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東方伊吹伝  作者: 大根
終章:終わりは始まりの桜
156/188

幽霊/母/恋

どうしてこうなった



生命を感じさせる緑の葉。その緑色の葉の中、気の早い者たちはその色を緑から朱へと変えようとしていた。視界いっぱいに紅く染まる紅葉。今年もまた、美しい紅葉に恵まれることだろう。その後は雪が踊り、桜が咲く。


季節は秋初頭。幻想郷の熱い夏が終わりを迎えようとしている今日この日、白玉楼では亡霊姫、西行寺幽々子が真剣な面持ちで碁盤へと向かっていた。向かって座る席に座布団は敷かれてあるが、誰も座っていない。常時ならば彼女の剣の指南役兼庭師の少女が座っているのだが、彼女はつい先ほどから夕飯の準備に忙しく動いている。


なので黒と白、両方の碁石を手元へと置き、一人で碁を打っていた。

その碁盤模様は、既に黒が白の碁石を囲いこむように置かれており、勝敗が着いているように思われる。


「先手を取ったのは紫。遙か昔から囲い込みを始め、既に勝敗を決めている。先手優利、碁石の色は黒―――ふふ、真っ黒なんて、紫には似合わないのだけど」


次に白を一子持つ。普段ならばここで投了するところだ。この劣勢をひっくり返すのはほぼ不可能。出来るとしても、それこそ奇跡が起きなければ勝ち目はない。

しかし、それでも長考の後に石を置いた。白を模した青年を想うと、どうも簡単に諦めるには失礼だと幽々子は思ったのだ。


「後手を取ったのは大和さん。既に白は囲いこまれ、敗北は必死。でも持ち前の悪足掻きは他のそれを圧倒する。でも挽回には、それこそ蜘蛛の糸を綱渡りするよりも難しい」


白の石を盤上に打ち、再び黒を手に、白を追い詰めるように置く。白は更に勝機を失い、盤上全体を黒が支配していた。



(……やまとさんではゆかりには敵わないのかしら)


元より、黒は白よりも早く動いていたのだ。囲碁では黒は6目半のハンデを持つが、現実では対戦相手にハンデなどくれてやるわけがない。元々の地力すら遙かに違うのだ。その黒を白が負かす。それは言葉通りあり得ないこと。


(でも……)


それでも幽々子は考え続けた。何時も自身の可愛い従者を苛め、自分よりも幼く見えるにも拘らず年上だと言っていた青年。冥界にまで届いてくる青年の逸話を聞いていると、奇跡程度・・・・なら簡単に起こせてしまうのではないかと思ってしまったがために。


「―――あっ」


そして遂に、彼女は長考の後に見つけた。白が黒に勝つ最後の道を。蜘蛛の糸よりも遙かに細く、しかし決して折れることの無い道を。盤上に奇跡の、まさしく神の一手と呼ばれるほどの奇跡の一手が打たれた。


彼女は盤上の一手に満足気に頷き、立ち上がった。そして縁側へと向かい、そこから見える大きな、一際大きな桜の木を眺めた。



―――六目半のハンデが無ければ、自分があげればいい。


「私自身の希望も、この際果たさせて貰おうかしら? 決して咲かない西行妖。あの桜を餌に、二人を約束の日へと誘う。さすれば二人の因縁は終わりを告げ、あわよくば私の夢も叶えられる。来年の春はあの桜の下で宴会が開ければ……」


幽々子は常々、人生は楽しく在るべきだと考えている。苦しむのは嫌、辛いのはもっと嫌、痛いのはもっともっと嫌。せっかくこの世に生を受けたのだから、楽しく生きなければ意味が無い。幽々子にとっては、楽しく死んでいなければ意味が無い。誰が好きで辛い行き方を選ぶものか。


(紫には悪いけど、今回は大和さんに味方させて貰うわ。だからといって、大和さんにも勝たせてあげない。でも笑顔の裏で苦しんでいる紫を見るのはもう嫌。そして貴方の下で苦しむ大和さんを見るのも嫌)


