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東方伊吹伝  作者: 大根
終章:終わりは始まりの桜
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魔法使いの聖域

 さて……どうしようかな。

 ルーミアちゃんに大口叩いて、母さんに出来る息子アピールして、魔理沙にかっこ付けて前に出たのはいいけど正直日を改めてもう一回やり直しません? って提案したくて仕方がない。

 とりあえず現状を纏めてみると……魔力半分、気は七割ほど、そして幻術使用不可。

 ……絶体絶命ってこういう時のための言葉だと思うんだ…。

 死ねるね、うん。これは死ねる。跡形もなく吹き飛ばされるかもしれない。幻術使えないなんて、僕にとっては足を捥ぎ取られるのと同じなんだから。いや、足捥ぎ取られた方が痛いかもしれないけど。

 その上魔力半分。妖夢ちゃんとの決闘で魔力半分ほど使ったんだよね。ただでさえ少ない、それこそ紫さんにしてみれば豆粒程度しかない魔力の半分を使ってしまったんだ。一億と十を比べても何の意味もないだろうけど、僕にとっての十は百なんだから膝を着いて天を仰ぎたくもなる。

 これは勝てない。よし、逃げよう! ―――なんてことも、もう出来ない。


「逃げてばかりでは意味はなくてよ。気弾なり魔力弾なり、せめて弾幕を放つくらいのことはしなさいな」


 だってもう闘いは始まってるんだから。

 互いに生き方を賭けて闘うって言った手前、手加減なんてするはずもないし、してくれるはずもない。文字通りの総力戦。紫さんを倒せるのなら正直死んでもいいと思って……ない。死んだら何の意味もないし。でも、それくらいの気概がないと勝負にもならないのは確かだ。

 それでも、幾らなんでもこれは酷いと思う。こんな状況で生き延びれたら母さんだってブッ飛ばせるだろうね。例えるなら降り注ぐ雨。雨に中らずに歩ける人いる? いないよね。今の僕は正にその状況だ。

 見渡す限りの空一面から弾幕が雨あられのように降ってくる。その中でも小粒なものを弾いて逃げ場を確保し、残りの大粒は全力で躱す。大粒に当たれば一溜まりもないだろうし、当たった時のことなんて考えたくもない。

 でも地面を這うように走り回っているからか、地に当たって弾ける大粒の余波を身体がモロに受ける。そのせいで僅かながらダメージは身体に溜まってきてる。妖夢ちゃんから受けた切り傷からの出血は止まっているとはいえ、これじゃあ傷口に塩を塗られているみたいだ。

 

 とはいえ、僕もやられっぱなしでいるつもりは全くない。今は二つほど策を練りながら行動している。それが地面を這うように走り回る理由。

 どんな魔法を使うにも、まず必要になるのは大量の魔力。つまり当初より予定していた儀式用魔法陣の作成が目的だ。幻術が使えないのに意味がない? あって困ることはないよ。むしろ無かった方が困る。半分程度じゃ奥の手も切り札も一秒も持たないし。パチュリーの所有魔力よりも更に大量の魔力がいるんだから、魔力を大幅に上昇させてくれる儀式用魔法陣を刻むことは必須だ。

 それに幻術だって、紫さんの能力が夢で見たものと同じなら……。

 それはまだ置いておいて、今は無様に逃げ回っているフリでなんとか誤魔化せている。だからこのまま無様で非力、ヘタレな道化を演じる必要がある。


 だから気付かないでよ、紫さん。



   ◇   ◆    ◇



 なんて考えているんでしょうね、この子は。

 甘い、三時のおやつに出てくるあんころ餅よりも甘いわ。

 大和が地面を這うように逃げている理由。もちろん既にその理由を察知している。


 大和は儀式用魔法陣を地に描こうとしているのだ。

 大和が新しい魔法を幾つか生み出したという情報は押さえている。もちろん、その魔法を発動するには大量の魔力を必要とすることも。

 だから得意な距離に満ち込もうとせず、何時までも地面から離れない大和を見たときに直感した。一匹狼を好む魔法使いが、個人で召喚や儀式といった大魔法を使用するときに、自身の魔力を爆発的に増やす効果のある魔法陣を描いているに違いないと。その裏付けの為に弾幕を張る傍らに証拠を探してみた所、極細の魔力糸が地面に向かって垂らされていることを確認した。

