表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方伊吹伝  作者: 大根
第七章:未来を見据えて
126/188

心の底から貴方を殴りたい・上

大和劇場、始まります



―――――――――生まれ、地上に堕ち、育ち育たれ魔法使いとなった。それは仕組まれたことだったのか? 初めから決められていたことなのか? ……そんなことない。決してそんなことは無いと僕は言い切れる。だってこの心にある喜びも、怒りも悲しみも何もかも僕のものだから。




魔法使いになりたいと願ったのは誰?


―――――――――僕だ




先生の死を切っ掛けに家族と言える人たちから逃げ出し、世界を改めて見つめ直そうとしたのは誰?


―――――――――僕だ




誰も死なせないと言いながら、それでも好きだった人を救えなかったのは誰だ?


―――――――――僕だ





全部全部全部、今まで歩んできた道のりの全ては僕が自分で望み、成し、後悔してきたことなんだ。そこに誰かの意志なんて関係ない。魔法使いになるために努力したのは僕だ。レミリアと喧嘩をしたのも僕だ。零夢と温かい日々を過ごしたのも僕なんだ。



踊らされているだけ? 違うよ、踊っているんだ。相手の思惑にまんまと乗せられた? それも違う、僕が乗ってあげたんだ。僕は僕の夢を叶えるために、相手の造ったレールの乗ってあげただけ。




ほら、考え方一つかえるだけでこんなに変わる。それなのに僕をここまで導いたと言うの? 馬鹿言ってんじゃない、人一人を自分の思惑通りに育てるなんて出来るわけない。




だからこそ言える。『僕は大和だ』 と。ねぇ、今の君には辛いことばかりだと思う。でもね、『僕ら』 は何度も壁を乗り越えてきたんだ。今まで何度も、何度だって壁を乗り越えて一つづつ強く成っていけたよね。だから出来る、絶対に出来るんだから。どんなに辛くたって絶対に諦めるなよ、僕――――――――――――




























「今のは…………僕、なのか? …はぁ、いい加減寝ている間に勝手に能力が発動しないようになりたいよ。これじゃあまるでオネショをする子供だ」




能力の暴走と言うわけではない。『先を操る程度の能力』 の先見、まあ一種の予知夢みたいなものなんだ。寝ている時に見る夢なので望んで見れるものではないし、夢の中なので勝手に動き回ることも出来ない。だから何時も予知夢が見れた時はその光景をみているだけ……だったんだけど、今回は違った。



あれはたぶん、未来の僕だ。何故だか解らないけどそんな確信がある。まぁ今まで夢の中の人が話しかけてくるようなことは無かったから不思議に思うんだけどさ。





「僕もアキナみたいに上手く使えればいいんだけど……難しいよなぁ」





まだ能力を持て余してるくらいだからね。僕の能力はもっと応用の効いたことが出来るはずなんだ。僕はやればできる子、やればできる子なんです。……自分で自分を褒めないと誰も褒めてくれないので、自分で褒めているだけです。ほっといて下さいよぉ……




「今からだって言う時になに落ち込んでいるのだ。早く準備して山に上がるんでしょ?」


「解ってるって。……じゃあそこの『僕』 のこと、頼んだよ?」





今から数ヶ月前……いや、もう去年の話か。魔法の箒の生産を行い、借金返済のなかでも僅かながらの定期収入も出来た。そんな中、僕は自分の分身体をルーミアちゃんに預けて山に籠る準備をしてきた。つまり家には僕が二人とルーミアちゃんの三人が居たわけ。



分身を消さずにおいたには訳がある。これは以前レミリア相手に造った有幻覚の分身体を改良したもので、あの時からもただ命令をこなすだけなら何の問題は無かった。ただ今回は分身体を通して本体である僕と通信を出来るようにするため、その場その場での微妙な調整が必要だったからだ。



その甲斐もあって通信機能を搭載した分身体が出来たのだけど、そこに力を注いだ分耐久力が落ちた。下級妖怪の攻撃でも消滅するくらいの紙強度。それにどう頑張っても完全に自立した分身には成らなかった。命令をこなすことは出来る、でも自分では動けない……。儘ならないものだよまったく。