故に彼女は動く。不器用な生き方しか出来ない彼女に人生の楽しさを教えるために。走って進むことしか知らない彼に、ゆっくり歩く人生の楽しさを教えるために。


「二人揃って全部吐き出しちゃいなさい。きっと……いいえ、絶対楽になるわ」


善は急げ。彼女は夕食を作っている妖夢の下へと急いだ。これからしなければならないことは沢山ある。その為にまずは―――


「あ、幽々子様……って! まだ出来てないんですから食べないでくださいよ!」

「いいじゃない、沢山作るんだから」

「そう言う問題じゃないですって!」


お腹いっぱいになるまで食べるのだ。これもまた、彼女にとって楽しい人生の一部なのだから。


「あ、そうだ妖夢。後で博麗神社の大和さんの所まで、お使いに行って来てくれない?」

「え゛!? な、なにをしにですか?」

「ん~……宣戦布告?」

「―――はい?」







◇◆◇◆◇◆◇




~混沌な人里~




「にゃはははは! 久しぶりだねぇ!」


目に映る景色がクルクルと回転している。ある人物に手を握られた僕は、まるで太陽の周りを回る地球のように回転させられていた。ただし超高速、文のスピードなんて目じゃないくらいの速さだけど。霞む視界、捻じ切れ寸前の三半規管、満面の笑みの母さん……。いったい時速にして何キロ出てるのかな?


ハハッ、こりゃあ参った参った。―――参ったからその回転を止めて!?


でも僕を振り廻す人の顔はとても笑顔で、とてもじゃないが不満なんて言えるわけがないんだよね。振り回されている状況的にも。


「大和やまと~! わたしのやまと~!」


『わたしの大和』 の表現は間違って無い。確かに間違って無いけど、そこに感じる違和感はなんだろう。素直に貴女の大和です、とでも言えば降ろしてくれるのだろうか。勘だけど、そう言うのは何故か駄目な気がする。どうしてだろうね?


「漸く会えたよ可愛い可愛い愛息子! もう離さないぞ!」


出来れば手を離して貰いたいです。今すぐに。あまりの回転速度に胃の中の物が噴き出してしまいそうだから。僕だって母さんの顔に胃の中の団子をぶちまけたりしたくないし……ゥオェ


「吸血鬼とやり合ったんだって? あんまり私を心配するんじゃないよ! お前は小さい癖に昔から無茶ばっかりして…」


話を聞いてよ。……あ、僕が喋れないから意味ないか。すごい勢いで回されているせいか、言葉なん出せるわけないから。出ていくのは涙と鼻水、あと泣き言。


それに小さいのはもう昔のこと。今の僕に比べたら、母さんの方が小さいよ。生意気言うなって叱られるだろうけど、これ事実。頭一つ分ほどは僕の方が大きいんだから。


「それに死に掛けたんだって!? ルーミアから聞いたよ……」


現在進行形で死にそうです。あ…また回転スピードが……


「でも母さんが来たからにはもう大丈夫! 母さんがお前を守ってやる!」


だったら今すぐその手をはなしててててててて!? ―――ってあれ?




「―――まったく。天下の往来でなにをやっているのですか、貴方は」

「せ、せんきゅぅー…・・ぅぇ。め、目が回……」


今の今まで母さんに振り回されていたはずの僕は、気付けば咲夜ちゃんの真横に座らされていた。おそらく時間を止めて助けてくれたのだろう。

助けて貰ってなんだけど、三半規管がお陀仏したようで座ってもいられない。少し寝転がっていよう。


「ぅっぷ……ありがと、助かったよ」

「いえ、正直迷惑でしたので。あと、どさくさに紛れてスカートの中身を覗こうとしないで下さい」


今の貴方なら……、とナイフを突き付けてくる咲夜ちゃん。言っておくけどこんな状態でそんなこと出来るわけがない。ただの不可抗力だ。それに見られたくないならもっと丈の長いスカートを穿けってあれ程注意しておいたのに。自業自得だ。


「…噛みますよ」

「見てないって。それに、アレは本当に痛いんだか―――プゲラッ!?」


あの歯型がくっきり付く噛みつきは勘弁―――なんて思っているのも束の間。寝転がっている僕に萃の弾丸が乗ってきた。そのまま押し潰され、背中に手を回されて―――!?



メキメキ……、メキメキ……グキ…?


「ォッ~~~ッ!? ぉ、折れる! 母さん息子の身体が折れるから離して!?」

「は~な~す~か~!」

「離してー!?」


背骨をへし折らんばかりの勢いで抱きしめられ、身体中の骨が圧力に悲鳴をあげ始めた。あまりの痛さに涙目になりながらも、胸に埋められた頭を押しのけるために、腕に力を込めて押し出した。しかし悲しいかな、どれだけ力を込めても引き剥がすことが出来ない。反対に抱きしめられる力は強くなっていくばかりだ。


「―――さ、咲夜ちゃんへるぷ! たちけて!」

「……はぁ」


半分以上泣きながら助けを求めると、見下されるどころか溜息を吐かれた。そんな目で見たところで、僕にはどうしようも出来ないよ。遙か昔、きっと神話の時代からも息子は母には逆らえないと言う法則があるのだから!

