反撃への決意
「出て行く前にはあんな事は言ったけど、やっぱり美味しいご飯を食べて明日も頑張って貰わないと」
そう思って手作りのエプロンを身に纏い、気合を入れて台所で料理をしているのはご主人さまの妻ことルーミアだよ。お玉を片手に味噌汁の味見をする……新妻だと思わない?
でも本当は作るかどうか迷ったんだよ? ご飯抜きは流石にやりすぎじゃないかとか、いや、でも甘やかしても駄目だし……とか。そうやって悶々としていたけど、悩むくらいなら作った方がいいに決まっている! そう思った私は今日も台所に立った。やっぱりあの人の笑顔が見たい。一人で人間を食べるのも楽しいけど、一緒に食べるご飯はまた違った楽しみがある。
一人で食べるより、二人で食べる方が会話というスパイスが効いていて美味しい。心がぽかぽかになるの。
もちろん人間を食べるだけでも十分満たされる。でもご主人さまと一緒に食べるともっと満たされる。もちろん食べるのは人間じゃなくて調理された食材だけど。むしろ最近はそれしか食べていないし、ずっとこの家にいるから人間を食べる機会なんてない。けどそれでも大丈夫! ルーミアちゃんの作ったご飯は美味しいね、なんて一言言って貰えるだけで私は満足!
「萃香には悪いけど、義理の娘が出来る日も近いかも。……でも封印状態だったらそれも難しいだろうなぁ。そういう意味で見られてないし。いっそのこと夜這いを掛けて……は止めておこう。私は今の関係が続けばそれでいいわッっと……まずいのか」
おっとっと、口調が元に……。ご主人さまは『ルーミア』 と『ルーミアちゃん』 を別人として捉えている。どちらも私なんだけど、ご主人さまがそう望むのなら私もそれに応えないと。
『あの時スキマで見られたのはルーミアだけど、ルーミアちゃんはそれほど知られてないよね? だったらルーミアちゃんの方が大手を振って歩けるんじゃない? たぶんあの姿だったら人里に入れないと思うんだ』
別に私は人里に入れなくてもいいんだけど……とは言わなかった。一緒にいると言うことは、常に一緒に行動すること。護衛も兼ねているから当然のことだし、人里に訪れるご主人さまの隣を歩くこともある。だったら力が弱くてもあまり知られていないルーミアちゃんの方がいい。里の守護者もご主人さまと一緒なら気にしてないようだったし。そして何より、この姿だったらご主人さまと多く触れ合える! 大きくなったら警戒されて近づけないから、こっちの方が断然良いに決まっているのだ!
「完成! これで今夜も笑顔いっぱい、お腹いっぱいなのだ!」
鼻歌交じりにエプロンを脱ぎ、出来あがった料理を食卓へと運ぶ。箸も二つ、湯呑も二つ、並ぶ食事も二人分。フッ……見たか萃香、誰が見ても夫婦の食卓なのだ。
「ただいまー」
「お帰りなのか!!」
「ただいまルーミアちゃん。早速で悪いんだけど……バレたかもしれない」
「なん……だと……!?」
夜の帳につつまれた頃、私を置いて行った癖にいけしゃあしゃあと帰ってきたご主人さまの第一声がこれだった。幸せな時間を返せ、なのか。
◇◆◇◆◇◆◇
どうも、大和です。ただいま居間で猛省中です。もちろん反省の色を前面に出すために正座をしていますが、それでも目の前で仁王立ちをしているルーミアちゃんを目視することが出来ません。ええ、彼女は大変お怒りのようです。更に優しいルーミアちゃんは健気にも晩御飯を作ってくれていたようなので、僕は罪悪感というか、やってしまった感にこの身が引き千切られそうな想いです。
「私が邪魔だと言って一人で行ったんだよね?」
「はい……」
「それで、その邪魔がいないのにバレたの?」
「その通りでございます……」
「…………はぁ。とりあえず、ご飯を冷める前に食べる。続きはその後」
うぅ……申し訳なさでいっぱいです。
何時もとは打って変わって口数一つない晩御飯。食卓にはお米に焼き魚、味噌汁に漬物と一般的な家庭料理が並べられている。魚はこんがり焼かれており、漬物は食べやすい大きさに切られている。味噌汁も僕の好みの味付けがされており、ルーミアちゃんの努力が垣間見れる。本来なら会話が弾み、美味しい料理に舌鼓を打つはずの一時。しかし僕らの間に会話はなく、お互いの食器が生み出す音しかこの場にはなかった。……味噌汁がしょっぱいよ……。
