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東方伊吹伝  作者: 大根
断章:未来の子供たち
135/188

赤ちゃんといい歳した大人たち

136部の全域で変態注意報が発令されています。注意してください。

藍さんから渡された赤ちゃんを抱いて五分ほど経っただろうか。僕はこれから何をしたらいいのか解らずにただ呆然と赤ちゃんの顔を眺めていた。その間、件の心配ごとの霊夢は泣き声ひとつ上げることなく静かに寝息を立てている。その姿をジーっと見つめ続けてみると……可愛いなぁ…。すご癒される。赤ちゃんってこんなに可愛かったっけ?



「でもどうしようか。博麗の巫女として育てるってことは神社で暮らして、巫女修行させて……。そう言えば赤ちゃんの食べ物って何? 確かお母さんのおっぱいだとか何だとか聞いたような……あれ? それであってたかな……? えーい! 赤ちゃんなんて育てたことないからどうすればいいかさっぱり解らないよ!」



そう言えば僕が赤ちゃんの頃は何を食べてたんだろう? 気付いた時には山の物を食べてた気がするけど、流石に赤ちゃんの頃からそれはないだろうし。じゃあ母さんの……? いやいや、ねーよ。何と言うか、それは常識とか何か大切なものをぶっちぎって無理だろう、たぶん。まぁまずはこの子の育て方や何やよりも先に、今はこの子の食事事情をどうにかすべきだ。



まぁある程度大きくなってくれればレミリアやフランの時のように接すればいいんだろうけど、流石に結婚を経験したことのない僕は生憎と幼児教育なんて皆無。フランドールの時だってある程度大きくなるまでは触らせても貰えなかったし。


そんな僕が子供を育てるとなると……母親役がいるよね、うん。母親がいれば食事事情も解決するだろうし、いるに決まっている。



じゃあ誰に頼むかという問題が出てくる。知り合いの中で頼むとしたら、一番候補はやっぱり慧音さんかな。イメージは母性たっぷりお母さん。うん、想像に容易いのは僕の頭が悪いからじゃない、とんでもなくイイ身体……ではなく良いからだ。ちょっと想像してみようではないか、慧音さんが母親になった時のシチュエーションを―――




~大和脳内劇場・ver慧音~



『伊吹君、今日は遅かったな。霊夢も寂しがっていたぞ?』


『お父さん、お仕事大変だったー?』


『ありがとうね、霊夢。よしよし、お父さんを労ってくれるなんて家の子はかわいーな~。ねぇ、慧音さん』


『もう……なら二人目でも――――――』



そして僕らの夜は更けて行く……



~大和脳内劇場・完~




……ぶほっ、やっやば、想像しただけで鼻血が……。


でも素晴らしい……素晴らしいじゃないかデスカ! 僕、天☆才! よし、慧音さんに決定だ。じゃあ人里に行って、慧音さんに頼もうか!





◇◆◇◆◇◆◇





人里に入ると、すぐに蒼くて長い髪を靡かせながら歩いている後姿を見つけることが出来た。隣にはこれまた見慣れた長い白髪をした後ろ姿も見える。慧音さんだけなら話易かったのになぁ……。妹紅がいたら絶対に話がややこしくなるに決まってるし。



「慧音さーん! ついでに妹紅も、久しぶり!」


「おい、ついでとはえらい言い様だな大t……!?」



あ、妹紅が口を開けたまま固まった。腕に抱いた霊夢と僕の顔を何度もいききしている。目をまん丸にしてパチクリしている姿は何時もの男勝りとは違って、とても間抜けに見える。こんな表情二度と見れないだろうからよく拝んでおこう。



「……ん? ああ、伊吹君か。久しぶr……!? 伊吹君、話掛けてくれるのは嬉しいが常識がなってないぞ。人と話すときは幻術を使う必要なんてないだろう?」


「…? 幻術なんて使ってませんよ?」


「じゃあその赤ちゃんは……?」


「My daughter(仮) です」


「あ、相手は?」


「(最初から) いませんよ?」



それよりもこの子、可愛いでしょう? と良く見えるように抱き直すためにヨイショ、と下を向いた途端にガシッと肩を掴まれた。顔を上げてみると、目の前には目に燃え盛る炎を宿した妹紅。……あのー、妹紅さん? ちょっと痛いんですけど……



「この不埒者がぁ!!」


「もgペきょ!?」



抗議を入れようとした瞬間、何故か思いっきり殴られた。足を踏ん張り腰を入れ、教科書の応用編に載ってそうな振りかぶり方、しかもグーで。突然のことに足に力が入らず、吹き飛ばされる瞬間に霊夢を上に放り投げた。一緒に吹っ飛ぶと危険だ! と一瞬の判断を下した僕を褒めるのと同時に誰か霊夢をキャッチしてあげて!?