でも恥を忍んで頼んだかいがあったのか、気付いた時には再び咲夜ちゃんの横に座らされていた。今度は母さんとかなり距離をおいた場所に、だ。この辺りの気配りができるメイド長、本当に立派になっちゃって……。


「ム……、お前さっきから……何者だ!」

「私ですか? 十六夜咲夜と申します。紅魔館でメイド長をしております」

「そんなのどうだっていいんだよ! 何で親子の愛しみを邪魔する!?」

「(愛しみ……?) こちらに居られる大和様が『助けて』 と申されましたので、仕方なく。私も親子の絆を引き裂く真似など、本当はしたくないのですが……。悲しきかな、私は一介のメイド。大和様は私の仕える御方にとっては大切な御方。そんな方に『命令』 されれば、一介のメイド風情でしかない私には断ることなど出来ないのです……」

「ちょっ!? 何を勝手なことを…!」


掌で顔に影を作り、ヨヨヨと泣いたフリをしている咲夜ちゃんだが、その手に隠れた顔は、まさにザマァ(笑) といった感じに歪んでいた。この位置からなら見えるんだよ! と言うか、見せてるだろ!?


(盛り上がってまいりました)

(おまっ……、憶えてろ。後で嫌ってほど泣かしてやる)

(まぁ怖い。お母様に言いつけようかしら)

(……止めておいた方がいいと思うよ。双方共に碌なことにならないだろうから)

(盛り上がってまいりました!)

(オイ!? 聞いてた!?)



「…大和!」

「うぇ近い!?」


それなりに離れていたにも拘らず、気付けばまた視界いっぱいに母さんの顔があった。彼我の距離を一瞬にして詰め寄ってくるなんて、流石は地上最強のmy mother。圧倒的じゃないか……


「久しぶりに会えたって言うのに、お前は嬉しくないのかい?」

「か、母さん近いって!」

「そりゃ近づいてるんだから近くて当たり前じゃないか! それよりも大和は嬉しくないのかい!?」

「う、嬉しいよ! そりゃあ久しぶりに会えて――「よ~しよしよしよし!」 首! 今度は首が折れるから!?」


頭を抱え込むように髪の毛をクシャクシャにされる。ああもう、なんなんだよ。今までこんなにされたことなんてなかったのに。何時も凛々しくて立派な人だったのに、大陸に帰ってから見る母さんは正直全然凛々しくないよ!? ……何百年も経ったから、母さんも変わったのかな?


「何でこんなに構うのか、考えてないかい?」


漸く解放され、座り込んだ僕の前に母さんが立って手を差し伸べてくる。その手を握って立ち上がると、にこにことした顔見下ろす形になる。


「考えてる。だって母さん、昔みたいに大人っぽくないし。まるで子供みたい」

「ハハッ、違いない! でもこうするのにも理由があるんだぞ~? ……伊吹家の家訓その一!」

「……は?」


なんだそれ? 家訓なんて聞いたことないんだけど。


「殴られたら!?」


……ああ、子供の頃に口酸っぱく言われ続けたことが家訓なわけなんだね? だったらそうと言ってくれればいいのに。


「二度殴り返す」

「二度蹴られたら!」

「四度蹴り返す」

「売られた喧嘩は!」

「三倍で買え!」

「母さんは!」

「……?」

「か あ さ ん を!?」

「し、心配させるな……? 悲しませるな、かな?」


「母さんは心配したうえに悲しんだぞ大和ーーー!!」

「だからなんで抱き着くのーーー!?」


ぬわー! と小さい身体全体で絞めてくる……いや、冗談抜きで締まってるから!


「母さんはちょっとオカシイよ!」

「可笑しいことはない! 寂しかったから息子に抱き着いた! さぁ何が悪い!?」

「悪いとかじゃなくて、普通は息子が『寂しかった~』 とか言って母さんに甘えるんじゃないの!?」

「……おお!」


……いや、『おお!』 とかじゃないんだけどね。

一度考えるように頭を捻った後、母さんは僕から離れていった。漸く解ってくれたのか、とホッとして立ち上がると、目の前で母さんが満面の笑みで腕を広げていた。


「さあ!」

「……」


これはアレか? アレなのか? 喜んで抱き着くところなのか? 僕が言ったのをそう解釈して、僕から抱き着くのを待っているとでも言うのだろうか?


