素晴らしき日常生活
~混乱☆射命丸~
皆様おはようごさいます。本日も清く正しくがモットー、文文。新聞の射命丸文が朝一でホットな話題をお茶の間に届けさせていただきます!
現在、私は博麗神社の母屋で朝食を頂いています。味噌汁に卵焼き、漬物に炊きたてのご飯。素晴らしい、パーフェクトです霊夢さん! 私が作るより美味しいとは言いませんが、これは旨い。是非一度、皆さんも博麗神社の朝御飯を頂いてみてはどうですか?
……なんて、普段の私なら言えてるんでしょうね…。
「あ、霊夢。そこの醤油とって」
「ちょっと待って、私が先に使うから」
「…こ、これはいったい……!?」
何がどうなっているんですかね!?
つい先日までぎこちない二人のはずだったんです。確かに昨日、私は大和さんに言ったんですよ。霊夢さんとの関係をどうにかしなさいと。でも昨日ですよ? 昨日。泥酔していたとはいえ、私が何日も寝ていたわけではないのですよ?
なのに今日の朝食時にはごく自然に、しかもずっとそうしてきたかのような光景が目の前に広がっているのです。これを驚かずして何を驚けと!? 私が寝てしまっていた間に何があったんですか!?
「はい、大和さん。卵焼きに醤油かけてあげる」
「あ、そこまでしてくれないでいいのに」
「いいの。やりたくてやってるんだから」
こっ、こいつは……こいつらは新婚夫婦かッ!?
「文、箸が止まってるよ?」
「あら本当。美味しくないのなら食べなくていいわよ? 朝食代だけ置いて帰った帰った」
「お金取るんですか!? …じゃなくてっ! 大和さんッ!」
「うん?」
「私が寝ている間に、何があったんですかッ!?」
ダンッ! と卓袱台を叩いて迫った。
これでも私、少しくらいなら手を貸すつもりだったんですよ? どうせ大和さんは自分から謝るなんてできないだろうからって。たった一晩の内に二人の不和が解消しているだけでも驚きなのに、それなのにこれはいったいどういうことなんですか!?
私がそう問い詰めると、大和さんはあ~、だの、え~、だのと言って顔を赤らめた。
「……大和さん。まさかとは思いますけど、人に言えないことしてないですよね…?」
「…あー…、うん、言えない……かな?」
……オッケー、落ち着け私。大丈夫、大丈夫よ射命丸文。記者として正しい情報を得るまでは決めつけてはいけないの。そう、私は清く正しい射命丸文。それに私は信じてる。大和にそんな甲斐性は存在しないのよ。大和に甲斐性がないことくらい千年程前から解りきっていることなの。仲直りが勢い余って燃え上がるなんてことはまず無い。大和的にまずあり得ない。あって堪るものか! 例えばそう、情けない所を見せて恥ずかしいとかそういう所のはず。そうよね、親友…?
「恥ずかしいし……ね?」
「…うん……」
「―――――」
絶句だ。あやややや、だなんて笑えねぇ。なんだこれ? 大和がちらっと目配せをしたら、二人とも顔を赤らめて下を向きやがった。もう一度、いや、何度でも言ってやる。―――何なんだこの初々しい空間はァッ!? 男の気配すらしない私への宛てつけですか!? あるのは気に入らない上司からのセクハラだけの私へ向けた宛てつけなのか!?
