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東方伊吹伝  作者: 大根
断章:未来の子供たち
142/188

波乱縁日・終



子供を中心に、多くの人に囲まれている中に一際目立つ金髪の女の子がいた。最前列には霊夢やレミリア達、大人たちに混じって一緒に来ていた皆も劇の開演を待っていた。それぞれが様々な合図を送ってくる中、とりあえず僕は苦笑で返した。人形劇をやると言っても、僕はただの背景係なのだから。


そんな中、腕を組んでしかめっ面をしているアリスの姿があった。僕を見つけて一度は口を開けたのだけど、これから劇を見て貰う人前で怒るのは良くないと感じたのだろう。何も言わずに手を掴まれて、少し離れた場所に連れて行かれた。



「遅いわよ。もうすぐ開幕だってのに、打ち合わせの時間が全然ないじゃない」



連れて行かれ先でそう言われたけど、口調は怒った感じじゃなかった。ただ起こってしまったことは仕方が無い。だから次はちゃんとしなさい。アリスの目がそう訴えている。



「ごめん。でも、なんとかアリスに合わせてみせるから!」



だから僕も、一つ謝って次を見据える。自信はある。空気を読んで、アリスの邪魔にならないように最高の背景を演出してみせるさ!



「まったく……。まぁいいわ、随時念話で指示を出すから。くれぐれも、く れ ぐ れ も 勝手な行動はしないでよ?」

「はっはっは! 全て大和さんに任せなさい!」

「……蹴っていいかしら?」

「え゛!?」




◇◆◇◆◇◆◇




~不思議な国とアリス~



……不思議の国のアリスではなく、不思議な国とアリス。



(不思議な国って何?)

(不思議な国よ。それよりも森を出して。いいこと? イメージは全て優雅な物にするのよ)

(はいはい)

「この物語の主人公、アリスと言う名の少女は暇を持て余していました。アリスと言う名の少女は、立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花と称することが相応しい程に―――」



突っ込まない。例えその主人公がアリスそっくりな人形で、アリスが自分を褒め称えているように聞こえても僕は絶対に突っ込まないぞ。それにアリスの言う通り、人形は可愛く仕上がっていて、別に間違っているわけではないんだから。



「ある日、アリスは目の前を亜高速で走り去る天狗を見つけました。『あやややや! このままじゃ明日の朝刊が間に合わないです!』 暇を持て余していたアリスは気の向くまま天狗を追いかけることにしました(妖怪の山、山腹。あと、大きな空洞がある木)」

(……はい)



アリスからの念話に突っ込みを入れたくて仕方が無い。亜高速ってなに? 亜高速です。子供たちは頭上に『?』 を浮かべている。そんな子供たちに、亜高速とはとりあえず早いことだと慧音さんが教えている。その後では藍さんが何か話をしたそうにウズウズしていた。……亜高速について詳しいのだろうか?



そして天狗人形。文を模して作られているであろう人形も、本人と見間違うほどそっくりに出来ている。文はその出来を見てうんうん、と頷いていた。それでいいのか親友。亜高速だよ? 身体が摩擦で焼けるよ?



「目にもとまらぬ速さで木の中に入った天狗に付いて行くように、アリスも木の中に飛び込みました。するとそこは一つの部屋でした。そして、そこには紅茶とケーキが置いてありました。


『あら? 私のために用意してくれたのかしら?』


客人である自分を持て成す準備をこれほど早く済ませるとは、ホストの鑑ね。そう、アリスは置いてあった紅茶を飲みました。すると―――――大人になりました」



!? と何年経っても子供な人と、純粋に子供な子らは反応している。別に誰かと言う必要はないだろうけど一応言っておこう。半霊とか吸血鬼とか、あと宵闇の妖怪とか。そりゃあこんな不思議な薬、何年経っても成長しない子たちには魅力的な物だろうね。背が高くなるのなら僕も欲しいぞ。



「抜群のプロポーションを誇る自身の肉体に驚きつつも満足したアリスは、次にケーキを食べることにしました。すると、身体は元に戻りました。しかしそのままでは満足出来ません。そこでもう一口食べることにしました。すると更に小さくなり―――幼女と変わらぬ姿となってしまいました」



最早、何も言うまい。好きにアリス・ワールドを展開していって下さい。僕は無言で背景係をさせて貰うから。むしろ僕も背景の一部に取り込まれてるから。


でも子ども組にこんなはちゃめちゃな設定は通用しても、大人組に面白味なんて全くないんじゃないの?