「さあさあさあ! 母さんの胸に飛び込んでおいで!」

「謹んで辞退します」

「なんで!?」

「いや、ほら……もう十分抱擁したよ。うん、もう寂しくない」

「恥ずかしがらなくていいんだよ? 豆粒みたいに小さかった頃を思い出して、飛びこんでおいで?」

「うん、それ無理です。とっても恥ずかしい」


周囲の人からの目線で既に恥ずかしいよ……。ああ、今の人里の住民には良い印象しか持たれてなかったのに……。忍び笑いと言うか、微笑ましい笑みを浮かべないでそこのおじさん。おばちゃんも、抱き着いてやりなとか言わないで。あとメイド、ニヤニヤすんな。ブッ飛ばすぞ。


「でもよくよく考えるとアレだね、抱き合うことに変わりは無い」

「…! いやいやいや! 変わりはあるから! 僕の骨に代わりは無いけど、代わりはあるから!」

「やまとーーー!!」

「あぁ……、結局こうなるの……」


三度目の熱い、熱過ぎる抱擁。もういいや、母さんが満足いくまで脱力しておこう。



……ま、まぁ僕も寂しかった、し……。かっ、母さんには言わないけどねッ!!






◇◆◇◆◇◆◇






「う~……咲夜め、どこで油売ってるのかしら……。帰りが遅いじゃない」

「咲夜じゃなくて、一緒にいるであろう大和でしょう?」

「ち、違うもん! 御使いに出た咲夜のことだもん!」

「お姉様って素直なのかそうじゃないのか、ときどき理解に苦しむよね。小悪魔、紅茶のおかわりちょうだい!」

「はい、ただいま」


大和が、じゃなくて咲夜遅い! もう何時間待たせてると思ってるのかしら。今日は眠たいのに昼間からずっと起きてるって言うのに、これじゃあ時間の無駄じゃない。漸く大和を数日迎え入れる準備が出来たっていうのに……。


「う~……」

「そんなに焦らないの。直ぐに来るわよ」

「でもパチェ、なんだか嫌な予感がする」

「レミィの嫌な予感は当たらないわ。実際に視てもないのに、勘でモノを言うなんてらしくないわよ。まぁそれも仕方ないのかもしれないけど」


お茶の席にも拘らず本を読んでいたパチェだけど、意味深に私を見つめてそう言ってきた。……なによ、その『全部解ってるわ』 とでも言いたげな笑みは。


「レミィは大和のこと、大好きだものね」

「―――あ、あぅ……~~ッ!」

「あはは! お姉様、お顔真っ赤!」

「わっ、笑わないでよぉ……」

「わぁ、本当に。お譲様のお顔、真っ赤ですね」


な、なによ、みんなして私を弄って……。

クスクスと三者三様の笑いに耐えきれなくなって、私は帽子を深く被って顔を隠した。きっと顔は真っ赤だ。恋する乙女は純情なのよ、こんなの耐えられないわ。


「そ、そう言えば大和がお父様にやられた時、パチェが一番取り乱したって聞いたのだけど!?」


なんとか私から話題を逸らそうと、違う話題を振ってみる。私だって碌に長生きしてるわけじゃないの。自分から話題を逸らすことくらい、何とでもないわ!


「……ああ、アレね。そんなこともあったわ」

「ふふん! ネタは小悪魔から貰ってあるよ? さぁ白状なさい! 何であんなに取り乱したのかを!」


小悪魔は偉い。小悪魔は素晴らしい! 何せ私が聞いてもいないことまで事細かに話してくれたから。何時もなら話半分に右から左に聞き流すところだけど、今回だけは素晴らしい話を聞かせてくれたのよ!


なんと、あの冷静沈着な動かない図書館が泣いて取り乱したというのだ! パチェも大和と仲良いからね、取り乱しもするのだろうけど……。でも本人の口から聞いてやるのだ! 何時もやられっぱなしの私だけど、今回だけは一本取らせて貰うわ!


「知りたい?」

「もちろん聞かせて貰うわ」

「本当に?」

「くどいわよ。さぁキリキリ……「好きだから」 ―――え?」

「私が大和の事、好きだからよ」


―――――え?


「な、何言って―――」

「ごめんなさいレミィ、黙ってて悪かったわ。でもあの時気がついたの。私は大和が好きなんだって」

「うっ、うそだ!」

「嘘じゃないわ。本当よ」


…う、ウソよ……。うそ、うそに決まってる。ど、どうせ何時もの冗談なんでしょ!? へ、へーんだ! 騙されないわよ!


