心の底から貴方を殴りたい・下
「お前が大和を舐め過ぎているってことよ、この腐れ外道が!」
大人しくしていた天狗が一転、そう私に吐き捨てた途端に視界の端々にヒビが入っていく。そのヒビは大きくなり、視界のほぼ全てに亀裂が走った。このあり得ない現象を前に、私は一つの可能性に辿り着いた。
「まさか……幻術!?」
頭に過ったのは一つの可能性。私の知る限り…いや、調べられる限りでは世界最高峰といっても過言ではない精度を誇る大和唯一の魔法体系。今代最高の幻術遣いである彼の十八番、幻術魔法。
幻術には様々な種類がある。代表的なのは視覚や聴覚などの五感を騙したり支配するものだが、彼には更にその上がある。それは有幻覚と言われ、形を持ち、現実に干渉できる物理的な力すら持つ驚異の魔法。幻術とは術士のイメージが最も重要になると言われている。とするのならば、彼は自らが望んだ物全てをこの世で表現出来ると考えても間違ってはいない。……それに彼が気付いているのかと聞かれれば、判断に苦しむのだけど。
だからこそ私は警戒していた。しかし油断が全くなかったと言えば嘘になる。これまで掌の上で踊っていたの私ではなく大和であり、私は常に彼を躍らせていた。だからこそ今のような事態になるとは思ってもみなかった。故に一部の隙を見せてしまったのかもしれない。
しかし私も彼の幻術魔法の脅威についてはよく知っている。だからこそ、私は注意を払って彼と対面した。……注意を払って対面したはずだった。
「どうしたんですか? 紫さん、何時もより顔色が悪いですよ?」
しかし蓋を開けてみればどうだ、私は彼が幻術を行使する瞬間すら察することが出来なかった。実際に相対して掛けられたことがないからなのか、それとも情報ばかりが先走りして無駄な力が入ったのかは解らない。しかし今現在、掌の上で踊らされているのは彼ではなく私の方だった。
「……やってくれたわね。でも、現実じゃこうはいかないわよ」
「はは、お手柔らかに頼みます。じゃあそろそろ起きて貰えます? 今頃本体は暇を持て余してるので」
「ッ馬鹿にして……」
「嫌だなぁ、僕は本当のことを言ったまでですよ。紫さんだってそうじゃないですか、頼んでもないのによくもまぁ……。おかげで貴方が僕にやってきたことのほぼ全てが解りましたよ」
「……今の貴方に何を言っても無駄でしょうから、文句は全て『現実』 で言わせて貰うわ」
「そうしてくれると嬉しいです。それでは『現実』 で………」
砕け散っていく世界を眺めながら、私は彼への認識を改めるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「お帰りなさい、紫さん。いい夢でしたか?」
「ええ、それはもう素晴らしい夢でしたわ」
今の心情を一言で表すとするのなら、恐怖。すごく怖いです、冗談抜きで漏れるかも……。まるで親の仇を見るような鋭い眼光で僕を睨みつけてくる紫さんを見て、つい先程まで調子に乗り過ぎた自身に酷く後悔しているところです。でも仕様が無いじゃないか、初めて紫さんに対して優位に立ったんだから。
それに僕だってここまで良い様にやられて悔しく思わないわけがない。こんな少しくらいやり返したところでも、まだまだ足りないと思うのが本音だ。
「では紫さん、答え合わせの時間です。解答と解法を紫さんが理解出来るようにゆっくりと、丁寧に説明するんで一回で理解してくださいね? あ、やっぱり質問してもらえますか? 自分一人で話すと何でもかんでも話してしまうかもしれませんので」
「……………」
はっはっは、怖いくせに何煽るようなこと言ってるんでしょうね僕!? ついさっきから僕の膝はプルプル震えてますよ隣の文さん!? え、なに? 因果応報? は、ははははははははははははははは! もうここまで来たら最後まで馬鹿にした態度で突っ走ってやる! これが生涯最期の会話になるかもしれないからね!!