そんな僕の心配を察してか、頬を抑えながら起き上った時には妹紅が霊夢を抱えていた。どうやら先程の行いで起きてしまったらしく、抱えている妹紅が「起きた!? 慧音、この子起きた!?」 とか言いながらオロオロと。何やら腰が引けたようで慧音さんに霊夢を渡してホッとしている。殴った僕のことは無視ですかこの野郎。あ、頬が少し腫れてきた……



「ちょっと妹紅、頬が腫れたじゃないか」



何してくれる、と睨んでやると、振り返った妹紅が私の拳は凶暴ですと言わんばかりにボキボキ鳴らしながら近づいて来た。ヤんのかこの野郎、それなら相手になってやるぜ! と僕も負けじとボキボキ拳を鳴らして近づいて行く。鼻が当たりそうになる距離まで近づいて、お互いにガンを飛ばす。遂にはおでこがゴツゴツと当たって鼻が当たって擦れた。……頼むから唾は飛ばさないでね?


それにしてもち……近い……と言うか妹紅の目が怖い……。今までの僕なら後ろに向かって全力疾走だけど、今日の僕は一歩も引くつもりはない。何故なら娘の前でそんなことは出来ないからだ! お父さんカッコイイね! と言って貰えるまでは絶対に情けない姿なんて見せられないよ!! でも怖いものは怖いので、足がちょっぴり震えてます。これくらいは見逃してくれ娘(仮) よ。



「お前……相手がいないんじゃなくて言えないんじゃないのか? この黒髪! お前の娘! 相手は輝夜なんだろ!? だから私がついでだってか!? 私の前じゃ言えないってか!?」


「ねーよ」



此処まで来て導いた答えがそれですか!? と、思わずコケてしまいそうに、思わず噴き出してしまうのといことはなかった・・・・。逆に的から外れ過ぎて熱くなってた自分が馬鹿みたいに思えてきて、一気に熱が冷めてしまった。はぁ……と溜息を吐いて離れようとしたけど、どうやら妹紅の熱はまだまだ納まりきらないようで、肩を掴んで離してくれなかった。



「私は知っているんだぞ!? 輝夜がお前のことをすッ……す、すすすすす―――」


「―――おやおやぁ? 妹紅さんや、顔が真っ赤でございますよ。もしやとは思いますが、妹紅さんほどの方が初心なわけないですよねぇ?」



こう言うも、僕は内心で確信していた。と言うか初めて気付いた。まさか妹紅ともあろう人が『好き』 すら言えない初心だったなんて。まぁ妹紅が顔を真っ赤にしてなかったら僕が真っ赤だったんだろうけど……ふっ、でもこの反応じゃ誰かを好きになったこともなさそうだね。なら僕の方が大人と言うわけだ。はっはっは! せっかくの機会だ、もっと弄らせてもらおうか!



「あれ? 妹紅ってソッチ系の知識はあるのに、恋の経験皆無だったりするの? そんだけ長生きしてて?」


「うっ五月蠅い! 私は理想は高いんだよ!」


「逃げの常套句だし、顔を真っ赤にされて言われてもなぁ」


「~~~~~ッ!」


「おい伊吹君、あんまり妹紅を虐めてやらないでくれ。妹紅のやつも意外と初心なんだ、そっとしておいてやってくれ」


「むぅ……慧音さんが言うなら仕方ないですね…」



頼みたいこともあるし、あまり妹紅を虐めるのも心象が悪くなるだろうしね。まぁ涙目で顔真っ赤な妹紅なんて貴重なモノも見れたことだし、これで良しとしよう。……ちょっとと言わず、だいぶ勿体ないけど。



