波乱縁日:その一
―――急に押し掛けてごめんね。ちょっと伝えたいことがあるから分身を介して話をするよ。
明後日、人里で縁日が行われるのを知ってるかな? 夜店や花火もあるし、僕も人形劇の手伝いをするんだ。出来れば一緒に楽しみたいと思っているんだけど、駄目かな? ああ、ちなみに僕の分身は僕の友人全員の所に行っているから、初対面ばかりの大所帯になるかもしれないけど勘弁してね?
それで参加するに当たって守って欲しいことがある。まずは人里のルールを破らないこと。これ絶対。後は縁日に相応しい格好をして欲しいことくらいかな。じゃあ明後日、人里の広場で会おう―――
「さぁ準備に取り掛かるわよ」
「もちのろんだよお姉様」
「縁日に相応しいのは……浴衣ね」
「あら、パチェも行くの?」
「貴方達だけで行かせるのが心配よ。美鈴やあの子は行かせないつもりなんでしょう?」
「連れて行ってもいいのだけど今回は見送るわ。まだあの子の調子が良くないし。小悪魔は?」
「留守番。アルフォード様は?」
「パチュリー、お父様が行くわけ無いじゃん」
「言ってみただけよ、妹様」
「イナバ、服を用意なさい」
「駄目ですよ姫様。私たちは隠れて生活しているのですから」
「助けてえーりん」
「確かに最近は優曇華が来てマシになったとはいえガス抜きも必要かしら……。輝夜、行きたいのなら別に行っても構わないわ。ただ変装はしてもらうけど」
「ししょうの持ってる薬、新薬うさ!?」
「さあ、どうする輝夜? 優曇華?」
「望む所よ! ……イナバ、毒見」
「私ですか!?」
「華扇様も行くのですか?」
「もちろん行くわ。賑やかなのは嫌いじゃないの」
「私も大和様にお誘い頂いたのでご一緒させてもらいます」
「やれやれ、店を出す側になっていたにとりが可哀そうに思えてきますね」
「映姫様はどうするんです? あたいは参加したいんで、休みが欲しいんですけど」
「駄目です」
「うげぇ……(これは当日はサボり確定だね)」
「とは言っても貴方のことです。当日はサボるつもりなのでしょう?」
「そ、そんなことはないですよ!?」
「……まぁいいです。私だけ参加して貴方だけ働かせるのも平等ではありません。その日は休日としましょう」
「さっすが映姫様! 話の解る上司を持ったあたいは幸せですよ!(てか、ちゃっかり自分は行くつもりだったんですかい……)」
「まったく伊吹君は……。どれだけ私に苦労を掛けさせれば気が済むんだ……」
「ははっ、そう言うなよ慧音。あいつの知り合いだ、どうせ碌でもないやつばかりなのは察しが付いてるんだろ?」
「だから胃が痛むんだ……。この痛みを少しでも和らげるために……まずはお前の着せ替えをさせて貰おうか…!」
「ちょっと待てなんでそうなる!? 私は浴衣なんて着ないぞ!? 持っても無いし!」
「そんなことが許されるとでも思っているのか? 縁日だぞ? それに相応しい格好はして貰おうか。なに、妹紅だって器量はいいんだ。きっと絵になるさ……」
「ちょ、待って慧音!? 無言で服を剥ぐな!?」
「え~と、浴衣はどこにしまったのかしら?」
「ちょっ、幽々子様は動かないで下さい! 片付けが増えますから!!」
「え~。私もちょっとは妖夢の役に立たないと駄目でしょう?」
「じっとしてて下さい!! 浴衣は私が探してきますから!!」
「まぁあの子ったら、あんなに楽しそうにしちゃって。そんなに嬉しいのかしら? ……せっかくの縁日だし、お友達にも声を掛けておこうかしら。きっと呼ばれないことに悲しんでるでしょうし」
みたいな感じになってればいいんだけどなぁ……。皆さん参加してくれるだろうか? 参加してくれなかったら……僕に人望がない証明になったり? い、いやいや、何を仰るお馬さん。みんなただの人見知りなだけかもしれないじゃないか。うん、そうだ。そうに決まってる。
などと考えるのもいいんだけど、とりあえず―――
「―――るーひやひゃん、いひゃい」
「ぶぅ……私と二人で回ってくれる約束だったのに……」
頬を抓らないで!? 案外痛いから!!
