伊吹大和と言う男・結
「…む」
「……」
「……れいむ~」
「……」
「起きなさいよ~霊夢~」
霊夢が気を失ってから数刻、レミリアはベッドに横たわっている霊夢を擦っていた。早く起きろ、早く起きろと。いきなり気を失って倒れた時には大層驚いていたが、ただ気絶しただけと知った後はしきりに霊夢の身体を擦っていた。たまにほっぺを抓って遊んだりもしながら。
「…五月蠅いわね、ちょっと寝てただけじゃない」
私は…あー、……あれ? そういえば私、何してたんだっけ…?
ようやく目が覚めたのか、寝た状態から半身を起こした霊夢はそう言った。気だるそうに欠伸をして、目に大粒の涙を浮かべている。
「……貴女、霊夢よね?」
「あんたの目には誰に見えてるのよ。……ああそっか、レミリアに大和さんの話を聞きに来たんだった。それで頭が痛くなって、変な記憶が頭を過って―――げ、何よこれ。寝汗でびっしょりじゃない……」
寝汗でびっしょりした身体に顔を顰める。そんな霊夢の姿を見たレミリアは、ある異変に気付いていた。気絶するまでの霊夢と、気絶した後の霊夢ではどこか違う。
そう感じたレミリアは、僅かな違いでも逃すまいと集中して霊夢を観察する。
対して、霊夢はそんなレミリアを無視して頭を捻っていた。自分がどこで何をしていたのかまで忘れてしまっていた。それもすぐに思い出せたので、今はレミリアの問いに応えながら、服に染み込んだ冷たい汗に唸っているのだが。
「もしかして、零夢?」
「そんなわけないでしょ。私は私、博麗霊夢以外の何者でもないの。ただちょっとあの巫女の記憶が断片的に流れてきただけ。…ま、その御蔭で色々と解ったこともあるけど」
「……本当に霊夢? 雰囲気まで変わってるわよ」
「疑い深いわね。……あれだけ色々とあれば雰囲気だって変わるわよ。…それに私だって驚いてるのよ? こんな変なモノが、断片的とはいえ入ってきたの。正直言って頭が割れそうだわ。……あれ? そう言えばパチュリーは?」
「パチェならもうかなり前に出ていったわ。貴女が気絶して寝てるだけって解ったら、図書館に引き籠りに行ったの。これ以上肉体労働させるならストを起こすとまで言われちゃった」
「それは当主としてどうなのよ…。言ったら何だけど、あんなひ弱そうな魔女にまで肉体労働させるのは頂けないと思うわ。とても友達思いとは思えないもの。第一、何であんたは働いてないのよ。妹だって作業してたじゃない」
霊夢の指摘に、うぐ…とレミリアが言い淀んだ。
私はいいのよ、私は。明後日の方向を向いて言うレミリアだが、説得力が皆無だった。
「ところで、どれほど記憶の流入があったの?」
これ以上何か言われるのは堪らない。レミリアは記憶がどうこうと言っていた部分を聞き、それとな話題をずらすように仕向けた。霊夢としては、紅魔館の家庭事情より自身に入ってきた記憶の方が重要。なので、あんた達のことなんかどうでもいいんだけど、と言って話を進めることにした。
「ちょっと待って。えぇっと…、博麗零夢が何で死ぬ嵌めになったのか、あとその理由も。…あとはそれこそ、さっき見せて貰った程度のことしかないわ。ルーミアと闘った後の記憶は入ってきてないわね……なんでかしら?」
「そんなこと解らないわよ。…ただ、霊夢に彼女の記憶が流れてきた理由はなんとなくだけど想像がつく」
「別に説明してくれなくていいわよ? 私としては、昔の大和さんを知るだけで良かったんだから」
「そう言わずに聞きなさいよ」
フフン、と得意げに胸を張るレミリア。そのレミリアのある一点に、霊夢は憐れみを感じざるを得なかった。記憶の中でも過去の映像の中でも、大和が好みだった女性は、一人を除いて全員が胸が大きい女性ばかりだったからだ。そりゃ相手にされないはずだわ、と心の内で皮肉るが、自身の戦力も足りないことに気付いて自爆してしまった。
「私が一番高いと思うのは、博麗大結界に残されている零夢の残痕。これが貴女に何かしらの影響を与えている可能性ね。あの化物染みた巫女なら死んでても出来そうだし……って、どうしたの?」
「な、なんでもないわ。でも……うん、何となく解る気がする」
流れてきた記憶を見ると、あんたの言っている意味がとても理解出来る。