 やはり、と思ったけど、それを見つけただけでは満足は出来ない。何せ、相手は鬼の子でありながら人を騙す幻術を好んで用いる大和だ。魔力糸が本命を隠すフェイクかもしれない。

 注視していると、大和が一定の軌跡を描いて地を張っていることに気がついた。まるで魔法陣を描いている・・・・・・・・・かのように。

 大和が動いた軌跡を辿ってみると、通った地面は若干抉れていた。そこに魔力糸を通しているのかと思ったが、魔力糸は全く別の場所へと垂らされている。

 それを見て思わず口元が歪んだ。自分でも解るようにニヤついてしまったけど、生憎と大和はそれに気づく所ではないらしい。察せられないように慎重に魔力糸を垂らし、弾幕によって舞い上がる土煙を隠れ蓑に大地をに削っている。

 フフ、本当に可愛いらしい子。その程度で私を騙しきれると思っている所が特に可愛いわ。本気で私と化かし合いをしたいのなら、その三倍優秀な騙し方をしないと意味ないのにね。


「マスタースパーク!」


 っと、危ない危ない。描いている最中には飛んで来ないと思っていたのだけど、どうやら読み間違えたみたい。こうなることも予想出来たはずなのだけど、手の内を読めたからか気が緩んで・・・・・しまったようね。集中しなおしましょう。負ければ全て意味が無くなるのだから。

 でも、全ての始まりである魔法陣の発動の手段を見極めれたことは大きい。どちらが本命かは解らないけれど、解らないのなら両方とも消し飛ばしてしまえばいいだけのこと。そうすることで私の勝利は揺るがなくなる。


 残念ね、大和。本当に残念だわ



   ◇   ◆    ◇



 紫の弾幕を押し返すように空へと伸びる極光。極太とはいえ単調な光線が紫を捉えることはなく、ヒラリと躱されたそれは空の彼方へと消えて行った。

 大和の掌から放たれた魔法はマスタースパーク。幼い頃から此の方、数百年に渡って何度も工夫や改良をしている魔法なだけに、大和にとっては幻術よりも思い入れの強い魔法だ。


(良し……避けて貰えた)


 そんな魔法をいとも簡単に避けられた大和だが、その表情に苦しいものはなかった。あまつさえ、内心は避けて貰えたことに安堵している。

 

「単調な砲撃は通用しないわよ」

「そんなこと解ってます」


 余裕の笑みを崩さない紫に対し、大和の唇の端が僅かに上がった。


 ――――この状況で笑み? ……何を考えているにしろ、まずは出先を潰す。


 百年前、妖怪の山の山腹で幻術に嵌められている紫はそんな大和を警戒する。例え幻術を封じているとしても、警戒に値する人物だと評価しているからだ。

 だが紫にとっては幸いなことに、大和は妖夢の戦闘によってかなり消耗した状態。万全の状態でも紫に軍配があがるが、今の大和になら万が一が起こったとしても確実に勝てると言っていい。

 しかし最後まで勝負は解らない。紫は追い詰められた大和のしぶとさをずっと見てきた。ボロボロになりながら何度も何度も立ち上がるその姿を今までずっと見てきた。

 だからこそ、伊吹大和は底が知れない。

 それが紫の大和への総評。いや、底はたかが知れている。解らないのは、その力がいったい何処から湧いてきているのか。紫にはそれが解らなかった。


「残片発動。対象を人形遣いに固定」


 その大和の体を、幾何学模様の帯が周回しだす。

 魔法名、残片。妖夢戦で初めて披露された、大和の切り札の一つ。


「残片……。さしずめ、対象のコピーと言った所ね」

「そう、先生から受け継いだ僕の自信作です」


 胸を張って応える大和。

 それに呼応してか、周囲に垂らしていた魔力糸が意志を持ったように複雑に動き出し、大和の手からも今までの数倍以上もの魔力糸が大地へと根を張りだした。既に隠す必要もないのか、魔力光に煌く糸が大地を明るく染めていく。