「私はケーキの方がいいわね~。紅茶は美味しいけど、お腹は膨れないもの。紫もそう思わない?」

「……そうね」

「紫様。お歳なのは解りますが、実際にそんな物はありません」

「それくらい解ってるわよ!?」



ああ、うん、大人組も楽しんでるみたい。その隣では真面目に紅茶に入った薬の成分を検証したり、そんな効果をもたらす植物の種があるとか言ったり。はたまた実際に仙術で若返りが出来ると等と聞いて、過半数がそれに喰いついてカオスになっているけど一つ言わせて欲しい。



   劇見ろよ



あと、みんな人外なんだから歳とか気にする必要なんてないだろうに。むしろ年寄りの方が強くていいじゃないか!



「見た目は幼女、頭脳は大人。アリスはその幼女姿のまま、入口だった場所とは反対側の扉を開きました。すると、そこは薄暗い霧の張り詰めた森でした。



『じめじめした森ね、焼き払ってあげましょうか?』



実はアリスは可愛いだけでなく、すご腕の魔法使いでもあるのです。みんなにバレると魔界のお母さんに怒られてしまうので内緒にしているのです。でもここは誰もいない森の中、どれだけ暴れようとバレることはないのです。


そんなアリスが魔界の劫火で森を焼き払おうとすると、一人の男性がやって来ました。



『こんにちは、可愛い可愛いお譲さん。お兄さんと一緒にお茶会をしないかい?』

『いきなり現れて何なのよ貴方。名乗りなさい』

『おお! お譲さんの言うことももっともだ。ボクは箒屋のヤマート。趣味はお譲さんのような可愛い可愛い女の子とお茶会を開くことさ!』」



「ちょっと待てぃ! なんだその変な奴!? しかもその人形、僕にそっくりじゃないか!?」

「劇の最中です。背景は黙ってなさい!」

「肖像権を傷つけられた! と言うか名誉棄損だよ!?」

「フィクションの人物です。実際の人物、団体とは一切関係ありません。……これでいいかしら?」



だったら別に僕じゃなくてもいいじゃないか! なんで僕そっくりの人形使うの!? ……でもほら、アレは僕じゃないし。だから皆さん、そんな『解ってるよ』 みたいな生温かい顔を向けないで下さい。


……え? バッチこいだって? フランドール、お姉ちゃんの頭を一度壊してあげて。たぶんそれで治るから。―――あぁ……また映姫様と華扇さんが溜息を吐いている……。



「コイツはヤバイ。色々な意味で、初めて恐怖を感じたアリスはヤマート目掛けて魔界の劫火を放ちました。それの直撃を受けたヤマートは燃え尽きて灰になってしまいました」



「なぁれいむ。せんせって、死んだ?」

「やまと…さんは、そう簡単に死なないって言ってた……。それに、やまとは炎が得意だから大丈夫」



魔理沙ちゃん、それ大和ちゃう。ヤマートや。君の言うせんせじゃないです。あと霊夢、僕をゴキブリみたい…に……? うん…? なんか霊夢の呼び方に違和感があったような……まぁ、気のせいだろう。……うん、幻聴だ。そうに決まっている。そうであって欲しい……ッ!