「任せるのか。忘れ物は? 魔道書と研究ノートは持った? 今は冬だから厚着の服も――――――」


「わかってる、わかってるってもう…。ルーミアちゃん、これじゃあまるで母さんみたいだよ」





玄関まで移動した僕に手荷物はない。何故なら魔法で別の場所に置いているから。まぁ便利な場所に荷物が置いてあって、何時でも好きな時に好きな物を取り出せるようにしてあるってわけ。魔法使いなら誰でも知ってる収納魔法の一つだ。



それを知っているはずなのに、僕の後を着いて来たこの子は心配が絶えないようだ。





「つ ま なのだ」


「はいはい、冗談冗談。……それじゃ、言ってくる」




胸を張って宣言するルーミアちゃんの頭を撫でてあげた。目を細めて擽ったそうにする悪友を見ると、もう自分だけの闘いでは無くなったのだとつくづく思わされる。今まで支えてくれたこの子の為にも、僕の為にも、皆の為にも負けられない闘いが始まる。





「悔いのない時間を、我が主」





もう絶対に後悔しない。その為に僕は山を目指した。








◇◆◇◆◇◆◇







妖怪の山、誰がそう呼びだしたのかは定かではない。ただ、その山は僕が拾われる前からそう呼ばれていた。僕の故郷でもあるこの山には、鬼が居なくなった今でも天狗を始めとした様々な妖怪や神様が住み、変わらない日々を送っている。長い間妖怪が住んでいるだけあり、山には多くの妖気が充満している。にもかかわらず、山が齎す恩恵も多くあり、山の幸を求めて山に入ろうとする人間も多い。まぁそのほとんどは哨戒天狗や親切な神様に追い返されているのだけど。



その哨戒天狗、白狼天狗たちに追い返されない例外もあって。その内の一人が僕だ。母さんの息子だからなのか、一定以上の力を持っているのかは解らないけど、問答無用で追い返されたりすることはない。それに故郷であるだけあって、余り知られていない場所や秘密の場所についても知っている。だから山で修行するように思った。






「聞きましたよ大和さん、人里で大きな飲み会をして嵌められたそうじゃないですか」


「案外耳が遅いんだね、文。もっと早く取材しに来るかと思ってたけど」


「いえいえ、はぶられているとはいえ私も天狗社会の一員なので。色々と雑用等が多いのですよ」


「はみ出し者故に?」


「はみ出し者故に」





とは言うものの、先程から文と一緒に山の中を歩いている僕に多くの視線が突き刺さってきている。おそらく何時も通りの警戒なのだろうけど、少し違った感じも見受けられる。隣の文が何も言わないということは、特にこれといって変わった事情もないのだろう。





「ところで大和さん、こんなに雪が多く積もっている時に何用なんです?」


「ちょっとね……。文はこれから何か用事でも?」


「いえ、何もないです。だからご一緒してもいいですか?」


「もちろん。ああそうだ、後で頼みたいことあるけどいいかな?」


「そうですね……。まぁ他ならぬ大和さんのお願いですし、何とかしてみましょう」


「ありがとう。じゃあ行こうか」





少々引っ掛かる物言いをする文に首を傾げながらも、雪深い山の中をゆっくりと飛んで行くのであった。








◇◆◇◆◇◆◇







雪深い山の中を進むこと数十分。山の中でもあまり知られていない、所謂秘境と呼ばれる場所に僕らは辿り着いた。木々が生い茂る山腹に、まるで闘技場のような円状に整えられた場所。嘗ての僕と勇儀姉さんが修行に使っていた場所だ。僕の夢の原点であり、幼かった僕の思い出深い夢の足跡。




まるで穢れを知らない純白に染まった世界にその人はいた。雪のように白い肌に長い金髪、鮮やかな紫色のドレスを着こなす女性。その人の名前は八雲紫。僕にとって超えるべき人であり、止めるべき人。そして、僕にとっての仇……。






「久しぶりね、伊吹大和。遅かったけど、久しぶり過ぎて迷ったのかしら?」


「久しぶりです、紫さん。雪景色を見ていたら遅くなっちゃいました」


「フフ、その気持ちは解るわ。穢れを知らない白い雪、風情ねぇ」


「ですねぇ……」





微笑を浮かべる紫さんに対して、僕も紫さんに微笑で返した。……もっと怒り狂うと思っていた。この人の姿を見た瞬間に殴りかかるのだろうと、ついさっきまでは思っていた。でも実際に相対してみるとそんな事は出来ず、身体中から噴き出る冷や汗を隠し、強がるだけで精一杯だった。






