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東方伊吹伝  作者: 大根
第三章:永遠の蓬莱島
33/188

大和とアキナ

超オリジナルな話が展開されます。ご注意を

3月16日改訂


「『兄さん』だって……?」

「そ。血は繋がってないけど、そういう関係だと私は思っているわ」


……はい? 何のことですかね? おかしいなぁ、僕は一人っ子のはずなんだけど……。それに僕は滅んだ里から拾われた子供なんだから、妹なんていないはずなんですけど。う~んそうなるとこの子、アキナはお兄さんが欲しいだけなのだな、ふむ。


「残念だけど、僕は君の兄さんじゃないよ。ただ、僕に兄さんになって欲しいのならなってあげるけど?」

「……もしかして兄さん、八意永琳やそこにいるお姫様から何にも聞いてないの?」

「へ?」


いっがーい、なんて態とらしい驚き方(と引き方)をする自称僕の妹。

いっがーい、僕ってなんか間違った? ……兄さんになってあげるとか唯の変態じゃないか…。目の前で驚く自分がいるけど、彼女にもそう見えているのだろうか?それはそれで愉快だなぁ。


「どういうこと? 輝夜は何か知ってるの?」

「何も知らないわよ。むしろ、何でその子があんたソックリなのか私が知りたいわ」


だよね~、なんたって自称姫様だから世俗のことには興味ないもんね~。

そして何より、輝夜が嘘を吐く必要なんてない。僕は輝夜を信じている。


「ふーん、なら八意が意図的に隠してたってことか……。んふふ、これはまた面白いことになりそうね」


本当に面白い、そう彼女は笑って僕を見つめてきた。あの、自己完結しないでほしいんだけど……。





◇◆◇◆◇◆◇





「流石は月の頭脳と呼ばれるだけのことはある。闘い方も実にスマートだ」


そう言い、私に向かって無数の霊弾を放つ隊長。その援護のもと素早い動きで私を翻弄し、時間差で攻撃を仕掛けてくる五人。私に反撃されるのを恐れているのだろう、完全にヒットアンドアウェイに徹する相手には手を焼かされている……が、敵は確実に私を恐れている。いや、試しているといった所か。

噂通りの相手ならばこのまま削り、そうでなければ一気に攻勢に出るのだろう。

私にすれば、後者の方が好ましい。その方が早くにケリがつく。此処にいる者たちさえ倒せば、後はもうどうにでもなるのだから。

いっそ、こちらからこの均衡を壊すか? そう思った矢先、接近戦をしかける相手方の声が耳に入った。


「貴方の『失敗作』、今頃どうなってますかね」

「…!」


何故知っている!? アレは貴様のような若造が知り得るコトではない筈だ!


「実はね、今回『成功作』も来ているんですよ。今頃は感動の対面でもしてるんじゃないですか?」

「―――ッ!?」


その言葉に、今度こそ私は驚きを隠せなかった。


「隙ありィ!!」

「あっ―――――!?」


一瞬の隙。常人にとって隙にはなり得ないその隙をついてこそ真の強者。私はその一瞬の隙を突かれ、五人の攻撃をその身に受けてしまった。





◇◆◇◆◇◆◇





「私たちはね、八意に造られたの。所詮、人造人間ホムンクルスってところかしら?」

「ホムン、クルス……?」


って何? とは言えなかった。だって自称妹がすごい真面目なんだもん、仕様が無いじゃない。


「そう。『月人育成計画』のもと、月のありとあらゆる因子を組み込まれた人間を造り、月の保有戦力を増やす計画」


なんだ、それ……? 人造人間ホムンクルスってなんのこと?


「ふざけるのもいい加減にして! 永琳がそんなことするはずないじゃない!!」


輝夜、知っているのか!? 僕には何が何だか解らん!


「おや、元教え子である貴方の因子も取り込まれているのですよ?」

「な――――!?」

「……詳しく聞かせてもらえる?」


解説してください。お願いだから一人だけ置いて話を進めないで!?


「大和、聞いちゃダメよ。コイツは言葉で惑わすつもりだわ」

「ううん、聞く。聞かないといけないんだ」


やかましいわ! 何で当事者が解らん内に話が進むんじゃ! 納得いくまで説明してもらうからね!! それにさっきから胸がざわめくんだよ。聞かないとダメだって、心の深い底から話かけてくるみたいに。


「いいわ、なら話してあげる。計画が立案されたのは遙か昔のことよ。

当時、月に移住したばかりの月人は移住前に起きた後に『人妖大戦』 とよばれる闘いで疲弊しきっていた。それでもなんとか人類は月へと脱出。なんとか移住することができたのだけど戦力はボロボロ、月にまで攻め込まれるともう打つ手がない状況まで追い詰められていたの。

そんな当時、戦力を強化するために立案されたのがこの計画。立案・実行は八意永琳主導で行われたわ。月の優秀な因子を組み込んだ人造人間の創造に挑んだ。


けれど結果は失敗。だけど八意は諦めなかった。産まれてきた失敗作を生きたまま解剖し、原因を調べ続けた。そうやっている間に幾らも月日が建って……時が進むにつれて人口も増え、自然と取り込む因子の数も多くなった。すると行き詰った計画に光が差し込んだの。……そこにいる月の姫の因子を反転させることで、ある一定まで安定させることに成功したのよ。

それまでに支払った犠牲もまた多大なものだったけどね……。それでも、だからこそ八意は止まらなかった。


だがそこで再び問題が起きた。今までの失敗作と違い、今回新たに産まれた個体は自我を持っていたの。それでも身体機能や精神に何処か欠落した状態になっていたんだけどね……。