そう決めた僕は、おそらく自分で見れば迷わず殴りかかる程ウザイ笑みを浮かべて事の次第を話すことにした。
「ならお言葉に甘えさせて貰おうかしら。私が今までやってきたこと、それはルーミアから聞いた?」
「そうです、あの子が全部を話してくれました。そのあと藍さんが訪ねてきた時は誤魔化すのに苦労しましたけど」
「やはりあの時……藍もまんまと騙されたわけね。じゃあそれからかしら? この作戦を考えていたのは」
「いいえ、考えたのは神社で藍さんと会った後です。その前までは別のことを考えてました」
「別の事? ……もしかして、仇討ちなんて考えてなかったでしょうね?」
「その通りですよ? 僕は貴方を倒すことを第一に考えてきました」
「……貴方、笑えないわ。ええ、本当に笑えない」
笑えないのは僕も同じなんだけどね。こんな状況で……闘う為に何の準備も出来ていないのに笑えるわけがないから。
何を隠そう、紫さんの前で余裕立ちをしている僕ですが、ここから先は何の策もありません。何故なら賭けを受けて貰う為だけにおびき寄せたのだから。でもそれは予定では今日じゃなかったんだけどね。修行の為の200年くらいは分身で隠し通せるだけの自信があったのだけどなぁ……。山に入った瞬間に待ち伏せされるなんて本当にツいてない。
それなのにこれほど刺激させていいのか? と聞かれれば、これでいいのだ、と答えるけど。
何故かって? 賭けと言うのはね、対等の立ち位置だからこそ成り立つ物なんだよ。幾ら吠えようが力の無い者の言うことなんかに聞く耳を持つはずがない。風が吹けば簡単に飛んでいく存在を前に無駄な時間を過ごそうなんて酔狂な人、そうそう居ないでしょ。だってぶん殴って黙らせて言うこと聞かせることが出来るんだからさ。
だからこそ僕がそれなりに『デキる』 と言うことを身を持って知って貰わなければならない。今までの僕とは違うのだと、もう一筋縄ではいかないのだと言うことをアピールすることが必要だった。だからこそこうやって虚勢を張ってまで余裕の演技をしているんだよ。
「藍が神社から帰ってきた後から私は監視の目を強めていたのだけど。どうやってその監視の穴を突いたのかしら?」
「紫さんならきっとそうすると思ってました。だからこそ、僕はそれまで通りに隠れて準備をしていたんです。山に入る準備をね」
「でも私はその動きを察知していたわ。隠れていたつもりなら、察知されるのは拙いんじゃないのかしら?」
「それがそうでもないんですよ。だって紫さん相手に僕が隠し通せるわけ無いじゃないですか。だから見られていると知りながら態と放っておいたんです。僕が山に入る準備をしていると知って貰う為に」
これはほとんど嘘だ。見られているだろうと予測はしていたけど、本当に見られているのだとは気付けなかったし、今日紫さんが僕の前に現れるというのは本当に誤算だったから。本来なら修行の全工程を終えた後に僕の前に現れるように仕向けようと思っていたから。それにあのルーミアちゃんが何も言わなかったくらいだ、きっとあの子も気が付けないレベルの監視だったのだろう。だったら僕が気付けるわけもない。
……今思うと最初から挫かれていたんだよね。でも計画の要となる分身体にはそれだけの自信があったのも確かなんだけど。本心から200年の時間稼ぎくらい出来ると思っていたんだけどなぁ……。けど、それでも僕一人では紫さんの上を行くことは出来なかった。
「それは嘘ね。あれからは私が持てる技を尽くして監視していたのよ。だから絶対に気付くなどら出来ない。だから貴方は今日、私が此処に来ること事態知らなかったはず。なのにどうやって私に覚らせずに幻術を使えたのかしら」
「……言ったでしょう、大和さん。妖怪の賢者とまで言われた方に下手な嘘は通用しません、と」
嘘と真実を混ぜればそれなりに通用するとは思ったけど、それすら難しかい。文の忠告を無視して嘘を真実と織り交ぜて出してみたけど、逆に下手を打ってしまった自分の愚かさを少し怨んだ。確かに今日の一件は紫さんの言う通り、僕は何も知らなかった。そんな早すぎる襲来に対して対応できたのは、隣にいる文と一人の天狗の影響が大きい。