「この口が勝手に言ったのか? 悪いのはこの口なのか?」
「いひゃひゃひゃひゃ!?」
「もう……少しは乙女心を理解して欲しいの…だッ!!」
「ブャッッツ~~~~~!?」
最後に一度、捻じるように引っ張られた頬に思わず声を上げてしまった。ふぉぉ、抓られるだけでこんなに痛いとは……。
「ご主人さまの大馬鹿」
「…ごめんごめん。でもルーミアちゃん、霊夢もいるから元は三人だよ?」
「おチビは数に入らないのだ」
博麗神社の境内で掃除をしている霊夢を傍目に、ぷんぷん怒っているルーミアちゃんを宥める。膝の上から可愛く睨んでくるこの子に悪いことをしたなぁ、と苦笑しながら謝っているけど、どうも許してくれない。確かに今回は僕が約束を反故にしたからなぁ……。
「だいたいご主人さまもご主人さまなのだ。私に何の説明も無しに知り合い全部集めるなんて、何処に敵の目があるか解ったものじゃないのに」
それは大丈夫だと思う、と、頭で考えても口には出さない。紫さんは誰かに頼るなんてことはしない。いや、頼れない。文に頼んで調べて貰ったここ数百年の幻想郷では大規模な妖怪同士の戦闘は起こっていない。にもかかわず、強力で所謂危険分子と思える存在はその姿を消している……らしい。
まぁ……十中八九消されたんだろう。もしくはその頭脳を持って追い詰め、幻想郷から出て行かざるを得ない状況に追い詰めたか。
その時によく姿を見せていたのが九尾の狐だったと言う話があるのだから、それは藍さんで決まりだろう。それを知った時は『やっぱり』 と思ったよ。陰謀に長けた紫さんは決して表に出て来ないんだってね。
あの人たちが今まで誰かと協力しているところを見てないし、協力するつもりも必要もないんだと思う。何せ今まで無敗の完璧者だし、あの人自身が他人を信用してないのだから。結論を言うと、あの人たちは二人だけで行動をしているってこと。調べてくれた文もそれで間違いなしだと言っていた。
だから僕と紫さんの大きな違いは―――っと、そんなことは今関係ない。どうせ紫さんは来ないだろうし、今の僕にはこの機嫌の悪い悪友を宥めないといけないからね。
「まぁそう言わずに。ルーミアちゃんの為に浴衣を用意したんだ」
右手をごそごそと、何もない空間で動かして感触で浴衣を探す。ルーミアちゃんの怒りを鎮めるためと言ったらなんだけど……っと、この感触は魔道書だから違う。こっちの柔らかいのだ。
「はい、黒色の浴衣。ルーミアちゃんに似合うと思うな」
「わぁ……! ありがとうご主人さま!!」
「そんな大層な物じゃないけどね、どう致しまして」
渡した浴衣に目を輝かせている。どうやら気に入って貰えたみたいだ。……ってこらこら、感極まったとしても抱き着くんじゃありません。そこは霊夢のポジションです。あ~、猫みたいに頬擦りしないでくれます? どうも反応に困ります、はい。一応頭は撫でておこう、この可愛い奴め。
それにしても黒を用意してくれるなんて霖之助くんも解ってる。何時も黒色の服を着ているルーミアちゃんだ、きっとよく似合うだろう。あ、ちなみに霊夢は赤基調の浴衣。娘の初の浴衣姿、お父さんはちょっと楽しみだったりします。
「霊夢ー、少しこっちにおいで」
「……? わかった」
掃除中に呼ばれたからか、コテンと首を傾げながら近づいてくる霊夢。身の丈よりも大きい箒を持ってトコトコと歩いてくる姿が可愛くてもう……抱きしめて世界の中心で叫びたいです。僕の娘可愛いでしょー!? って。
「今度の縁日、一緒に回ろっか」
「……別にいい」
「はうっ!? で、でも縁日は楽しいんだぞー? 霊夢、お父さんがりんご飴を買ってあげよう! わた飴もつけるよ!!」
「いらない。やまとに迷惑掛けられないから」
(ルーミアちゃん……)
(解るよご主人さま……。今夜は私が慰めてあげるね!)
(ちょっくら首吊ってくる)
(ちょ!?)
