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東方伊吹伝  作者: 大根
断章:未来の子供たち
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新しいメイドと大魔導師

咲夜さん初登場。キャラ崩壊してます

『こんにちは大和。ご機嫌いかが? 子育てに忙しいと聞いた貴方の為に、息抜きの為のお茶会でも開こうと思っているの。昼頃に開くつもりだから、巫女には留守番でもさせていればいいわ。じゃあ待ってるわね。―――ああ、門を潜ったら能力を全開にしておきなさい。これは絶対よ』




こう書かれた手紙を蝙蝠が持ってきた翌日、僕は紅魔館に行くために豪雨の中を飛んでいた。手紙に合った通り、霊夢は神社で留守番だ。巫女修行をしておくようにと言いつけてあるのだけど、どうしていることやら……。



あの縁日のあと、僕らの関係はまるで壊れた歯車のようなちぐはぐになってしまった。原因は僕が急に霊夢への対応を変えたからだ。今までとは違い、まったくの他人として扱われることに霊夢は戸惑っているのだ。



―――どうして?



霊夢はそんな雰囲気を醸し出すことが多くなった。僕もそんな不安そうな顔を見つけては『どうかしたのか?』 と尋ねてはいる。でもその聞き方も今までとは違うので、霊夢の不安そうな顔は尽きない。……きっと時間が解決するだろう。それまで耐えて欲しいと思う。霊夢の未来を考えるのなら、これが一番だと思うから……。



前が見えないほど降り続く雨に、少し気が重い。



「明日にしよう、って分身に言付ければよかったなぁ……」



魔法で覆っているから香霖堂で貰った一張羅が濡れることはないけど、それとこれとは話が別だ。これだけ雨が降っていれば、濡れてなくても濡れた気になってしまう。



「じめじめして気持ち悪いし……今日は早く帰ろう」



どちらにしろ、今の不安定な霊夢を一人で置いておくことは少し不安だ。




◇◆◇◆◇◆◇




「や、美鈴。……酷い雨だね」

「こんにちは、大和さん。本当に酷い雨ですよ。傘を差していても濡れるんですから」



はぁ、と溜息を吐く美鈴の服は端々が濡れている。そんな美鈴と打って変わって、僕はまったく濡れていない。そんな美鈴が少し恨めしそうに見て来るので、熱風を送って服を乾かしてあげた。



「ありがとうございます。…相変わらず、こういう魔法は得意なんですね」

「家庭的な魔法使いとでも呼んでよ」



幻術以外はからっきしな僕だけど、一般生活に使える魔法は得意だ。もっとも、魔法使いなら誰でも使えて当たり前のようなものばかりだけど。戦闘に使うことは出来ないけど、修得しておいて損はないと言われて修得したものだ。まぁ先生の言った通り、損どころか得ばかりなんだけど。



「じゃあ僕は中に入るね。雨の中辛いだろうけど、門番頑張って」

「気遣ってもらってありがとうございます。……そうだ、能力の件は憶えてますよね?」

「ずっと発動しておけってことだよね? 大丈夫、憶えてるよ。でも何でそんなことを?」

「それは入ってからのお楽しみです。大丈夫ですよ、大和さんなら」



非常にありがたい言葉だ。君なら出来ると言われて喜ばない人なんていない。でもね、何故能力を常に展開しておかなければならないのか、僕にはまったく心当たりがないよ。言われたからには一応それに従っておくけどさ、何でなのか教えてくれたっていいじゃないか。



少し愚痴りながら門を潜り、大きな扉を開けて館の中に入る。



「……おかしい、館の中が静か過ぎる」



館に入った瞬間、違和感を僕の身体を包み込んだ。物音一つしない、まるで無の中にいるみたいだ。騎士団や数々の実戦を経験している僕の身体は、考えるよりも早く戦闘状態に移行している。気を纏い、索敵の術式を四方へ巡らせる。



「レミリア達の魔力は感じ取れる……。よかった、何かよからぬことでもあったのかと……ん?」



廊下へと続く扉から一人の少女が出てきた。見た感じ、霊夢と同じ年齢だろうか。銀髪をした小柄な少女だ。メイド服を着こなしていることからメイドだと思うが、こんな子共は見たことが無い。あの時ならいざ知らず、幻想郷でのメイドは妖精たちがやっている。何せここは吸血鬼の根城だ、目の前の少女のような『人間』 がこの紅魔館にいることはありえない。



「あれが対象……新しい私の初仕事」



コツコツと靴音を立てて近づいてくる少女がそう言った。成程、信じられないことだけどレミリア達の新しいメイドみたいだ。初仕事と言うのは客人ぼくを案内することなのだろう。


無表情で、まるで機械のように歩いてくるメイドをじっと見つめ続ける。どれ、紅魔館の小さなメイドがどれだけ仕込まれているか確かめてみようじゃないか。執事経験のある僕としても気になる所があった。



――――――いや待て……だとすると、今も感じるこの静けさはいったい……?