「『大和』 には私が教えたのよ。八雲紫が山に入っているけど貴方と関係あるのかしら? とね。私じゃ場所の特定は大まかにしか出来ないし、近づきすぎると覚られる。だから目の良い子に頼ることになったけど」
「……射命丸文。貴方は自分が何をしたのか解っているの? この一件、天魔は『天狗は関わらない』 と誓ったのよ。貴方はそれを単独で破った、つまり長の命令に逆らったのよ。これが天狗社会の中で生きる貴方にとってどれだけ影響を及ぼすのか解らないわけないでしょう?」
それが一番の懸案事項だ。文ともう一人の子は天魔の命令を無視してまで僕に強力してくれた。白狼天狗のあの子は無理やり強力させられたと言えばなんとでもなるだろうけど、一緒に行動している文は言い逃れが出来ない。僕も知らせてくれるだけで十分だと強く言ったのだけど、そんなことは屁の河童だと言う本人が付いてくると言って聞かなかった。逃げる場合には最速の足が必要だろう、と言って。
「後のことなんてどうでもいいのよ。そりゃあ私だって自分の置かれている状況くらい解っているし、キツイ制裁を受けるでしょうね。こんな私でも天狗社会の一員なわけだし、何時もなら嫌々でも一族の命令には従うわ。でもね、親友のピンチに見て見ぬフリをしろだなんて命令は無理。不可能。断固拒否。恩に仇で返すぐらいなら親友と心中するほうがマシよ」
「………………」
「私達はね、まだ生まれて間もない時から固い絆で結ばれているの。そこに誰かの意志が入り込む余地なんてないの。私はただ親友を助けたかったから助けただけ。だいたい他人を助ける時に自分の身の安全を計る奴なんていると思う? いるとしたら、きっとそいつは誰も助けられやしないわよ」
こんな文に惚れ直す、と言うのは表現が違うけど、僕は一人じゃなくて良かったと思う。僕一人じゃどうすることも出来なかったから。もし文がいなかったら、今頃僕は紫さんに連れて行かれていただろうし。
『一人で無理でも二人なら、二人で無理なら三人で……多くの人と手を繋ぎ、同じ方向を向けば不可能なんて言葉は意味を為さなくなる。誰かと繋がりがある、どれほど長い年月が過ぎようとも砕けない絆の力。一人じゃないと言うことはとても頼もしいことなんだよ。その中心に立つ人はね、ご主人さまなんだよ』
全てを知ったあの日、ルーミアちゃんが言っていた意味が今なら少しだけ解る気がする。こうして誰かの力を借りて、誰かと一緒に前を向ける。それだけで可能性は広がっていくんだ。だから僕は紫さんとも手を繋ぎたい。そうすれば二度と僕や零夢のような存在を生み出さなくて済むはずだから。
「紫さん、賭けをしましょう」
「賭けですって?」
「そうです。お互いの人生を賭けて一回きりの勝負。勝った方が負けた方を好きにする」
けど手を繋ぐにはまだ早い。今のこの人には何を言っても通用しないだろうから。そうじゃないと人を殺すことを『必要だから』 なんて言葉で纏められるわけがない。だから僕は僕の全てを賭けて真正面からこの人を叩き潰して、映姫様の前で誓った自分への誓いを果たす。100人じゃない、101人で宴会を開く為に。
「僕が勝てば、僕の理想とする幻想郷の為に一緒に働いて貰います。紫さんが勝てば……どうにでもしてくれればいいです。式にでも下僕にでも成りますよ」
「じゃあ今から――――――」
「おっと、それは無しですよ。今の僕は未完成な幻術を無理やり使ったせいで魔力が零なんで。こんな全力には程遠い状態じゃ無理なんですが……紫さんならそんな事関係無しに襲ってきますよね。でも、もしそうすると言うのなら―――」
「言うのなら……?」
「――――――逃げます。具体的に言うと母さんの所まで。追いかけてくるのなら友人全員頼って返り討ちです」
「足は私です。追いつかせやしませんよ?」
唇の端を吊り上げてそう宣言してやった。どうだ参っただろう!