「今日は慧音さんに頼みがあって来たんです」


「ああ、何となく察してるさ。この子のことだろう?」



そう言う慧音さんは優しげな表情を浮かべて霊夢をあやしていた。その光景がまるで一枚の絵のように見えて、僕は自分の考えが間違っていないことを確信した。



「はい。霊夢のことなんですけど―――」


「……すまない伊吹君。今、この子の事をなんと呼んだ?」



それが一転、厳しい視線を僕に送ってくる。何か不味かっただろうか、それとも聞き取れなかったのだろうか。そう思った僕はもう一度言い直す。



「え? だから霊夢れいむのことで―――」


「この――――――馬鹿者が!!」


「b――――――」



痛いなんて言葉すら言わせて貰えず、僕の意識はおでこから受けた衝撃で闇に沈んで行ってしまった。





◇◆◇◆◇◆◇





「すまなかった!」



目が覚めて 説明すると 土下座なう―――大和心溢れる川柳で今の状況を説明してみるとこうなる。とりあえず目が覚めた所に説明を要求されて、紫さんたちとの確執は隠してコトの事情を説明した。ちなみに件の霊夢は横になりながら慧音さんの土下座を見て元気に笑っている。……この子の笑いのツボがどこにあるのか探す必要があるかもしれない。もちろんパパとして。



「別にいいですけどね、こんなこともう馴れっこですし。それにそう思われても仕方のないことだってやってきましたし」


「慧音が早とちりするのもしょうがねぇよ。霊夢なんて名前を付けた子供を育てるなんて聞かされたら、誰だってこいつの感性を疑うさ。それに、里じゃお前とあの四兄弟の話は伝説になってるくらいだからな」


「妹紅!」


「伝説? いやぁ……照れるなぁ」


「……お前本当に頭大丈夫か?」



うん? ちょっと打ち所は悪かったような気がするけど、まぁ大丈夫だろう。おでこの腫れもその内治るだろうし。……頬の腫れもね。



「ああそうだ、伝説どうのこうのはどうでもいいんだけど、一郎さん達の墓って里の墓地にあるよね? 一応墓参りしておきたいんだけど」



人が死ねば当然それを弔うべきであって、その場所も必要になる。妖怪に荒らされない様に人里の中にも墓地があって、そこに沢山の人達が眠っている。もちろん零夢の墓も、僕が落ち込んでいる間にそこに建てた。その時の記憶は……まぁ、正直曖昧だ。ほとんど放心状態だったからね……。命日に一回と、掃除を兼ねて年に数回訪れている―――んだけど、実はまだ一郎さんたちの墓参りは僕本人はしたことがない。だからちょっとついでにやってあげたいんだけれども……



「行く必要なんてねえよ。あいつらは盆になれば悪さしに還ってくるからその時に挨拶しておけばいいさ」


「……まさかとは思うけど、盆に還ってきてるの?」


「……昨年も霧雨魔法店の店主とその店員、森近霖之助君が取り憑かれていたよ。私が頭突きをしても他の者にのり移るから、正直生きていた時よりも性質が悪い」


「去年なんて『今年こそは慧音先生の裸体をー』 なんて言って突っ込んで来やがってな。のり移られた森近もろとも私が燃やしてやったんだが……今年も還ってくるんだろうなぁ…」




……何やってるんだよあの人たち…。死んでも元気なのを褒めるべきなのか、それとも死んでもまだ迷惑を掛け続けることを嘆くべきなのか……。僕が教えただけに判断に困るなぁ。



「で? 映姫様にこの事は言ったの? と言うか、よく映姫様もOKだしたんだね。あの人の管轄だろうに」



例え盆とはいえ、あの厳格な映姫様が悪さするためだけに還ってくる人たちを見逃すなんてあり得ないと思うんだけどなぁ。それこそ地獄から一歩も出させて貰えないと思うんだけど。まぁ、あの人たちは煩悩が多過ぎるから天国には逝けて……るんだろうなぁ。なんせ還ってきてるんだし。




「もちろん言ったさ。でもあの馬鹿者たち、一年に一度還ってくるために普段はとても真面目らしい。だから四季映姫も見逃さざるを得ないと言っていた。あと、どうしても駄目なら伊吹君に手綱を握らせるようにも言っていたぞ」


「ボクナニモキイテナイヨー」


「ばーか。もう遅い―――ん?」



――――――――――――どどどどどどど



「え? 何この音、敵襲?」


「いや……これは私がお前の為に呼んだ奴の足音だな」



―――――――――ドドドドドドド



「ぅ……!? 僕の分身が……消えた…!?」


「私に感謝しろよ大和。―――さっきの借り、万倍にして返してやったぜ」


「………しゅ……さ………!」



――――――ズドドドドドド!