「灰になったヤマートを満足気に眺めていたアリス。しかし、次の瞬間にアリスは自分の目を疑う光景に出合いました。なんと、ヤマートが灰の中から復活してきたのです」



「ほら…やまとさん、生きてた」

「う~ん、ゴキブリとどっちが強いのかなぁ」



やまと……さん…? 今、僕は霊夢に『やまとさん』 って呼ばれたのか…? 膝が砕けそうだ。心が折れそう……いや折れた。



ぼく は めのまえ が まっくら に なった



……ゴキブリと生命力を比べられて僕の方が強いって言うのなら、僕もそれはそれで嬉しいよ。生命力が高いと褒められるのは決して悪いことじゃない、良いことだ。ポジティブに行こう!



―――でもね……霊夢、お父さんは涙が止まらないよ。



何でだろうね? 明日からは他人のつもりだって思ってたのに、君にそう言われるとすごく悲しいよ。何かもう、世の中どうでもよく感じるよ。紫さん? 勝手にして下さって結構です。鬼の皆? 僕がいなくても楽しくやってるだろうね? いいじゃないか、もうそれで。



僕、明日から何を生きがいにすればいいんだろうねぇ……。えへ、えへへへへ……へぇ。



「『クッ……私の劫火を耐えきるなんて…!』


アリスは再び魔界の劫火を放とうと手を振りかざします。しかし、亜高速よりも早く動けるヤマートに腕を掴まれ、小さなアリスでは身動き一つ取れなくなりました」



そんな挫けた僕を尻目に、アリスの可笑しな人形劇は進んで行く。


主人公アリスのピンチって奴ですね、解ります。子供たちが盛り上がる所なんだろうけど、お兄さんは盛り下がってます。もう劇とかどうでもいいです、ええ。背景だけはしっかりやっておくけど、やまとさんの精神はもうダメです。



「ああ、私はこの男に掴まってしまうのね。アリスは目を瞑って来るであろう衝撃に耐えようと思いました。しかし、何時まで経っても何も置きません。不思議に思ったアリスが目を見開くと、先程まで腕を掴んでいたヤマートが頭を垂れていました。



『ボクを貴方のしもべにして貰いたい』



それを聞いたアリスは驚きました。しかし直ぐにこうなることは必然だったと思い直したのです。何せ自分は世界でも類を見ない美少女。美少女好きのこの男が自分のしもべになるのは当然なのだ、と」



「――――――はい、第一部はここまでです」



人形を舞台裏に運びながらアリスがそう言った。ああ、第一部が終了なんだ。なんかもう、いろいろあって疲れたよ。





◇◆◇◆◇◆◇




「ほんと、疲れた……」

「一応、御苦労さまと言っておきます」



あの後も人形劇は続いた。詳しいことは省くけど、何処かで見た顔の裁判官が出てきたり、どこかで見た天狗が出たり。とりあえず酒飲み場にいる半分以上……まぁ今は全員が此処にいるから、集まった人の半分以上が登場人物として出ていた。


自分そっくりの人形の扱いに誰もが納得することはなく、危うく修羅場になりかけた場面もあったけどそこは大人組が抑えていた。そのあとでそれぞれの登場人物を模した人形をアリスが売って更に一悶着あったのだけど、それはもう思い出したくもない。そんなアリス本人は自分に飛び火する前に帰っていったし……あの目狐め。何時か泣かしてやる。



「妖夢ちゃんたちは出なかったから、そんなこと言えるんだよ」

「あれ? 出てたのは大和さんじゃなくて、ヤマートじゃなかったんですか?」

「………」

「……あの、えと、色々すいません」



これ以上虐めないで、と妖夢ちゃんを見つめていると何故か謝られた。普段から未熟者と馬鹿にしている子にまで憐れまれる僕っていったい……。



下を向いて項垂れていると、上から影が降りてきた。少し首を上げると、目の前の机にコトっと御猪口が置かれる。更にそこから視線を上にやると、金髪・桃髪・金髪。紫さん、西行寺さん、藍さんが僕と対面するように座っていた。