「自信作、ねぇ……。残念だけど、私はそれの弱点に気付いているわ」 


 それを見ている紫だが、何てことはない、と零す。大和はそんな紫の言葉にびくっ、と身体を揺らした。

 その姿を見、ますます笑みを濃くしていく紫。何にだって弱点や欠点はある。それを如何に隠し通せるかが勝敗の行方を握っている。だが、自身相手に本気で隠し通せていたと思っていたであろう大和のことを考えると、紫には大和がますます可愛く見えて仕方がなかった。

 しかし、そうやって舐められているのも面白くない。口元を隠していた扇を大和へ向けて突き出す。


「残片は対象の技や動きをコピーする。でも担い手は貴方。武芸の型や魔法の形はコピー出来ても、そこに込められる霊力や気、魔力といったものまではコピーできない」


 例えるのならばレミリアと大和。大和がレミリアを残片の対象とした場合、レミリアのスピア・ザ・グングニルを使うことも出来るだろう。

 ただし、あくまでも使えるだけだ。

 大和とレミリアの魔力保有量の差は大きい。コピーする残片で外見を繕うことは出来ても、本来の威力まで再現することは到底出来ない。

 だが意表を突くと言う点なら話は別だ。並大抵の相手ならば、自身の技をコピーされた衝撃でそこまで頭は働かないだろう。その隙を作ること、そして手の内を増やすことが本来の目的だった。

 しかし紫は違う。踏んできた場数も、相手にしてきた数も多種多様。窮地に追いやられることもあれば、追い詰めた相手に最後の最後で噛みつかれたこともある。その逆に蹂躙したことも。経験豊富な紫にしてみれば、外見がそっくりでも中身が伴わない魔法だと見破ることなど朝飯前だった。


「貴方の保有魔力では誰の真似をしようと、私に傷一つ付けることすら出来ない」


 トドメ。嘲笑うかのように大和へと視線を向ける。

 今まで努力だけでのし上がって来ただけに、その努力を否定される辛さは想像を絶するもの。人一倍丈夫な身体を壊すよりも、人一倍打たれ弱い心を壊す方が容易い。

 ―――これで抗うことがどれだけ無意味なことか理解したでしょう?

 早く膝を屈し、負けを認めろ。降伏しろと現実を突き付ける紫。

 

 大和の身体は次第に震えだし……


「……ぷっ、くくっ…」


 何かに耐えられないように笑いだした。


「……何を笑っているのかしら」


 いったい何を笑う必要があるのか。もしかしすると、あまりの窮地に頭がおかしくなったのだろうかと紫は思った。

 大和の笑い声は次第に大きくなり、遂には背中を丸めて笑いだした。本当に可笑しそうに。


「そうだ、その通りなんですよ紫さん。貴方の言った弱点は何一つ間違ってない」

「なら何故笑うのかしら」

「貴方も弱点を持っていたからですよ。そして、それが昔から変わっていないから」

「何ですって……?」


 ――――何を……幻術を使えない身でありながら、何故そうも笑っていられる…?

 ――――それに私に弱点なんか……あるにはあるけど、バレることも無い上にバレたところで意味はないはず


 訝しげに目を細める紫だが、その身体には次第に力が込められていく。窮鼠猫を噛む。ともすれば、この態度そのものが何かの罠かもしれない。

 そう大和を注視するが、紫の目に映る大和は、ただ本当に堪らないほどおかしくて笑っているだけにしか見えなかった。


「紫さん、貴方は僕の何を封じたんですか?」

「幻術――「本当に?」 …それは貴方自身が良く知っているはずよ」

「僕自身が? だとすればおかしいですよ。残片は幻術魔法の応用・・・・・・・だけど、こうやってちゃんと発動してる」

「は……?」


 自身を取り巻く幾何学模様を指差す大和。その顔には意地の悪い顔がありありと浮かんでいる。言うならば、悪戯が通用して得意になった子供が浮かべる『してやったり』 と言ったところか。


