インターミッション
最初~途中までは妖夢
そのあとは藍編です
活動報告に大和の設定を上げてますので、興味のある方は是非。頂いた二つ名がネタと変わって本編に出るかもしれません。
~幼い剣士~
「この鬼! 戦闘馬鹿!」
「褒め言葉をどうも。でもそんな事言ってる暇があるのならもう少し強めに逝こうか?」
「――――――ッ!?」
白玉楼上空では見るも無残な修行が続いている。もちろん虐め……もとい、教えているのは僕で、教えられているのは妖夢ちゃん。それでもちゃんと妖夢ちゃんが付いてこられる限界ギリギリを見切って組手をしているのだから、僕も手加減が上手くなったと思う。
なんせ今まで闘ってきた相手が格上ばかりだったせいか、初めの頃の僕は手加減の『て』 の字すら知らなかった。だから初めの頃は力の出し具合が解らずに妖夢ちゃんが空を舞うこともしばしば……。その度に罵詈雑言を浴びせられたりしたんだけど、そんな生意気を言う子は組手だ! と言って無理やり組手に付き合わせてあげた。その御蔭で妖夢ちゃんはちょっとやそっとじゃやられない程に成長したし、僕も手加減の仕方がだいぶ解ってきたのだから万事オッケーだと自己完結。
「ほらほら避けないと、当たったら痛いよ?」
「こ……んのぉーーー! 舐めるなァ!!」
「うおっと、危ない危ない…」
僕が思った通り、この子は武術の才能に満ち溢れている。僕への反抗心も多いにあるのだろうけど、それでも毎回闘いの中で凄い成長を見せてくれる。今だって堕としてやろうと思って放った突きを避けて、逆襲の一太刀を浴びせようとしてきた。前回なら絶対に出来なかったことを、直ぐに修正して実戦で使ってくる。
そんな妖夢ちゃん……妖夢に少し……いや、正直、僕はかなり嫉妬してしまう。この子の溢れんばかりの才能に。僕の予想を遙かに上回るスピードで成長する姿に。もがきながらも必死に顔を上げて僕を睨み、絶対に倒してやるんだという強い意志を感じさせられるその瞳に。僕には無い才能がこの子にはたくさん秘められている。そんな妖夢の全てが、僕には羨ましく感じられる。
師匠もそうだったのだろうか? そう考えたけど、すぐにそれは無いだろうと考えるのを止めた。だって御世辞にも僕が優秀な弟子とは言えなかっただろうから。師匠や師父が溜息を吐いている姿を何度も目撃したのだから、相当育ちの悪い弟子だったんだろう。
「これで堕ちろ変態修行馬鹿! 未来永劫斬!」
「ムカ……教える人に対して礼儀がなって無い子にはお仕置きだ! 雷声―――砕月(1/10)!!」
それでも今はまだ、妖夢ちゃんなんだけどね。
◇◆◇◆◇◆◇
「あらあら、今日も妖夢は負けたのね」
「まぁ僕とはまだ実力の差がありますから。年の功ってやつですかね」
私がこの男、伊吹大和と組手をするようになってから半年程経つけど、私はまだ一度も傷を付けたことは無い。幽々子様にデレデレしているような軟弱者だが、それでも武の先駆者の一人。学ぶべきことは多いし、ここ半年の組手で自分の腕が上がっていると感じられているのも確かだ。
それでも、やっぱり私はおじいちゃんに剣を教えて欲しかった。と言うのも、全ての始まりであるおじいちゃんが頓悟したことから私の苦悩の日々は始まった。この男とは組手するだけで、引き続き私に剣を教えてくれる約束だったのに『教えられることは教えた、後は伊吹殿と切磋琢磨しなさい』 と残して幽居したのだ。そのせいで私はこの男と組手をする以外には、自分の技を効率よく高めることが出来なくなった。
「……? 僕の顔に何かついてる?」
「別に、何でもない」
……非常に不満だ。だからせめてもの抵抗として、汚い言葉遣いで対応することにしている。武術では敵わない私の出来る唯一の抵抗だけど、この男はそれすら気にしていない。私は相手にもされていない……。
「妖夢~、お腹が空いたわ~」
「分かりました、直ぐに御造りいたします」
「僕、手伝おうか?」
「いい、邪魔になるから」
