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東方伊吹伝  作者: 大根
第一章:夢への旅立ち
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友人二人

2012/12/2改訂

「よっ、よし! じゃあこの魔道書を読んでみようか」


 紫さんが帰って行くのを見送ってから、少しの緊張と期待を胸に魔道書を開いた。

 何せ始めての魔道書だ、どんな仕掛けがあるのか気になってならない。いきなり燃え出したり、水とか出たりするかもしれないからね。

 慎重に慎重を重ねよう。

 いったい、何が書かれているのだろう――――――




 暫くの間、川のせせらぎを聞きながらの読書に励んだ。

 少し長く没頭したせいで凝り固まった身体を解すべくポキポキと鳴らしながら伸びをしてみると、頭上に太陽の姿が見えた。


「もうお昼、お腹が減るわけだね」


 集中しすぎて昼飯のことも忘れていたみたいだ。

 良かった。もし今日のお昼を母さんと一緒にとることになってたら、今頃大騒ぎで探されてるところだ。母さんは心配性だから、少しでも遅れると心配になって山狩りを始めるから。

 幸い昨晩の焼きキノコを持って来てるし、これを頬張ることにしよう。


「……美味しくない」


 やっぱり一晩経てば味は堕ちるね。昨日は焼いのに瑞々しかったけど、今はただのカスカス乾燥キノコになってる。おまけに堅い。

 魚でも獲ろうかな? なんて思いながらも、キノコを頬張って本を読む。

 集中して読んだおかげで、魔道書に書いてある内容はだいたい把握した。

 理解じゃないよ? 理解なんて出来てないし、実際に使うことも出来ない。けどとりあえず、載っている内容は把握した。


 紫さんの持ってきた魔道書には、基本的な魔力の使用とその応用が載っていた。

 以前、紫さんは魔力を体にまとって格闘する魔法使いは珍しいと言っていた。身体強化しか使えない僕は格闘しか出来ないんだけど、それはただ未熟なだけで数に入れない。それに正式な魔法使いじゃないし。

 でもこの本にはその方法が詳しく載っている。たぶん、僕に合うものを探してくれたんだと思う。こういうところは凄く気の利くいい人なのになぁ……。普段から悪戯を止めてくれればいいのに。


 あとは魔力で編んだ糸を使った戦闘方法。極めればとんでもない切れ味が出るって書いてあった。

 載っているのはこの二つ。特に魔力糸のことが詳しく書かれていて、やることが多い。次の満月までじゃ絶対に間に合わない。

 いや、使うだけならどうにかする自信はあるけど……。本当に使うだけになりそう。


 まあ考えてても仕様がない。とりあえず修行を――――

「あやや、大和さんじゃありませんか。こんなところで何をしているんですか?」

 ――――始めさせて欲しかったなぁ…。



   ◇



 今日も元気だ下っ端は辛い!


 "妖怪の山に侵入者あり" との報告を受けた私、鴉天狗の射命丸文は上司の命令でその場に急行させられることとなった。


 ケッ、人使いがあらいことで。自分で動こうしないから腹がでるのよ。


 最近腹が出始めた上司の天狗になら、こんな舐めた口を聞いていただろうけど、今回はこの山の最大勢力である鬼の命令だった。何時ものように煙に巻いて断ることは出来ないし、断れば私の命が危うい。

 いや、本当に。何せ私は、妖怪にすれば生まれたばかりの下っ端天狗。私に命令した鬼様にしてみれば、転がっている石ころより少し有用な天狗ほどの認識でしかない。実際に歯向かえば、たぶん片腕で首と胴がお別れをすると思う。

 まあ、それはいい。今回、私が上司の天狗ではなく、鬼から命令を受けたのには理由がある……わけでもない。ただ単に、彼ら鬼と切っても切れない深~い関係を持つ人の友人であるせいか、顔や名前もそれなり以上に広まっている。