「お疲れ様。お酒、貰ってきてあげたわ。飲む?」

「……貴方のお酒なんて、飲めませんよ」

「あらあら、それは残念」



それほど残念でもなさそうだ。紫さんはしれっと僕の前の御猪口をスキマにしまった。隣の西行寺さんはにこにこと笑みを絶やさず、御猪口に入ったお酒を口に運んでいる。藍さんは無言で表情を一つも変えない。何しに来たんだこの人たち。



「あらあら? 妖怪の賢者ともあろう方が弱い者虐めかしら?」

「ふふ、面白いことを言うのね風見幽香。貴方の狙いもこの子でしょう? なんなら貴方も弱い者虐めをしてみる?」

「結構。もうすぐ満開になる花を摘み取る趣味はないわ。摘み取る時はそう、一番美しく咲いた時でないと」



居心地が悪くなってきた場所に、更に幽香さんが乱入してきた。隣にいる妖夢ちゃんは何事かと主に問いかけているが、黙って見ていなさいと言われている。事情が解らず目を白黒させているが、知らない方がいい。……知られない方が気が楽だ。



「……勝手なこと言わないでくれますか? 僕だって無抵抗じゃない」

「解ってるわ、無抵抗の貴方を倒しても何の面白味もないもの。精一杯抵抗して、それでも勝てない相手の存在に絶望する顔を私は見たいの。解るかしら?」

「趣味悪いですね、幽香さん」

「良く言われるわ」



毒を吐こうが、幽香さんはまったくブレない。自分の力に絶大な自信があるからなのだろうか。はたまた、僕程度では相手にもならないと思っているからなのだろうか。



「でも私は花が咲く努力をしているのをただ見ているつもりもないの」

「……どういうつもりかしら? 貴方がこの子の代わりに私と闘うと? それとも、二人同時に掛ってくる? 私は別に構わないですわよ?」

「フフ、強がっちゃって。……大和、私はこの妖怪を一度倒したことがあるの」



…!? 幽香さんが紫さんに勝っただって!? ……いや、この二人のことだ、どちらが勝ってもおかしくない状況だったんだろう。



「戯言を……あんなもの、勝負とは言えないわ」

「ええそうね。逃げまどう貴方を私が一方的に殴っていただけなのだから。いいこと、大和。この頭でっかちと闘う時は絶対に距離を取らせないこと。それさえ出来れば貴方の勝ちよ。ただ力の扱いが上手なだけだから。それ以外は貴方以下」

「あらあら……頭が腐ったのかしら、風見幽香。私がこの程度の童に負けるとでも?」



む……聞き捨てならないな、今の言葉は。確かに僕と紫さんじゃ魔力や妖力といった地力の力は比べるのもおこがましいだろうさ。けどそれ以外のモノでカバーしきって見せる。二流には二流なりの闘い方があるんだ。


そう反論しようと口を開ける前に、幽香さんの口が開いた。



「負けるわ。絶対に」



異論は許さない。そう思わせるほどはっきりと、力強くそう言葉を発した。その迫力にこの場の誰もが口を結んだまま動けなかった。聞いていた僕も、言われた紫さんも。



「―――そう言えば、今日はよく集まったわね~」



そんな空白な中、最初に言葉を発したのはやはりと言うべきか、西行寺さんだった。



「…はい、みんな暇だったんでしょうね。最初は心配でしたけど、集まってくれて嬉しかったです」

「だとしても、これだけの妖怪がこうして一同に会することが出来たのは大和さんの成果よ? ねぇ、紫?」

「……集まる切っ掛けを創ったのは確かに大和よ。でもそれまでの私の努力を忘れないで欲しいわね」

「え、あの……紫様、私には何がなんだか理解出来ないのですが……」



黙って見ておけと言われていたけど、流石に黙っておくことにも我慢の限界だったのだろう。事情を全く理解出来ていない妖夢ちゃんが口を挟んだ。その姿に紫さんは一瞬目をやったが、直ぐに藍さんに目で合図を送った。