「私がどうして貴方に会いに来たのか、もう解っているわよね?」


「………………ッ」






一瞬、視界が歪んだ。濃紺な殺意と妖気に完全に飲まれた僕の足はプルプルと震えだし、その震えは今尚大きくなっていく。頭を垂れ、膝が地面に着きそうになるのを耐え、必死に視線を逸らさないように意識を集中させる。





「全て知ったのでしょう? 私が貴方をどうしようとしたのか、私が零夢をどうしようとしたのか」


「………知り、ました……。だから、だから僕は……!」





ここで引くわけにはいかない……ッ! 何としても、僕の有利になるように話を進めなければ……





「まぁ跪きなさいな」


「………嫌ですッ!」


「跪け!!」


「ぐぅッ………!?」





意志の力だけで人を殺せるのだとしたら、僕は既にこの世にはいないだろう。今までの闘いでも殺気は受けてきたし、受け流す技術は既に修得している。でもこれは余りにも違い過ぎる。殺意だなんて軽いものじゃない、まるで人が放てる意志全てが僕を跪かせたように感じた。






「彼女には悪いことをしたわ。あの場できちんと始末しておけば、長く苦しむことも無かったでしょうに。本当に悪いことをしたと思っているの」


「だったら……なんで、殺すことは悪いことじゃないんですか……!?」


「『必要』 だったのよ、伊吹大和。幻想郷という世界構造を確立させるために、彼女という犠牲は『必要』 だったの。元々博麗の巫女は幻想郷を守る為にいるのだし、彼女も本望だったでしょう」


「零夢は一度だって、死にたいとか考える人じゃない!」


「でも彼女、貴方には相談もしなかったのでしょう?」


「…! そ、それは………」


「愛する人に何も言わないのは裏切りに値する行為だわ。伊吹大和、貴方は最初から騙されていたの。かどわかされていたの。あの巫女、博麗零夢に。だってそうでしょう? 何も言わないってことは、信頼されていない証拠だもの」


「ち、違う! 僕と零夢はお互いに信じ合って「いいえ、それは思い違いよ。だって、私だもの。私が全て仕組んだことだもの」 ……な、何言ってるんですか……?」





解らない分からないわからないワカラナイ……。何だ……これ……なんなんだよこれは!?





「今貴方の暗示を解いたのだけど、思い出せたかしら? 貴方が彼女に興味を持つ様に仕向けたのは私よ」


「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! だって……こんなッ!?」


「いいえ、今の暗示が解けた貴方になら真実が解るはず。――――――零夢が死んだのは、貴方のせいよ」


「そんな……僕………僕……嘘、うそだよ、嘘に決まってる……うそ……」





真白な世界は、初めから真黒な世界だった。








◇◆◇◆◇◆◇








藍の様子がおかしい。私生活も諜報活動も不備があるわけではないが、博麗神社に向かわせ、大和と合わせてから妙な空気を漂わせるようになった。おそらく私でないと気付けない僅かな変化。計画に支障はないとはいえ、働き過ぎで倒れて貰っては困る。そう思った私は彼女に7日間の休暇を与えた。





そして休暇明けの7日目、自室から出てきた藍の想いもよらぬ一言に私は度肝を抜かれた。





「伊吹殿に……後世の者に期待することは出来ないのでしょうか。私は……私はこの7日間そのことだけを考えていました。初めて紫様の式になった時、崇高な思想の下にこの身を犠牲にすることに対し何の躊躇いもしないと誓いました。それは今でも変わりません。……しかし、今の伊吹殿を見ていると思うのです。



この人なら私たちの為し得なかった方法で世界を変えてくれるのではないか、と。



幸いにも博麗の巫女は我々の手にあります。だからこそ、我々は後からそっと支えてあげるだけでいいのではないかと、私は最近になって思うのです」





貴方は既に多くの血で塗れたこの手で、彼らを支えろというのか。なら私たちが今までしてきたことは、私たちの為に散っていった者たちはいったい何になると言うのか。藍の話を聞いた時、私は思わず藍を打ってしまった。正気に戻れと、夢は見るだけ無駄なのだ、と。





もはや止まれない。ならば、いっそのこと彼を完全に取り込む。絶対にそれだけはすまいと思っていた最後の一線に足を踏み入れることを私は決心した。



それは彼を私の式にし、必要のない記憶を弄った操り人形にすること。そうすれば……もう誰も傷つくことはない。誰もこの美しくも残酷な世界に対して、憎しみの声を上げずにすむのだから。