 だからこうして面白半分のお使い感覚で命令されるのだ。


「ほんと、世知辛い世の中ね」


 切実にそう思う。鬼に憶えられるなんて、我の強い私でも泣いて逃げたくなるもの。

 別に友人がどうのこうのと言うわけじゃないけど、愚痴の一つや二つくらいなら別にいいじゃない。

 そう呟きながら空を飛ぶ。

 やっぱり空は気持ちが良い。ここなら何人たりとも私の領域を侵すことはできない。

 そんな私、実は飛ぶ速さなら鬼も超える自信がある。

 鬼の集会所から現場の沢までだって、五秒と掛からないだろう。だからこそ思う。

 私がそれくらいで行けるんだから自分たちで行けよ、ってね。

 鬼達だって決して遅くないし、酒が回っているくせに並の天狗より早い。別に私じゃなくてもいいじゃない。鬼に声掛けられるだけでも心臓破裂しそうなほど緊張するんだもの、正直勘弁して貰いたい。

 ま、あの人の友人をやってる限り、こればっかりはどう言っても仕方がないことなんだけどねぇ。人生楽しいこともあるって言うけど、当分の間が辛いことばかりだってこともあるわ。


「鬼の集落に近い沢にいる者なんて、一人しかいないじゃないの。ねえ? 大和」


 思った通り、私の友人が本を片手に見つめてきた。



   ◇



「大和さん、ここに誰かいませんでした?」


 ――――さあ稽古だ!

 と意気込んでいた僕の出鼻を挫く形で現れた射命丸がそう聞いてきた。

 その顔はニコニコと微笑んでいるけど、長い付き合いの僕には解る。あの顔は『私、ここに遣わされたことが不満です』 と言っている。会った時は何時も上司さんの愚痴を漏らす射命丸だ、今回も其れなんだろう。

 そして紫さん、貴方はまたいつも通りの不法侵入だったわけですね。


「紫さんが来てたんだよ。帰ったからもういないけど」


 とりあえず事の次第を話そうと思ったけど、何をどう話せばいいか上手く纏められなかったから魔道書片手にそう言っておいた。

 何時も通り、とあるように、紫さんは神出鬼没だ。急に来たと思ったら、知らない内に帰ってしまっている事も多い。だから哨戒が任務の天狗の人達にとって、紫さんはとても厄介で面倒な妖怪だという認識で広まっている。面倒だから放っておこうと考える人もいるとかなんとか。


「はぁ、またあの人ですか。まったく仕方ない人ですね」


 言うに漏れず、射命丸もその一人みたい。

 やれやれ、と腰に手を当てて溜息を吐いているのだから、そうなんだと思う。

 その射命丸も、何時もは哨戒任務に当たっているわけじゃないらしい。けど普段から哨戒任務に携わっている白狼天狗の手に負えないことや、何かしらの面倒事があれば御鉢が回って来るって聞いてる。

 本人曰く閑職。僕には閑職が何なのか解らないし、どういう経緯でそうなったのかは知らないけどそう言うものらしい。天狗にも色々あるみたい。


「にとり、貴女も隠れてないで出てきたらどうなの?」

「へ?」

「ははぁ、ばれてたか」

「うぉわっ!? にとり、居たの!?」


 川の中から勢いよく飛び出してきた河童、河城にとり。

 緑のりゅっくさっくなんて名前の袋に、青い帽子、青い服を着た自称"えんじにあ"。

 見たこともない珍しい玩具を扱う女の子で、僕の友人だ。


「いやぁ、大和が何やら考えこんでて話掛けようと近寄ったらあの八雲紫が現れてね。ちょいと隠れてたのさ」


 たぶん紫さんは気づいてたんだろうなぁ、と言わないのは優しさのつもり。紫さんのことだから、きっと知ってて放っておいたんだと思う。ニヤつきながら。目も付けられたかも。

 なんて言ったら、にとりは気絶しちゃうかも。少し内気だし、驚かせたら泣いちゃうかもしれないから。


「大和さんに何かあって、それを見過ごしたとなれば討ち首じゃ済まないわよ? ……ところで大和さん、その本はなんですか?」

「魔道書なんだ。さっき紫さんにもらったばかりなんだ」

「「えぇ!?」」


 手に持った魔道書を指で指されたので答えてみると、大声を上げて驚かれてしまった。

 うん、理由はなんとなく解る。でも間違ってたら紫さんに失礼だし、一応答えを聞いておくべきだと頭の悪い僕は愚考します。


「おかしいところでもあった?」

「大ありだよ大和。あの八雲紫だよ? 何を考えているか解らない相手から滅多なモノ貰うんじゃないよ」

「そうですよ。絶対裏がありますって!」


 誠に残念ですが、僕が考えていた通りの答えですよ紫さん! でも別に2人が特別キツイわけじゃないですよ? 紫さんの普段の行動がアレだからしかたないだけなんです!

