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東方伊吹伝  作者: 大根
終章:終わりは始まりの桜
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そんな日だってある

大和がおかしいです。要注意


あ、何時ものことですか。そうですか


「―――――何だったんだろう、今の。夢にしてはかなり現実的だったけど……」


いやはや……夢は視る人によってそれぞれだけど、それって実はかなり怖いことだよね。例えば気持ち良く空を飛んでいた夢の中、ふとした瞬間に落下していったりする。例えば走っていたのに、気付けば後からゾンビに追いかけられたりとか色々あるじゃない? それが僕の場合はほら、紫さんが小さくて藍さんがお姉ちゃんしてて、僕と同じ顔をした人がたくさんいたりする夢だった。

―――すごい現実味溢れる話だったよ、うん。

本当に起こったことのように。長たちが僕に何か伝えたかったからこの時期にこんな夢を見させたんじゃないのかと思ってしまう程に。


……回りくどい言い方をするのは止そうか。全部本当にことなんだよね、さっきの夢。長の言葉を借りるのなら『意識と記憶の共有』 ってことでいいのかな? こんな時期によくもまぁ……ありがた迷惑にも程がある。例え誰にどんなことを言われようとも紫さんを止めるつもりでいるのに、今更そんなハードルを上げて貰いたくないよ、まったく。


「大和さん朝よーってあら、今日は自分で起きちゃったの」

「あ、おはよう霊夢。最近は起こされっぱなしだったからね、少しは自分で起きないと」


おはよう霊夢、まだ太陽が昇りきらないうちからよく起きれるね。

最近は早朝の鍛錬をする僕よりも更に早く起きているみたいだけど、あまり無理しちゃ駄目だよ? 鍛錬が終わって直ぐに朝食が食べられるのは嬉しいけど、今でも目を擦っているからね。そこまでして合わせてくれなくてもいいのに。

でも……アレなんですよアレ、ムフフ……。

何時も起こされてるわけだから、目が覚めると何時も霊夢がの顔がアップで目に入ってくるんだ。それがまたなんとも、ねぇ…? Good Morning my daughter. 今日も抱きしめたくなるほど可愛いねってやつ。これが最近の朝の一場面。

……何だろう、この日常って凄く幸せだよ。


「大和さん、何かあった?」

「へ? 何で?」

「……泣いてる」

「……へ!? あ、あれ? なっ、何で泣いてるんだろう?」


お、おかしいな? 別に怖い夢ではなかったと思うんだけど……。


「――よしよし」

「………え? 何この状況?」


何で霊夢に抱き締められてるの? 僕自身にも不思議に思われないほど自然に、霊夢は僕の後頭で手を組んだ。霊夢の柔らかい髪の匂いが鼻に届いて来る。


「嫌だった?」

「そう言う問題じゃないと言うか、年上のプライド的に何と言うか……」

「いいじゃない。大和さんにプライドなんて言葉は似合わないわ」

「……霊夢も言うようになったね」


プライドが似合わないだなんて、僕はこれでもプライドの塊だよ。例えば魔法使いとして……駄目だ、パチュリーに良くいわれる通り三流でしかない。武術も同じく。おぉう……悲しいかな、何も思いつかないよ?


「怖い夢でも視たの?」

「少し違うかな。何て言うか……そう、ちょっとしたすれ違いの夢かな?」

「すれ違い?」

「うん。僕や霊夢がやっていたすれ違いかな? 僕と零夢でも良いんだけど」

「……それは、とても悲しいことよ。とても怖いこと」


零夢、と言葉に出してみれば、霊夢の身体が少し強張った。その反応が何だか可愛くて、ちょっと嬉しく思った。もしかして嫉妬されてるのかな? なんて思うくらいの余裕は僕にもある。なんだ、僕にもプライドがあるじゃないか……なんてちょっとカッコつけてみたり。似合わないなぁ、まったく…。



「……そろそろ朝の鍛錬に行ってくるね?」

「……うん。私は朝御飯作って待ってる」


抱き締められた時と同じ自然な動作で、霊夢は僕から離れていった。少しもったいないだなんて思ってないよ? ……思ってないよ?