「妖夢、少し向こうで私と話をしようか」

「え? ええ? 藍さん?」

「私も行くわ。これ以上居ても面白くないでしょうし。……あの仙人の相手でもしておこうかしら」



三人がこの場から離れた所で、再び話を始める。その前に一杯いかが? と西行寺さんに誘われたがやんわり断った……のだけど、無言の笑みを浮かべたまま引っ込まないので仕方なく一杯呷った。空になった御猪口を置くと更に注がれる。……この人は何がしたいのだろうか。



「ぅん……。これは僕が紫さんに見せれる一つの成果です。邪魔者は消す。そんなことをしなくたって、こうやって僕らは一緒に笑っていられる」



誰もいなくなることなんてない。それを僕は示さないといけない。これはその縮図。僕だって考えなしに今回の参加者を募ったわけじゃない。



「その環境を創ったのは、紛れもなく私よ。好戦的で危険思考……そんな輩を見つけては排除する。その結果が今の状況を生んだのよ」

「外で生きられなくなった妖怪を受け入れるのが幻想郷じゃないんですか……?」

「半分正解よ。ただ、ここの住民は私の裁量によって決められる」

「ふざけてる……神にでもなったつもりですか、貴方は」

「違うわ。私はこの幻想郷の母なのよ、大和」



死に体でやってきた者すらその秤にかける。救いがあるとやってきた場所が、実は一番危険な世界だった。それはどれほど残酷なことなのだろうか。


……確かに紫さんの言う通り、危険な奴が霊夢たちを脅かすと言うのなら僕も黙ってはいない。でも実際に起こしたわけではないのに、ただ危険かもしれないと言うだけで排除するのは間違っているとしか思えない。何かしらの注意を喚起し、前科があるようならとりあえず一発殴って力関係をはっきりとしておく。それくらいでいいはずなんだ。ここにいる人達の力なら、並大抵の事では動じるわけないのに。どうして殺すという最終手段を用いようとするのか。



「何事もルールが大事なのよ。守れない者にはご退場願うだけ……。これ以上話しても無駄ね。私と貴方が言葉を交わすことで相容れることはないのだから」

「……首を洗って待ってて下さい」

「楽しみにしておくわ。幽香じゃないけど、私もただ勝つだけでは面白くないわ。じゃあね、幽々子。藍には気が済んだら帰ってくるように言っておいて」



そう言い残して、紫さんはスキマの中に沈んでいった。僕は西行寺さんが再び注いでくれたお酒を呷った。……うん、さっきよりも美味しい。美人さんに御酌してもらうのは男として至高の一瞬だ。


そうやって二人でお酒をゆっくりと飲んでいると、後から元気な声が聞こえてきた。



「せんせ! 花火作れない!?」

「……はい? なんでまた、花火なんてものを? 今日は打ち上げ花火があるんじゃなかったっけ?」

「花火のおっちゃんたちが天狗のお酒で酔っ払って、立ち上がれないんだって!」

「あらあら、それは困ったわね~」

「文……天狗の酒なんて度数の高いものを……」

「せんせ、助けて!」



そう言われても流石に花火は……親友の高笑いが聞こえてきそうだよ。まったく、文はこういう時は絶対に悪ノリするからなぁ…。



「……あれ? そう言えば霊夢は?」

「うん? あそこだよ」



びし! っと魔理沙ちゃんが指をさした先に霊夢はいた。しかし、同世代の男の子たちに囲まれているのだが。霊夢が男の子に囲まれる→ちょっと困っている霊夢→目が合う。助けを求めている→周囲を蹴散らせ!



