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東方伊吹伝  作者: 大根
第七章:未来を見据えて
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表面化し始めた全面対決




~地霊殿~




最近の地底は騒がしい。旧都に向かわない限りは引き籠ってばかりの私だけど、今の地底が異常なほどの盛り上がりを見せているのは嫌でも理解できる。誰も彼もが浮かれ気分、まるで永遠に終わらないお祭りが続いている状態だ。





『クソッ、何としても止めるぞ! あの子の為にも地上へ向かわせるな!』


『そうは言っても、あの方を止めるのは私たちだけじゃ……ねぇ?』


『……来るぞッ!?』





わーわーぎゃーぎゃーと、地霊殿にまで届く怒声と爆発音、砂煙が地底を覆っている。ああ、今日もまた洗濯をし直さないと……。



ぶつかり合っているのは巨大な妖気が多数と、それら一つ一つを遙かに上回る余りにも大きすぎる妖気。旧都では旧地獄と言う言葉に相応しい地獄絵図になっているはず。そして今日もその周りでは新たな名物となりつつある賭け事が行われているのだろう。




賭けのお題は『鬼が地上に行けるか』




この賭けは少し前から始まっており、今では一種の珍名物にもなりそうな勢いにまで成長した。もちろん私も参加したことがあるし、今日の分もお燐に任せてある。……何故任せたかって? 別に私が他人嫌いで引き籠りだから外に出ないわけじゃないの。今日はお客さんが来ているからそれの相手をしているだけ。



そうそう、以前は堅実に賭けたせいか勝ちはほぼなかったけれど、今回は大穴を狙ったの。きっと私の大勝利になると思うわ。自信と確信があるもの。ふふふ、これでどれくらいの収入になるのでしょう? 最近あの子がちょろまかした金額よりは多く入って来るといいわね。






また悪そうな顔をしよって……。そんなじゃから誰もが気味悪がって近寄らんのじゃ


「あら、ペット達には近寄られているから問題ないわ」


そう言う問題でもないじゃろうに……


「意思疎通無しに相手の考えていることが解るのは便利よ。呼吸・表情・仕草。相手の心を読むこの三つが無くとも相手の心が手に取るように解る……。便利なことに違いないわ」


ま、お主がそう思っておるのならそれでいいんじゃが……妹の方はまだあれか?


「貴女には関係ないことです」


つれないのぅ……それよりも「喋らせてくれ、ですか? いいじゃないですか、ここでは言葉を発する必要がないのだからそれで」


「そういう訳にもいかんじゃろうに。酒の味を知っておっても飲まねば旨くない。言葉は交わさねば会話は成り立たぬよ」


「まぁそれもそうですが『突破されると次の宴会で酒は無しなんだぞ!? それを解って『退けーーーーーーーーーーーーーーーー!!』 ああもう、いい加減にして下さい萃香様!!』 ……いいのですか? 部下の方達、今日も空を飛んでそうですけど」






と言うより、ここの縁側からも空に吹き飛んで行く鬼達の姿が見えている。ああ、私は今回はあの鬼が地上に逃げる方に賭けたの。だって彼女を唯一完全に止めることが出来る存在がここで酒を飲んでいるのですもの。それを知らない普通の鬼たちは必死に大将であるこの鬼が来るまでの時間稼ぎをしているのだろう。




ふふふ……何時もは大穴になんて賭けないのだけどね。でも今回は次があるかどうか解らない絶好の機会、大穴狙いに行かざるを得ないの。へそくりも合わせて私の有り金半分をつぎ込んだのよ、勝ってもらわなければ……どうしてくれようか。あの鬼の恥ずかしいことでも言い触らしてあげるのもいいわね。




………それにしても、この鬼らしい理由で此処にいるのね。





「いやぁ、の……色々あるんじゃが、萃香が余りにしつこいんで面倒になった」


「―――――――――――――――――――――成程、もう地上に出ても出なくても変わらない程の状況になったと」


「……フン、勝手に心を読みおってからに」


さとりなので」


「馬鹿者。もう少し面白い冗談でないと酒のつまみにもならんわ」


「では――――――――――――今時の青年の話でもしてみましょうか?」






旧都の方では最終局面を迎えているよう。二つの大きな妖気……おそらく勇儀さんなのだろう。萃香さんを止めるために出張って来たのでしょうね。




『退きなよ勇儀……怪我するよ……?』


『退けないねぇ。大和の成長にあんたは邪魔なんだよ。だからここで大人しくしてな』


『……ッ! 今、言っちゃならないことを言ったね……? …………ブッ潰すッ!! それで大和の所へ行くんだ!!』


『ええいこの親馬鹿! これだけ離れていても治らないのかい!?』






二人の大声と周囲の喧騒がここまで響いてくる。やれやれ、洗濯のし直しならともかく、明日からはまた旧都の復旧作業が始まるのでしょう。手伝いに行っても疎まれるだけだから行かないけど、これで何度目になるのかしら……?