でもこんなにいい子に育ってくれるなんて、大和さん朝っぱらから涙出ちゃいそうだよ。本当にどうしようね、本気で嫁に出したくなくなってきた。まだまだ小さいからあれだけど、あと少し年齢が上がれば一気に結婚適齢期だ。零夢も幸せにしてあげられなかった件もあるし、霊夢が結婚したいって言ったらさせてあげたいけど……


「行ってらっしゃい」

「行ってきます」


まぁとりあえず、寄ってくる男共は全員無縁塚でいいよね? お父さん張り切っちゃうぞー!





◇◆◇◆◇◆◇



~永遠亭~




「―――なんていうことがあってさ、……輝夜聞いてる?」

「あーはいはい、聞いてないわよ」

「それで霊夢がね……って、ちょっと。人の話はちゃんと聞いてよ」


今日は月に一度の永遠亭訪問の日。障子の向こうでは雪が積もり始めている寒い中、永遠亭の居間で無駄に大きい炬燵に入って駄弁っているのは僕と輝夜だ。鈴仙が淹れてくれたお茶に蜜柑を齧りながらゆっくりとした時間を過ごしている。


「だいたいねぇ、私といるって言うのによく他の女の話が出来ると思うわ」

「だって可愛いんだから仕様が無いじゃないか。それに霊夢は女じゃなくて娘だよ」

「前の巫女の生き映しなんでしょー? 変な目で見てんじゃないでしょうねー?」

「そうなんだけどねー。でも二人は別人だからー」

「ふーん。……はぁ~、やっぱり炬燵はいいわね~」

「だよね~」


永遠亭の何が良いかって、まずはその広さだよね。畳の部屋が幾つもあるし、客間も豪勢だしもう最高。オマケに何故か僕の部屋まで用意されてるんだから至れり尽くせりだ。


「あ、お茶が切れた。ちょっと淹れ直してくるよ」

「あー別に大和がやらなくていいわ。イナバー? イナバ~?」


兎にやらせるのか。弟子の頃、僕が来てる間の輝夜と師匠は全部僕がやってたからなぁ……。何だか申し訳ないと言うか、身体が働きたくて疼くと言うか……うん、下僕根性が良く沁み付いてるね。


「姫様、大和さん失礼します」

「お茶淹れ直しておいてくれる? 光速で」

「ごめんね鈴仙。本来なら僕がする役目なんだけど…」

「いっ、いいんですよ! 大和さんはどうぞ座っておいて下さい!」

「……本当にごめんね?」

「本当にいいですから! ……失礼します…」


うーん……何だかなぁ…


「大和、どうかした?」

「嫌われてるのか怖がられてるのか……。どっちだと思う?」

「両方」

「…だよね」


何だか僕にだけ態度が余所余所しいと言うか、距離があるように感じるんだよなぁ…。そりゃあそれほど深い中じゃないけど、あそこまで怯えられると少し傷つくよ。


「何かしたわけじゃないんでしょう?」

「するわけないし、する機会も無いよ。ただ……」

「ただ?」

「妹…アキナの部隊に居たみたいなんだよ。ほら、僕らって見た目はそっくりだろ? 逃げてきた負い目でも感じてるのかなぁって」


本当なら会わない方がいいのかもしれない。でも鈴仙は永遠亭で厄介になっている身だし、僕はここの主人の客として呼ばれている訳だから……難しいなぁ。


「ま、あの子が自分で解決することよ」

「淡泊だね。少しは助けになってやろうとかは考えないんだ?」

「主人が下僕のことを考えてどうしろって言うのよ」

「…よし、じゃあ僕が「出しゃばらないで頂戴。むしろ逆効果よ」 だよなぁ……」


相談してもらってどうこうなるレベルじゃない気がするからね。もう顔見ただけで拒絶反応出てますみたいな感じだから苦痛にしかならないかも。


「あ、でも大和が主人になるのなら話は別よ? 下僕の管理は主人の仕事だからね」

「さっきと言ってること逆だね」

「それほど貴方と一緒に居たいと言うことよ」

「………あ、そう」


――――――ヤバかった。本気でやられそうだった。

何がどうヤバかったかって? ニコって笑いながら言われただけなんだけど、その時の輝夜が本当にどうしようもないくらい可愛かった。今まで見たことのあるような綺麗だったとか艶やかだったとかじゃなくて、ただただ可愛かった。それ以上の言葉なんて見つからないくらい、輝夜と輝夜の笑顔が可愛かったんだ。