その結果を受けた月の上層部はこれ以上の成果に期待を諦め、失敗作同士を戦わせて少しでも強い者を残そうとした。少しでも強い人を残そうとするのが目的だった。

表向きわね。

その頃には月も潤っていたから、ただの暇つぶしに闘わされていただけって聞いたわ。……笑えるでしょ? 同じ顔をした、同じ存在が殺し合うのよ? それを一時の戯れに見る月の上層部。ほんと、吐き気がする……。


勝った者は生きる権利を与えられるはずだった。それが勝った者に与えられる権利だった。でもね……八意の知らぬ内に解剖されていたのよ! 自分たちの暇つぶしのために使って! いらなくなったら簡単に捨てたのよ!! ……八意がそれを知った時には、もう何百人もの兄妹が犠牲になった後だった。


それから少しして、八意は全計画の中止を決定。彼女に何かがあったんでしょうね。計画は裏・表問わず終わるはずだった。だというのに、計画は止まらなかった。

秘密裏に行われ、生き残った失敗作はチップを埋め込まれて地上に放たれた。少しでも地上の妖怪を殺してくれるとでも思ってたんでしょうね。

幸か不幸か、地上に放たれた者たちは一か所に集まって村をつくり、生活を始めた。その行動も、埋め込まれたチップによって逐一報告されていたけど。

……ほんと、どこまでも笑える話だと思わない? ようやく自由を得たと思ったのに、実際は月の支配から逃れることなんて出来てなかったのよ……?


そうしている間に兄さんが生まれた。今までと違い、身体・精神的欠如は見られなかった。

一見すると成功作。それは研究者も喜んだそうよ。ただ、能力値が今までの個体と比べて圧倒的に低かった。解剖して原因を調べて次に活かすなんてことでもすれば良かったんでしょうけど、そこで邪魔が入ったわ。秘密裏に進められていたことが八意の息の掛かった者たちにばれ、その抗争中に兄さんが入っていたポットは地上へ落下。

 

これは後で解ったことだけど、貴方の落ちた場所は兄弟の住む村だったらしいわ。

そこから先はあなたの知っての通り。村は鬼と闘い、激戦の末滅んだ。

そして当時はまだ試験管の中だった私は数年の後に生まれる……というわけ。


これが私の知りえる真実。理解できた?」



「………」

「………」


僕も輝夜も、言葉が出なかった。そんなのは嘘だ! なんて言葉もでない。僕の中にある『何か』 がそれは真実だと言っている。この子の、アキナの話は本当なんだって。

僕はその村と言う所で、自分と同じ存在に拾われる。だけど拾われて間もなく、その村は母さんたち鬼との戦争をして滅んだ。後は母さんに拾われて今に至る、か……。


はは、辻褄が合うじゃないか。もう否定のしようもない。でもね―――


「それで? いったい君はどうしたいの?」



    感想    心・底・どうでもいい



けど、それがどうしたって?

僕にこんなことを話したって、僕が今までに重ねてきた歳月、関わった人達との記憶は僕だけのものだ。僕は伊吹大和なんだって、はっきり言うこともできる。


それに、こんな話を聞いた後でも僕には師匠を怨むなんてことは出来なかった。

厳しい修行を行う師匠。怪我を癒してくれる師匠。柔らかい頬笑みを浮かべて話かけてくれる師匠をいまさら怨むなんてできないよ……。

嘘です、メッチャ恨んでます。主に修行で何度も殺されかけたことに対しては。

けど……恩は感じても憎しみなんて感じないのが変だよなぁ。知らないとはいえ、何人もの自分が殺されたのに。でも、それでいいんだ。僕は師匠に感謝してるし、愛してると言っても良い。もちろん男女の好きとかじゃなくて、師弟として。だから僕は師匠を怨むなんてことはしない。


「兄さん、私と一緒に月で暮らしましょ? 今日は兄さんを連れ戻しに来たんだ」

「君は憎くないのか? 怨んでいないのか?」


アキナからは月に対する怨みを感じる。そんな子がどうして月で暮らしているの…?

僕なら真っ先に月から去る。小さな世界で自分を殺して生きていくことなんて、僕にはできそうもないから。


「確かに憎いわ。なんの罪もない兄弟が殺されたのだから当然でしょ? でもね、月も住めば都ってところかしら。生きていくのに不自由ない生活をしているわ。私の境遇を知る人は優しくしてくれるし。だから兄さんも、ね?」


そうか……君は今に満足してないんだね。だからそんな悲しい気持ちが僕に伝わってくるんだ。そんな暗い瞳をしているのに、そんな嘘を言う言葉になんの意味もない。

だったら、兄である僕は助けてやらなければならない。苦しむ妹を救うのが兄の役目だ。


「悪いけど、断る!」

「……どうして? 月に来れば何不自由ない生活が出来るのに!」

「僕の居場所は、地上なんだ」


月には帰らない、と言うより行かない。母さんや姉さん、いろいろな人との繋がりや約束もできた。

アキナ、月に帰ろうって誘うのが遅かったんだ。僕にはもう、帰る場所があるから。


「そっか……兄さんは地上の穢れに毒されちゃったんだ。なら、無理やりにでも連れて帰るしかないね!?」

「なら僕は、君を救ってみせる!!」

「ちょっと待って! 一つだけ聞かせて! 貴女はどうして大和に固執するの?」

「生き残った個体は、もう私と兄さんだけ。家族を求めて何が悪い!!」


個体言うな。僕らはそれぞれ別人だ!


「輝夜、手はださないで。アキナとは1対1で闘いたいから」

「だせるわけないでしょ……」

「私に勝つつもり?無理よ、それはぁ!!」


生まれて初めての兄弟ゲンカだ、派手に行こうぜ!!



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