「そ、それよりもさ! 文も食べなよ! せっかく霊夢が作ってくれたんだからさ」
「そ、そうよ! 早く食べないと、本当にお金とるわよ!?」
「そーですねー」
華扇様と萃香様、ついでに椛に言いつけてやる。ボコボコにされて斬られてから事の真相を吐けばいいわ。
◇◆◇◆◇◆◇
~霊夢にとって~
あの全てが始まったあと、私たちは結局朝まで話続けていた。……その、お互いがお互いを抱きしめたまま…。
すごく嬉しくて恥ずかしかったけど、それは大和さんも同じだったみたい。伝わってくる鼓動がとても早かったから……。
そこで話したことは、本当に他愛も無いことばかり。大和さんのちょっとした体験談や、ちょっと笑えない失敗談まで色々なことを聞かせて貰った。私からは、今まで大和さんの顔色を窺って暮らしてきたこととか、大和さんが思っているような良い子じゃないこととか。ついさっきまでなら絶対に言えないことを、私達は笑いながら話し合った。
そうやって話しているとき、ちょっとだけ悪戯心がでて。大和さんをからかってやろうと思って言ったの。『これからは零夢さんの真似をした方がいい?』 って。
冗談のつもりだったのよ? でも大和さんは本気に捉えちゃったみたいで、少し怒ったようにムっとなった。そうやって少しだけ眉を歪ませた大和さんにそれまで以上に強く抱き寄せられて、こう言われたの。
『真似なんてしなくていい。今のままの霊夢でいいんだよ』
本当に冗談のつもりだったのに、とても嬉しくなって。啖呵を切ったようにまた泣きだしちゃったの。わんわん泣き叫ぶんじゃなくて、静かに泣けた。そんな私を優しく包んでくれる大和さんがいて、私は本当に幸せ者なんだって思えた。家族がいて良かったって。
「ねぇ大和さん」
私が淹れたお茶を呑んで、天狗の新聞を読んでいる家族に話掛ける。
「なに?」
「……なんでもない!」
本当に、私は幸せ者だ。
◇◆◇◆◇◆◇
~舞台裏の慧音~
「相も変わらず、今日もやっているんだな」
妹紅と魔理沙。今となっては日課となっている二人の弾幕が、竹林の空を舞っていた。
私の家に、妹紅が霧雨家の娘を連れてきたのが数日前。その数日前…確か雨だった日だ。いきなり家に乗り込んで来たかと思うと、妹紅がこう言い放ったんだ。
『慧音、冬までに魔理沙を出来る限り鍛える。手伝ってくれ』
手伝えと言っても、私が何を手伝えると言うのか。私はこれでも忙しい身なんだぞ。教師だから頭でも鍛えればいいのか? 鍛える前に自身の父親と仲直りをするのが先ではないのか? それなら私も力になれるぞ。
そう言ったのだが、妹紅は酒瓶に口をつけてそのまま呑みほしていく。おい馬鹿止めろ、そう言ったが妹紅は止まらず、中身全て飲み干すまで止まらなかった。
そして飲み干したあとは伊吹君がどうのこうの、魔理沙がどうのこうの。困ったように魔理沙を見ると、本人も真剣に頭を下げてくる始末。どうしようかと悩み続ける私を急かすように、妹紅が更に捲し立ててくる。いい加減鬱陶しくなったので了解したのだが……鍛錬初日に止めておけば良かったと思わされた。
私が見てもやり過ぎだと思う炎弾を放つ妹紅。それを直に受けて堕ちていく魔理沙。防いだのか、妹紅が手加減したのか……おそらく両者だろう。妹紅の性格を考えるに、防ぎきれるギリギリのラインで攻撃したはずだ。堕ちた魔理沙は服の所々が焦げるだけで済んでいたからな。だが、妹紅が熱くなればそれも無くなるだろう。文字通り、魔理沙は灰も残さず焼き尽くされる。そうなる前に止めようと思ったが、堕ちた後の魔理沙を見てしまえば、止めることを止めざるを得なくなった。
『目を閉じるなって言ってるだろ! 死ぬ瞬間まで目は見開いてろ!』
『はい!』
『返事だけは一丁前だな! じゃあ次だ! 威力上げるから、当たれば痛いぞ!!』
『はい! 姐さん!!』
弟子は師に似るものなだと噂でしか知らなかったが、本当にそうなんだって気付かされたよ。強大なナニかに向かって行く姿は、何時か見た伊吹君の姿にそっくりだった。もっとも、勝気なところは妹紅譲りなんだろうが。
これなら応援するしかないなぁ…。
そうやって溜息を吐き、二人の応援を始めたのが数日前。今となっては、私はすっかり二人の食事当番に収まってしまっている。
「おー慧音、飯か?」
「ああ、弁当を作ってきた。魔理沙は……って、聞くだけ無駄か」
「そりゃそうだ。綺麗に気絶してるからな」
妹紅の指差す先には、プスプスと煙を上げながら寝ている魔理沙。やれやれ、もうすぐ冬だと言うのに。
「どうだ妹紅。もう冬も近いが…間に合いそうなのか?」
「さぁな……と言いたいところだが、現段階で既に及第点には達しているよ。今じゃ私でも驚かされる時があるし、この分だと大和の目には敵うと思うぞ」
「ほぅ……それは楽しみだ」