「嘘じゃないわ。今度、大和に告白するつもりなの」


だってパチェが大和と、大和を……? だ、駄目……


「一緒にいる時間も長かったし、当たり前といえば当たり前かもしれないわね。あんなだけど、見どころの多い男だし。なんと言っても、私のことを大事にしてくれそうだし」


―――うっ、ウソだ嘘だ、ウソだ……駄目、止めて……。親友・・のパチェが、大和を好きだなんて、そんなの嫌だ……。そんなの絶対、お願いだから嘘だって……。だって大和は、大和は私だけが……。


でも頭の冷静な部分が、パチェと大和はお似合いだと言っている。図書館で大和と一緒に本を読んでいた姿が、妙に絵になっていたのも憶えている。魔法を介した二人だけの時間を遠くから見つめては、その中に入れないもどかしさを感じていたことも。


「どうするレミィ? 私は正直に言ったけど」

「―――ッ!」


なっ何か、何か言い返さないと―――!


ここで何か言い返さないと、取り返しのつかないことになる。止めて! でも、止めろ! でも何でもいい。だけど何も言い返せなかった。考えれば考えるほど、二人がお似合いに思えてしまって。

私がパチェより勝っているのは、なに? 身体は小さくて、胸もない。女性としての部分なんて、相手にならない。魔法の助けも出来ないし、魔力もあげる術を知らない。私がパチェよりも勝っている部分なんて―――何もない。


そう思うと、背筋が震えた。大和が盗られてしまうことが凄く怖くて、寒さと震えでどうにかなってしまいそうだった。



「―――パチュリー、からかい過ぎ。お姉様を泣かせないで」

「……私も驚いてるわ。まさか泣かれるとは思ってなかった。……レミィ、大丈夫?」


「……え?」


「お姉様、パチュリーの話は全部ウソだから。心配しなくていいんだよ?」

「――ええええええ!? ウソ!? やっぱりウソだったの!?」

「あ、泣きやんだ」


泣きやんだ……? ってうわぁ!? な、なんでテーブルクロスがびしょ濡れ……っ。もしかして、これ全部私の涙…?


「心臓に悪いわ、レミィ。まさかあんなに勢いよく涙が流れ出るなんて……」

「しかもお姉様、真顔でだよ? あんな風に泣ける人、わたし初めて見た」

「わ、私も初めてです……。で、でもこれが愛の為せる業なんですね! 素敵です!」

「スカートまで濡れてるじゃない……。もうパチェ! 意地悪なウソは吐かないでよ!」

「フフ、考えておくわ。それよりも服を着替えて門に向かいなさい。大和たちがもうすぐ着くわ」

「…! 三人とも憶えてなさい! 後でお仕置きだから!」


ほんとに、ふんとに。意地悪ばかりするんだから。言って良いウソと悪いウソくらい判別しなさいってのよまったく。でももういいもん。もう騙されないんだから!


でもとりあえずは服を着替えて、大和を迎えに行こう。今日から数日ここで過ごすのだから、うんと甘えてやろう。


……パチェもそうさせようとしてくれたのかしら?

……うん、きっとそうだ。パチェは出来る女だから、私のことをちゃんと理解してそうしてくれたに違いない。後でお礼を言っておいたほうがいいわね……。


「お譲様ー! 咲夜さんたちが帰って来ましたー! 合計三人でーす!」


よーし! じゃあまずは抱擁から始めよう! って三人?


「お前が噂の吸血鬼かい?」

「……誰?」


なにこの角生えたチビ。私の大和に肩車されているのだけど……












蝶オマケ ~おぜうが着替えに行った時の会話~


「でで? パチュリー、ホントの所どうなの?」

「5分考えてみたわ」

「なが!?」

「ないわね」

「四文字ェ……」



パチュリーとのカップルだと思いました? 残念ウソでした! じらいです。アレですね、自分を追い込めば書けると気付きました。書けないと活動報告に書けば、書かざるを得ない。自分を追い込むことを強いられているんだ! ってやつです。効果は見ての通り、なんとか投稿できました!


でも今回は場面は跳ぶわ詰め込み過ぎるわで話になってないかも。 始めの幽々子様の所は全力出せたと思うのですが、その後は何故かああなってしまいました。なんともまぁ、変な親子の再会になってしまいました。猛省してます


今回からは終章ということで、大和以外の視点も多くなる予定です。紫や霊夢、あとは輝夜といった面々を予定してます。特に紫は長くなると思います。後付けサイコー! ……いえ、なんでもないです。




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