・・・・・・・・・・
「……ごめんなさい、やりたくないけど突っ込みを入れさせて貰うわ。自分で言って情けないと思わない?」
「五月蠅いですよ!? そりゃあ自分で言ってて泣きたくなるくらい情けないですよ! でも今の僕じゃ全力出せても勝率なんて零だし!? だから修行しようと思って山に入ったのに何故か待ち伏せされてるし!? 何なんですかいったい!?」
ふん! 今の僕が紫さんに勝てるわけないに決まってるでしょ。だから親だって友人だってみんな巻き込んでやる。どうせ皆見て見ぬフリをして来たんだろうし、この際表舞台に引きずり出してやる。終いには紅魔館を始めに映姫様まで味方に引き込むぞゴルァッ!?
「この際だから開き直させてもらいますけどね! 僕は最終的に皆で楽しく笑って楽しく過ごせればそれでいいんですよ! その為には今の考えを持った貴方じゃ駄目なんです。だから改心してください。いや、本当にお願いします」
「奇遇ね。私も甘い考えを捨てきれない貴方では使い物にならないと思うわ。改心なさい」
「ほら平行線じゃないですか。だから自分自身の信念と誇りを賭けて勝負をしようと言っているんです! ……僕の修行が全部終わってから」
じりじりと、コンマ一秒も掛らない間に文に跳び付ける位置まで動く。どうせこの話はもう平行線のまま動くことは無い。それに紫さんが今の僕を見逃してくれる訳もないだろう。だから瞬時に逃げられるように身体に力を入れた。無論文もそれに気付いているらしく、何時でもトップスピードで飛べるように準備を始めている。
分の悪い賭けや闘いなら幾らでもしてやる。でも勝てない闘いをするほど僕も愚かじゃない。逃げることも立派な闘いだ。
「…………はぁ、貴方自身はそれで負けたら満足できるのね?」
「……! 乗ってくれるんですか!?」
やれやれ、と両手を広げて首を振る姿を見るに、どうやら納得してくれたみたいだ。驚いた、もう逃げるしかないと内心思っていた所なのに。でも何でこんな馬鹿な提案に乗ってくれたのだろう? また汚いことでも考えているのだろうか?