「排除する」

「ッ!」



目の前で僕を見上げていた少女が一転、鋭利なナイフを突きたてようと迫ってきた。



「…! 私の時間の中で動いた!?」

「いきなり何を!?」



突き出されたナイフを躱して距離を取る。少女は驚いたように声を上げているが、それは僕も同じだ。ナイフを突き出された速度が下級妖怪のそれだったから良かったものの、師匠たち上級クラスだったらと思うと……僕もまだまだ修練が足りない。



「でもっ!」

「待て! 話をッ……問答無用か、なら!」



女子共は関係ない。闘う意思を持った者は皆等しく戦士であり、故に加減は許さぬ。


構えを取り、少女を迎え撃つ。師匠達の教えの通り相手をさせて貰おう。でも僕だって弱い者虐めをするつもりは無い。首裏への当身で眠って貰おう。



「フッ…ハァッ!!」



急所を狙ってくるナイフを寸での所でのらりくらりと躱していくと、先程まで無表情を装っていた顔に陰りが見えだした。僕との実力差に気付いたのだろう、顔を歪めている。どうやら機械と感じたことは訂正する必要がありそうだ。それでも闘う意思を下げないのは立派だが……無謀でもある。実力差のあり過ぎる相手と闘うには事前に策を練っておくか、逃げるかしかないのに。



「……なかなか急所を見せては貰えないね」



しかし未熟ながらにして見事。全力には程遠いとはいえ、僕の動きにしっかりと身体を合わせている。僕が首裏への一撃を狙っていることに薄々気付いているなんてね。この子を試したくて態と見せているとはいえ、戦闘中に相手の真意を読みとって体捌きを行うなんてこの年齢にしては出来過ぎだ。おそらく霊夢でも出来まい。だとするとこの子、



「厳しい修練の日々を過ごしてきたのか、はたまた実戦経験豊富なのか」

「ッたあ!!」

「聞く耳持たず、ね。その歳にしては規格外だけど……もっと周りに気を配らないと」

「あっ――――――」



隠していた魔力糸を幾重にも重ねて面とし、それで少女の首裏を叩いた。ぎりぎりとはいえ目視出来る程度に抑えて幻術を掛けていたのだけど、やはりここまでは見抜けなかったのか。でも、それを抜いたとしても……



「面白い。そうでしょう、大和。この子、途轍もない才能があると思わない?」

「……遅かったじゃないか、レミリア。それにいきなり襲ってくるなんて酷いよ」

「ごめんなさいね。でもこの子に貴方の強さを教えるのはこれが一番だったの。それに遅い速いの理屈ではないわ、この子の前ではね。その子をおぶって頂戴、お茶の準備が整っているわ」

「僕の強さって……別に見せびらかす物でもないんだけど」



何故か楽しげに肩を揺らして歩くレミリア。その小さな背中を追うように、背中に先程の少女を背負って続く。さて、そろそろこの子の説明があっても良い頃合いだと思うんだけどな。そう思っていると、前を歩くレミリアから声が上がった。



「十六夜咲夜。私の新しい従者よ」

「…本名じゃないでしょ」

「解る?」

「うん。この国の人間じゃなさそうだし」

「私が名付けてあげたの。私に仕えるのだから、全てを捨て、全てを私に委ねなさいってね」



それは……あまり好きなやり方じゃないな。声には出さないけどそう心で思う。



「……安心していいわ。この子は元々、吸血鬼と闘う為に仕込まれたらしいの。でも既に空想上の産物に過ぎない吸血鬼を外で見つけることは不可能。彷徨っている最中、気付いたら幻想郷にいたらしいわ。出会った当初はいきなり殺されかけたけど、今じゃ私の従者」



僕が難しい顔をしているのが解ったのだろう、レミリアはそう付け足した。居場所のない少女を引き取る感覚にでも近いのだろうか。でも一度殺されかけた相手を身内に引き込むなんて流石は現当主レミリア・スカーレット。あの馬鹿親父とは違って懐が深い。