 対する紫の表情は次第に強張っていく。

 大和のそれは虚言かもしれない。しかし、大和には虚言をこうもはっきりと言い切れるほどの性根が出来てはいない。そんなことは出会った頃から知っている。

 と言うことは、虚言ではなく真実と言うことになる。

 幻術魔法を完全に封じたと思っていた。にも拘らず、幻術を使っていると言った大和に紫の警戒心は次第にそのレベルを上げていく。


「先に結論を言っておきます。紫さんの能力で封じることが出来たのは、一般で言う幻術魔法だけだ。何故なら、貴女は自分で理解できる範疇の境界しか操れない。これが弱点」

「――――!」

「何度も見せた有幻覚は僕の幻術構成を見破って無効化したんでしょうけど、それだけじゃこの魔法は封じられない。何せ僕が足下にも及ばない大魔導師が残した最後の魔法……一度の発動を見た程度で見破れるわけがない」


 大和の言に紫は唇を噛んだ。

 残片をただのコピー魔法だと勘違いしてしまっていた。何故なら、他人の術を真似する魔法は他にも存在する。それも残片よりも効率の良い魔力運用でだ。だが大和にそんな才能は全くない。幻術しか能がない大和だからこそ、効率が悪かろうが幻術で全てを賄おうとしていた。

 しかし紫には、魔力の少ない大和がわざわざ効率の悪い方法を用いるなど考えもしなかった。才能が無くても努力をする大和らしく、努力の果てに得た魔法だとばかり思っていた。

 だが大和は幻術魔法の応用だと言った。


 しかも、自分の弱点を突いたとまで言って。


 ―――弱点とは言えない。でも、私にも操れない境界は存在する

 ―――待って。今、この子は何と言った?

 ―――確か弱点が変わっていないからと……まさか!?


 遂に紫の顔から余裕が消えた。大和を見つめるその表情には、まさか、と言う疑惑と驚愕が浮かんでいる。

 紫にとってそれはあり得ないこと、いや、あって欲しくないことだ。しかし、いくら違うと決め付けようとも、嘗て唯一慕っていた人物から言われた『全員が繋がっている』 と言う言葉が頭に響く。

 そして短くも長い、動けない一瞬の隙。


「理解が及ばない範疇の境界は貴女でも操れない! そして!!」


 大和が大地に手を翳すと共に大地が光を放ち始めた。

 ――――拙い!

 大和の行動よりもコンマ数秒出遅れた紫。

 しかし大地に刻まれた魔法陣がその効力を発揮し始めるまでにはまだ数秒の余裕がある。紫は瞬時に妖力を込め、大地へ向かって特大の妖力弾を放った。その場に居た大和ごと飲み込むほどの大きさと威力を持った妖力弾が大地へ激突。爆発と同時に噴き上がる噴煙。

 ――――間に合った。魔法陣さえ展開されなければ後はどうにでも……

 そう安堵する紫を嘲笑うかの様に、大量の魔力糸が噴煙の中から上空へ向けて伸びて行く。


「何を…」

「意味のない魔砲を放つ余裕なんて僕には無いんです。でも、この魔砲は改良に改良を加えてきた魔法。大道芸みたいなことだって……っ出来るんですよ!」

「――――!?」

「弾けろ!」

 

 大和が手を伸ばした先、遙か上空にソレはあった。


「上空に……儀式用魔法陣ですって!?」

「違いますよ。魔法陣の一端だ!」


 降り注ぐ月の光に隠されるように淡く輝いていた魔法陣が、その姿を現した。

 何時そんな物を仕込んでおいたのか。それは、大和が放ったマスタースパークが答えだ。本来ならただの砲撃魔法だが、大和はその中心に魔法陣の種を仕込んでおいた。紫が避けたそれは遙か上空で待機し、発動を今か今かと待っていたのだ。