霊夢は強くそう思った。霊夢には、どう考えても零夢が人間を止めているようにしか思えなかった。零夢のことを『種族:巫女』 で十分だと真剣に考えるほどに。自分とは比べ物にならない強い責任感と強さを誇る彼女が、同じ巫女だとは到底思えないのだ。
だが、それも仕方のないとこかもしれない。全盛期の零夢ならば、あるいは八雲紫すら凌駕するほどだと言われていたのだ。レミリア程度なら片手でも余裕で相手取れると霊夢が思い、そんな人が自分と同じ人間だなんて思えないのも無理は無い。
などと言うのは、単なる建前に過ぎない。深い部分には、もっと大事なことがある。
「二番目に高いのは、貴女たちの霊力。つまり、霊力の波長が似通っている可能性ね。それが過去の記憶を見たことによって、何かしらの刺激を受けたんじゃないかって」
「そう簡単に起きることなの?」
「まず無いわね。魔力・妖力・霊力・気。確かに似通った波長を持った人はいるでしょうけど、記憶の流入が起きるとなるとほぼ一致しないと起こらない。だから可能性としては遙かに低い」
もし波長が一緒だとしたら、私がこの人みたいな超巫女になる可能性も……?
そこまで考えて、霊夢は頭を振って否定した。あんな人間を止めた超人になんてなりたくない、と。
絶対に同じ存在だと思いたくない理由が、霊夢にはある。
「そして最後の可能性は、貴女が閻魔によって輪廻転生させられた零夢ではないかということ」
「……私としては、それが一番高いと思うのだけど。顔も似てる、性格も似てるじゃない」
「あり得ないわ。閻魔は大和のことを良く知っている。その閻魔が大和を甘やかすような事は絶対にしない。それに言ったでしょう? 私は貴女を『視た』 の。絶対にこれはあり得ない。絶対によ」
だといいのだけど。
霊夢は本気でそう思った。一番可能性があると思っているからと言って、一番それを望んでいるわけではない。むしろ生まれ変わりと言う可能性は、霊夢にとって一番最悪な事態でしかないのだから。
霊夢が零夢の生まれ変わり。
もしそうなら、大和にとっての霊夢は、零夢の代わりでしかない。零夢の代わりだから面倒を見て貰え、一緒に居て貰えている。今までのこと全てが、自分ではない人へ向けられていた行為。私は霊夢という皮を被った人形でしかない。
(あの人と一緒だから、私の事を見ていてくれる。……そんなの、私は絶対に嫌だ。私は私だ。零夢じゃない)
記憶を視た後だからこそ、その思いは強くなっている。それでも、最悪の事態を想定してしまうと身体の振えが止まらなかった。しかし、それでも聞いておかなければならない事がある。
「ねぇレミリア……大和さんとあの人って、恋人だったのね」
「―――ッ」
「大丈夫、大丈夫よ。私はもう引っ張られたりしない」
レミリアが言っていた引っ張られると言う言葉。今となれば、霊夢にもその意味が解っていた。
記憶の癖にやたらと強い意思を持っていて、私を私じゃないようにしてくる正に亡霊。私の中から主導権を奪おうとしてくる意思に引っ張られるな。つまりはそう言うこと。
レミリアがどういう意図で亡霊に引っ張られるなと言ったのかは知らないが、霊夢自身はそう捉えた。内側から湧いてくる衝動に呑まれるな、と。
そして霊夢も知っておかなければならないのだ。大和と零夢がどのような関係だったのか。二人はどうなったのかを。
それを知っておかないと、大和さんのことを真正面から見れないのだと。
「……いったい、どこまで知ってるの」
「大和さんが告白して、あの人が嬉しさでいっぱいになっている所。大和さんと一緒に闘って、死ぬかどうかの夢想封印を放ったところまで」
「その後は?」
「え? そこで亡くなったんじゃないの? プッツリ記憶が途切れてるけど……」
「……そこでは死んでない。死んだのはもう少しあと。彼女が死んだのは、それから少し後のことよ。……霊夢、そこに彼女は居るのね?」
「解らない……。でも、私の中に何かが居る。それは確かだと思う」
プッツリと途切れた記憶。つまりはそう言うことなのだろう、霊夢はそう解釈したが、レミリアは力無く笑ってそれを否定した。それは違う、それまでにも沢山忘れられないことがあったのだと。
(…そう、そこに居るのね)
「……レミリア?」
(自分勝手なことくらい解ってる。やるだけ惨めになるってことも解ってる。でも……それでも私はッ!)