「やれやれ、あの二人が旧都を壊さなければいいのじゃが……」


「嬉々として壊していた人の言う言葉じゃないですね。それで青年の話ですが―――――――――」


「話さなくて良い。……まったく、そうだから忌み嫌われるのじゃぞ?」


「…………性分ですので。生まれを恨みます」


「ふん………じゃから私もお主が嫌いなのじゃ」






奇遇ですね、私もです。私は、この世の全てが嫌いです。




貴女達の心を占める、『大事な大和』 とか言う青年は特に。








◇◆◇◆◇◆◇





~所変わって大和邸~






―――――――――――――――と




「………?」




気のせい、かな? 今懐かしい声が聞こえたような気がしたんだけど……そんなわけないか。ってあれ? 何で懐かしいだなんて思ったんだろう……?




「ご主人さま……?」


「あ……いや、何でもないよ。それよりも今から神社に行くんだけど、ルーミアちゃんはやっぱりお留守番」


「何故なのか!? おんぶ一日は!? 一緒に神社に行くのだ!!」


「味方に足を引っ張られるのはもう勘弁です。だからお留守番して、そこの魔道書の読解でもしておいて。文字が解らなかったらそこの辞書使えば大丈夫だから」





ちょっと嫌な予感がするから僕一人で行きたいんだ。アリスの時みたいに誤解されるのはもう勘弁です。巫女とはあまり深く関わらないようにするとはいえ、初めて会った人が子供をおんぶした青年だったら嫌でも記憶に残るだろうし。



などと色々考察しているけど、正直おんぶに疲れただけです。フッ……これ見よがしに洗濯板を押し付けてくるお子様の相手は疲れるのさ……別にー子供相手にー興奮するとかーないですから~! ……いや、本当に疲れているだけです、はい。





「厄介事だけ押し付けて自分は巫女とハネムーンなのか!? 「去らば!」 あ! ……もう! 晩御飯抜きだからね!!」




フハハハハ、魔法使いは食事しなくても大丈夫なのだ! ……精神的にキツイけどね!!







◇◆◇◆◇◆◇






「大和さんってホント凄い人なんですね! わたし、紫様や藍様から貴方の話を聞いた時は本当はお話の中から出てきたのじゃないかと思いました!」


「いやぁ……まぁ、それほどでも……」


「特に博麗大結界の時や、先の日蝕異変……わたしは『外』 出身だから詳しくは知らないんですけど、まるで英雄みたいで!」


「あ、あはははは……偶然だよ、偶然」





どうしてこうなった?



ただいま博麗神社の母屋に来ております。目的は言わずもがな巫女さんへの挨拶。困った時があったら何時でも相談に乗るからって言って帰るつもりだったのに、自己紹介をした途端に境内から母屋まで拉致られた。



零夢が死んでから僕は一度も神社を訪れていなかった。もうあの時は戻って来ない。だったら、彼女との思い出が色濃く残る場所に行っても悲しくなるだけだからだ。でもその零夢はそんな僕にはお構いなし。自分の後を継ぐ巫女を助けろだなんて無理難題を言い残して……僕が辛い想いをすることなんて勘定に入れないんだからなぁ。




とまぁ僕が訪れなかった理由は置いておいて、今の状況は拙い。非常に拙い。僕の計画なんて知ったこっちゃねぇぞと言わんばかりに話掛けてくる巫女さん。流石は博麗の巫女、誰も彼もが僕の思惑をブチ壊してくれる。



それだけならまだ修正が効くはずだった。冷たく接したりすることで一方的に関係を薄くすることも出来ただろう。でもそうはならなかった……できなかった。










「伊吹殿の行いが偶然と言う言葉では片づけられないだろう。今ではこの幻想郷の中でも有数の実力者であるし、紫様だって君のことを認めているのだ。無論、私も」









そう、今この場には藍さんがいる。神社で僕の到着を待っていたのではなく、僕が神社に到着すると同時に神社にスキマから現れた。……正直、心臓が止まるかと思った。お前の考えなど全てお見通しだと言わんばかりに頬笑みながら一礼された時には。



だからこの巫女さんを蔑ろにすることなど出来ようもなかった。あの場で快く引き受けた手前、藍さんの前では迂闊なことは出来ない。そして何より僕の計画を知られるわけにはいかない。もしかすると既に大まかな計画は把握されているかもしれないけど、『僕の最後の一手』 まで察せられるわけにはいかない。