私がそう言うと苦笑して、じゃあ止しておくと言う。まったく、少しは強く言えないのだろうかこの人は。組手の時にはこれでもかと攻めてくるのに、普段の生活になると軟弱者に早変わり。だから解らないんだ、この人の事が。何が出来るのか、何をしようとしているのか、何を思っているのか……。普段の情けない行動にも本当は何か別の意図があって、わざとこういう態度をとっているのかもしれない。そう思うと心を許すことなんて到底できることじゃない。
「では台所に行ってきます」
……また無駄な思考に時間を取られてしまった。幽々子様はああ見えて沢山食べるんだ、早くしないと。
今日も台所は戦場だ。
◇◆◇◆◇◆◇
「――――あの子はどうかしら?」
「表面上はああですけど、内心は寂しいはずです。肉親と離れるって言うのは、以外と寂しいものですよ」
「妖忌がいなくなってから半年近く。伊吹さんはどうするの?」
「どうするのって言われましても……ただ組手をするだけですよ? 僕だって、今は周りに気を使えるほどの余裕はないんです。―――知ってるんでしょう?」
「ええ、知ってます。でも私にとってはどうでもいいことなのよ」
「……言ってくれますね」
「だってどちらも気に入っちゃってるんだもの、仕様が無いじゃない。だからどうでもいいの。でも妖夢は特別よ? だからあの子のこと、気に掛けてあげてくれませんか? 妖忌もこうなることを見越して貴方に頼んだと思うの」
「買い被り過ぎですよ、妖忌さんも……西行寺さんも。僕はそこまで万能じゃありません。ちっぽけな一人の人間でしかないです」
「そんなちっぽけな人間に紫が興味を持つかしら? ねぇ伊吹さん、貴方は自分を過小評価し過ぎよ。貴方の持つ力は人を救う力――――――ほら、そんな顔しないで。貴方なら出来るわ。妖夢のこと、頼みます」
「……善処します」
◇◆◇◆◇◆◇
―――トトトトトト
包丁を使うのも修行の内。対象の斬りやすい位置、包丁を入れる角度、その全ては剣の道に繋がる……そう勝手に思い込んでいる。そうじゃないと、いつも大量の食材をただ切るだけでは暇で仕方がない。台所を任された当初は誤ってまな板ごと斬った苦い思い出もあるけど、今となっては過去のこと。包丁捌きは見違えるほどに上達した。でもまだ苦手なことがある。それは―――
「塩入れ過ぎた―――砂糖を入れて元に戻さないと」
「ちょっと待てい」
「……何しに来た。邪魔だ」
む……邪魔だと言ったのに来たのか。しかも私の調理に口出しをするとは、いったい何様のつもりだ。戦闘馬鹿なら戦闘馬鹿らしく、ただ拳を振っていればいいのに。
「あのね……もしかして何時もそうやってるの?」
「当然だ。幽々子様は美味しいと言ってくれる」
「……ちなみに味見したことは?」
「それほど美味しくない……けど、幽々子様が美味しいと言ってくれるからそれが全て」
料理は本当に苦手だ。味付けは特に苦手だ。焼き物なんか焦がすことのほうが多い。だから私は自分の料理が美味しいとは思えない。けど幽々子様は美味しいと言ってくれる。だったら、別にそれでいいじゃないか。
「はぁ……ちょっと退いて」
「あ、おい!」
伊吹大和が私を押しのけて調理場に立つ。焼き終わったばかりの魚に箸を伸ばして―――生意気にも幽々子様の為に作った魚を口に運んだ。
「不味い」
「うっ……」
「非常に不味い。御世辞にも美味しいとは言えない。塩辛いし……何これ、砂糖でも入れたの? 甘さと辛さの嘗てない程のハーモニーだね。―――うん、二度と食べたくない」
酷い言われ様に涙が出そうになった。だって、こんなのあんまりだ。組手の中でならまだしも、苦手な料理にまで採点されて馬鹿にされた。でも泣いたら駄目だ、泣いたら負けになる。私はおじいちゃんからここを授けられた身。余所者の目の前では絶対に泣いたら駄目なんだ。
「こんな半端者に後を任せるだなんて……」
「なっ―――おじいちゃんを馬鹿にするのか!?」
今――――――なんて言った?
「じゃあ自信を持って言える? 後釜がこの始末じゃあね……嫌になったって仕様が無いじゃないか」
私を信じて任せてくれたおじいちゃんを、こいつは馬鹿にした!?