「……って、ちょっと待った。だとすると、この子を育てた何かしらの人物やら組織やらがあるはずだ。それについては?」

「な~んにも解らないわ。魔女狩りを行っていたテンプル騎士団とその一派か、はたまた何処か別の組織か。何も解って無いのよ。この子自身、この歳では身の丈に合わないほどの卓越した殺人術しか身につけてなかったし。ここまで常識を育てるのに執事長クラウスも苦労してたわ」



それはまた……執事長も苦労をしたんだろう。僕がむりやり執事の真似事を教えられた時も……いや、思い出すのは止めておこう。あの狼執事長の怒った姿なんて、思い出しただけで震えが止まらなくなる。


でも一番肝心なことが判明していないのか……。まさかとは思うけど、またあの連中と会うなんてことは……。



「大丈夫よ大和。今のところ、そんな運命は視えてないから」

「……はは、なら安心だ。なんと言っても、運命を操る我らがお譲さまの御言葉だ。これほど安心出来ることは無いね」



そう言って、腰に手を当てて自信満々に言いきるレミリア。当主になったとはいえ、あの頃とまったく変わらない仕草が微笑ましく感じる。そんな見ていて微笑ましい笑顔を浮かべている頭を、僕は軽く撫でてやった。



「……こうされるのも、なんか久しぶりに感じるわね」

「そう?」

「そうよ。だって大和、神社に住み着いてからは特に来なくなったもの」

「住み着いたって……そんな言い方はなんかアレみたいで嫌だね。お兄さんがいなくて寂しかった?」



既に手は動かしていないけど、掌には柔らかい髪の感触が伝わってくる。ぴょんぴょん飛び跳ねたり、左右に揺らしたりと、レミリアが自分で頭を動かしているのだ。まったく、何時まで経っても子供なんだからさ。



「そりゃあ、旦那様がいなかったら寂しいわよ。何時になったら紅魔館の当主の座を引き継いでくれるの?」



前言撤回、やっぱ色々とダメだこの子。





◇◆◇◆◇◆◇





「ヤマトヤマト、今日は泊まっていくの?」

「いやいや、むしろ早く帰ってお風呂に入りたいよ。じめじめして、もう最悪だ」

「ここのお風呂に入ればいいじゃない。もう何度も入っているのだから、今更でしょうに」

「……遠慮しとくよ、パチュリー。向かいのお譲様が涎を垂らしている姿を見たら余計に、ね」

「お姉様……」

「……ハッ!? よ、涎なんて垂らして無いわ!」



フランドール、パチュリー、そして涎を拭うレミリア。小悪魔さんは仮眠中で、美鈴はこの雨の中も門番をしている。だから何時もと同じ三人でのお茶会だけど、今回は新しく参加者が増えた。



「お譲様方、紅茶をお持ちいたしました、ってうわぁッ!?」



ガッシャーン、と大きな音を響かせて紅茶をぶちまけた新しいメイド、咲夜ちゃんだ。紅魔館の高級な絨毯を紅茶が吸っていく……。あぁ、こりゃあ掃除が大変そうだ……。



「やーい、咲夜のドジっ子~」

「うぅ……も、申し訳ありません(キリッ」

「そんな顔したって、咲夜はドジなんだから。ほらほら、笑って~?」

「い、妹様! 止めて下さい!」



何を隠そうこの咲夜ちゃん、メイドの癖にメイドスキルが全く無いのだ。オマケにドジっ子属性付き。箒を掃けば箪笥が吹き飛び、雑巾を掛ければ床に穴が空く。そして更に、完璧なメイドであるかのように無駄に虚勢を張っている。実際の行動とのギャップが更に皆の笑いの種になっているのだけど、本人はそれを全く理解していない。駄目メイド、ここに極まると言うものだ。



「咲夜」

「も、申し訳ありませんお譲様! 今すぐ掃除を―――」

「あとで執事長に頼んでおくから」

「うっ……も、申し訳ありません……」

「いいのよ。時間を掛けて憶えていきなさい」



そう咲夜ちゃんに頬笑みかける姿は正しく先生のそれだった。まるで親が子供に向ける笑み。どうやらレミリアは本気でこの子を気に入っているらしい。



「それよりも咲夜、貴方の先生が見つかったわ」

「…! 本当ですか!?」

「ええ、そこに座っている大和よ」

「……え? 僕? ムリムリ! 無理だって!」



先生って言うのはその名の通り先生なんだろう。でも僕は既に手一杯もいい所だ。霊夢の相手に魔理沙ちゃんへの魔法講義(仮)、妖夢ちゃんとの模擬戦、そして僕自身の鍛錬。どれも外せない事ばかり。分身で数を稼げるとは言っても限度がある。