レミリアはある種の覚悟を決めた。自分にとって、母を失った次に情けない事実を霊夢に伝えること。言えなかったことを全てぶつけること。零夢の記憶が入っているのならば、幾らでも零夢を罵倒していいだろうと。そんな甘え染みた考えを胸に秘めて。
「…私ね、嬉しかったの」
「は―――?」
「零夢が死んで、本当に嬉しかったの」
「ちょ、レミリア何を言って……」
霊夢には、レミリアが何を言っているのか全く理解出来なかった。当然だ。今まで普通に話していたのに、いきなり零夢が死んで嬉しかったなどと、死人に向けて話掛けているのだから。
「本当に嬉しかったわ。貴女が死んでくれたおかげで、私は大和と一緒になれる」
「ちょっとレミリア、あんた死人に向かって「知らなかったでしょう! 私がどれだけ惨めだったか! 大和と一緒にいて、告白までされた貴女には解らなかったでしょうねッ!?」 …レミリア、貴女……」
それは甘え。過去では敵わず、今となっては勝ち逃げされた屈辱の叫び。死して尚、大和の心を掴んで離さない女が目の前にいる。一度でもそう思ってしまうと、歯止めが止まらなかった。
「私がどれだけ長い間想い続けていると思っているの!? 五百年、五百年近くもそうなのよ! それを……それをぽっと出の貴様に奪われた私の惨めさが、お前に理解出来るか!?」
吊りあげた目から大粒の涙を流し、レミリアは叫ぶ。お前が、お前さえ居なければ。
それはアルフォードが大和に向けて言ったのと同じ言葉。お前さえ居なければ、こんなことにはならなかったのに。瞳の奥の零夢に、レミリアは訴え続ける。
「お前が助からないと聞いた私は喜んでやったぞ! それはもう、喜んだ! 嬉し過ぎて枕を濡らしたほどだ! どうだ!? 悔しいか!?」
そのとき流した涙は、敵わないと知った己の不甲斐無さに
「大和がお前を助ける術を探しに来たとき、私も手伝ってやった! 打算だ! 大和にイイところを見せておけば私の株も上がる! どうだ!?」
それでも全力で立ち向かうと決めた。でもその時には、もう助からないと知った。それでも諦められなかった。勝ち逃げなど許さない。その一心だった
「お前が死んだと聞かされたとき、私は喜びのあまり再び涙したぞ! お前みたいなのがいなくなって清々するとなァッ!!」
「……」
零夢は答えない。霊夢はレミリアを見たまま、ただじっと黙って聞いている。
「そんなお前が……どうして…ッ! どうして……大和を傷つけるような真似、したのよぉ……」
レミリアにとって一番許せなかったのがそれだった。
好かれていたのに、好きだった癖に。何故大和を悲しませた挙句、一人で勝手に逝ってしまったのか。自分に勝っておきながら、幸せを享受する暇もなく逝ってしまった。レミリアはそれが許せず、とても悲しかった。
「あなたが…大和を泣かせて、どうするの、よぉ……ぅ、うぅぅぅ―――――」
「レミリア……」