 そしてにとり、滅多なモノを創って僕で試そうとする君が言う言葉じゃないです。魔力増強腰巻での爆破は未だに根に持ってるよ……?


「僕もさっき考えた。でも今度母さんが決闘するから、その力になればと思って持ってきたみたいなんだけど…」

「「は? ――――はぁ!?」」


 二人からもう一回驚きの声が上がった。

 ええい、2人が驚くよりも僕自身が一番驚いているさ! 何でこんなことになったんだって、僕だって少し前の自分に聞いてみたいよ。何で母さんと喧嘩することになったの!? って。

 でもこれが変えようもなく引きようもない事実なんだから仕方がない。現実を受け入れて勝つ! それしかないんだ!


「あんた、あの伊吹萃香とガチンコするつもりなの!?」

「いやぁ、勢いでそうなっちゃった」

「大和さん死んじゃいますよ。それはもう、ぎったんぎったんにされるに決まってます」

「はっきり言われなくても解ってるやい! でも『夢』 の為には負けられない闘いなんだ。今からじゃ間に合うか分からないけど、それでも諦められないからこの本に書かれていることを少しでも習得ようとしてたとこなんだ」


 そう言っても、2人は呆れて声もでないみたい。

 それも仕方がないけどね……。何せ相手はあの伊吹萃香、妖怪の山の最大勢力。しかも鬼の中でも最も強い四天王の一人と闘うというのだ。二人にすれば自殺行為としか見えないのだろう。


 ――――あれ? それを二人が自殺行為と言うのなら僕はどうなるのだろう? ……死?


「貴方は本当に、何時だって私を驚かしてくれますよね…」

「拙いまず――――射命丸? 何か言った?」


 少し俯き加減で射命丸が何か言ったようだけど、上手く聞き取れなかった。

 反対に、隣に居たにとりには聞こえていたようで、肘で射命丸と突いてからかって? いる。


「私が助けてあげるって言ったんですよ、大和さん」


 そんなにとりを脇で固める射命丸が、少し顔を紅くしながら嬉しいことを言ってくれた。

 聞き間違えじゃなければ、どうやら手伝ってくれるらしい。

 にとり大丈夫? 首締まってるみたいだけど。


「それって、稽古を?」

「他に何があるんですか」

「わたしも、わたしも! わたしも手伝うよ!」

「にとりも!?」


 ハイハイッ! と腕を伸ばしながら自己主張をするにとり。

 でもにとりって玩具弄り以外に何が出来るんだろう? 実際に戦っているとこ見たことないし、どれだけ強いのかも分からない。何より、にとりが闘う姿が一番想像出来ないんだけど。


「私が稽古をつけるんだから、絶対に勝ってもらうわよ。いいわね、大和」

「あ」


 これもまた嬉しい単語が聞こえてきた。ちょっと前までは呼び捨てにされていたけど、何故かある日を境に"さん" 付けに変わっていた射命丸の口調。

 僕としては、やっぱり"大和" って呼んで貰えるほうが嬉しい。

 だから自然と笑顔が浮かんで来る。


「……なに?」

「射命丸に呼び捨てされるのと、普通に話されるのが何だか懐かしくて」

「はは、大和も一応鬼の一味だからね。文もこれで気を遣ってたんだよ」

「仕事中は今まで通りに話すわ。私のことも文でいいから」

「わかった。文、にとりもよろしくね」

「任せなさい!」


 あはは、久しぶりに三人が揃った。今日からは今まで以上に楽しくて波乱な日々になりそう。






「ところで、決闘の日は何時なんだい?」

「次の満月」

「はぁ、大丈夫かしら」


 苦しさの方が多いかもしれない…






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