「…? 何で急に炬燵に潜るのよ」

「…煩い。急に寒くなっただけだから」

「じゃあ永琳に看て貰う? 今なら自室で休んでるだろうけど……」

「ねぇ輝夜……狙ってやってる?」

「……? 何を?」


素ですか輝夜さん。今まで狙ってやってたから今回もその延長上だと思ったんだけど……


「…? 何よ、さっきから私の顔ばかり見て。もしかして見惚れてるの?」


本気で素でしたか!? キョトンとしてるのがまた可愛らしいですね!? 僕の精神がガリガリ削られているけど、もう何だかどうでもいいような気もしてきたよ! ……はっ!? まかさこれが狙い!? やられん、やられんぞ! 炬燵の主になってでも耐えきってみせる! うー☆


「お茶をお持ちしました」

「イナバ、炬燵の上にでも置いて頂戴」

「畏まりました」

「ほら大和、お茶が来たわよ。出てきなさい」


タイミングを逃したんです、放っておいて下さい。鈴仙を驚かせたくないなぁ、なんて仏心が出たのが間違いだったよ。何時もならここぞと言う時は逃さないはずなのに、今日は輝夜にペースを乱されっぱなしだよ。


「ほら、蜜柑も剥いてあげたから早く出てきなさい」

「嫌だー。僕はもう亀になるからー」

「もう……えいっ!」

「オゥフ!? なっなんだぁ!?」

「うふふ、上に乗ってるの。毛布を被ってるから前が見えないでしょ」


もう止めて! 大和さんのライフはもう0ですよ!? これ以上僕を誘惑しないでー!?


「あのー輝夜さん? ちょっと退いて欲しいなぁ……なんて」

「じゃあ私も潜るわね?」

「え、ちょっ輝夜さん? 僕潜って「だから私も潜るの。ほら、広いから大丈夫大丈夫」 そう言う問題じゃない!?」


駄目だ駄目だ駄目だ!? 今近寄られたら色々と恥ずかしいことになる!


「やーまと!」

「音声のみでお楽しみください!?」


地の分出したらメメタァ!


「あ、やっぱり胸板は厚いのね。それに思ったよりゴツゴツしてる」

「後から抱き付かないで!?」

「スンスン……それにそれほど汗臭くもない。うん、大和の匂いね」

「臭うな!? むしろ逆だよね!? 僕が臭う方だよね普通は!?」

「あ、じゃあ臭う?」

「臭わないよ!?」

「そうね。日が昇っているうちから溺れちゃったら拙いものね」

「……もう出る。汗かいちゃうよまったく…」

「出させると思って?」

「……本気?」

「ええ。私に溺れてくれるまで」

「――――――」


師匠、タスケテ……





◇◆◇◆◇◆◇




「それでそんなに衣服が乱れているのね」

「……師匠」

「何かしら?」

「死にたいです」

「じゃあこの薬の実験に付き合ってくれるかしら。なんでこんな色になったのか解らないのよ」

「……師匠」

「何かしら?」

「やっぱり死にたくないです」

「じゃあ馬鹿なことは言わないでおきなさい。不逞の弟子を投げ飛ばしたくなってくるから」


……みんな冷たいね。そろそろ僕も泣いて良いのかな? 本気で泣くよ? ほーれ泣くよ? 直ぐ泣いちゃうよ?


