってまた料理を口に運ぶ美鈴。こういった対応は潜り抜けた修羅場の違いなのだろうか。
こういう経験が多いであろう美鈴の対応は僕にとっても学ぶべきことが多い。
「すいませーん。このマルゲリータという物くださーい」
・・・こういう部分も見習ったほうがいいんだろうか?
「おーいそこのお二人さん。そうそうあんたらや、ちょっとお話聞きたいんやけどええか?」
お店を出ると一人の男の人に声を掛けられた。
振り返るとキラキラと光る純白の服に胸には十字架のネックレスを着けた背の高い青年がいた。
「貴方が私たちを見ていたんですか?」
単刀直入に美鈴はそう質問した。店で料理を食べていた時からあった視線が一段と強くなるってくるが、そんなことを気にしていても仕方がない。それにこういう対応は美鈴に任せる方がいだろう。僕も出来ないことはないのだけど、こんなナリをしているから相手にされないことが多いから。
「あれま、バレとったんかい。すまんなぁ、ワイもこれが仕事やから堪忍してくれや。
大事の前のイレギュラーやから気ぃ張り詰めとんのや」
悪い悪い、と笑いながら答える相手に僕も美鈴も毒気を抜かれてしまった。
見た感じは悪い人ではないようだ。なんだよ、心配して損したじゃないか。
でも人を監視する仕事っていうのは如何なものかと思うんだけど、その辺はどうなのか?
「そうなんですか。よければ私たちが監視された理由を聞かせてもらえますか?」
「ん?ええよ、迷惑かけたみたいやし。けどその前に自己紹介といこうや。
ワイの名前はケビン・フォレスト。聖堂騎士団の新米騎士や」
「紅美鈴です」「僕は伊吹大和って言います」
「美鈴ちゃんに大和君やね。よろしゅう」
そういって僕達は握手をした。ケビンさんの手は堅く、何かしらの武術をしている感じを受けた。だけどそれは無手ではなく、何かの武器を使うような手だった。
「じゃあ早速本題に入ろか。
ワイは今、ある妖怪を狩るっちゅう任務中なんよ。
今までもその妖怪を狩ってやるっちゅう勇気と腕のある妖怪退治屋がおったんやけど、意気込んだ連中 は全員死体も返ってこんかった。それなら別に騎士団も動かんかったんやけど、今になって一般人がそ いつに襲われる事件が多発したんや。
事態を重く見た騎士団はその妖怪の退治を決めたっちゅう話。
でもこれが簡単な話やなくてな、騎士団は今別の任務に多くの団員が割かれてるんよ。暇やったのが新 米の俺ぐらいやって、それを俺にヤレっちゅうんや。こりゃ無理やわ、と思ったワイは腕利きの退治屋を大勢雇ったってわけ。
んで任務前の大事な時に君らみたいな強い力をもった人物がやって来た。
しかも一人は妖怪。やから大事になる前に探りを入れようって今に至るわけ。OK?」
「・・・あー、つまり、僕達って疑われてるわけだよね?その妖怪の仲間かどうか」
そりゃ神経質にもなるよ。腕利きの退治屋がやられるほどの妖怪に増援だなんて悪夢でしかないし。
「でも君らは仲間じゃないみたいやし、すまん事した思ってる。悪かった」
そう言って頭を下げるケビンさんを通行人は驚いた表情で見ている。あの聖堂騎士団の団員が頭を下げている!?と騒ぐ人も大勢いる。何これ!?もしかしてヤバイ状況なわけ!?
「ちょっ、ケビンさん頭上げて下さい。私たちはただ用事があって来ただけですから!
そんな状況なら疑われたって仕方ないじゃないですか!だから貴方に非はないですって!」
「そうですよ!ただ僕らの来るタイミングが悪かっただけですって!頭を上げてください」
必死に宥めて頭を上げてもらう。通りの人の印象からして聖堂騎士団ってすごくお偉いさんっぽいし、そんな人に頭下げられても後の迷惑しか浮かばないって!
「いや、ホンマ悪いと思ってるよ?・・・んで、お二人さんはここに何の用や?」
ヘラヘラと笑うケビンさんだけど、どうもこれがこの人のスタイルみたいだ。それにこんなのでも嫌いになれそうもないんだから驚きだよ、まったく。
「それは僕から。簡潔に言うと、僕魔法使い目指してます」
「なるほどねぇ、確かに西には魔法使い多いしなぁ。せや!ワイの依頼受けて貰えへんやろか!?」
「それって討伐の話ですよね?でもなんで?」
美鈴がそう尋ねるけど、正にその通りだと思う。大勢雇ったのなら、僕らは別に要らないんじゃないかな?
「恥ずかしい話なんやけど、そんなに腕のええ奴は集まらんかったんよ。
有名所にも声は掛けたんやけど断られてしもて。
しかも理由が『お前のような名前も売れていない団員の下には着かん!』なんて言って。
やから集まったのは金や名声欲しさに集まった弱い奴らばっか。やから君らみたいな強い仲間が欲しいんよ」
そうは言っても、僕も命は惜しいし。退治屋が逆に退治してしまう妖怪相手に僕が何処まで闘えるか。
それに正直背中を預けられないような人とは一緒には戦いたくないって言いますか・・・。
それにケビンさんって強いのかなぁ?確かに霊力や魔力・・・のような力は大きいみたいだけど、それほど強いようには見えない。それに新米騎士って言うくらいだから、駆け出しだろうし・・・
「もちろん報酬の用意できるで。依頼を受けてもらえたら君が魔法使いになるために最大限の協力をさせて もらうつもりや。ああ、別報酬として金銭も十分用意するで」
「よーし美鈴、頑張っちゃおうか!!」
仕方ないなぁ、そこまで言われたらやるしかないでしょ!?そうだよね、美鈴!
「・・・はぁ、言うと思いましたよ。まあ私も付き合いますけどね」
やれやれ弟を持つ姉は辛いですねぇ、なんてお姉さんぶっている相棒に今は感謝するよ。美鈴が隣で戦ってくれている間は僕は負ける気が全くしないから。
「それで、その妖怪って何の妖怪なんですか?」
何でも掛かって来い!!そう意気込んで僕はケビンさんにそう尋ねた。
するとケビンさんはニヤリと笑い、
「ターゲットは二匹。アルフォード・スカーレットとシルフィーユ・スカーレット。
悪名高い紅魔館の現頭首であり、吸血鬼さ」
隣で驚愕する美鈴を余所に、まだ何も理解していない僕は首を傾げていた。
遅くなりました、じらいです。
これからの話の展開で少し悩んでいます。なので皆さんの意見を参考にしようと思っています。大陸編ではオリキャラが多くなる予定です。話数も増えるし、もはや東方関係なくない?とまではいきませんが、それなりの事になりそうです。内容としては、騎士団との共闘を入れるか入れないかです。もちろん美鈴などの原作キャラも活躍します。何か意見があれば一言お願いします。