「最初は執事スキルを活かして咲夜を立派なメイドにして貰おうかと思っていたけど、それは執事長に任せておくわ。大和には美鈴と一緒にこの子に実戦経験を積ませてあげて欲しいの」

「時間的に無理だよ。それに美鈴が教えるのなら僕はいらないじゃないか」

「それがいるのよ、運命的に。それに『時間を操る程度の能力』 を持っているこの子の前に、時間なんて概念は通用しないわ。私の睨んだ通り、大和なら咲夜の時間に介入出来るみたいだし」



時間を止めるのをマイナスとして、自分が先に進もうとするのがプラス。+-でちょうど0、なんてレミリアは軽く言っているけど、とんでもない能力を持っているんだねこの子。ほとんど無敵じゃないか……。


あとレミリア、どんな運命だ、どんな。僕だって運命じゃないけど未来は視ることが出来る。この子がメイドとして立派に働いている未来だって視えているんだ。だったら別に僕が関与しなくてもいいじゃないか。



「大和には月に数度来て相手をして貰うだけでいいの。だって元々―――「あの、お譲様…?」 何かしら?」

「私も出来れば遠慮してもらいたいです……」

「……何故かしら? 大和は優秀よ。それに元人間でもある。貴方が得られる物は多いと思うのだけど」

「だからなんです。何と言いますか、私の能力が通用しないせいで苦手意識が……」



……つまりだ、僕は時間がないので無理。この子は僕に苦手意識が芽生えたから出来れば止めて欲しい。……結果が出たじゃないか!



「レミリア、この話はなかったことに……」

「駄目よ。咲夜、貴方も私の従者になるつもりならもっと強くなりなさい。その為に、大和の教えを受けなさい!」

「本音は?」

「そうすれば会う機会が増える…ってパチェ!? 何言わせてくれるの!? とりあえず咲夜! 貴方は教えを受けなさい! これは命令よ!」

「そんなご無体な!」

「ねね、ヤマト。お姉様たちなんてほっといて遊ぼうよ」



出来れば僕もフランの言う通りにしたいよ。こんなことに付き合わされるくらいなら、今は霊夢の傍に居てやりたいし。図書館にだって小悪魔さんに会いに……もとい、本を読みに行きたい。でもレミリアは逃がさんと言わんばかりに目を光らせているし、咲夜ちゃんは助けを求めるようにチラチラ見てくるし。唯一中立のパチュリーは何時もの如く我関せずを突き通している始末。やっぱり僕の味方は何処にも居ないのだ!



「もうあれだ、月に数度くらいなら僕も時間を割くよ。それでいい?」

「それでいいわ! 咲夜もいいわね!?」

「……それがお譲様の命ならば」



うわぁ……凄い嫌な顔されてる。何で断ってくれなかったんですか! って言葉が聞こえてくるよ。僕も断れるのなら断りたかったけど、こうなったレミリアは何が何でも自分の希望を徹すからね。諦めるしかないんだ。咲夜ちゃんも従者になるのならその辺りも早く学んだ方がいいよ?



「伊吹大和。よろしく」



とりあえず先生になるのだから、と思い手を差し出して握手を求める。何事も信頼関係が大事だからね。妖夢ちゃんとの模擬戦よりも一方的なものになると思うけど、この子もいい物を持っている。……追い抜かれないようにしないと。



「……十六夜咲夜。よろしくしてやらんこともないです。ガブッ」

「ッアンギャー!?」

「ああ、咲夜は気に喰わないことがあったら噛みつく癖があるから注意してね。直しなさいって言っても聞きやしないんだから……」



それは主としてきっちりと直しておいてよ!