「少し真面目な話をしましょうか」

「はい師匠。僕は何時でも真面目です」


OK です師匠、僕は産まれてこの方ふざけたことなんて一度もありませんから。ええ、一度たりともふざけたことなんてない伊吹大和です。何時だって全力なのが僕のポリシー。


「蓬莱の薬を呑もうとは思わないの?」

「え? …それって師匠や輝夜みたいに不老不死になるってことですよね?」

「ええそうよ。輝夜は何も言ってなかったの? さっきまで一緒だったんでしょうに」

「聞いてませんよそんな事……」


成程成程、どこかおかしいと思ったらそれが原因なわけだ。


「0.00002%」

「……? 何がです?」

「貴方が八雲紫に勝てる確率よ。試算してみたの」

「うっ、嬉しくないですね…」

「喜びなさい。0じゃないのよ」

「ぜんっぜん嬉しくないですよ!?」


全く嬉しくない数値です師匠。何が原因で0じゃないのかが不思議なくらいです。どうやったらそんな奇跡的な2%を導きだせたのかがすごく気になるところだけど、それを聞くと立ち直れないような気がするので止めておきます。


「あの子は貴方のことが心配なのよ」

「心配?」

「ええ。蓬莱島から紅霧異変まで、貴方は泥臭いながらもなんとか勝ちを拾って来たわ。でも思い出してもみなさい。今まで無傷で勝ったことなんてあった? 一度もないでしょう? 骨が折れるのは当たり前、腹部が抉れるのは当たり前、失血多量なのも当たり前……。闘う度に何度も死に掛けてるのよ。それを見ているのは何時も輝夜と私」

「………」

「私はまだいいわ。こう言ったら何だけど、人が死ぬ所なんて見慣れているから。でも輝夜は?」

「……見慣れているわけがない、ですか…?」

「…貴方が死に掛けている姿を見ている時の輝夜なんて見られたものじゃないわ。あのルーミアって子と闘って運ばれてた時を憶えてる?」

「確か片腕を捥ぎ取られて……」


失血多量で死に掛けたんだっけ? 師匠も蓬莱の薬を飲ませようか迷ったくらいだって言ってたような……


「あの子、一度失神したのよ」

「輝夜が!?」

「ええ、何時死ぬか解らない貴方の姿を見て一度倒れたわ。妹紅の張り手で気を取り直したようだけど、その後もずっと貴方の傍で泣き続けていたのよ?」

「そう…ですか……」

「そして極めつけは八雲紫。私から見ても本当にとんでもない奴よ。力云々は置いておいて、あの執念はもはや呪いと言っても良い。貴方じゃまず勝てないわ。だから輝夜は私に相談してきたの。貴方に飲ませるか否かを」


根性なら誰にも負けないつもりはある……けど、紫さん相手じゃその根性でも勝ててるかどうか解らない。失った大切な人達の分全てが僕に向かってくるなんて考えたら、正直それだけで参ってしまいそうになる。師匠も詳しいことは知らないだろうけど、それでも紫さんの並々ならぬ部分を感じ取っているんだろう。

心配…掛けさせてるんだよなぁ……。面と向かって好いているとまで言われたくらいだし、その人の死にそうな姿なんて見たくないって思うのが普通だもんね…。


「……師匠、少しだけ考えさせて貰ってもいいですか?」

「良く考えて答えを出しなさい。一生に関わることなのだから。……お風呂、沸かしてあるから入って来なさい。少し汗臭いわ」

「解りました。ゆっくりと浸からせて貰います」





◇◆◇◆◇◆◇





「あ゛ぁ゛ぁ゛ーーー良い湯だなぁ……」


実家のお風呂は檜風呂ってね。永遠亭のお風呂は3人くらいなら足も伸ばせるほど広いから好きなんだよね。神社のお風呂もそれなりに広いけど、やっぱり永遠亭のほうが色々と洗練されてると思うんだ。


「不老不死の秘薬・蓬莱の薬、か……。ホント、どうしようかな…」


飲むか飲まないか。僕自身の中で答えは出てるんだけど、輝夜のことを想ったら自信を持って言えないんだ。好いた人が傷ついたり死んでしまったりするのがどれだけ辛いのかは僕も痛いほど理解させられているし、死ねない輝夜からしてみればそれがどれだけ辛いことになるのかも想像出来る。


「どうすればいいんだよ「やまとー? 入ってるー?」 …輝夜? 入ってるよー」

「永琳から着替え渡されたからここに置いておくわねー」

「どうもー」


ちょっとびっくり。まさか輝夜が荷物運びなんてするとは思ってもみなかった「じゃ、お邪魔しまーす」 メッチャビックリ!?