とうとう何も言えないほどに泣きだしたレミリアを、霊夢はただ黙って抱きしめた。小さな、本当に小さな女の子。どれだけ辛かったかなんて知らない。大和がどう思っているのかも解らない。それでも、悔しかったのだろう。惨めだったのだろう。振り向いて貰えない辛さは、霊夢だって痛いほど理解している。
「私は、零夢なんて人じゃない。そんなことを言われたって、私は何とも思わない」
それでも、霊夢にだって譲れないものがある。自分は零夢とは別人だ、私は一人だけなんだと。
「でも、あの人の立場に立つことは出来る。あの人の記憶から、あの人の人と成りを知ることが出来た私なら、答えてあげることが出来る」
だからこれは自分の考えでは無く、零夢の考えだとして伝える。
「『別に私はあんたなんて知らないわよ。大和が好きなのは私。それが真実。……どう? 悔しいでしょ』」
胸に引き寄せたレミリアの身体がピクリと震えた。心ないことを言っているのは、霊夢も重々承知している。それでも言っておかなければならない。何より、レミリア自身が零夢の言葉を望んでいるのだから。
「『私は嬉しかったわ、あの馬鹿に気付いて貰えて。でもあんたは気付いて貰えない』」
霊夢の口からは、すらすらと零夢の言葉が出されていく。霊夢自身が不思議に思うほど、自然に言葉が吐きだされていく。
「『でもね、私はもう大和の傍にいられないの』」
「『だからお願いよ、吸血鬼』」
「『大和のこと、想ってあげて』」
―――あの馬鹿を頼んだわよ、レミリア
全てを伝えられたレミリアは、今度こそ大声を上げながら泣きだした
◇◆◇◆◇◆◇
「お疲れ様」
「パチュリー、今度から覗きは止めておきなさい。趣味が悪いわ」
「あら、ごめんなさい。でもその御蔭で大和のことを知れたのではなくって?」
「それでも、よ。これからは止めておいて。大和さんが知ったら怒るわよ?」
「ふふ、その程度じゃ怒らないわ。……ありがとう、霊夢」
「……何が?」
「レミィのことよ。あの子、彼女とのことは本当に後悔してるから。今回でだいぶ気が楽になったはずよ」
「私はあの人とは関係ないわ。だから礼を言われる筋合いもない」
「フフ…」
「何よ」
「いいえ、そんな所も似てると思って。これからどうするの?」
「とりあえず、大和さんと話合うわ。これ以上、私を軽視するなんて許せないわ」
「軽視じゃなくて、重要視してるのだけど」
「私が軽視だといえば、それは軽視なの。じゃあもう行くわ」
「ええ、気をつけて」
さて…決着よ、大和さん。絶対に振り向いて貰うから。
◇◆◇◆◇◆◇
博麗神社の境内。もうだいぶ夜も更けているが、満月で見通しは良い。
そんな夜空、文字通り飛んで帰った私は、寝ている大和さんを起こしてでも話を進めるつもりだった。所が、件の大和さんは鴉天狗を背負ってゆっくりと境内を進んでいた。
私が居ないから女でも連れ込んだの!?