 如何に極光の中に種を隠したと言っても、所詮は花火の要領で打ち上げた子供だまし。だが、既に地上で描かれつつあった二つの魔法陣に紫は気を取られてしまっていた。

 そして、大和の策はまだ続く。


「こんなもの、壊してしまえば――「伸びろ!」 なっ……!?」


 上空の魔法陣を破壊しようとする紫の横を、地上から無数の魔力糸が通り過ぎて行く。

 いったい何を…。

 地上を振りかえった紫は、更にその顔を驚愕に染めた。

 大和が抉るように描いた地上の魔法陣。紫の弾幕によって大地が砕かれ、若干崩れてきているものの、それは束ねられた魔力糸によって埋め尽くされていた。そこから上空の魔法陣に向かって伸びる無数の魔力糸。天と地、二つの魔法陣が糸によって繋がっていく。


「天空魔法陣? 地上魔法陣? 違います。僕の狙いは、辺り一帯を魔法使いの聖域にするための空間魔法陣だ!」


 天空と地上、それを繋ぐことで生まれる一種の結界が出来あがる。その結界の効果は、周囲一帯の魔法使用者の魔力を大幅に上昇すること。魔法使いや魔力を用いる者にとって、魔力が大幅に上昇する空間はまさに聖域だ。

 空間には目視できるほどの魔力が溢れ、甘ったるい感覚がその場にいる者たちに圧し掛かる。だが、魔法を使う者たちにとってこれほど快適な場所は無い。


「残片はただの劣化コピー。そう言いましたよね」

「……っ」

「その通りです。僕の魔力はそんなに多くない」


 そしてそれは、魔法使いである大和も同じ。魔法陣の恩恵を多大に受けた身体から、今までとは比べ物にならない魔力が発せられる。身体強化と残片に費やしても尚、押し留めることの出来なかった魔力が身体中の穴という穴から溢れだしていく。


「でも、今の僕なら貴女とだって対等に闘える!」


 大和の周囲を滞空する幾何学模様が紅く染まって行く。残片、対象レミリア。

 その手に持たれた紅き魔槍は、紛うことなき本物だった。



   ◇   ◆   ◇



「九尾の狐なだけあって手強いわね」

「当たり前だろう。吸血鬼の娘などと比べられては困る」

「それってレミリアのこと?」

「他に誰が居る」

「確かにあんたの方がやりにくいけど、どうだか」


 弱気になっているわけじゃないけど、攻めきれないのも事実。レミリアとこの狐は違う。専守防衛だか何だかしらないけど、妨害・結界と完璧な護りで私の行く手を阻み続ける。意地でも此処を抜かせないつもりなのだろう。それだけ私に大和さんの加勢をさせたくないと言うことなのか。


「大和殿が気になるか」

「……」

「その気持ちを恥じることはない。だが、二人の邪魔をさせることも出来ない」

「……前から思ってたのよね。あんた達、何でそんなに大和さんに固執するの?」


 レミリアとの会談から大体の過去は知っている。大和さん本人からも話は聞いた。でも、それでもこいつ等が大和さんを執拗に狙う意味が解らない。もし狙うとするのなら、幻想郷に於いて重要なポジションにいる私のはずだ。あの時の巫女のように。

 でも私に何をすることもなく、八雲の妖怪は大和さんを狙っている。それだけの価値が大和さんにあるの? 正直、私にはそれほど利用価値があるとは思えない。人付き合いのいい私の家族。それが私にとっての大和さん。


「ある。私と紫様、そして幻想郷には彼が必要だ」


 それなのに、どうしてこうも言い切れるのだろう。

 あの人にどんな利用価値があるの? 優しくて、誰にでも分け隔てなく接するから? 強くて周囲を巻き込む影響力を持っているから? その性格故に多くの人から慕われているから?


