修行とか、もう山でする必要ないよね
手抜きです。すいません
~夜~
夜も更け、折角なので夕飯を御馳走すると言う茨さんの提案を快く受けた僕らは、一つの机を囲んで食事を取っていた。外で元気に暴れていた文と椛も、堪忍袋の緒が切れた茨さんによって鎮圧されて今は大人しく夕飯を食べている。
まぁ、ね……茨さんを怒らせるのは駄目だと言うことを理解させられたよ。二人に向かって『ばかものーーーーー!!』 と一括したあれには、僕も身体中の毛が逆立っちゃったし。
「明日からは此処で修行よ」
「……はい?」
そんなこんなで我が家よりも質素な料理が並ぶ茨邸。行者だから食事も制限しているのだろうか、と少し物足りない夕飯に無言で箸を伸ばし続けていると、何故か明日からの予定を決めるような一言を言われた。文や椛も気になっているのか、耳をピクピクさせて聞き耳を立てている。……白狼天狗って、耳フサフサで気持ち良さそうだね…。
「修行をしに山まで来たのでしょう?」
「そうですけど、紫さんとの決着もついたので山でする意味ももう無いんですけど……」
「私が修行して上げると言えば、考えは変わりますか?」
「見て貰えるんですか!?」
これは嬉しい誤算だ! 見た感じかなり茨さんも相当デきそうだし、やっぱり模擬戦でも実戦でも一人の修行よりかはすごく為になるからね。闘いの勘を失わない為にも、是非とも付き合ってもらいたいと思う。
「ええ。貴方を立派な仙人にしてあげましょう」
「大和さんの修行風景ですか……。私も覗いていいですか?」
「私も大和様の修行の内容が気になります。どうすれば強くなれるのか、勉強させて貰えませんか?」
「いいわ。この際、貴方達も見てあげましょう」
この時、僕は気付いておくべきだった。茨さんが言ったのは『立派な仙人にしてあげる』 と言ったのであって、戦闘面での修行だとは言わなかったことに。だって気付けていたら、元々恥も外聞もないけど、それでも全力で逃げ出していたからさ……。
◇◆◇◆◇◆◇
~翌日・早朝~
「貴方は欲が多すぎやしませんか? 健康的な身体、健全な魂を持つ為にその欲は邪魔にしか成りえません。徹底的に、その堕落した精神を健全なモノに矯正してあげましょう!」
「修行を見てあげるって、精神系なんですか!?」
「……? 貴方は行者に何を求めているの?」
「だって母さんの知り合い……と言うか、戦闘もお手の物じゃないんですか!?」
「私は行者です。そして行者の修行と言えば、精神統一しかないじゃない」
戦闘訓練なんてするわけないじゃない、と半ば呆れ顔の茨さん。何だか裏切られた気分……。母さん達の友達だから、それはもう濃い修行の日々を送れると思っていただけに。それなのに精神統一with 動物。何故動物? そう思うのも仕方がないけど、これには理由がある。
茨さんは動物を使役することができるらしく、また自身も修行の身なのでそれほど僕に構っていられないらしい。あと、僕を見張るため。修行に耐えられなくなった僕が逃げ出すのを見張る役割りらしい。これらが理由だけど、僕としては後半の理由の方が大きいと思う。既に逃走を謀ったからね……
「葷酒山門に入るを許さず。しっかりと実践していくわよ」
「それ禅宗ですから! ……あっ! 文、僕を置いて逃げるなぁ!?」
◇◆◇◆◇◆◇
~数ヶ月後~
一日の殆どを精神統一ばかりでは、心が鍛えられても身体が鈍る。暇を見つけて魔法の研究をしても、魔法は上達しても身体は鈍る。とにかく身体を動かしたいことを茨さんに伝えてみると、少し苦笑いでOKを出してくれた。……まさか許可出すの忘れてたとかじゃないだろうね?