「凄いなぁ、憧れるなぁ……」


「いや、本当に偶然に偶然が重なっただけだからね? 今までだって何度も『あ、これは死ぬかも』 とか思ったし。それに僕が闘ってきた相手はみんなすごく不利な状態だったから……」


「それでも伊吹殿はここまで辿り着いたではないか。紫様も褒めていたよ、あの子は本当に強く育ってくれたと」





そして最後の誤算は巫女さんが僕のことをまるでおとぎ話の王子様のように見ること。紫様、藍様と言う敬称を使っていることから、この子は既に紫さんの手の内だと思われる。この子にそのつもりが無くても、そう誘導されているのだろう。そう考えないと、これ程までに僕の過去を知っているわけがない。





少々の脚色を加えてやれば小事でも大事に変わる。


英雄を創り上げる時にはそれに相応しいエピソードを作り、観衆にそれがどれだけ素晴らしい行いなのかをアピールする。小さなうねりは人々の間で揉まれ、話は更に肥大化していき、人々がその存在に気付いた時に英雄は生まれる。騎士団で知らずに定着した知識が頭を過った。





紫さんはこの子までも利用しようとしている―――――――――――





「大和さんはわたしのお手伝いをして下さるのですよね!?」


「そうだね」


「だったら先代様の時のように一緒に生活しませんか!? わたし、一人でここに住むのがちょっと寂しくて……。でも大和さんと一緒なら「悪いけど、それは出来ない」 ……そう、ですよね……。すいません迷惑かけるようなこと言って……」





冷たく接することは出来ないと言ったけど、それとこれとは話が違う。ここで僕が受けてしまえばあの計画はどうなる? 紫さんを零夢の墓の前で謝らせる僕の目標は、いったいどうなる? それを考えれば目の前で涙を浮かべそうになっているこの子には悪いけど、僕は自分のエゴを取らせて貰う。





「ふむ、伊吹殿も何かと忙しい身であることには変わりない。つい先日、里で飲んだツケも多く残っているようだしな。……しかし大和殿、それでこの子を蔑ろにし、亡き先代の遺言を無碍にするつもりか?」





エゴを取らせて貰う――――――――――――――――――――――だけどこの人たちは本当に……ッ!





「いえ、そんなことは絶対にないです。彼女の意志を継ぐ者としても、そして右も左も解らない彼女をこのまま放っておくわけにはいかないので」





どこまで人を馬鹿にしてくれれば気が済むんだッ! 零夢の願いを僕が蔑ろにするつもりが無いことを知っている癖に、敢えて挑発する!? ―――――――――――――――ふざけんなよ!!



怒りが爆発しそうになる。でも怒ってはならない。それが誘いだと解っているから。一つでもボロが出れば全てがバレてしまう可能性だってある。だから心は熱く、頭は冷静に。魔法使いとして、“静”の武術家として冷静に怒りを内に封じ込めていく。この想いを外に表すのはまだ先なのだから。






「じゃ、じゃあ!」


「定期的に訪れるし、何かあれば何時でも相談してくれればいいよ。……それでいいかな?」


「はい! えと、不束者ですが、よろしくお願いします!!」





涙を浮かべていた巫女さんだけど、それも見る影はなくなった。跳ねるようにして僕に握手を求める彼女に、僕も苦笑を浮かべながら手を差し出した。






「ふふ、若さはいいものだな。……時々羨ましくなるよ、私達にはないモノの輝きを見るたびに」


「……藍さんは――――――――――――――――――いえ、何でもないです」


「――――――――――――――――――――そうか、なら私から言うことは何もないよ」


「ではまたいずれ。君も何かあれば魔法の森まで来たらいいよ。直ぐに僕の家が見つかるだろうから」


「はい! 大和さん、帰りもお気を付けて!」






博麗神社を背に僕は帰路へ着く。はてさて、本当に困ったことになった。でもまぁ、もう成るようにしか成らないだろう。本当に……



「世の中は儘ならない」




茜色に染まった空を漂いながら、僕はそう溜息を吐くのであった。



















―――――――――――――――――――や―――――と









安西先生! 感想が欲しいです! と、久々に感想を催促するじらいです。どうか皆様、私に清き一票を。



そんな感想を催促した私ですが、今回はすらすらと指が動きました。理由は感想からネタを考えだしたからです。プロット? 合ってないようなものです。何故ならその場で急に変更することの方が多いから。こっちの方がいいかな? いややっぱあっちの方が……と言った感じです。いや、貰ったら嬉しいだけとかじゃナイデスヨ?



地霊殿の御方は誰と言わなくてもお分かり頂けるでしょう。ちょっと特別出演させてみました。地霊殿はあまりしていないのでちょっと口調が不安ですがorz 停滞気味だった話もゆっくりと進み始めました。これで少しは筆の進みが戻ればいいのですが……どうなることやら。



ではまた次回の後書きで



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