なんだこれ……頭のてっぺんから足の先までが『死にたくなければニゲロ』 って言ってるのに、肝心な身体が反応してくれないんですけど!? と言うか、僕の分身が消えたり時々聞こえてくる叫びとかでもう誰か察したんだけど、これ本当にヤバくないですか!? 最近ほったらかしにしてたから、どうなるか解らないんですけど!?



―――ズドドドドドドドドド!!



「ごぉーーーしゅーーーじーーーんーーーさまーーーーーーーーー!!」


「ほらねーーーーーーーーーー!?!?」




扉を吹き飛ばして派手に登場したのは、やっぱり僕の悪友ことルーミアちゃんだった。慧音さんが吹き飛ばされた扉を見て頭を抱えているけど、小さい肩を激しく上下させて息継ぎをしているこの子には関係ないみたい。文字通りの全力で飛んで来たのだろう。でもそんなことは目を血走らせて唸っているルーミアちゃんの様子に比べればどうでもいいことのように感じます……とりあえず幻術で気配遮断。霊夢を連れて逃げる準備しよう……って、慧音さん何抱えてあやしてるんですかー!? それ僕の、僕の出番ですから!!



「赤ちゃんは!? 赤ちゃんはどこ、もこたん!?」


「もこたん言うな、ぶりっ子ルーミア。赤ちゃんならほら、そこで慧音に抱えられてら」


「慧音……それ、チョウダイ」


「「ひっ!?」」



ルーミアちゃんの、この世の者が発するとはとても思えない声に慧音さんがビクッ! と肩を揺らすのと同時に、僕もビクッ!? と物音を立ててしまった。そして彼女からしたら僕の姿は見えないのだろうけど、正確に隠れている位置を見てニタァ、と笑らい掛けられた。


その様子に完璧に固まってしまった僕を尻目に、ルーミアちゃんがユラユラと、一歩づつ慧音さんに近づいて行く。慧音さんはどうすればいいのかと必死に顔を移動させて、僕を探している。この光景を造り出した妹紅はそれを見てニヤニヤしている始末。


畜生……怒られるのは嫌いだけど、霊夢には代えられない。甘んじて罰を受けよう――――――



「……ル「ご主人さまーーー!!」 はいはい、なんでございましょうか臣下殿」



まだ『ル』 しか言って無いんだけどね……何この反応速度。慧音さんに向かって歩いていたはずなのに、すぐさま反転して飛び付いて来た。とりあえず謝ろうと思っているのだけど、頭をぐりぐりと押し付けてくるせいで謝れない。むしろ……怒ってない?



「ルーミアちゃん、怒ってないの?」


「怒っているのだ。とんでもなく怒っているのだ。赤ちゃんのこととか赤ちゃんのこととか。だから怒りを抑える為に分身は食べちゃった」


「そ、そうですか……」



それはつまり、分身がなければ僕が食べられていたと言う訳だよね……? 九死に一生ってやつ。いや、はっはっは。笑うしかないね!



「説明して。理由があるんだよね?」


「ん? ああ、そうだね「ぅ…ぅ、ぅうあああああああああああん!!」 霊夢!? ど、どうしたの慧音さん!?」



事の次第をルーミアちゃんにも話そうとしたところで、いきなり霊夢が泣きだした。抱いている慧音さんはさっきよりも動揺しているようで、オロオロとその場で右往左往しだしている。貴方赤ちゃんなんて慣れっこじゃないんですか!?