「と、言うわけで頼むよ椛」
「若輩の身ながら、精一杯相手を務めさせて貰います!」
「さーて、椛がどこまで相手になるか見ておきましょうか」
なので道場を借りて、椛と模擬戦をすることに。文は先の一件で更にはぶられたのか、それとも自分から距離をとったのか、ほぼ毎日此処に顔を出すようになった。とは言っても、文にはちょっと調べ物を頼んでいるので、それの報告も兼ねて来ているのもあるのだけど。
「では、いかせて貰います!」
結論から言うと、下っ端の椛では模擬戦の相手になりませんでした。そのせいで泣き出しそうになっている椛を見た時は迷わず後に向かって全力で走りだしました。……見てないよ? 泣いてる姿なんて、僕は見てないよ?
◇◆◇◆◇◆◇
~半年後~
椛が来なくなりました。……はい、僕のせいです。反省してます。後悔もしてます。だから石投げないでー。そう言っても意味は無いぜ! とばかりに文にはその件で弄られ、華扇さん(名前でいいらしい) には修行不足と言われた僕は、少しの気分転換も兼ねて椛に会いに行くことにした。
「おーい、椛ー」
「……大和様、何か御用でしょうか。私みたいな何も出来ない下っ端の犬っころに出来ることなんて、何もないですよ……」
ハハハ……と暗く笑う椛を見て、思わず後ずさってしまったけど今回は逃げ出すことだけは出来ない。文も煩いし、何より女の子を泣かせた事に逃げるのは紳士のすることではないと気付いた次第であります。レミリアの時の教訓はどこに行ったとか言わないで。人は同じ過ちを繰り返す……まったく!
「僕には椛が(修行の為に) 必要なんだ。文や華扇さんでもない、一緒に(辛い精神統一の修行の時に) いてくれる君が、何よりも必要なんだ! だから一緒にいて欲しい……!」
「大和様……! 解りました! 何時までも貴方様に着いて行きましょう!!」
とりあえず思ったことをそのまま椛に言って、また修行に付き合うと言ってくれた。そんなこんなで茨邸に帰って来た時、満面の笑みを浮かべて尻尾を振っている椛を見た文がこめかみを押さえていました。
「刺されても助けませんよ、大和さん」
「……? 何のことか解らないけど、やるって言うのなら受けて立つよ?」
「……薄々感じ取ってる癖に」
「な、なんのことかなぁ……?」
態とじゃないんです。そりゃあ色々と言葉足らずだったのは確かだけど、あの時は必死だったんです。また何時泣かれるのかとビクビクしてたし。それに、今更嘘だなんて言ったらそれこそ刺されると思わない?
椛の持つ剣が鈍い輝きを放っているのを見て、少し寒気が走った。
◇◆◇◆◇◆◇
~一年後~
「じゃあこの手紙を紅魔館まで持って行って貰っていいかな?」
「お安いご用です。じゃあ直ぐに戻ってきますんで」
先生の残した魔法を完成させるのは、僕一人では時間が掛り過ぎる。出来ないと言わないのは、残された魔法が本当に僕向きのものばかりだから。でも月一にするパチュリーとの文通のおかげで、開発に掛る年月が減っているのは確かだ。特にパチュリーの魔法に対する捉え方は逸脱していて、僕は毎回驚かされてばかり。僕がパチュリーを驚かせる日は来るのだろうか……。
他の時間は専ら精神修行の連続。いい加減長い間座るだけの座禅にも慣れてきた。今では華扇さんの御言葉を聞きながら座禅を組んだりもしている。
「どうかしら、大和。少しは落ち着いた雰囲気を纏えるようには成ってきたと思うのだけど」
「はぁ……自分ではよく分からないですけど。でも最近、何だか欲が沸かないような気がするんです」
何だか知らないけど、最近は全てが手に取るように解るような気がする。落ち着いてからなのか、はたまた深く精神を沈みこませているからなのか、周囲の出来事に対しての認知度も随分と上がっている気が……。
「それは一種の悟りと呼べるもの。貴方も漸くその境地に―――」
「でも性欲が大きくなってる気がするんです。どうしたらいいですか?」
最近、ムラムラします。ええ、下の話になるのですが、こんなのは初めてだよ。他の欲が無くなってきた分、間違った方向に欲が溜まっていっている気がしてならない。
「…………修行を倍にしましょう」
「ちょッ!? 子孫を残そうと思う本能まで否定するんですか!?」
「貴方の一番無くさなければならない欲が減って無いじゃない!」
ここから一月、気を纏った状態での強制滝行を言い渡された。何故か纏った気が柔らかくなっていた気がする。これも精神統一のおかげ?