花火よりなにより、三度の飯より霊夢です。西行寺さんにお礼すら言わずに、魔理沙ちゃんの首根っこを持ち、それこそ亜高速と言えるスピードで霊夢の横に移動した。



「ヌフフフ……ねぇ僕たち? ちょ~っとオイタが過ぎるんじゃないかなぁ……? お前ら、家の娘に手を出したら三途の川すら渡らせん!!」

「おお! せんせ、親馬鹿!」



全力で魔力と気を放出しながら威嚇すると、男の子たち蜘蛛の子を散らすように大泣きして逃げていった。この子は嫁には行かせんぞ! 少々大人げない気がするけど、これくらい父親なら普通だ。



「そんな訳がありますか!」

「イッ~~~!?」



成果に満足して頷いていると、後頭部を堅い何かで思いっきり叩かれた。何事か!? 振り返った先には将棋場などとは比べ物にならないほどの怒気を含んだ映姫様と華扇さんが立っていた。



「まったく貴方と言う人は! ただの人に、しかもまだ子供を脅すとは何事ですか!?」

「でも映姫様、あのままじゃ霊夢が襲われて―――」

「ッばかものーーーー!! そんなことするのは貴方だけです! 大事にしたい気持ちは解るけど、少しは限度を考えなさい! 今の貴方はあの萃香とまったく変わらない!」

「僕だってしませんよ!? あと、母さんよりもだいぶマシだと自負しています!」

「「黙ってなさい!!」」

「……ハイ」



……はい、はい、……ええ、僕が悪うございました。本日何度目か解らないお叱りを受けている大和です。



「二人とも、やまとさん「ぐっはぁ!?」 をいじめないであげて」

「そうだそうだ! せんせをいじめるな! せんせは今から花火を打ち上げるんだから!」



「うわぁ……大和さん、死にました? …あやや、痙攣してますね」

「大和様にとって今日一番のトドメかもしれません」



う、煩いぞ外野……この程度で死ぬなどと…。この伊吹大和、侮って貰っては困「大丈夫? やまとさん」 ぅっ……。



「お姉様、ヤマトが死んじゃった」

「落ち着きなさいフラン。この後で慰めるというイベントが待っているはずなの。そこまで我慢するのよ」

「レミィ、どこでそんなことを?」

「うん? 図書館にあったわよ」



「―――ぬふぅ…こうなったら……こうなったらやけだこんちくしょーッ! 行くよルーミアちゃん!!」

「おー! なのだ!」



外野が煩過ぎて悲しみに浸る暇もないねッ! だったら精一杯、霊夢に最後の楽しい一日を送ってやる!


二人、空に向かって多種多様の色と形をした魔力・妖力弾を打ちあげ


――――――ドンッ!!


弾けさせた。弾けた魔力弾が夜空を染め上げていく。次は時間差と形を考えてどんどん空に向かって打ち上げる。



「へっ、お前にしちゃあ粋なこと考えるじゃないか。手伝ってやるよ」

「もこたん……」

「うっせ」



妹紅の力も加わり、次々と色取り取りの花火…弾幕が豪快な音と共に夜空に散っていく。その音に惹かれた様に、夜店を回っていた人達も空を見やって歓声を上げている。見たことも無い花火だと思っているのだろう。当然だ、こんなこと考えてもやる人なんていないだろうからね!



「あらあら~、楽しそうなことしているわね~。…妖夢、行ってらっしゃい」

「ご自身ではやらないので?」

「私は見ているのが楽しいの~」

「……解りました。では行ってまいります!」



―――妖夢ちゃんが



「このレミリア・スカーレットが一番綺麗な花火を上げてみせるわ!」

「ほらほら、パチュリーも!」

「もう、疲れてきたのに……」



―――紅魔館の面々が



「これはシャッターチャンスですね! これほどの妖怪が―――」

「文さんも花火を打ち上げて下さいよ。華扇様も」

「花火もいいけど、このカラフルな弾幕も中々なものね……」



―――妖怪の山の三人も



「ほら、映姫様も打ち上げましょうよ。たーまやーーーー!!」

「ふぅ……その後が抜けていますよ小町。……かーぎやーーー!!」



……場を盛り上げてくれるために顔を真っ赤にして頑張ってくれた閻魔と死神も、みんなが夜空に向かって思い思いの花火を打ちあげる。



「あらあら、せっかく私たちが夜空を彩るのよ? 空を横切る花火があってもいいんじゃないかしら」

「ひm……てるよ様! 危ないから降りましょうよ!」



空では輝夜と鈴仙が楽しそうに弾幕を避けながら花火を四方に放っていた。確かに地面で打ち上げるだけってのも面白くないな。そう呟いた妹紅も空に上がり、慧音さんもそれに続いた。僕もそれに倣って空に上がると、何時の間にか全員が空に上がってきた。