一瞬そんなことが過ったけど、それはないと考え直した。だって私の知った大和さんに、そんな甲斐性はないもの。本人に聞かせてあげたらどんな顔をするんでしょうね。それも含めて、今からの会話が楽しみで仕方が無い。
「大和さん、遅い帰りね……って酒臭!?」
「あー……え? 霊夢、なのか?」
ふふ、驚いてる。まぁ仕方ないわよね、レミリアだって私の雰囲気が変わったって言ってたし。私にしてみれば、見える世界が広がっただけなんだけど。
「そうよ。と言うか、大和さん本当に酒臭いわよ? どれだけ呑んできたの」
「あ、いや…僕じゃなくて文が「やまと~、仲直り、しろ~」 …こういうことだ」
「ふーん…。ああそうだ、大和さん」
「なに?」
「その話し方、似合ってないわよ?」
ギクリ、とでも言っておけばいいのかしら。天狗を背負った大和さんが動きを止めた。
顔だけ振り返り、訝しげに私を見つめてくる。私自身も緊張で身体が熱くなってきた。今まで見せたことのない私自身を受け入れて貰えるのかが、本当に心配で。
「……ちょっとここで待ってて。文を置いてきたら、直ぐに戻る。霊夢に話があるんだ」
そう言って、大和さんは天狗を背負って行ってしまった。
その背中を見つめている間、私の心臓がドクドクとその鼓動を速めているのが解った。パチュリーに啖呵切って跳び出してきたのはいいけれど、いざとなれば怖くなった。良い子だった私が、本当はあまりいい子じゃなくて。むしろ悪い子な私を、大和さんが全身で受け入れてくれるのか。
激しく上下する胸に手を当てて、私は大和さんが帰ってくるのを待った。
「ごめん、待たせたね」
「ううん…そんなことないわ」
しばらくして帰って来た大和さんは、今まで私が見ていたのとは少し違った感じがしていた。堅苦しい感じはなくて、私の知らなかったころの大和さんの感じでいっぱいだった。
「……あー…うん、その……なんだ」
「……?」
「……あー…よし、覚悟完了」
大きく息を吸って、吐いて。そうやって深呼吸をしている姿を見ると、何となく大和さんも緊張しているんじゃないかって思えて、私も自然と緊張感が抜けていった。
「僕が今から話すことは、嘘偽りない全て本当の真実で、僕だ。そのことを良く理解して欲しい。いい?」
「ええ、良いわ」
よし、と一度頷いた大和さんは、境内の中央に向けて歩きだした。私もその背中を追って歩いて、少し感覚を開けて止まった。
「僕はね、ここで一人の女の子と出会ったんだ。その子は僕なんかよりもずっと強くて、気高い子だった」
「知ってる。名前は博麗零夢。私にそっくりで、私とは違うとても誇り高い巫女だった。そうでしょう?」
ピクッと、大和さんの身体がまた止まった。それでも大和さんは一度も振り返らず、暫くすると再び話し始めた。
「霊夢の言う通りだ。その女の子の名前は博麗零夢。霊夢にとっては先輩にあたる人だよ。そして、僕が心から惹かれた人」
ゆっくりと、とてもゆっくりと大和さんは話し始めた。
長くなるから座るね。そう言ってその場に胡坐を掻いて座った大和さんに倣って、私も座った。
「出会いは最悪だったよ。相手にされないし、名前は覚えて貰えない。何なんだこの子は、そう思った」
少し曲がった背中の上には、月を見上げる大和さんがいる。後に座っている私からは、その表情は見えない。
「だから僕は彼女のことが気になったのかもしれない。気付いた時には、毎日のようにここへ通ってた」
それも知ってる。途切れ途切れで継ぎ接ぎだけど、それでも僅かにある記憶が私にそれを教えてくれている。
「でもとにかく気高い子でね、誰かと親しくなるのを嫌ってたんだ。だから、逃げられちゃった」
あれは失敗だったなぁ…。
大和さんが頭を掻きながらそう呟いたけど、私にはそうは聞こえなかった。あれが正解。失敗なんかじゃなくて、むしろ自信を持って正解だったって言っているように聞こえた。
「結局は彼女が根負けして、僕と友達になったんだけどね。……ああ、その時はここで僕に抱き着いて泣いてたよ。一人は嫌だって。だから僕は、ずっと零夢と一緒に居ようと思った。守ってあげようと思った。でも……」