◇◆◇◆◇◆◇
~時間跳んで1900年~
「ふぅ……この紅茶は美味しいね。何の葉を使ってるのかな?」
「……………」
「最近は紅茶なんて高級品にありつけなかったから、もう味なんて解らなくなってたよ」
「……ちょっと」
「いやぁ~、今日という日はなんて良い日なんだろう」
「ちょっと!」
「何かな? アリス。僕は久々の紅茶を飲むのに忙しいんだ」
「図太い奴ね……。いきなり家に上がってきたと思ったら勝手に紅茶を淹れ出すし、貴方いったい何がしたいのよ」
「……一服?」
「出てけ」
魔法の森、所謂ホームグラウンドに来てます。違った、帰って来ました。もとい、逃げてきました。あれ以上あそこに居続けたら大切な何かを失う気がしたからね。こうやって娑婆の空気を味わって、適度にリフレッシュしないと馬鹿になっちゃうと言うわけ。
「アリスの分も淹れてあげたじゃないか」
「確かに美味し―――じゃないわよ「あ、これ手作りクッキー? 貰うね」 ……ああもう、好きにしたらいいわ。……あれ? そう言えば、今日は里に行くとか言ってなかった?」
残念、それは分身です。と言っても説明がややこしくなるので言わないでおく。むしろ家に帰ったら帰ったでルーミアちゃんが離してくれないだろうからそれも却下。自然と避難所に選ばれたのがアリス邸と言うわけになるのです。
「ほらほら、僕のことはどうでもいいから。それよりも自動人形の方は捗ってる?」
「今邪魔をしている人の言うことじゃないわね」
誠に申し訳ないです。
アリスが何の魔法研究をしているのかは、分身体を通してルーミアちゃんに既に教えて貰っている。他にもルーミアちゃんからは良く報告が届いている。博麗の巫女さんがよく家に来ているとか、慧音さんが鬼だとか、時々遊びに来る妹紅と酒盛りをしているとか。……楽しそうです。
まぁそれはいいとしよう。今は目の前のアリスについてだ。紅茶を飲む顔にも少し疲れが溜まっているように見える。
図書館の文献を貸してあげてもいいんだけど、アリスには図書館のこと教えてないしなぁ……。それにそこまでしてあげる義理もなければ、分身との付き合いがあるとはいえ特別深い仲でもない。ギブ&テイクを基本とする魔法使いとして、僕には何のメリットもないし。アリス自身もそれに気付いているから協力を頼んで来ないし、何より図書館に陣取っているパチュリーが嫌がるだろう。
とは言っても、僕も薄情者ではない。インスピレーションを起こしやすくするために、マンネリと化した日々に少し刺激を与えてあげよう。
「上海はアリスのことどう思ってる? やっぱりいい主だ、とかかな?」
「もちろんです! アリス様は私の自慢の主人です!」
「シャン……ハイ…? あなた、言葉を!?」
まぁアリスに上海が喋ったと言う幻術を掛けただけなんだけど、上手く騙されてくれたみたいだ。とりあえずこれで何か閃けたらいいかな? と思いつつ、上海の状態を確認しだしたアリスを傍目に、僕は席を立った。
それにしても、アリスは本当に人形が好きなんだね。あの笑顔を見るだけでもいい気分転換が出来たよ。
「まさか逃げ出されるとは思わなかったわ……」
道場に帰るまではね……
◇◆◇◆◇◆◇
~1910年~
気と魔力を合成した状態、無想転成の第一段階。ただ垂れ流しにしか出来なかった頃が懐かしく感じられる程、今の僕は力の制御が上手くなってきた。出力を操れるなったことで燃費も少しは良くなった……はず。今は薄らと薄皮一枚を覆う程に留めている……のだけど、まだ難しい制御に額からは少し汗が。