そう決心私は、大和を徹底的にもう一度調べあげた。家族・交友関係・最近何をしたのか、何をしようとしているのか。……借金があると知った時は思わずお茶を吹き出してしまったが、お約束だろう。彼はいい意味でいつも私の裏を取ってくれる。







そして彼が妖怪の山に入る準備をしていることに気付いた私は、天魔に話をする為に山に入った。要件は二つ。一つ、山を出た鬼と私が戦闘になった時どちらの味方をするのか。二つ、伊吹大和が山で暴れた時に手を出すのか。




天魔の下した回答は静観。つまり、何が起ころうと手出しはしないと言うこと。保守的な天狗らしい実に良い回答だった。ならば話は早い、彼が山に入ると同時に私も山に入った。そして彼が幼いころ修行場として使っていた場所に先回りし、彼を待った。




そして彼がここに辿り着いた時、私は彼の心を壊す作業に入った。その方が式にし易いから……。彼にとって最大のトラウマは零夢だ。ならば彼女への不信感を強めてやればいい。



そう思った私は『零夢の時と同じように彼に暗示を掛け始めた』




博麗大結界時、私は零夢に『彼が興味を持つ様に私が心を弄った』 と言ったが、あれは真っ赤な嘘だ。彼は自分で興味を持ち、恋し、そして愛した。あの時の巫女は霊力を吸われており、余裕もなかった為に私の暗示の前に屈した。暗示を掛けた理由は僅かな反骨心をも持たせないため。心を完全に折る為だった。



そして大和に対してもそう。まずは絶望という鎖で彼の心を縛り、思考の海へと彼を沈める。そしてその後で救済と言う名の手を差し伸べてやる。絶望が深ければ深いほど、僅かな希望に縋りたくなる。………結局、人とはそう言うモノなのよ。






「辛いでしょう、悲しいでしょう。でもそれでいいのよ。それでこそ貴方なのだから。だからこそ――――――伊吹大和、私の式になりなさい」


「式……? 藍さんのような式に……僕が?」


「そうよ。貴方のような人を生み出さないように……この幻想郷を守っていきたいのならば私の手を取りなさい。絶対に後悔はさせない。もう二度と、絶対に後悔させるようなことはしないと誓います」


「………………」






沈黙、か。まぁそれもいい。どの道彼はもう堕ちた。だけどその御蔭で幻想郷は安定期を迎える。彼という柱を中心に据えた新しい世界が始まるのだ。





「貴方は何も言わないのね」




この場で静観を決めている天狗に向かってそう言った。彼女は大和の古い友人で、彼のことをとても大切にしている。もともと真面目だった彼女がなぜおちゃらけたのかは知らないが、おそらく大和が何かしたのだろう。



しかし彼女も天狗社会の一員。長の言葉は絶対であり、その長が静観を決めたのだからその決まりには従うしかないといったところか。





「貴方、生まれた頃は幹部候補だったようね。そのあと人が変わった様におちゃらけ明るくなったらしいけど、それも大和のおかげなのかしら」


「……まぁそうですね。大和さんのおかげと言われれば、間違っているとは言いません」


「だったら貴方自身は、今回の件についてどう思っているのかしら? 第三者として、この幻想郷に住む者として」


「さぁ……私は貴方のように賢者と呼ばれるような存在ではないので何も言えませんね」


「そう……」





友として糾弾してくるのかと思ったが、彼女は何も言わなかった。むしろ罵倒でもしてくれれば私としても気が楽になるのだけど……彼女がそう言うのなら仕方がない。これも『必要』 なことなのだから。





「ですが一つだけ言えることがあります」


「……なにかしら?」


「お前が大和を舐め過ぎているってことよ、この腐れ外道が!」





その瞬間、世界が砕けた








鬱展開は無いと言ったな、あれは嘘だ。すいません、やはりこうしてしまったじらいです。まぁいいですよね、これからですから、これから。楽しくなってきましたよ…!



次回は心の底から貴方を殴りたい・下です。意味深な終わり方をしたので最初からクライマックスです。更には前回紫を覗いていた人も出て来て…? な感じになると思います。まぁ今回ばかりは本当にゆっくり書き上げるので、一週間後か二週間後になると思います。勉強しないとね! オラに元気を分けてくれー! 切実に願っているぞー!



もっと語りたいこととかいっぱいあったのですけどちょっと衝撃的な出来事がありまして忘れてしまいましたorz



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