「その人は、亡くなった。そうよね…?」
「……」
顔を上向けて、大和さんは黙っている。私にはその時の記憶はない。だからどうなったかは解らない。でも、大和さんたちが望んで別れたんじゃないってことははっきりと解ってる。
「守ってあげたかった。……本当に、本当に守りたかったんだ…。一緒になろうって、僕は言ったのに…守れなかった。気付いてあげられなかった」
「……そんなこと、無いと思う。零夢さんは、たぶん満足してたと思う」
「そんなことあるもんか。誰が自分から死にたがる? 何で死にたがる!? 何で零夢が死んだと思う? それはね霊夢、僕が弱かったからなんだよ! 僕が弱くて、どうしようもない馬鹿で! ただのうのうと生きていただけだからなんだよ! 何も知らず! 自分のことで苦しんでいる人のことだって気付いてあげられなかったんだッ!! ……僕は、とんでもないクソ野郎なんだよ」
「……」
「もう気付いてるんだろ? 自分と皆との扱いが違うって。その理由はね、僕がどうしようもないヘタレだからなんだ。僕は君が恐いんだよ。零夢そっくりな君の顔。声が。その全てが恐い。何時かその口で恨み事を言われるんじゃないかって思うと、僕は怖くて仕方が無いんだよ!」
「……」
「周りの皆には、君が零夢とそっくりだから、区別しないと駄目だからなんてカッコつけて言ってるよ。君を零夢と同じに見ない為だなんて、御世辞にも褒められない嘘を言ってね……。でも本当は違う。僕は霊夢が怖い。だから僕は「―――っふっっっざけんじゃないわよッ!!」 …ッ!?」
今まで黙って聞いていたけど、もう我慢の限界。思いっきり曲がった背中を蹴り飛ばしてやった。
何よなによなによ!? 口を開けば零夢零夢零夢! いい加減にしなさいよ!
「さっきレミリアの所で全部聞いて来た! 確かに大和さんはとんでもないヘタレ野郎のふにゃチン野郎だったわ! 今まで私が見てきた中でも一番どうしようもない人だった!」
我慢ならない。私だって、今まで大和さんを騙してきた。イイ子面して生きてきた。嫌われるのが嫌で、必死に努力してきた。
「おまけにとんでもない変態だし! 風呂は覗くし服は剥ぎとる! それに何よ四兄弟って!? 頭おかしいんじゃないの!?」
「――ッああそうさ! 僕の頭はどうかしてるさ! だから霊夢のことだって「変態がナマ言ってんじゃないわよッ!!」 …ッヅ!?」
振り向いていた大和さんを、今度は思いっきり殴ってやった。地面に倒れ込んだ所に覆いかぶさって、服の襟元を力いっぱい引っ張って私の目を見させる。他の誰でもない、私だけを見させるために。
「それでも大和さんは、ここまでやって来たじゃない!!」
「……ッ」
「全知全能じゃない!? 失敗した!? 守れなかった!? ―――それでもここまで結果を残してきたんじゃないの!? やってこれたんじゃないの!?」
「……ッ!」
大和さんの瞳が、次第と揺らぎだした。その頬に、水滴がポタポタと落ちた。誰のかなんて、そんなの解りきってる。
「全力で生きて! 全力で駆け抜けて! 必死に守ろうとしたんでしょ!? それでも守れなかったのなら、それはもう仕様が無いじゃない!」
「…っそれでも僕は、守りたかったんだ! 助けたかったんだよッ!」
大和さんの瞳からも、地面に向かって筋が出来あがって。その筋を通るように、涙が幾つも流れ出していく。
「煩い! 男が喚くな!!」
「―――っ」
それでも私は自分を止めるなんてしない。大和さんが自分で気付けないのなら、私が気付かせてあげるしかない。他でもない私達自身が。
「失敗して怖くなった!? 守れなくて嫌になった!? ―――ふざけんな! ミスしたら次でしょ!! そうやってここまで生きてきたのは貴方自身じゃないの!」
大和さんが言われてない言葉を、私がこの口で言ってあげる。気付いて無かったなんて言わせない。そんなこと、博麗の巫女の名において許しはしない!