「え? あ、え、妹紅!?」


「私に振るなよ!? ……何だ霊夢、ぽんぽん痛いのか?」


「「ブホッ!?」」


「な、なに笑ってやがる馬鹿主従!」


「も、もこたんがぽんぽんだなんて……ぷぷ」


「似合わないと言うか、予想外だよ……ぶふっ」


「お、お前ら~~~~ッ!!」


「そんなことより霊夢をどうにかしてくれ!?」



慧音さんの言うことももっともだ、妹紅を弄るのは後で幾らでも出来そうだし。今は霊夢を泣きやませないと……。



「ご主人さま、この子お腹すいてるんじゃないの?」


「おお! そう言えば何も食べてない! ――――――慧音さん!」


「無理だぞ私には!?」


「まだ何も言ってないのに!?」


「言わなくても解るわ! とにかく、私からは出ない! 出ないったら出ない!」



じゃあどうするのさ!? 問答無用で出るモノじゃないの!? 半妖じゃ駄目なのかー!?



「妹紅!」


「いや、無理だろ」


「妹紅様!」


「言い方を変えたってこればっかりはなぁ……。そういう身体じゃないし」


「ご主人さま、なら私が―――」


「「「やめとけ、自虐は」」」


「酷いのだ!?」



物理的に無理でしょうに、そんな貧層なまな板じゃあ……。



「おぎゃあああああああああああああ!!」


「ええい伊吹君! 霧雨魔法店に新婚ホヤホヤの新妻がいるから彼女をここに連れて―――いや! 君はもうここに来るな! 絶対、この場所を伝えたらここに来るなよ!!」


「霊夢が泣きやむのならなんでもいいです! じゃあ行ってきます!!」





◇◆◇◆◇◆◇






霧雨魔法店の若奥さんに事情を説明したところ、なんでも新妻でもまだ無理だと言っていた。なので助っ人を途中で拾って行くと言って出て行った。何だろう、僕ってすごい無知。こんな僕がこれから霊夢を育てられるんだろうか……




「はぁ……疲れたなぁ」


「溜息を吐くと幸せが逃げて行くよ、大和君。はい、お茶淹れてきたから」


「ああ、ありがとう霖之助くん」




森近霖之助。半妖で霧雨魔法店……今は道具屋の店員。とりあえず現店主である霧雨さんの新妻さんに慧音さんの家まで行くように頼んだ後、色々あってぐったりした僕に対応してくれた親切なイイ男というのが初対面の感想だ。ただ、見た感じ何故か一郎さんたちに近いものを感じるのは気のせいなのだろうか? 取り憑かれた影響がまだ残っているとは思えないんだけど、だとしたらこの人……仲間?




「それにしても、この店も変わったなぁ…」


「え? 前にも来てたじゃないか」


「え? ああ、そうだったそうだった…。ちょっとド忘れしちゃったみたい」


「しっかりしてくださいよ? あの件だってまだ答え聞いてないんだから」


「……あの件? ごめん、なんだっけ?」




不味いなぁ、ちっとも連絡取らなかったから全然解んないよ。どうも彼とは親しい仲だというのは何となく分かるんだけど……。やっぱり経験がそのままフィードバックされる幻術体の開発とかしたほうが良いかもしれない。



「本当に大丈夫かい? 僕が森の前に店を構える許可が欲しいって、前から言ってたじゃないか」


「ああ、そうだったね――――――そうだ、すごく良い物件があるよ。広くて綺麗で頑丈なやつ」


「本当かい!?」


「もちろん。でもお金は貰うよ? 何と言っても、僕の家だし」


「家? じゃあ僕は伊吹君たちと一緒に住むのかい?」


「いやいや、そうじゃない。僕は博麗神社に居を構える」




どうせ霊夢は神社で育てないといけないんだ、だったら僕が神社に住んで世話をするのも当たり前。そうなったら当然ルーミアちゃんも付いてくるだろから、何の問題もない。あるとしたら……妖怪が神社に住むことくらい?



「でもいいのかい? そんなことをしたら、八雲紫なんかが黙ってないんじゃ?」


「その辺はなんとかなると思うよ。なーに、大和さんを信用しなさい!」



残った借金……あるかどうか解らないやつもとりあえずこれで返済できるだろう。もうあちらも何度も世代交代をして無かったことになってるかもしれないけど。



「分かった。じゃあ支払は出世払いで頼むよ」


「はっはっは、任せな――――え?」



つくづく思う。僕には金運はないんだと。





◇◆◇◆◇◆◇





「ん? いらっしゃい、慧音。今日は何を?」


「すまないな霖之助君、今日は客じゃないんだ。伊吹君、いるか?」


「ふぉ? はいはい、いますよ~」



やば……座ってたらウトウトしてた……。慧音さんが来たってことは、もう霊夢は泣きやんだのかな?