「――――バカバカしい」

「は……?」

「バカバカしいって言ってんのよ。必要だ? 幻想郷? ふざけんじゃないわ。たったそれだけの理由・・・・・・・・・・で人の家族奪おうとしてんじゃないわよ」

「……どうやら、お前には博麗の巫女としての自覚が足りないらしい」


 知るかそんなこと。

 確かに、私は巫女の仕事に誇りや生きがいなんて感じたことがない。先代たちは巫女に誇りやら思い入れがあったんでしょうけど、少なくとも私は感じたいとも思わないわよ。誰が好き好んでお金にも成らない仕事をしなきゃならないの。賽銭はない、落ち葉で境内は汚れる、神社は老朽化して床が軋む。巫女じゃなかったら誰があんな所に住むか。

 付け加えるのなら、別に私じゃなくても良かったんじゃないかとも思う。

 だって私は自分の生まれた場所を知らない。それどころか、肉親と呼べる存在すらいない。知り合いが神社の関係者だったから跡を継いだわけでもない。ただ物心ついた時には神社にいて、人並み外れた霊力を持っていたから巫女になることを義務付けられた。そこに私の意志なんてなかった。


 でもね、その時からずっと傍に居てくれたのが大和さんなのよ。

 そりゃあ可笑しな人よ。馬鹿よ。時には変態でもあるわよ。暇さえあれば狂ったように武術と魔法の修行をしてる筋金入りの修行馬鹿よ。私にも修行しろなんて口煩く言う、もう修行に取り憑かれた妖怪・修行塗れとしか思えない人よ。

 でもそんな人だけど、まだ物心つく前から一緒に居てくれたの。自分の子供でもなければ血の繋がった親族の子供でもない。誰かに頼まれた訳でもない。そんな身寄りのない私を精一杯育ててくれて、不器用でも実の娘のように愛してくれた人が大和さんなのよ。

  

 だから感謝してるのよ。だからこんな私でも家族って思えるのよ。

 恥ずかしいからお兄さんとは呼べない。本人はお父さんと呼んで欲しいみたいだけど、あんな人だからどうしても身近に感じてしまって、お父さんとも呼べない。

 でもそこには確かな『愛』 がある。家族愛。言葉にしなくても心で伝わる愛。私から、そして大和さんから。それが私が此処に居ていいんだって思わせてくれる。此処にいなきゃならないんだって、心を強くさせてくれる。


 だから、私の家族をそんなつまらない理由で奪っていこうとするのは許せない。


「幻想郷も巫女の仕事も、私がやらなくてもあんた達がどうにかするんでしょ? だったらそんなもの、たった一人の家族の為なら全部後回しで十分よ。それでもあんた達がどうしてもって言うのなら、大和さんを助けたついでに救ってやる」

「……呆れて物も言えん。愚者にも劣る弁だ。その程度の志で、幻想郷を保っていられるか!」

「保ってるのはあんた達でしょ。私は何もしてない」

「お前っ「あーあー、うっさいわねー」


 どうせ裏でこそこそ台所の黒いのみたいに這いまわってるんでしょ? 今日も幻想郷のためにー、って。ならそれでいいじゃない。表は受け持ってやるって言ってるんだから。

 ―――傲慢? 自分勝手?

 何とでも言えばいいわ。だって私は誰かに命令されて動くなんて真っ平御免だもの。自分のやりたいようにやる。

 これが私、博麗霊夢。


「この際だからはっきり言っておくけど――――



      ――――家族やまとは私のものよ。誰にもあげるつもりはない」



 それが今代の巫女の矜持。憶えとけ、くそったれ。







(言うわね。あの時より心が強くなった)


 啖呵を切ったその時だった。私の中で、紅魔館が起こした異変の時と同じように何かが動き出したのは。


 あの時の……。呼んでも答えなかったのに、今更何しに来たの?

(私の言えないことを堂々と言えるのが羨ましいわ。ま、巫女としては問題大アリだけど)

 煩いわね。そんなこと言われなくても解ってるわよ。

(別に叱るつもりはないわ。今日は別の用事)

 何よ。

(いきなりで悪いけど――――身体を借りるわ。大人しく眠ってて頂戴」




 これは私と大和、八雲たちの問題。なら、今代の巫女が片付けるべき問題じゃない。



「久しぶりね、狐」


 時間は限られてる。閻魔が邪魔をしに来る前に、過去は全て終わらせる。

 それが零夢わたしの最後の仕事。


「何驚いてんのよ。悪いけど、呆けてたら直ぐに堕ちるわよ」




つ、次こそは六月末に…


あ、零夢登場です

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