「それに……大和さんはもう、ずっと彼女から感謝されてるじゃない! 想われてるじゃない!」
「…あ……あ゛ぁ゛……」
「どれだけ想われていたか、気付かないわけないでしょう!? 言われなかったからって、だからって気付かないはずの朴念仁でもないでしょう!? 貴方は全力で想われていたのよ!!」
「う゛っ、ぐ……ぅ、あ゛ぁ゛……ッ!」
「それを何時までも引きずって、私に重ねるな! 私は零夢じゃない! たった一人、貴方のことを想っている博麗霊夢なんだから!」
そこまで言ったところで、大和さんに抱き着かれた。思いっきり、力いっぱい抱きしめられた。
声には出さないけど、それでも身体は酷く揺らいでいる。男の意地、と言う奴なのかも。
……ヘタレやらなにやら、だいぶ酷いこと言ったけど……大丈夫、よね? 怒ってない……わよね? 少し不安だ。
そうやって考えられるほど冷静になった私の方は、気付いた時にはもう涙が止まっていた。だから大和さんが泣きやむまで、ずっと背中に手を回して待った。大きいけど、私でも十分支えられる大きさの身体をずっと抱きしめていた。
「……ごめん」
「え、あ、その……私も…」
もう十分に泣いたのか、少し落ち着いた大和さんが抱き着いたまま話掛けてきた。
少し……恥ずかしい。大和さんの膝に乗ってるし、私の肩に顔を置かれてるし…。あ、いや! 別に嫌だとかそんなんじゃなくて! ただこんなところを誰かに見られたら嫌だなぁ……なんて。
「ううん、霊夢は悪くないよ。悪いのは、何時だって僕だから」
「またそんなこと言って……もう一回殴っとく?」
聞きわけの無い人は嫌いだ。
「はは、勘弁してよ。あれは痛かった」
私だって痛かった。なんと言うか……心が今になって痛くなってきたわ。私、もしかしてとんでもないことしちゃったんじゃないかしら…?
「霊夢は、何で零夢のことを知ってるの?」
「…紅魔館で大和さんの過去について色々あったとき、断片的な記憶が流れてきたの。……あ、レミリアを責めないでね? 私が無理矢理言わせたんだから」
そう言うと、大和さんはむぅ…と唸っていた。
霊夢がいうのなら仕方が無い。そう言ってくれたことが、なんだかとても嬉しく感じる。
「たぶん、私の中にあの人がいる」
「え……」
でも嬉しいことは置いておいて、伝えておかないといけないことがある。それを伝えておかないと、また大和さんが色々と悩む羽目になるから。
「あの人の記憶なんだけど、とんでもない力を持ってるの。レミリアは亡霊とか言ってたわ。……でも、絶対表に出さないから」
「……なんで?」
「…だって、大和さんを取られたくない」
「へ……」
「私の家族を見ず知らずの人にあげるなんて嫌……って、大和さん?」
「え、あ…いや、なんでもないですよ?」
何んで敬語なの? 記憶の中の大和さんもそうだけど、何だか変な時にそうなるのよね。
「私は私、博麗霊夢なの。他の誰でもないの。……そうよね、大和さん」
「……うん。霊夢は、この世でたった一人の霊夢だよ。…産まれてきて、僕と出会ってくれて、本当にありがとう」
「うん!」
この夜、私と大和さんの間にあった壁は完全に無くなった。それについて誰かに『良いことだね』 と言われると、そうじゃないと私は返すわ。
だってこんなにも嬉しいことなのよ? それこそ言葉にできない。そう言うものじゃない?
鉄は熱いうちに打っておけ、じらいです。若干熱過ぎですが…あ、私だけですか。
前話を投稿してから早二日、出来たてほやほやの結ですが、どうでしたでしょうか…? 自分としては、最後の霊夢と大和の部分には満足いってます。大和のことはキングオブヘタレとでも呼んであげて下さい(笑) 霊夢は…まぁ、内容のままです。最終的にどうなるかは、伊吹伝のラストで。
次回は一話日常を挟んで、紫の過去話が始まります。オリジナルになりますが、皆様お付き合いしていただければ光栄ですorz
それではまた次回の後書きで