「ああ、楽しみにしてな」
数年前の縁日のような、あんな光景を見れる日を私も楽しみに待っているとするよ。
◇◆◇◆◇◆◇
~苦悩の大和~
「霊夢が可愛すぎて生きるのが辛い」
「は?」
「娘がキュートで僕の寿命がマッハ」
「……大和、頭は大丈夫?」
「大丈夫じゃないですから! だから雪が降って寒いのを我慢してまで山昇って、道場までジャージ一丁で来たんじゃないですか華扇さん! 僕の頭を何とかして下さい!?」
秋も終わって小雪が舞うようになったころ、僕は死に掛けの芋虫のように悶える日々を送っていた。
その原因はさっき言った通り、霊夢可愛すぎるからだ。
あの夜から僕の生活は一転した。影ながら霊夢を愛でるだけでなく、日のあたる場所でも愛でることが出来るようになった。よしよしと頭を撫でればはにかみ、褒めてあげると照れながら俯く。上目遣いでお願いをされた日には、その状態を保ったまま半日ほど気を失ってしまったくらいだ。
だがそれでは駄目なのだ。素敵でカッコいい大和さんで居たい僕は、そんな体たらくでは駄目なんだ。だから軟弱な精神を再び鍛え上げるため、少しの間とはいえ僕の心を鍛えてくれた華扇さんの下まで飛んできた。
「……酒呑童子、貴女の息子がおかしいです」
「茨木童子」
「なんですか?」
「そんな息子も可愛いと思わないかい…?」
「貴女もですか!?」
ごく自然なことだけど、母さんも博麗神社に住み着いている。もちろん霊夢に許可はとっていない。バレないように霧状になったりしながら僕の周りを彷徨いている。それでも時々反応するのだから、霊夢の察知能力や勘には驚かされる。
ルーミアちゃん? ルーミアちゃんに至っては、僕の影の中から『転移なのだ!』 なんて言いながら突然現れたりする。何時の間にしたのかは知らないけど、僕と自身の影を繋いだ? らしい。だから何時でもどこでも現れることが出来るらしい。ぶっちゃけストーカーだと思った僕の頭は正常だと思いたい。
「だいたい貴女たち親子はふしだら過ぎなのです! 一人は私のとっておきの酒まで掻っ攫うし、一人は己の欲望を抑えきれない! そんなことでは良い人生を謳歌できませんよ!? もっと己の行動に慎みを持ってですね―――」
「あーあー、煩いったらありゃしないよ説教童子。お前さんもいい加減楽に暮らしてみればどうだい?
例えば息子を持つとかさ」
「例えば娘を持つとかですね」
「―――ッばかものーーー!!」
やば、爆発した。華扇さんってば普段はそれほどだけど、怒ったら容赦ないからね。幻影を置いてさっさと退散するとしますか。
「相変わらず煩い奴だねぇ。わたしはお前のそんな所は好きだけど嫌いだよ。表に出な、矯正してやる」
「上等です! 私の方こそ矯正してさしあげますよ! 何時かの様に吹き飛ばしてねッ!!」
……死ぬ前にさっさと逃げよう。命が幾つあっても足りないよ。
「―――と言う訳で、逃げだして来た」
「大和の周りは相変わらず物騒だなぁ。私がその場にいたらきっと気絶するよ。はい、王手だ」
華扇邸から無事逃げおおせた僕は、久しぶりに河童の住む川に言ってみた。もちろんにとりと遊ぶために。もとい、ピュアな僕の悩みを聞いて貰う為に。
でも久しぶりに会ったのだから将棋でもしようかと言う空気になって、今に至る。
「……待ったあり? でも何だかんだ言って、にとりなら何とかなりそうな気がするんだけど」
「待ったなし。無理無理、絶対無理。鬼が近くに居るってだけで私には無理。…ほい、詰みだ」
盤上の王は見事に囲まれて逃げ場なし。角も飛車も金も銀も取られた裸の王様を守る手駒はなく、僕は負けを宣言した。
「にとり酷い。ちょっとくらい手加減してよ」
「いやぁ、久しぶりだからちょっと張り切った。それにしても大和は弱くなったねぇ」
「最近触って無かったからなぁ……」
「あやややや、それにしても弱過ぎやしませんかね。こんな酷い対局は見たことないですよ?」
「おぉ、鴉天狗様の文じゃないか。久しぶり」
「文、先日ぶり」
「あり? いきなり現れたことに驚いたりしないんですか?」
「「だって文だし」」
「あやややや」
いきなり現れた文にも、僕とにとりは驚いたりしない。気付いたら何時も居るのが当たり前だったから。
それは喜ぶべきなんですかね、と言って、文も地面に座った。そんな文を近くから良く見ると、所々服が破れていたり、土が付いたりして汚れていた。髪も少しボサボサだし、いったい何があったんだろうか。
「所で大和さん、ちょっと運動を死に逝きませんか? 具体的に言うと鬼の戦場に」
……OK完全に把握した。僕が逃げた直後から聞こえていた派手な轟音が止まないのは、僕も気付いてはいたよ? 聞こえないフリをして現実逃避してただけだから。ときどき天狗の悲鳴っぽいのが聞こえたのも無視しただけだからね?