「おじいちゃんは悪くない! おじいちゃんは何時だって私のことを考えてくれた! だから私にここを任せてくれたのにそれを……それをおじいちゃんのことを何も知らないお前が馬鹿にするなぁ!!」
こいつの言っていることは頭では理解できる。私が半端者の未熟者だってことは百も承知だ。でもそう言われて心で納得出来るかと言われれば、絶対にできない。大好きなおじいちゃんが馬鹿にされて、それが自分のせいだと思うと言い返さずにはいられなかった。だから私は涙を流してでも咬みついていった。
「……僕は妖忌さんを馬鹿にしたつもりはないんだけどね」
「ぐすっ……ひぅ……え?」
「半端者って言うのは僕のことだし、僕みたいな後釜で嫌にならないかなーって思ってね」
何を言っているのか、と思ったが、目の前でニヤついている男を見ると自分が嵌められたのだと気付いた。……この男、さっきの中で一度もおじいちゃんを馬鹿になんてしていない。全部私が勝手に勘違いして、勝手に怒っただけだ。
「どう? 涙を流して少しは楽になった?」
「…………」
「大好きだったおじいちゃんが急にいなくなって……寂しかったよね。しかもその後釜がこんな奴じゃあ、嫌になってストレスも溜まるよ」
背丈の小さい私に視線を合わせるように膝を曲げてくる。今までにないほどの近い距離で向かい合っているせいか、まるで初めて見た人の様に感じた。でもまだ少し嗚咽が漏れているし、顔も涙の後が残っているだろうから、私は俯いてやった。―――こんな顔、こいつに見せてなるものか。
「僕も君と同じ体験をしたことがあるよ。心に穴が空いてさ……悲しくてどうしようもなくなって。それで何かに当たりたくなる」
ポンッと頭に何かが置かれた。感触で手を置かれたのだと解った。普段なら絶対に振り払っただろうけど、何故だか振り払う気にならなかった。まるでおじいちゃんに撫でられているようで気持ち良かった。
「だから僕に当たれるように組手を組んでたんだけど、失敗だったみたいだね。やっぱ泣くのが一番心にも身体にもいい。嵌めるようで悪いとは思ったけど」
はは、と苦笑しているこの人と同じように、私も内心で苦笑する。あんな一方的な組手で心が休まるものか。本当に、人の気持ちも読めない馬鹿者の軟弱者め……。
「おじいちゃんのように、とはいかないと思う。でもさ、今度からは僕を頼ってもいいんだよ。もちろん西行寺さんも。もう知らない仲じゃないし、出来る限り協力してあげる。だからさ、今はとりあえず泣いておこう? お兄さんの胸なら幾らでも貸してあげるから。さぁ――――――Come on !!」
「キモイです」
両手を広げて待ち構えている姿を見てつい本音が出てしまった。ごめんなさい、最後のが無かったら正直に泣けてたと思う。それも抱き着いてわんわん泣いたと思う。でも…でももう無理……
「ぷ……プププッ、あっははははは!」
「よ、妖夢ちゃん……?」
「何だ、それ!? それで慰めてるつもり!? むしろ、笑わせようとしてるんじゃない!?」
「失敬な。これでも真面目に慰めたつもりだよ!」
本当に……本当に可笑しな人だ。何考えているのかなんて、この人本当は何も考えてないんじゃないか。自分でも解らないうちに勝手に身体が動いて、その場その場で全力なだけじゃないか。でも……そんな人がいても悪くないと思う自分が、確かにいる。
「これからもよろしくお願いしますよ、大和さん」
おじいちゃん、私に目標が出来ました。私、まずは大和さんを越えてみせます。
「今日から好敵手です。私が倒すまで負けないでくださいね?」
ずい、と一歩を踏み出したら目と鼻の距離。でも目の前に見えて、とんでもなく長い道のり。でも絶対に追いついてやる。追いついて、追い越して、絶対に一歩先を歩いてやるんだから!
「……な、生意気言ってくれるね!? コイツめ! こうしてくれる!」
「わっ!? や、止めて下さいよ! 髪の毛ぐちゃぐちゃになるじゃないですか!」
せっかく私から目を合わせて言ったのに、大和さんは私の頭をくしゃくしゃにするようにして前を向かせないようにしてきた。今度は払いのけようと手を伸ばしても、上手く逃げられて邪魔すらできない。むむむ、こんな所でも実力の差が出るなんて……!