お父さん、本気で泣いてしまいそうです。
―――拝啓、母さん。息子は、親と言うものが解りません。でも次に会った時は、出来るだけ甘えてみたいと思います。
◇◆◇◆◇◆◇
「やってきました縁日。いやぁ……何時もに増してすごい活気だね」
「そうだね。おチビ、大丈夫なのか?」
「大丈夫。やまとが手を握ってくれてるから」
うむうむ、お父さんがいる限り霊夢には指一本触れさせんぞ。反対側には当然とばかりにルーミアちゃんが握っている。まぁ今日は保護者だからね、これくらいは当然だ。
「などと考えながらも、自慢の娘に顔を緩める大和さんなのであった。その顔いただき!」
パシャッ。光と共にそんな音がした。犯人が誰かは言わないでもいいだろう。天狗で親友、射命丸文だ。
「どもども、今夜はいい絵が撮れそうですねぇ」
「大和、自分でそれなりの格好と言っておいてそれは何です? 黒装束は祭りに似合いませんよ?」
「大和様! お誘いいただきありがとうございます!」
「華扇さん、これも一応流行りの『じゃーじ』 と言うものらしいです」
そう言った華扇さんも含め、三人とも見事に浴衣を着こなしている。むむむ……何時もと違ってすごく綺麗に見える。特に文、まるで別人だね。椛は脇が出てないし、華扇さんは……まぁ予想通りかな。良く似合ってる。
「フフン、天狗等に見惚れている暇はないわよ? 大和」
「えへへ~、似合う似合う?」
「こうやって顔を合わせるのは久しぶりね」
「お、レミリア達も来てくれたんだ。……まさかパチュリーが来るのは予想外だったけど」
「悪い?」
「いや、歓迎するよ。紫の浴衣も良く似合ってる」
「そ……ならいいわ」
そこで若干でも顔を染めるとか恥ずかしがるとかしてくれたら、僕も嬉しいんだけどなぁ……。ま、パチュリーだからそれもないか。もっと突っ込んだら恥ずかしがってくれるだろうけど。
「それよりも大和、どう?」
「フランも!」
「……うん、二人とも良く似合ってる」
蒼に紅、鮮やかな衣装を着こなすのは流石スカーレット家の娘と言ったところか。背伸びしているように見えなくもないけど、それでも似合っているのは確かだ。
「あらあら~、もう大勢集まってるのね~」
「大和さん、誘われたので来ました」
「西行寺さん、来てくれたんですか! ありがとうございます! あと一応妖夢ちゃんも」
「一応ってなんですか、一応って」
実は一番浴衣姿を期待してたのは西行寺さんだったり。初めて会った時、あまりの美しさに言葉を失った経験があるからね。とても楽しみでした。
「私だって一人前の女です!」
「いやぁ……馬子にも衣装って言わない?」
「……斬りますよ」
「降参でーす」
長刀を抜き去った妖夢ちゃんに両手を上げて降参宣言。目がマジですよこの子、くわばらくわばら。……あと後に控えてるみなさーん、今日は縁日だから妖夢ちゃんに向かって殺気飛ばさないでくださーい。この子も友達だから、可愛い冗談なんですって。
―――集めておいてなんですが、これからの展開に不安で胃がねじ切れそうです。お願いだから暴れないでね?
でもまさかのダークホース現る、かぁ……。すごく似合ってるんだよね、妖夢ちゃんの浴衣姿。だから虐めたくなっちゃうんだけど。何時もと違って髪の毛をサイドで縛っておめかししちゃって……。
「だいたい貴方と言う人は「似合ってるよ、うん。悔しいほどに」 ……ぁ…ぅ……な、ならいいです……」
だから思ったことをそのまま言ってみた。そしたらシュゥ……と頭から湯気? を出し、俯きながら剣を納めようとしているけど、上手く鞘に入らないようでカチカチと虚しい音だけが響いている。
……え? 何この可愛い子。……え? 何で皆さんニヤニヤしてるんでせぅ? レミリャ殿、視線が痛うございます。妹君、爆笑しながらレミリャ殿の背中を押さないで下さい。その一押しで僕はもげます、たぶん。あとルーミア様、指が砕けそうなので力を緩めて下さい。ホントお願いします。
納まらない痛みに顔を歪めていると、少し遠くから歩いてくる四人組が見えた。慧音さんと妹紅と……鈴仙? あと一人は……え!?
「すまない伊吹君、待たせたな」
「…………」
「…………」
「アハハ……久しぶりです、大和さん」
今、目の前では奇跡のバーゲンセールが起こっております。まず一つ目は人里の姉貴分こと妹紅。たぶん慧音さんに無理矢理着せられたんだろうけど、信じられないほど乙女臭がしている。流石は元貴族、普段からは信じられないほど和服も似合う。
そして次が酷い。感じる気は正しく輝夜なんだけど、その格好が酷い。どんな化学反応が起きたのかしらないけど、背丈が霊夢と同じくらいにまで縮んでしまっている。オマケに頭からはウサ耳が生えている。兎に変装したつもりなのだろうか。隣にいる鈴仙も同じように背が縮んでいるから、きっと変装なんだろう。そうじゃないと、僕は自分の頭が信じられないよ。
そして最後はその二人が手を握っているということだ。……解ってくれるだろうか? あの仲の悪い二人が手を握っているのです。これはもはや、天変地異の前触れと言われてもおかしくない状況だ。でもお互いに足を踏み合いっこしてるから少しは中和されてハルマゲドンは起きそうにないかな? 良かった良かった……って、良くねえです。輝夜さん、あんた隠れてないでいいんですか!?