「ほら大和! 私の弾幕あいを受けなさい!」

「ちょ!? レミリア、それ殺傷能力高過ぎだって!」

「大丈夫よ!」

「アッハッハ! 楽しいねヤマト!」

「全然楽しくない!!」



ちょっと時間が経つと、何故か全員が僕の方に向かって弾幕を放つ様になった。下からは頑張れー! やら、そらそこだ! なんて応援まで聞こえてくる始末。こんちくしょう、他人事だと思って楽しみやがって。



「僕だってやられっぱなしじゃないぞ! マスター…」

「それは元々は私のモノよ」

「へ? ッて、うぉわッ!?」



背筋にゾクッと嫌な予感が走った瞬間に回避行動を取ったことが功を奏した。あと少しでも遅れていたら幽香さんの放った力の奔流にのみ込まれて……



「や~ま~と~~~~! 後に私たちがいるのを解っていて避けるなんて、いい度胸してるじゃねぇか」

「ウワー妹紅サンたち、何デソンナニ真ッ黒ナンデスカ?」



振り向いた先には真っ黒に焦げた面々がいた。



「気にすんなよ、お前も真っ黒にしてやるから」



―――フェニックス…


―――蓬莱の玉の…


「え……ちょ…」


―――スピア・ザ…


―――レーヴァ…


―――賢者の…


「みなさま…? なんでこちらを向いて…?」


―――一念無量…


「なんでそんな良い笑顔!? みんな楽しくやってるんなら別に僕じゃなくても!?」


―――無双風…


「文? 僕たちシンユウだよね…?」


―――ラストジャッジ…



ウワーォ、すごい光景。変わりたい人がいたら今すぐ此処に来てね、世界一綺麗な光景を見せてあげる。代金は命ね。



「ルーミアちゃん……。僕、生きて帰ったら零夢の墓参りに行くんだ……」

「……うん、頑張ってね! 私は一足先に降りておくから」



ふっ……悪友にも見捨てられた、か。僕の命運もどうやらここまでらしい。



「大和」

「はい! なんでしょうか幽香様! 助けて下さい!」

「耐えなさい。全員分じゃないだけマシよ」

「慰めになってなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいッ!!」




太陽が昇るにはまだまだ早い時間にも関わらず、幻想郷の一部では朝日が昇ったかと思うほどの光が満ちた……らしい。




















「と、言うわけでだ。魔法は常に危険と隣り合わせにある。だから僕は魔理沙ちゃんに教えるのは反対だ」

「あれ、せんせーだけが危険だったじゃんか」



そう言われると何も言い返せないね。……まぁ、飛行魔法だけならいいかな。霊夢の友達になったんだ、空くらい飛んで貰わないとあの子が悲しむだろうしね。



予定を二回も変更したじらいです。


長かった縁日もこれで終わり、次回からは魔理沙と大和の日常編を! …と考えていたのですが、割愛。いずれ過去編で一度にやるか、それとも~があったから~になったのだ、みたいな感じにしようかと。


なので次回はついに紅魔館のメイド長が初登場。もっとも、主人公組が幼いのであの人も幼いのですが…。そして次回は大和の魔法の完成宣言と、その魔法の片鱗をちょこっとだけ。そして大魔道の名を襲名します。


それが終われば…原作です。この想いは次回にでも語らせて欲しいですね!


それでは次回

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