それも少しずつ収まっていく。深く、深く、より深く。心の底を見つめることで自分を見つめ直す。禅を組む意味を教えられたのは、今のように力の制御が出来るようになってからだった。まったく、華扇さんも人が悪いよ。始めからこれが目的だったって言ってくれたら良かったのに。
「闘いの中に奇跡はないと言われる。では奇跡とは何です? 自分や周囲の人の幸せ? 仲間や間違いを正してくれる人がいること? ……奇跡とはそういった何気ないことを言うのだと私は思う。そうであれば、この世には奇跡が溢れている。なんと素晴らしいことでしょうか。今を生きる貴方にとって、それを感じることは何よりも大切なこと。忘れてはいけませんよ」
そしてその状態を保ちながら、華扇さんの話に耳を立てる。広い道場に響き渡る声に思考を巡らせ、自問自答を繰り返す。奇跡とは何か、僕に必要なこととは、何か。
「幻想郷には奇跡が満ち溢れています。ですが、正義はないと私は考えます。誰もが各々の好き勝手に生き、迷惑を掛けることに対して露とも感じていない。……八雲紫は、そんな世界に絶望したのではないでしょうか」
「……!? 華扇さん、それは……!」
「目を瞑りなさい、話を続けます。――――――私自身、今の幻想郷はとても危うい状態だと考えます。ほんの少しでもバランスが崩れると、どうなるかくらいは想像できます。だからこそ、彼の賢者は秩序ある世界を創ろうとしているのではないでしょうか。だとしたら私も……」
……だとしたら、何なのだろうか。まさか、華扇さんまで目的の為なら手段を問わないとでも言うのだろうか。……いや、この人にとってそれはないだろう。あるとしたら、共感出来る程の感情だと思う。
「では、そもそも正義とは何か? 所詮正義という感情など、個人の持つモノ。形や在り方も無数にあるモノ。だとしたら、本当は正義などこの世には無いのかもしれない。それでも人は正義を求めるます。例えそれがどんな形でも、時には他人の思惑など無視してまで。何故か? なぜなら正義は人の心の拠り所であり、自身の行為を絶対のものにする為の根拠なのだからです。では我々はどうすべきなのか。……忘れてはいけませんよ、貴方にとって大切なのは――――――」
「――――――自分を見失わないこと。そして、何が起ころうと自分の信じた正義を貫き通すこと……ですよね?」
「ふふ……よく出来ました。ではお昼にしましょう。あと、射命丸文には礼を言っておきなさい。八雲紫についてここまで調べて来てくれたのですから」
そう言う華扇さんの手の中には、分厚いメモ帳が握られていた。成程、紫さんのことが出てきたのは文に頼んでいた調査が上手く行っているからなのか。礼を言って、後で僕も目を通しておこう。これで、紫さんが何故こうも急いだのか解るかもしれない。
「知らないと始まらない。でも、知ったところで如何し様もないことだってある。それでも僕は―――」
絶対に、諦めてなるものか。しつこさと諦めの悪さにだけは、自信があるからね。
手抜きは仕様です、と開き直りつつも反省をしているじらいです。私には時間を跳ばして上手く書ける自信がありません! と言うことで今回の話でした。重要なのは最後の話だけかな? 巫女さんと絡めた話も最初は書いていましたが、技術が足りずに断念。ルーミアも断念。でもアリスは出る。いつか魔法使い同士で話が書けたらなぁ、と狙っています。
次回は人里1930年。あの人が起こす、最後の騒動です。変態紳士の方、ネタが有れば送って貰えると変態嬉しいです。もう風呂ネタは使えませんのでw でもこれからまた一週間ほど時間が空くかもしれません。…明日は新しいゲームがね、出るのですよ。昔から追いかけている戦闘機の。