「それで、どうするの?」
「(もぐもぐ) ………んぉ?」
「八雲にバレたかもしれないんだよね? ご主人さまはこれからどう動くか、決まってる?」
箸を置き、食べるのを止めたルーミアちゃんが話掛けてきた。これまたタイミングが悪く、口に含んだ食べ物をもぐもぐと噛んでいた時だったために変な言葉になってしまった。気不味い……が、ルーミアちゃんが気にしていないようなので、僕も箸を置いて気にせず話をすることに決めた。
「このまま行くしかないと思う。……それに今回の一件で心も決まった。僕はあの人を止める、僕が止めないといけないんだ」
バレるのが早まったのなら、むしろ開き直った方がいい。それにバレた言っても僕の勘だし、思い違いだってこともある……といいなぁ。でもバレたと言っても僕が全てを知ったということまでしか解らないはずだ。まぁ紫さん程の人なら僕が次にどう動くのかを予想して、その裏付け調査するだろうけど。
だったら一度、大きな賭けに出てみたい。きっと紫さんなら受けてくれるであろう大きな賭けを。
僕はその考えを、目を瞑って聞く体制に入っているルーミアちゃんに言ってみた。途中までは大人しく聞いてくれていたけど、最後の賭けの内容を告げると目を見開き、卓袱台をひっくり返さんばかりの勢いで叩きつけた。
「だっ駄目だよ! そんなの、許せるわけない!!」
「ルーミアちゃんはさ、負けた時のこと考えたことある?」
「……ないよ。だって闘いで負ける姿なんて考えたら、本当に負けちゃうから」
「僕もそうだよ。でもね、今回ばかりは話が違うんだ。相手は僕が小さな時から知っている紫さんで、僕よりも僕を知っている人。正直に言うと、勝てるイメージなんて微塵もないんだよね」
頭脳明晰、妖力膨大、挙句の果てにはスキマなんて反則技まで持っている。そんな人と闘う? 何それ、ふざけてるの? 過去の僕ならこう言うだろうね、馬鹿げてると。僕が成長するように仕向けたのも、僕が魔法使いになることに切っ掛けを与えたのもあの人だ。そんな相手と、僕自身が闘って勝つイメージが持てる? 流石に無理だよ。
でも僕にも引けない理由がある。だから闘うと決めたし、その為の秘策もある。文字通り、僕の全てを賭けた闘いになる。その全てを賭けてもまだ互角、決してそれ以上にはならないだろう。だから勝負の行方は解らない。だからこそ、後の人たちの為にも僕は僕自身を賭けの対象に使う。
「それとこれとは話が……」
「もし賭けをせずに負けたとしたら、その後はどうなるの? きっと僕自身も歯向かったことに対する制裁がある。僕が死んで、また僕みたいな操り人形が出来るかもしれない。そんなの見過ごせない」
「らしくない! 負けること考えるなんて、ご主人さまらしくないよ!! 何でそんなこと言うの!?」
「――――――神社でね、藍さんに会ったんだ。……すごく辛そうだった。本当はこんなことしたくないんじゃないかって思うくらい、辛そうな感じがしたんだ。私達には羨ましい……藍さんは僕に向かってそう言ったんだ」
もしかしたらあの人達も、やむにやまれぬ事情があってしたことなのかもしれない。そう思ったんだ。ならどうしてこんな方法をとったのか理由を知って――――――――――――その後で叩き潰す。悪いことをする人がいれば殴ってでも更生させる。それが僕が自分に課したルールだから。
「これはね、賭けであると同時に保険であって、提案でもあるんだ。…それに勝てばいいんだよ。勝てば何の問題もない。もしかして、ルーミアちゃんは僕が負けると思ってるの?」
「ッ卑怯な言い方なのだ……。私がそんなこと、言えるわけないのに……」
「卑怯で結構。勝つためなら嘘も吐くし、使える物なら親だって使ってやる。でも自分の意志だけは、閻魔様の前で誓った誓いだけは絶対に曲げない。紫さんに勝って、必ず零夢の墓の前で謝らせてやる!!」
力拳を握りしめ、悪人顔を浮かべてそう宣言してやった。絶対に、何が何でも勝ってやるぞ! 待ってろよコンチクショーーーー!!