「私も非常に心苦しいのですけどねぇ……上が貴方を連れて来いって煩いんですよ」
「文、天狗様たちは泣いてたかい?」
「鼻水垂らしながらね。何としてもストッパーを連れて来いですって」
何とか自分たちで止めて下さい、って言うのは駄目なんだろうか…。言わないでも解ってるとは思うけど、僕ってば弱いよ? 標準よりは強いかもしれないけど、あの二人相手に僕程度じゃ話にならないんだけど。例えるなら……蟻と象?
「文、申し訳ないんだけど僕程度じゃ「椛が『モフらせてあげます!』 って言ってましたよ?」 なん…ですと……!?」
そ れ を 先 に 言 っ て よ!
あのワガママぼでぃ……じゃなかった、愛くるしい椛を本人公認でわしゃわしゃ出来る機会を無駄にできるかァッ!
「ルーミアちゃん、カモーンッ!」
そうと決まれば話は早い。太陽に背を向け、自分の影に向かって指差す。何時でも何処でも呼び出しオッケーだなんて言ってだんだ、今呼び出さず何時呼び出す!?
「召喚に応じて影から登場、ルーミアなのだ! ご主人さま、オーダーは?」
「見敵必殺! 見敵必殺だ! 僕らの邪魔をするあらゆる勢力は叩いて潰す!! 逃げも隠れもせず、山の山腹から打って出る!! 全ての障害はただ進み、押し潰し、粉砕するぞ!!」
「……ッ! フ…フフフフフ! 我が主、漸くその気になりましたか。幻想郷を主の手にする気になられましたか。……よろしい。ならばこの封印を解き、第一の臣ルーミアが山を平定してみせましょう」
この後、山では僕らを加えた三つ巴の闘いになった。なんとか二人を止めることは出来たんだけど、終わった後で二人を止めるためだけに呼びだしたルーミアちゃんに怒られた。なんでも本気で山を平定するつもりだったみたい。骨折れ損のくたびれ儲けなのかー!? なんて小さい姿に戻ったあとで殴られた。
「ところで文、椛はそんなこと言ったのかい?」
「言ってないわよ? でも椛のことだから尻尾を振って喜ぶと思うわ。口では『止めて下さい!』 とか言いながら」
「うへぇ……椛も変わったんだねぇ」
―――や、大和様止めて下さいッ!
―――うん、ごめんそれ無理だから
―――あ、ちょ、駄目……ワォォォォォン!!
「……」
「……」
「文、友人は選ぶべきだと思うね」
「まったくもって同感よ……」
こんな意味のない日常を書くのが楽しいじらいです。
久しぶりの大和視点! と言いますか、久しぶりの一人称なので楽しかったです。三人称は難しいので肩が凝ります(笑)
今回は息抜きの為の一話でした。なので一話丸々使って日常話をするのもアレだと思い、久しぶりに短編構成にしました。特にこれといって目ぼしいものは無かったかと思います。変態は通常業務してますし、萃香もそうです。ごく自然に華扇と萃香を会わせて、ごく自然ににとりを登場させましたw 影が薄いにとりさん…にとりファンの方には申し訳ないですorz
次回からは予告通りの紫編です。これが終わると最終決戦。伊吹伝も終わりが見えてきましたね……。