「咲夜! 何時まで噛んでいるの!? 大和を噛んでいいのは私だけよ!?」

「怒る所が違うッ!!」

「フンガーッ!」

「大和、あとで図書館の方へ来なさい。話をしましょう」

「そんなことよりも今助けてよ!? って、イタタタタタッ!?」

「フンッガーーーッ!!」





◇◆◇◆◇◆◇





「うぅ、手が真っ赤だ…。見てよこれ、歯型までくっきり。まったく酷い目にあったよ」

「相も変わらず、貴方は大和ね」

「……なんだろう、その言い方に酷く悪意を感じるのは」



紅魔館の大図書館。僕の所有物となっているけど、実際にはパチュリーの物のようになってしまっている。まぁ管理やら何やらを全部丸投げして、欲しい資料だけ貰っているから何も言えないんだけど。こんな広い図書館を一人でやりくりしている小悪魔さんには脱帽だよまったく。



「さて、じゃあ聞かせて貰おうかしら。貴方の『魔法』 を」



図書館に寄ったのはこのためだ。首根っこを掴まれ、無理矢理ここまで連れて来られたのはパチュリーが僕の魔法について理解するためだ。本来魔法使いと言うものは他人に己の魔法を晒さないのが普通なんだけど、僕らの間じゃそんなものはない。ずっと助けてきてもらっているし、それに先生の魔法は僕ら二人で組み上げたものだからね。



「じゃあまず最初。逆転術式アンチシール。まぁそのままの意味だね」

「事象を逆転させる術式ね……。使い方は?」

「秘密」

「……」

「いや、考えくらいつくだろ?」



障壁に付与して攻撃を跳ね返すとか、その他色々と使い勝手がいい魔法だ。



「じゃあ次に行くね? 次は――――――」



先生の編み出した魔法の完成系を次々とパチュリーに示していく。小さな巨人ネフィリム残片レムナント、その派生形である完全残片レムナント・エーリュシオン。そして集大成である奇跡の魔法『箱庭クレイドルガーデン』。まぁレムナントの魔法には裏バージョンがあるんだけど……それは言わないでおこう。僕だって使いたくないし。



「はぁ……」

「…? どうしたの、溜息なんて吐いて」



せっかく完成した魔法の説明が終わったって言うのに、溜息なんか吐いちゃって。どこか可笑しな所でもあるのかと思っちゃうじゃないか。



「溜息くらい吐くわよ。……どうもこうも、『逆転術式』と『小さな巨人』 以外、貴方の魔力量じゃウンともスンとも言わないものばかりじゃない」

「……あ、あはははは、仕方ないよねーこればっかりは。無い物ねだりだし。でも残片は使えるんだよ、驚いたことに」

「だとしても笑え無いわよ。だから最初に言っておいたじゃない、完成させても貴方じゃ使えないって」

「面目ないです」

「私に言われてもね……。魔力さえもっとあればなんとかなったのに」

「パチュリーなら使えそう?」

「……そうね、最後の『箱庭』 以外なら」

「これが地力の差か……」



パチュリーの言う通り。あの三つ以外、中級程度の魔力量しかない僕ではこれらの魔法は使いこなせない。箱庭なんて以ての外だ。使いこなすどころか、術式の起動すらしないだろう。それこそインチキでもしないかぎり。



「でも対策も考えてある。もう儀式用魔法陣の再構築だって終わってるし。今だって戦闘中でも描けるようにって、魔力糸の練習もしてる」

「そう簡単に行けばいいけど」



はぁ、と再び深い溜息を吐くパチュリー。そう思うのなら、あの時みたいにパスを繋いでくれればいいのに。そうすれば僕だってこの魔法を使いこなすことが出来るはず! ……そう言えばまだ繋がりは残っていたはずだ、ちょっと試してみよう。



「……あれ?」

「無駄よ。私が拒否してるから」

「酷い」

「人の中に土足で踏み入ろうとする者の言葉じゃないわね」



むむむ……そう簡単に繋いでは貰えないのか。でもパチュリーって優しいから、僕が本当にどうしようもなくなったら手を貸してくれそう。今までだってそうだったし。…でもこれは僕の闘いだから、やっぱり一人で勝利を勝ち取りたいと思う。だとすると、やはり勝負の分け目は儀式用魔法陣が描けるかどうかに掛ってくるか……。




「でもまさか、本当に貴方がこれを完成させるとは思わなかった」



そうやってうむうむと考えを巡らせていると、深い溜息のようにパチュリーが言葉を吐きだした。



「…? 何言ってるんだ、パチュリーだって一緒だったじゃないか。文通でだけど」

「馬鹿ね。私はこういうアプローチもあるんじゃないの? って書いていただけよ。術式の構成は全て貴方」

「……うそだぁ」

「嘘なものですか。何度私が度肝を抜かれたことか…。やっぱりこれは貴方のための魔法なのよ、大和。……いいえ、当代の大魔導師・伊吹大和」



大…魔導? ……それって確か先生の!?