「とりあえず霊夢も連れて来たんだが、これからどうするつもりだ?」



そう言った通り、慧音さんの背中には霊夢がおんぶされていた。紐で括りつけて……うん? どうやっているんだろうか。ちょっとまだ寝ぼけているみたいだ。



「どうするも何も、僕が神社で育てますけど」


「その、言いにくいんだがな……君は本当にこの子を無事に育てられるのか?」


「あ……」



そう言われて、僕は即答出来なかった。自分のことなら何とでもなるけど、こんなまだ産まれたばかりの赤ちゃんと触れ合ったりする機会なんて無かった僕だ。慧音さんがそう思うのも無理はないだろう。



「君が思っている以上に子育てと言うのは難しいぞ。夜泣きもするし、おねしょもする。この子のためだけに三年以上は無くなると考えた方がいい。……その、なんだ。今まで黙っていたが、私もそれなりに情報通だ。事情はある程度知っているつもりでいる。妹紅もそう言っていたが―――今の君にはやはり無理があるんじゃないのか?」




思わず、額を抑えて俯いてしまった。溜息も同時に出た。霖之助くんはそんな僕と慧音さんのやりとりをじっと聞いている。自分の出る幕ではないと感じているのだろう。本当に出来た男だよ。


でも別に隠していたつもりじゃなかった。知られたくはないとは思っていたけど。いったいどこから漏れたのやら……。でも、なら理解してくれるはずだ。僕の想いも、僕以上に無念だった彼女のことも。



「それでも僕が育てます。育てないといけないんです。それが、僕の出来ることですから」



ある程度知っているのなら、何も言う必要はない。この子を託してくれた時の藍さんの表情を、心の底から僅かに覗けた感情を見てしまった今、僕にはこの子を育てないなんて選択肢はあり得ない。僕がこの子を立派な巫女に育てる。誰にも負けず、誰よりも強かったあの子のように。


その決意を瞳に宿して、真正面から慧音さんを見た。慧音さんはそんな僕と目を数秒交わした後、ふぅ、と優しい表情を浮かべた。



「分かった。なら、責任を持ってしっかりとな。ただ、何か困ったことがあったら直ぐに相談するんだぞ? これでも人里の慧音先生だからな」


「はい、頼りにしてますよ先生」



その後、慧音さんからおんぶ紐の結び方を習い、すぐに来たルーミアちゃんと一緒に博麗神社を目指した。数年ぶりの博麗神社。境内を見ると、また泣きそうになるかもしれないな……











~おまけ~



「ご主人さま、居間の机に『ほにゅうびん』 と『粉みるく』 とか言うのが置いてあったよ。あと差出人の名前の書いた紙も」



『外の世界では母乳の代わりにこれを飲ませるらしい。母親がいない霊夢もまた、これを飲ませるのが上等だろう。作り方は粉ミルクの入った箱に書いてある。それを見てくれ。しっかりな。――――――八雲藍』



「……ホント、律義な人だなぁ」


「ねね、ご主人さま。私とご主人さまも頑張ったら「頑張らなくてよろしい!」 ……ッチ」





とにかく詰めに詰めたじらいです。子育てに入る前に書きたかったのはこれくらいになるのかな? とりあえず深夜テンション(鬱)で書き上げた為にイマイチ出来が解りませんが…普段通りの酷い奴でしょう。


大和がヘタレなのは何時も通り、彼はこれくらいがデフォでいいと思います。でも霊夢やこれから出てくる魔理沙の前ではやる気スイッチが入って別人になりますw 誰テメェ!? ってくらいカッコつけさせようと思ってます。


次回は1~2週間空くかもしれません。何時もの如く空く空く詐欺になるかもしれませんが、一応。テスト、バイト、そしてゲーム。FPSって中々楽しいですね。実は初めてだったり。それではまた次回

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