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東方伊吹伝  作者: 大根
第三章:永遠の蓬莱島
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超番外 蓬莱島で輝夜と


アキナ達、つまり月部隊を退けた翌日。蓬莱島では月部隊に勝利したという名目での宴会が開かれていた。とはいっても元々四人しかいないこの蓬莱島では宴会と呼べるほどの規模ではないのかもしれないが、それでも心から湧き出る喜びの気持ちは宴会のそれであった。



「大和君、今日は無礼講だ。心ゆくまで私の酒を飲みたまえ。浴びるほど飲んでも今日は誰も文句は言わない」


それは嬉しいですね! 母さんや姉さん、鬼の皆はすごい酒豪だから僕もお酒を飲む機会というのは多かったんですよ! 僕自身はそんなに強い方じゃないから母さんたちの宴会には最後までついて行けないけど、お酒を飲んだ時のあの高揚感は最高ですからね!!


「ほら大和、注いであげるからお猪口出しなさい」

「ありがとう輝夜。ほら、おかえし」

「どうも」


輝夜も何時も着ている服ではなく、都で着ていたと言うかぐや姫の衣装に身を包んでいた。なんでも、宴会なんだからそれに相応しい衣装じゃなければ駄目、だとか言ってたけど、別に他人の目はないから別にいいんじゃないかなぁ……とは心で思うだけに留めておいた。藪蛇はご免だ。


「んっ…んっん、……ふぅ」

「いやぁ、いい飲みっぷりですね輝夜姫」

「自棄にもなるわよまったく……(いったい誰のためにおめかししたと思ってんのよ」

「ん? どうかしたの?」


師父のお酒美味しいー。味なんて解らないけど、とりあえず美味しいーて言っておこう。無礼講での宴会で楽しめない人がいたとなっては鬼の名が廃るってもんだからね! そうだ、これは何か僕が一芸を見せるしかないね!


「永琳……私、挫けそう」

「がんばりなさい。どうもその辺りの調整も出来てなかったみたいだから」

「一番大和! 笛吹きます!!」


ピーロロロ~ピ~ロロロ~。心の赴くままに笛を吹く。僕は未だに笛吹けないから適当に笛を吹く~。宴会だから誰も文句も言わないだろうしね~。(☜既に酔ってます


「ちょっと!? その無駄に頭に響く笛止めなさいよ!」

「えぇ~~~!!何でぇ!?」

「大和君。君は笛と言うモノを舐めているのか? たしかに音楽に心が必要だ。だがな、それにはある程度の腕が必要であってだな……」


あっはっは! 師父、それ岩ですよ! 少し飲んだだけで酔っぱらうとかお酒に弱いですねぇ。あと僕って何時から岩になったんだろうね? いくら岩みたいに身体は堅く鍛え上げられたとはいえ、僕はまだ岩じゃないよ?


「はぁ……。大和、その笛を輝夜に渡してみなさいな。きっと素敵な音色を聴かせてくれるわよ?」

「そうなの? じゃあ輝夜お願い。僕の笛吹いてみて」



「仕方ないわね、特別よ? 私がこんなサービスするなんて、帝にすらないんだから」


とは言っても、笛を吹くのは久しぶりなのよね。上手く吹けるだろうか? と言うかその前に、これって間接…っ!? いやいや、関係ないわよ輝夜。『直接』 したわけでもないのに動揺するなんて、そんな乙女ではないはずでしょう! いや、私は乙女だけど……って誰がそんなこと聞くのよ!? ええい! 吹けばいいんでしょ吹けば!!


「二番輝夜! 笛、吹くわよ!!」





「へぇ~。流石は月のお姫様ってやつだねぇ。上手いねぇ」

「まぁ、教えたのは私だけどね」

「師匠が教えたんですか?」

「ええそうよ。立派な淑女に育てるためにそれはもう苦労したわ。それなのに……」

「あのお転婆ですからねぇ……」


お察しします。さぞかし落胆したことでしょう。


「……ねぇ大和、一つ聞いていいかしら?」

「何ですか?」

「……どうして私を許したの?」


どうしてって言われても……。僕は別に直接被害を受けた思いがないから別にいいや、程度にしか考えてなかったんだけどなぁ。


「差し出がましい質問だとはわかってる。でも聞いておきたいの」

「そうですね……。一つは前に言った通り、僕の今があるのは貴方が居たからだということ。あと一つはまあ、なんとなくですよ」

「大和、私は真剣に「だって!」

「だって……産みの親を恨んだり憎んだりなんて、そう簡単に出来るものじゃないですか」

「あ……」

「僕には伊吹萃香って母さんが居るけど、師匠も僕の母みたいなものなんですよ。母をそんなふうに思うわけないじゃないですか。……さぁ! この話はもう止めましょう! 輝夜がせっかく吹いてくれてるんだからそっちを見てましょう」