「かっ、輝夜さん前! お願いだから前隠して!?」


色々……ぶほっ、色々と見えすg……プハッ!? は、鼻血でそぅ……


「あらやだ、私ったらタオルを巻き忘れてたわ」

「そう言う問題じゃないから!? 師匠! ししょーー!!」

「永琳なら来ないわよ。むしろ永琳が一緒に入って来なさいって言ったくらいだから」


お師匠様いったい何を考えていらっしゃるんですか!? お姫様ですよこの人! 自分の教え子に何を言っちゃってるんですか!?


「さ、タオル巻いて来たからもう大丈夫よ」

「大丈夫じゃないヨ! 僕もう出るヨ!」

「何言ってるの、洗いっこするんだから入ってなさい」


僕に死ねと言っているのかお前は。失血多量で死ぬぞこんちくしょう!


「何で手で顔を隠してるのよ」

「乙女の柔肌を見ないと言う紳士の努めデス」

「指の間から覗いておいてよく言うわ」

「……」

「手、退けたら?」

「……では失礼して」


うなじ・鎖骨・肩・腕・太股・足・タオルを巻いた上からでも解るくびれ……。おぉ……長、貴方が夢見た幻想郷はここにあったよ…。


――――――やばいなぁ、本当に死ぬかもしれない


「隣、良いわよね?」

「もう好きにして……」


もう為るように為れ。何か間違いが起こっても僕は知らないからな。


「……」

「……」

「……」

「恥ずかしがってる?」

「……当たり前だよ。女の人と一緒にお風呂だなんて、母さんとしか入ったことないんだから」

「そうよねぇ……大事なモノを隠し忘れているんだもの、貴方の動揺ぶりも解るわ」

「隠し……? ―――――――くぁwせdrftgyふじこlp!?!?」

「ふふ、御馳走様。でも凄いのね、下の大和。驚いて声が出なかったわ」


……僕は死んだ。お婿に行けない。お嫁を貰えない。輝夜にまで見られた。母さんには掴まれるし輝夜には凝視された。僕はもう死んだ方が良いのかもしれない…。明日には神社で首を吊っておこう。


「ちょっと、口から魂が出そうよ?」

「いっそのこと白玉楼で家事手伝いしてる方がマシだ……」

「困るわね、冥界に逝かれるのは」

「……知ってるんだ」

「妹紅やイナバ達の情報よ。貴方の近況だって全部知ってるわ」


へぇ、それは驚いた。妹紅とは仲が悪いんだと思ってたけど、色々な交流があるんだ。


「もちろん大和が今日食べた朝御飯の種類もね」

「それはストーカーだ!? 近況どころか、今朝の出来事じゃないか!?」

「身内のことは全て知っておかないと駄目じゃない」

「駄目だ……覗かれていることにも気付けないなんて…」

「紅魔館とやらの蝙蝠も覗いてたみたいよ?」

「レミリアーーー!?」


駄目だ、本気で駄目だ。輝夜もレミリアも霊夢にバレたらどうなっても知らないよ? いや、霊夢なら『私じゃないのなら別にいいわ』 とか言うかもしれないけど……最近の霊夢は僕に優しいからね。二人とは違って。二人とは違って!

でもずっと見られてるとかそんなことないよね? 僕にだってプライバシーってものがあるんだ。それにレミリアには常識人のパチュリーが着いてる。大丈夫だ、落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない…。


「貴方は人気者なのよ。少しは理解して行動して貰わないと困るわ」

「……それは蓬莱の薬も含めて、だよね?」

「……永琳から聞いたのね。ええ、そうよ。この場で貴方を失うのはあまりにも痛い」

「そう簡単にやられるつもりはないよ。その為に強くなった」

「ある程度には、ね。言っておくけど大和、貴方と私ならまだ私の方が上よ」

「距離が離れていたらだろ? 接近戦ではもう僕の方が強い」

「じゃあ私を殺せるかしら?」

「なっ……そんなの嫌に決まってるだろ! 冗談でもそんなこと言うな!」

「いいえ、冗談ではないわ。もし私と殺し合いになったとき、貴方に私は殺せる? 知り合いだとか恩があるとか言う情は全て無視した状況で」

「そんなの……」


無理に決まってる。僕はもう誰も殺せないし殺させない。そう決めたから。


「最後の一線を越えられない貴方じゃ八雲紫は倒せない。もし貴方の存在が八雲紫にとって不必要となったら、あの妖怪なら簡単にその一線を越えるわ。でも貴方にはそれが出来ない。それが永琳の出した結論。だから貴方が負けても死ぬことがないように、私は貴方に蓬莱の薬を飲んで欲しいの」