「…………御主人様だから、大和だからこれも仕方ないことなんだよね……。でも今まで以上に、今の貴方は私の理想の貴方に近付いている。もうこうなったらやるしかないし、貴方がそう言うのなら私も全力で応援させてもらいます。いえ、やらせて下さい」
「うん、ありがとう。苦労を掛けるね」
「……そう思うのなら少しくらい労って欲しいのだ」
「うーん……じゃあ肩でも揉もうか?」
「じゃあお願いするのか。もちろん私がいいと言うまでやってもらうから!」
その後は、何時も通りの僕ら二人の喧しい声が家中に響いていった。
新しく手に入れた、虚に塗れた穏やかな日常が動き出す。
そしてその光景を、悟られぬように細心の注意を払って見ようと画策する者。
そして、その覗いている者を覗いている目が二つ―――――――――――――――
「地底の仲間に報告することが増えましたね。やれやれ、これは私の出番も近いかもしれません」
◇◆◇◆◇◆◇
~翌日 魔法の森~
ここで一つ重要なことを思い出しておこう。決して目を逸らしてはならない、逃れられない運命を持った一生一度の一大事を。
「人それを借金と言う」
簡単に説明すると、以前に人里で飲んだツケである。妹紅に乗せられ、慧音さんに見捨てられて出来た巨額の借金。普通に働いて……何年掛るだろうなぁ……。えへへ、高級料理店って本当に高級なんだなぁ……などと、現実逃避ももう出来ないだろう。
「まさか朝一で取り立ての刺客を送りこむとは……非道な」
朝から扉を叩く音がしたので何事かと開けてみた所、少し申し訳なさそうにした慧音さんが立っていた。そう、刺客は慧音さんだったのだ。一緒に飲んだ手前こんなことを言うのは辛いのだが……と言い淀む慧音さんを見て、だったらお前も払えと思った僕は何も間違ってない。
「確かにあの守護者も非道なのだ。有り金の半分も持って行かれたし……。もう食材の残りもあと少しなのに」
「これはもうあれだね、働くしかないね! でも修行もしたい! だから魔道具を売ってお金を儲けるぜ! な感じになれって言われてると考えるべきだね」
「その儲かったお金も徴収されるのではないのか?」
「大丈夫、慧音さんだって無い所から絞り取るようなことはしないよ。儲かったお金の少しだけを納めて、残りの儲かったお金をその場で全部使って食材を買いだめするんだ!」
「でもそれじゃあたっぷりは買えないのだ。私はよくお腹が空くけど、その分はいったいどうするのか!? お腹が空いて生き倒れだなんて、人生に何度も経験したくないのだ!」
「そのための魔法の森です」
魔法の森には食べれるキノコも多く生息している。だったらそれを食べれば良いじゃないか! そう、以前からここで生活していた僕には、森に食べられるキノコをあることを知っているのだ! 更に妖怪の山にだって食べられる食材は多くあるし、竹林に行けばタケノコだって採れる。食に困ると言うことは決してないのだよ!
「と言うわけで、ルーミアちゃんは森で食材探し。僕は箒造りのために木を探して、良いのがあったら切り倒して家まで運ぶ作業をするね。日が落ちるころには家で落ち合おう」
「了解なのだ!」
「では解散!」
わははーーー! と背中に大きな籠を持ったルーミアちゃんを見送った後、僕も使える木を探すために森の中を歩き始めた。
「森の主ねぇ……確かに今の状態からしてみればそんな感じかも」
道行く妖怪はお辞儀をするし、人面樹は枝を一本持っていかないかと話掛けてくる。肉食植物は引っこ抜かれるとでも思ったのか、これでもかと言わんばかりに小さくなっている。……恐れられてるのと同時に親しまれてるのって、なんだか変な感じだなぁ。
「おっと、これは中々…。ねえ、ここから先切ろうと思うんだけどいいかな?」
「どうぞ」
一応持ち主の木である彼? に切って良いかと聞いてみると、色よい返事が返ってきた。これを中心に据えて、下部の周囲に綺麗に枝を付けてやればいいだろう。後で掃除補助の魔法を付加してやれば完成と言うところか。
それにしても……どうして生活の役に立つ魔法なら幾らでも使えるのに、戦闘用とかになると無理になるのかなぁ。僕って雑用係で調整されてたわけ?
「ん? あれは……なんだアリスか。あんなに大きな木で……ってああ、家を造ろうとしてるのか。あそこ一帯も綺麗に整地されてるし、場所も決まったんだね。手伝う必要もなさそうだし、出来上がりを見計らってから行ってみよう」
あの人形では家造りも出来るみたいだから邪魔をしてはいけないよね、うん。上手とか時間掛ってるとか木になることはあるけど、沢山の人形が手に道具を持って木々をそれなりの形にしていっている。……それにしても万能過ぎだよあの人形。ちょっと欲しいかも……。せっかくだし今度一体貰えないか聞いてみようかな。
そんなことを考えながら、家を建てているアリスに背を向けた僕でした。……別に面倒だったから手伝わないわけじゃないですよ? 家まで建てれる有能なアリスさんの邪魔をしちゃったらワルイカナーと思っただけだからね?
「チッ、見つけたのなら手伝うくらいの甲斐性くらい見せてくれたらいいのに……もうッ! 時間が掛るわね!」
聞こえなーい、聞こえないーい。僕には何にも聞こえませんよ?
「いっぱい採れたから今日はキノコ雑炊なのだ!」
「……うん、よく採ってきたね。でもこれ全部食べたらトんじゃうから捨てようね?」
ルーミアちゃんの戦果は半分以下になりましたとさ。……ってこらこら、それくらいで涙ぐまないの。
頑張った。早く投稿しようと超頑張ったじらいです。もう無理です。早く来い土日、休みじゃない祝日なんて捨ててかかって来い。
前回は後書きで感想を催促したかいがありました。本当に感謝です。やはり沢山貰うとアレです、モチベーションの上がり具合がヤバイですねw 早く書かねば! とターボがかかりますw うん? 私はリッター10くらいです。燃費が悪いのですよ、色々と。
で、今回から大和逆襲開始と鬱展開は消える…はず。まぁ予定は未定なのです。新しく出てくる構想が予告編からこれほど離れて行くのは久しぶりですw 自分でも書いてて大丈夫か!? と思って必死に資料漁ったり…ぐへぇ…orz
次回は…どうしましょうかと考えておりますw