言いたいことだけ言って話を切り替えた。酒の席とはいえ恥ずかしいじゃないか、こうやって自分の想いを正直に打ち明けるなんてことは。だからいくら僕の頭を微笑みながら撫でたって振り返るなんてことは決してしない。そう、決してしない。














飲んで食べて、いっぱい笑って楽しい宴会となった。師父なんかが酔っぱらって暴れだした時は流石に酔いが醒めたけど、それ以外は楽しい飲み会であった。

そして宴会も終わって、そろそろ床に着く時間となった。でも「風に当たってくる」 と言って出て行った輝夜が中々帰ってこないので、師匠の命で探しに行くことになった。当人は海が眺めれる高台にいたのですぐに見つかったのだけど…


「なーに黄昏てるの?」

「別に……。私だって、一人静かになりたい時だってあるの」


そりゃそうだ、と呟いて輝夜の隣に腰掛ける。

お互い一言も話さずに、夜空に浮かぶ月を見ていた。結界を破られたからか、久しぶりの夜空が頭上には広がっていた。



「ねぇ大和、聞いていい?」

「今日は質問されっぱなしだね。…何? もうなんでも答えるよ?」

「私も守ってくれる……のよね?」

「…? 守ったじゃないか。今更何を言ってるの?」

「そうじゃないわよ。だから、えっと……貴方の中で、結局私は何なのかなって…」

「うん? …友達じゃないの?」


思えば輝夜は山を出てから二人目の友人になるのかな。一人目は言わずもがな妹紅だけど。あ、妹紅といえば輝夜との問題があるんだっけ。嫌だなぁ、なんか巻き込まれる気がしてきた。


「友達、ね。……ま、今はそれでいいわ。それよりも、大和は他にどんな友達がいるの?」

「ん? そうだな……。鴉天狗の文に河童のにとり、後は不死の妹紅だね。ってあれ? 案外少ないし男友達が…」

「……偏ってるわね」


そう言われればそうだ。男の鬼も大勢いたんだけど、誰もが僕より年上で、友達と言うよりも兄ちゃんみたいな人達だったから仕方がないといえば仕方がないんだけどね。


「これは私もうかうかしてられないわね…」

「何か言った?」

「あんたが大きくなったら厄介だって言ったの」


なんだそれ? 大きくなった僕は輝夜を簡単に倒せるぐらいになるってことで厄介と言う事なの?

そう言おうと思ったけど、どうせあんたの考えてることは外れてるわよ、なんて言われた。その後、輝夜はまた月を眺め始めた。どうやらもう相手にされていないようだ。


「……やっぱり月に帰りたい?」

「ううん、そうじゃないわ。ただ、思い出してただけ」


そう言う輝夜の顔には少しの自嘲が含まれているように見えた。


「ふふ……別に今更月が気になるわけじゃないわ」

「じゃあなんで?」


そんな泣きだしそうな顔で月を見上げているの?

 

「もう、なんでもないって言ってるでしょ」

「…! かっ、輝夜!?」


隣に座る僕に身体を預ける形でしなだれかかってきた。僕を見上げる顔はやや上気したようで、いつもよおり艶やかに、美しく見えた。


「ねえ大和。月が綺麗ね……」


ああ、そうだね。とは答えられなかった。僕は男であって、輝夜は女である。詰る所、あまりにも突然の輝夜の行動にドギマギしてしまっていたのだ。


「もう少し、このままでいましょ」

「はい。輝夜姫」


だから僕にはそう応えることしかできなかった。











「月が綺麗ね、か。あの馬鹿は結局のところ解ってないんでしょうね……」


輝夜が言った『月が綺麗ね』という言葉。その意味は今で言うと『私は貴方を愛している』。だが当の本人は気付いていないだろう。それが輝夜に見惚れていたと彼女が知れば、それは喜ぶのだろうか?それとも聞き逃したことに怒るのだろうか?どちらにせよ、彼が彼女のキモチに気がつくのはまだまだ先であることには変わりないだろう。


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