「あ゛ー、こういう時ってどんな顔すればいいのか解らないね」
「笑えよ、大和」
「ぶぅあっはっはっはぁっ危なッ!?」
この状況で何をどうすればいいのか解らない僕はそう聞いてみた。だったら笑えと言われたので全力で笑ってみると、特大の炎が飛んできた。いきなり死ぬかと思ったよ妹紅!?
隣にいるルーミアちゃんが消してくれなかったら、今頃両手が塞がった僕は丸焦げになってた所だよまったく……。お礼を言おうとルーミアちゃんを見ると、目をまん丸にして首を振っていた。……え? 反対側だって?
「やまと……大丈夫?」
「……うそん」
今の、霊夢がやったの? 周囲を見渡してみると、誰もが霊夢を興味深そうに見ていた。八歳にも満たない子が、全力には程遠いとは言え、それなりに力の篭った炎弾を打ち消したのだ。それも放たれてからの僅かしかなかった時間で。
「……あ~、皆にもこれから関係するだろうから、とりあえず紹介しておくよ。今代の博麗の巫女、博麗霊夢。どうぞよろしく」
ルーミアちゃんに握られていた手を放してもらい、霊夢を抱いてそう紹介した。バタバタと足をバタつかせているのは……僕に抱っこされるのが嫌なんですね……。昔は…もっと小さい頃は抱っこって言ってくれたのに……。
「子供の成長を喜ぶのは当然ですが、嘆くことはないでしょう」
「くっくっく、相変わらずで安心したよ大和」
「映姫様には親の気持ちは解らないですよ~だ」
「……それは私に対する挑戦状ですか?」
「……映姫様、今日、縁日。暴力、ダメ、絶対」
最後に到着したのは地獄コンビ、映姫様とこまっちゃん。二人ともちゃっかり浴衣姿で来てくれている。来てくれているのはいいんだけど、映姫様の目は爛々と輝いて周囲の人たちを見渡している。説教のしがいがあるとか考えているんだろう。周囲の皆と言うと……おお、全員が全員明後日の方向を向いて話している。しかし残念、閻魔様からは逃げられない。愛のある? 説教を受けて下さい。それが皆に出来る善行です。
「まぁ今日は縁日ですので、私も程々にしておきましょう。それよりも……」
「……? 映姫様?」
「―――ふむ、仕込みは上々。後はタイミングですか」
「えっと、僕と霊夢に何か……?」
映姫様は僕と霊夢を交互に何度も見てブツブツと呟いている。しかし何を言っているのか、聞き取れはしても意味が解らなかった。とりあえず、僕と霊夢に関係していることなんだろうけど……。ま、いっか。来る時になれば来るさ。
「さて! 揃ったことだし、縁日に繰り出しますか!」
「大和さん、ちょっといいかしら?」
「西行寺さん? どうかしましたか?」
「あと二人呼んでるんだけど、ちょっと待って貰えるかしら~?」
二人……? 西行寺さんが呼ぶ二人組といえば……まさか!?
「ふうん……中々に面白い面子じゃない、大和」
「久しいな、大和殿。今宵は我々も参加させてもらおう」
「っ! 紫さん…!」
目の前に開いたスキマから出てきた紫さんを見た瞬間、考えるよりも先に身体が動いていた。不意打ちを食らわないように後方に跳ぶ……つもりだった僕の肩をがっしりと掴んで、後に跳べないように抑えつけられた。
いったい誰なのか? そう思って後を振りかえった瞬間、僕は再び度肝を抜かれた。
「敵前逃亡とは情けないわね」
『風見幽香!?』
最強を自負する四季のフラワーマスターが、にっこりと笑って僕の肩に手を置いていたのだから……。
「せんせ、おまた……あれ? 何やってるの?」
僕が聞きたいよ!
できたてホヤホヤなじらいです。マッハでやってみましたが、どうでしょう? 登場人物が多過ぎて頭が混乱するかもしれませんが、なんとか脳内変換して下さい! いやホント、よろしくお願いしますorz
とりあえず出せるひとは出しました。紅魔館の方も何かある。映姫様も何かある。何か紫まできて、終いには輝夜に幽香で…。やっちまいましたね! 次、本気でどうしましょうね! 困ってます!!そして最後の大和の一言。僕が聞きたいよ! は私も聞きたいです。どうしてこうなった!?
今回の頑張ったで章は妖夢です。デレてないヨー。妖夢はデレてないヨー。いつも馬鹿にされてる人から褒められて、ただ恥ずかしがってるダケダカラネー。他意はないヨ、うん。マジです。
次回は未定。とりあえず縁日で大和と紫の語り合いくらいしか考えてません! 先走った結果がこれだよ! まぁ今回みたいに早い更新は無理だと思うので、ゆっくりと待って頂けると幸いです。では