「……」

「貴方がやられれば紅魔館、地底の鬼、巫女、そして私たちも動く。八雲紫にとってそれは望ましくないから可能性としてはかなり低いけど、あり得ないことじゃないの。もう大和の身体は大和だけのものじゃないの。それをいい加減解って。何度も死にそうな身体で私の前に来ないで……お願いだから……」


僕の肩に頭を乗せて輝夜はそう言った。

僕の身体は僕のものだけじゃない、か。厳しくも嬉しいこと言ってくれるね、ホント。でもだからこそ決心が着いた。


「僕は飲まないよ」

「……」

「みんなが僕の肩に乗るっていうのなら喜んで乗せるよ。乗り切らないのなら背中にだって乗ればいい。でも追い詰められれば追い詰められるほど僕は強くなる。輝夜が知ってる中で、ここ一番で僕が負けたことあった?」

「……ないわね」

「だろ? 実は秘かな自慢話、ここ一番では負けないってのが僕の強みなんだ。だから今回も大丈夫」

「そんなの解らないじゃない。今回こそどうなるか解らないわ」

「そうだ。そんなことはやってみないと解らない。だからやるんだ。母さんに地底の家族、霊夢にレミリア達、それに輝夜。みんなが僕の後に居てくれるからこそ、僕は前を向いて頑張って行けるんだ。その人たちが、僕が死ねば我を忘れるなんて言われたら黙って見過ごせるわけないじゃないか。だから勝つ。絶対に。……それとも輝夜は好きな人・・・・の言うことが信じられない?」

「……卑怯者」

「解ってる。でもこれが僕だから。みんな・・・の伊吹大和だから」

「……そうね。そんな貴方だからこそ、私が惚れたんだものね」


酷い奴だなぁ僕。ホント、張り倒されても文句は言えない。でもみんな笑顔で背中を押してくれるんだ。それが苦笑であったり、満面の笑みであったり、今の輝夜のような微笑みだったり。自分の行いで笑顔になってくれる人がいる。そう思うだけで、いくらでも走って行ける。それが僕の根っ子。夢への原動力。


「ねぇ輝夜、どうして人は人を好きになるのかな?」

「それは私にどうして貴方を好きになったのか? って聞いてるの?」

「うーん……ちょっと違うけど、そう捉えて貰って良いよ」

「そんなの簡単よ。長い間一緒にいたから、もっと一緒にいたいと思う。ただそれだけ」

「そっか……うん、そうだよね」

「私の場合は何百年も貴方と一緒だったからね。そんなに長い間一緒にいれば惹かれるのも無理もないわ」

「うん、僕もだ」


ずっと零夢と一緒にいたい。ただそれだけだったんだ。紫さんも、きっとただそれだけの為に幻想郷を創ろうと思った。でもその途中で本当にどうしようもないことが起きて、それに悲しんで立ち止まって……。僕の場合はみんなが居てくれた。でも紫さんには居なかった。

だったら僕が紫さんの手を握ってあげないでどうする?

先生の時は失敗した。でもあの大嫌いなアルフォードと手を握ることが出来た。なら紫さんと出来ないはずがあるもんか。だって僕らは同じ方向を向いていたんだから。

ただ手を差し伸べるだけじゃない。全部受け止めて、全部受け入れてやるんだ。その後で手を握る。長が僕に全てを託した理由が解ったよ。紫さんを捕まえるのは僕にしか出来ない事なんだ。


「輝夜、ちょっとこっち向いてくれる?」

「…? なに――――――ッ!?」


僕を見上げるような形になっていた輝夜の顔にそっと口づけをした。……自分からするのは初めてだけど……あれだ、唇って柔らかいんですね師匠。不詳、弟子は新たな境地に立ってしまった気がします。心臓もバクバクいってます。息子が準備を開始したそうです。でもせっかくだから、最後までカッコイイ男を貫き通したいと思います!