「100年程の猶予をあげる。それまでに貴方自身を『完成』 させなさい。私がまた調整するのも面倒だし。……それに、貴方が何をしようと世界は変わらない。そんな理想など実現不可能だと言うことを自覚する為の時間として遣いなさい」
「……貴方が何をしようと、僕はもう揺るぎません」
「……ホント、萃香と同じで頑固ね。本当に貴方たち親子は――――――いえ、何でもないわ。せいぜい貴方の最期に相応しい舞台を用意しておくことね」
そう言った紫さんはスキマを開いて背中を向けた。
「まぁその前にそこの鴉天狗を助けてあげることね。それすら出来ないのなら、直ぐにでも迎えに行くから」
そう一言言い残し、紫さんはスキマに消えて行った。確かに文をどうにかしなければならない。紫さんが去ったからか、多数の妖気がここを目指して飛んで来るのが解る。
「うーむ、これは非常にマズイですね。非は私にあるわけですから抵抗も出来ませんし。むしろしたらしたで余計に罪が重くなりますし……。これは参りましたねぇ」
「その割には落ち着いてるね」
「え? 大和さんが身体張ってくれるんじゃないんですか?」
「うげ……随分難しいこと言ってくれるなぁ」
「でもそのつもりなんでしょう?」
「そりゃあね。僕の為にしてくれたことだし、文の代わりにけじめをつけなきゃならないだろ」
向かってくる天狗たちを迎撃するために気を纏って空に浮かぶ。地面では木に背中を預けた文が余裕そうに僕を見上げている。……期待されてるなぁ。ま、せいぜいその期待を破らないようにしよう。恩にはそれ以上の恩を持って返す。母さんの教えだ、守らないわけにはいかない。
「親友一人守れないようじゃ生意気なんて言えるわけもない。ここは絶対に引けない」
鴉天狗に白狼天狗、それを率いる一際大きな妖気は大天狗と呼ばれる幹部なのだろう。10人程が戦列を組んでこちらを睨んでいる。これだけ引き寄せるだなんて文も人気者だなぁ。
「伊吹大和、そこの同胞を「嫌だね」 なッ!? 抵抗する気か!」
相手の出方を待つまでもない、やることは既に決まっているのだから。先手を取って一番弱い白狼天狗に打撃を加え、結果3人堕とすことに成功した。幻術が使えない今、僕は小細工が何一つ出来ない。魔法を使えない状態で始まる戦闘は初めてだ。
「さあ行くよ、古からの友人たち。善も悪も関係ない―――今この瞬間は、力だけが全てだ!」
だからこそ、純粋な武術家としての真価が問われる――――――
◇◆◇◆◇◆◇
「ああもう、貴方達もしつこいなぁ」
いったいどれだけ時間が経っただろうか、心身共に疲れ切った僕は、其れでもなお空に浮かんでいた。ノした天狗の数は20を超えてから数えるのを止めた。だって倒せば倒すほど次が出てくるから。どうやら文だけじゃなく、僕自身を気に入らない人たちも多いらしい。そんな人たちは少々のダメージなど気にせず突っ込んで来るから僕も無傷でいられる筈もなかった。
身体には斬られたり殴られたりして出来た傷が多くある。近接戦闘は得意なつもりだけど、時間を於かずに向かってくる数の暴力には耐えきれなかった。飛んで来る天狗を掴んで盾代わりにもしてみたけど、あまりにも可哀そうだからと途中で止めたのが間違いだったのかも知れない。でも掴んだ天狗を武器代わりに投げたりはしたけどね。
「流石は伊吹と言ったところか……よくここまで粘った。だがもうそろそろ諦めてそこの部下を渡してはもらえんか?」
「無罪放免」
「それではこちらとしてもけじめがつかんのよ」
「ケチ。僕を好きなだけ甚振ったくせに。それで手打ちでいいじゃないか」
「それよりも堕ちた部下の方が多いから困っている……」
……もしかして頑張り過ぎたかな? 今、僕は大天狗たちに囲まれている。襲いかかって来る人を堕とし続けていると、知らない間に大御所まで出てくるようになってしまったのだ。まぁ付けられた傷のはほとんどがこの人たちだから僕もこう言ってるんだけど。
「どうしても退いてくれんか? こちらとしてもお前の親が怖いから、これ以上手出しはしたくないのだ……。頼む、この通りだ。お願いだから引いてくれ。我々としてもまだ死にたくない」
一斉に頭を下げる大天狗たちを前に、僕自身パニックに陥りそうになっている。だって仮にも山の幹部たちだよ? そんな人たちが束になっても母さんが怖くて手出し出来ないって、いったい母さんってどんだけ怖いんですか!? って話なわけですよ。
もしかして、この人たち全員相手にしても無双出来るほど強いなんてことは無いよね……?