「あの人の最後の教えを貴方は完成させた。あの人すら為し得なかったことを、貴方は成し遂げてみせた。この功績は正に大魔導師のそれよ。……ありがとう、大和。貴方のお陰で、私は新たな魔法の完成をこの目で見ることが出来た」

「そんな……僕なんかが大魔導師だなんて」



僕へと深く頭を垂れる姿に混乱が収まらない。そりゃあ全く新しい魔法を生み出すとかの功績を上げれば、それなり以上の魔法使いとして名が広がるとは聞いたことがあるけど……僕が大魔導師? 魔力なんて、魔法使いからしたら底辺から数えた方が早い上に、幻術以外はからっきしな僕が?



「僕なんかよりもパチュリーの方が相応しいと思うんだけど」

「馬鹿ね、貴方。魔法使いの中では、弟子は師の全てを受け継ぐ。短い期間、そして仮とはいえ、大魔導師の弟子であった貴方がその名を受け継ぐのは最初から決まっていたことなのよ。……例え貴方がどれだけへっぽこ魔法使いだったとしても」

「はぅ!? …ね、ねぇパチュリー、もしかして…悔しがってたり……?」

「悔しくなんかないわよ」

「……」

「悔しくなんかないわよ。……じっとしてなさい」



二度も言ったのは、なんでだろうね? なんてツッコミを入れることは出来なかった。藪を突いて魔女が出てくるのは勘弁です。


でも大魔導師って、そんなに凄いものなのかな? 僕自身はまったく興味がないからさっぱりなんだけど……。事態が理解できない僕だけど、そこに立っておけと言われたので立っておく。



「これは貴方の師が着ていたもの。感謝しなさい、封印を解いて奥から引っ張り出してきたのよ? 大魔導師シルフィーユ・スカーレットのローブを」

「……これ、レミリアたちにとっては形見なんじゃ?」

「許可は取ってある。むしろ喜んでいたわ。亡き母親のローブを預けることで貴方との絆が深まるって。さぁ、受け取りなさい」



渡されたローブに袖を通す。魔法使いのローブらしく、袖も足元も全てが覆い尽くされてしまった。……別に僕が先生より小さいとかそう言うことじゃないはず。でもこれを着ていたら派手に動きづらいかな? そう思っていると、ローブは幾何学模様を浮かべて淡く輝きだした。



「これは…?」

「貴方にとって一番良い状態に変化しているのよ。……どう?」



輝きが収まった時、僕は先程とはまったく別物のローブを羽織っているかのように感じた。



「すごく軽い。まるで羽織っていないみたいだ……。袖も長いはずなのに、派手に動いても全然問題なさそう」

「拳士である貴方にとっても使い勝手がよさそうね、大魔導」

「……あの、パチュリー?」

「何かしら大魔導師。私は機嫌が悪いのだけど」



拗ねてる。この魔法使い、大魔導師になれなくて拗ねてらっしゃる。口を尖らせてそっぽを向いてしまった。その姿、まるでヘソを曲げた猫そっくりだ。



「早く帰りたかったのでしょう? ……帰れば?」

「酷い! 本当に扱い酷くない!?」

「私も暇じゃないのよ。……ああそうだ、大魔導がどう言うものかはこの際理解して貰わなくてもいい。でもこれだけは憶えておきなさい。―――大魔導師の敗北は魔法使いの敗北。解った? 解ったのなら帰りなさい」

「……やっぱり悔し「早く帰る!」 了解しました!!」



無理矢理追い出すなんて酷いよ! まだ小悪魔さんと話もしてないのに! 猫をあやすように撫でてやろうか、パチェ猫め!





クリスマスが近くても関係ないじらいです。カップルだらけの中でバイトとか死にたくなります…orz そんな時は漢字にルビを振って中二になろう! …orz


そんなことは置いておいて、今回、大和は間違いを一つ犯しています。馬鹿なことですが。更に咲夜ちゃん。何がどうして駄メイドとなってしまったのか…。まぁ成長するころには瀟洒なメイドに変身してくれることを信じましょう。


そして遂に魔法の名前が出てきました。漢字にルビを振るのはロマンかと。実際に使うのは一回ぽっきりかもしれませんが。その成果として大魔導の名を襲名。大和の場合は大魔導師(笑)ですがw ジャージの上からローブを羽織る。それってなんて魔法使い…


ではまたすぐ後に

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