なんて考えたけど、少し本当のことも言っておこう。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ輝夜に惹かれた。今までも惹かれてたけど、その度合いが大きくなった。ただそれだけ。


ありがとう・・・・・。輝夜のおかげで気付くことが出来た」

「……ぇ、ぁ―――その……」

「そう言えば何時か言ってたよね、返しに来いって」

「な……ぁ――――ぁぅ……」

「だからこれはお返しと、僕を心配してくれたお礼。僕からするのは初めてだったんだよ?」


そっと少し濡れた髪を撫でてあげた。今日の輝夜は可愛いなぁもう。

ハッハッハ! お姫様、顔が真っ赤なのは決してのぼせているわけではないんでしょう? 口を金魚みたいにパクパクしてまぁ……もうやらないよ? でも大和さんのぼせていますからね! 普段のヘタレた僕とは訳が違いますよ!


「もう一回する?」

「――――――うん」


ウルウルと揺れる瞳を閉じて唇を差し出す輝夜。その顔を掴んで―――


「ま、そんなに安売りしちゃ駄目だよ? 輝夜も僕も」


―――おでこに口づけするだけで止めておいた。仕方ないじゃない、息子が元気になったら目も当てられないんだから。


「じゃ、先に上がってるから」


キザったらしく一度微笑んで、僕は風呂場から去った。ハッハッハ! のぼせちゃったなぁ!









~オマケ~


姫「……惚れ直しちゃったわよ、馬鹿…」





~オマケの本編・風呂を上がって冷静になってみると?~



大和「……キモイ。なんだ僕、言葉に出来ないほどキモイ行いをしたじゃないか。キャラじゃない……あんなキザなの僕のキャラじゃない!? 僕はもっとこう……そう! 押し倒される側じゃないか! ……って自分で言ってて情けない!?」


鈴仙「(どうしよう……一人で地面に転がって唸ってる…。こっ、声を掛けるか師匠を呼ぶかしたほうがいいのかしら…?)」


大和「ぬわーーーーーーーー!? 僕の大馬鹿野郎!! のぼせたからって何やってるんだよぉ!? 零夢の墓前になんて報告すればいいんだ!? 浮気したなんて言ったら呪い殺されるかもしれないじゃないかーーーーー!!」


鈴仙「(こ、怖い…。ほ、放っておいていいよね……?)」





活動報告では早苗さんとカミングアウトした私ですが、輝夜も同じくらいオーイェー! なじらいです。


最近疲れているみたいです。そうじゃないとこんな話書こうと思えないんですから。なんだあのキザな大和。マジキモイ。そして書いた私はもっとキモイ。今になって一ヶ月くらいリリなのに逃げたくなってきましたorz


あと一話日常を含もうと思っているのですが、ぶっちゃけると何処に動かそうかなんて考えてないんですよね。紅魔館に行かせるも良し、山で文たちとふざけるのも良し、霊夢と遊ぶもよし、一度も書かなかった零夢の墓参りをするのも良し。あそこに行ってアレしてみて欲しい、なんて言う案があれば是非とも言って下さい。


最後の日常ですから。もし希望があれば、なんとかそれを形にしてみたいです。


…エイプリルフールネタですか? エイプリルフールネタですから。でもとんでもない程の温かい感想が来たのでどうしよう……となってますが、それはそれ。


でもとりあえず、次回に温めておいた大和の新技公開を含めるつもりではあります。でもそれは永遠亭で行うので希望を言われる時に考える必要はまったくないのでどうぞ無理難題を言ってみて下さい。頑張ります。


新技の件は、妖夢に師から教わった技だけで~、のくだりです。憶えて下さっている方いらっしゃるか心配ですが(汗) 本当の意味での必殺技です。エターナル大和ブリザード、相手は死ぬみたいなw


ではまた次回

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