「まだまだ子供が生意気言うんじゃないです! 僕を倒そうだなんて百年……いや、五十? もしかして三十……い、いや! 千年早いよ!!」
「む! 直ぐに追いつきますよ! それに未熟ですけど、子供扱いは止めて下さい! 私だって立派な淑女です!」
「それこそ千年経ってから言うんだね!」
◇◆◇◆◇◆◇
~最後の欠片~
紫様と大和殿が約束を交わしてから間もなく九十年。つまり、大和殿が自由に過ごせる時間はあと十年程しか残っていないということを意味する。紫様の式である私には、大和殿では紫様に勝てないという確信がある。だからこそ紫様に歯向かうな、そう助言をしたのだが、それも虚しく消え去っていった。
「藍、新しい博麗の巫女候補が見つかったわ。場所は――――――よ。迎えに行ってちょうだい。教育は何時も通り、始めは貴方が行いなさい。頃合いになれば私も手を出すから」
そう言って紫様はスキマを開けた。この先に今代の巫女がいるのだろう。できれば無理やり攫うと言う真似はしたくないな、そう思ったが頭を振って考えを改めた。今更だ、こんな考えなど今更でしかない。大の為に小を切り捨てる。今まで何度もやってきたことだ、今更何を悩むことがある。
私が迷う様になったのは、大和殿が僅かな希望を見せてくれたからだ。あれから私の中で何かが変わってしまった。機械的にこなすだけの作業にも、彼ならどうするのだろうか? 彼なら情けを掛けるのだろうか? 彼なら、彼なら……。そのような考えが頭を過るたびに私は頭を振ってこう思っていた。こんな感傷、今更でしかないと。
複雑に絡まり続ける思いに悩まされ続けられた私は、何を思ったのか式を造ってしまった。名前は橙。この子は私たちが行っていることは何も知らないし、知らせない様にしている。紫様もそれに賛同してくれた。何も知らない橙は明るく、私の心を癒し、苦しめた。
「赤子……この子が、次代の博麗……」
そして今、何も知らない哀れな赤子が目の前にいる。スキマを抜けた先にいたのはこの子だけ、つまりはそういうことなのだろう。抱きかかえて再びスキマを潜ろうと振り返った時、そこにスキマはなかった。……歩いて帰れと言うことなのだろうか。まぁ、あの人は時々意味のないことを唐突にするからな。これもその一つなのだろう。
「仕方がない、飛んで―――「藍さん? こんなところで何して……え? 赤ちゃん?」 ……」
何故か目の前に、とても偶然とは思えないタイミングで大和殿が通りかかった。
「まだ小さいのにこの霊力……ッ! まさか藍さん、この子!?」
「いかにも。この子は次代の博麗の巫女として見定められた赤子だ。今から私が教育し、然るべき処置を経て巫女となる」
「―――僕がそれを聞いて、黙って見過ごすと思いますか?」
爆発的に大和殿の魔力と気が増幅した。……予備動作もなしに無想転成の第一段階、それも前回のようにただ垂れ流しているだけではなく、完全に自分のモノにしている。質・量ともに申し分なし。これなら……いや、しかし……あるいは
「私もこの子を傷つけるのは本意ではない。そこで提案なのだが……この子は君が育ててくれないだろうか?」
「――――――言っている意味が、いまいち理解できません。巫女になるのなら、今代の巫女に任せればいいじゃないですか」
「彼女は今朝亡くなったよ。だから一刻も早くこの子には成長して貰わなければならないのだが……どうだろうか?」
これは……裏切りなのだろうな。でも私は見てみたい。嘗ての私たちが目指し、憧れ、それでも届かなかった理想の果てを。諦めるしかなかった無念の果てを。時代を生きる若者にしか持つことの許されない新たな可能性を、私は信じてみたい。
「君が断ればこの子は連れて行く。だがこの子を巫女として君が育てると言うのなら、渡してやってもいい。さあ、どうする?」
さぁどうする? 君は受けるしかこの子を助けることはできないのだぞ。だから受けろ、私の提案を。そして救ってくれ、紫様を―――
「解りました。この子は僕が、次代の巫女として育てます」
「では頼む。――――――ああそうだ、その子の名前だが……『霊夢』 と名付けるとしよう」
胸に抱いた子を渡しながら、私はそう言った。何故だかは解らないが、名前をつける時になって彼女と同じ名前を口が発していた。しかし大和殿は私の名付けた名前が気に喰わなかったのだろう、今すぐにでも咬みつかんとばかりに私を睨みつけている。……まぁ、彼と彼女のことを思えば当然なのだろうが。とりあえず弁明はしておこう。
「……皮肉ですか? ぶん殴りますよ」
「いや、その子を一目みた瞬間にそう頭が過った。皮肉でも何でもないさ、なんなら名前を変えてやってもいい」
「……いえ、よく見ると確かに霊夢みたいな顔してますね……。それでいいです」
「そ、そうか……。ではな、大和殿。――――――次に会う時は、きっと命の取り合いになるだろう」
何故か納得してしまった大和殿を見て、私は顔が若干引き攣ってしまった。……それでいいのだろうか? …いいのだろうな。何せ彼が決めたことだ、私はそれでいい。
私は苦笑を残して空を目指した。さて……紫様に何と言い訳するか考えねばならないな。
超・展・開! だと勝手に思い込んでるじらいです。まぁ予定通り…じゃないんですけどね。何か気の利いたことでも書ければいいのですが、特にないですw …感想待ってます? くらいしか言えませんorz
次回はインターミッション2。大和、子育てする。お縄につく。食べられそうになる(嘘) の三編を予定してますが、まぁ変更されるでしょうw とりあえず魔理沙と咲夜が出せれば満足出来ます。そんな話になるかと。ではまた次回