――――――止めよう、想像したら本当に出来そうに思えてくる。でもこれはチャンスだ。これ以上僕に手が出せないのならそこから強請りをかけてやればいい。ヌフフ、僕も悪よのぅ……。
「だったら無罪放免でいいじゃないですか」
「だからそれは無理なんだ。……困った、儂だってまだ死にたくないのに」
「だから――――――」
「もう手打ちでいいではありませんか。これ以上すると言うのならば私としても黙っておくわけにはいきませんからね」
「……ッ誰!?」
少しの気配も感じさせず、僕の隣にピンク色の髪をした女性がいきなり現れた。急に現れた女性に驚いて飛びのこうとするも、伸ばされた片腕に僕の腕が掴まれてしまった。……いったい何者なんだ、僕に気配の一つすら覚らせずに隣に現れるなんて……。
「伊吹大和」
「え、あ、はいなんでしょう?」
「頭を下げなさい」
「へ? ……って、うわっ!?」
「どうも私の知り合いが不始末を起こしたようで、申し訳ありませんでした。今後はこういうことが起こらないよう、十分教育しますのでこれで手打ちにして貰えませんか?」
この人は何者なのだろうか、何で僕の名前を知っているのだろうかと困惑している僕は、何を言われているのか意味が解らずに呆けてしまった。すると突然、掴まれていた腕が後頭部へと場所を移し、強制的に頭を下げさせられた。なんなんだこの人!? さっきから何の抵抗も出来ないんだけど!?
「いや、しかし儂にも立場と言うモノがあってですな……」
「……頭を下げるだけでは足りないと?」
「いや、そういうことではなくてですね……」
「そもそもこの子を倒せないそちら側にも非があると思うのですが。この程度の子供、貴方たち大天狗が本気になればものの数秒も持ちますまい。それをしないと言うのはいったいどういうおつもりか。この山を任された者として、この対応はあまりに不適切ではないのですか? ……もしや、本当にこの子の親が怖いだけではないのでしょうね?」
母さんを知っている!? と言うことは、僕が鬼の子供だということも知っているんだ……。だとしたら、きっと妖怪の山に住んでいた人のはずなんだろうけど……。でも本当に誰なんだろう、こんな人僕は見た覚えが無いのに。
「いっいえ、儂らはただ――――――」
「ふぅ、久しぶりに俗世に出てみればこれか。山の管理者は仕事をしない、同胞は地下に潜ったまま出て来ない。ああ、まったくもって嘆かわしい。もう結構、私たちはこれで失礼します。――――――ああ、そこの鴉天狗の貴方も来なさい。天魔には私の方から連絡を入れておくから心配は無用です。それでは天狗の皆様、またお会いしましょう」
次から次へと出てくる話題と、有無を言わせない圧力に僕らは圧倒されてしまった。口を挟むことは出来るだろうけど、挟めば倍以上になって帰って来るだろうと直感してしまった。……だから誰も口を挟まないのかも。だってこの人、まるで映姫様みたいだし……。
「あの~、貴方様はもしかして……」
「私の家に着いてから話をしましょう、鴉天狗。大和、もちろん貴方はこれから説教です」
だから、貴方は誰なんですかってばよ……
ちょうど一週間といったところでしょうか、じらいです。今回はですねぇ…本当に時間掛りました。リアルの問題でモチベーションは下がりますし、ちょっと愚痴らないとやってられません。と言っても一日ずつちょこちょこと書いていたのですけど。
そのせいとは言いませんが、今回の話には無理がありすぎだと思うというか、納得出来る要素が何時も以上に少ないんです。どこがと聞かれれば何となく感じるだけなんですけど。ここ一番の盛り上がりのはずがなんかちょっとどうよ? みたいに。でも精神状態って小説書くのにすごく影響するんですね。私だけかもしれませんけど…。
さてさて、ここからは私情です。長くなるので一言二言。腐った現実の中での零の軌跡は楽しかった! 碧の軌跡最高! ビバ☆現 実 逃 避