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東方伊吹伝  作者: 大根
第三章:永遠の蓬莱島
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番外 輝夜と大和

3月15日改訂

とある蓬莱島での一日  ~姫の想い~



修行も波に乗り、順調に行っていたある日の出来ごと。


「大和、私と恋仲になりなさい」

「……へ!?」


どどどどど、どういうこったい!? 輝夜が壊れちまっただ!! 衛生兵ー、永琳さーん!?


「ああ、違ったわ。恋人ゴッコをしなさい」


なんだ、違うのか。少し惜しかt……へ!?


「……輝夜ホントに大丈夫? 熱あるのなら師匠呼ぼうか?」


本気で輝夜が心配だ。おでこにおでこを当てて熱を測る。あ、熱い!? 輝夜の凸アッツーーーーい!?


「な、なにすんのよーーーー!!??」

「プギャァ!? ちょ、いきなり殴るとかなにしてくれる、この馬鹿輝夜ばかぐや!!」

「う、ううぅうるさいわね! いきなりなにすんのよ!!」


人が心配してやったのになんて扱いだ。これだから我儘姫様には困るね。





◇◆◇◆◇◆◇





「で、今回の遊びは恋人ゴッコなわけで。……具体的に何するの? 非常に遺憾ながら、僕には今までそういう経験がなかったから解らないんだけど」

「その点に関しては男女仲の先輩である私がリードしてあげるわ。感謝なさい」


なにが感謝なさいだ。何時も遊びに付き合ってあげている僕にこそ、感謝すべきじゃないかと思わない? まぁ、輝夜相手にそんなこと言っても仕方が無いのかもしれないけどねぇ……。


「はぁ……わかったよ。今日は一日休みを貰ってるし、言うこと聞きますよお姫様」

「よろしい」


華が咲いたような微笑みを浮かべる輝夜。ホント、喋らなければ可愛いのにね。


「……で、なんで膝枕?」


自分、現在輝夜の膝に頭乗っけてます。いい匂……ゲフンゲフン、気もt……まぁまぁいい心地であります、師匠。感触とか匂いとか、とってもイイ。


「恋仲の男女はこうするものらしいわよ?」


上を見上げると、ついさっきとは打って変わって強きな輝夜。攻守交代したみたいに僕の顔のほうが真っ赤になっている。自分でもわかる程に顔が熱い。……母さん以外にされたからだ。断じて輝夜が相手だからではない!


「それにしても大和は不思議ね」

「ん?」


どうしたの輝夜? って言いたくなるくらいに真剣な顔をして話かけてきた。かなり珍しいよ? こんな輝夜。


「私から見ても、貴方にたいした才能がないのは解るわ。それなのにあの二人に師事してもらって……。並大抵の苦労じゃなかったはずよ、今の貴方クラスの実力になるのは。一体、何が貴方をそこまで動かしているのかしら?」

「ああ、そんなこと」


簡単だ、そんなこと。


「僕さ、妖怪の中でたった一人普通の人間として生きてたんだ。何の力もない、けれど何の力も必要としない、そんな環境で育った。でもね、そんな時思ったんだ。僕はみんなより早く死ぬ。当たり前だよね、人間なんだから。でもそれが嫌だった。僕を守ってくれる人達に一生囲まれて生きて、死んでいくことなんて。役に立ちたかったんだ思う、憧れたんだと思う……その人たちの生き様に。

今までやってこれたのは、いつか……いつの日かその人たちの為に、守ってあげるくらいになりたかったから。そんな存在になりたいから。……よく解んなかったかな?」

「……ええ、さっぱりね」


ふぅ、と輝夜は息を吐いて上を見上げた。もうこの話は終わり。そういうことなんだろう。


「そう……。僕、もう寝るね。このまま膝借りるけど、いいでしょ?」

「え? ……ええ、いいわよ」

「じゃ、お休み」




◇◆◇◆◇◆◇




月からの追手を振り切って幾らかの年月が過ぎたある日、コイツはやってきた。

無謀にも一人で大陸を目指そうとした無鉄砲な餓鬼、それが私の第一印象。私の暇潰し相手という方言も、その時の思いつきで出た言葉だった。特に意味はない。長い間生きているせいか、暇と言う暇なんてもう感じることもなかった。それでも、運よく久しぶりに手に入れた新しい玩具。使わない手はない、そう思った。

それに正直期待なんてするはずもなかった。男なんて皆クズばかりだし、女と見れば下心丸出しで迫る汚い生き物程度の価値観しか持ち合わせてなかったから。月でもそうだったし、都に居たときは更にその傾向が強かった。

上辺ばかり褒めて……誰も本当の私を見ようなんてなかった。


「だって、お転婆な感じが強いから」


認めない、認めたくない。

出会ったばかりの、しかも子供にホントの自分を見られてしまったことがうれしかった。あれだけ都で持て囃されていたプライドがそれを許しはしなかった。

あの時は結構な力で殴ったんだっけ? フフ……思い返すと笑えるわね。

だからだろうか、コイツに興味を持てたのは。

本当は駄目なんだけど、永琳に頼んで何とかコイツを此処に引きとめることに成功した。そんな事をした自分にも驚いたけど、許可をだした永琳にも驚いたのを覚えている。

正直どちらでも良かったのだけど……。そうやって自分の心に嘘を突いて、コイツを観察することにした。


馬鹿・お人好し・ヘタレ。観察の結果得られた情報はこれだけ。だが十分だった。


「結局、コイツも今までの男となんら変わりは無し」


腹が立つ。これほど私に興味を持たせておいて今までの男達と何ら変わりのないことに。

今日にでも出て行かせよう。

そう思い、修行場に出向いた所で私は見た。見てしまった。あいつの目を。



「立ちたまえ」

「う・・うぅう!」

「敵は待ってくれはしない!!」


武天に何度も殴られ、それでもなお立ち上がるあいつの目を、私は見てしまった。普段のあいつからは想像もできない、強い力の籠った目をしていた。私には向けられたことのない熱の籠った目。一心不乱に立ち向かっていく大和に、私は考えを改めさせられた。



今回の恋人ごっこは、ただ私が人肌恋しくなっただけ。何時もは寂しくなると永琳と寝てたけど、今回はコイツが偶然、そう偶然いたから頼んだだけ。

それにこれは、何時もの遊びの一環。そう、遊びなのだ。

だってその証拠に、大和の話の中に・・・守る対象に、私は入ってなかった。それが真実。

ほんのちょっぴり心がイタイけど、これも一時の気の迷い。

だから、今だけは


「傍にいさせてね、大和」


無邪気な寝顔をしている彼の髪を優しく撫でるのであった。



        難波江の

         蘆のかりねの

        ひとよゆゑ

         みをつくしてや

          恋ひわたるべき      



  この蘆の根のひと節のように短い、一夜かぎりのあなたとの恋。

   あの難波の海のみおつくしのように、この身をつくしてあなたを恋し続けるのでしょうか

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