奇跡の魔法
タイトルは…ネタばれです
「昨晩は酷い目にあったみたいね。レミィが喜んでいたわ」
「レミリアが喜んでいたら酷い目に合うって、その解釈はどうかと思う。……ちょっと待て、何で知ってるの?」
「覗いていたからに決まってるじゃない。それで? この解釈は間違っているかしら?」
「……間違ってないです」
レミリアの追撃を躱しつつ宛がわれた部屋に帰ってきた僕を待っていたのは、一つしかないベッドを占領して爆睡したルーミアちゃんだった。とりあえずベッドの端に移動させた時には僕も眠気が限界で、そのまま心地よいベッドに沈んで深い眠りについた。
そこまでは良かった。よく寝れたし、疲れもとれた。背伸びをして、今日一日また頑張りますか、と気合を入れていた気持ちのいい朝の時間にあの子が現れた。それが誰かは言うまでもないだろう。はた迷惑にも、夜行性の癖に朝駆けを敢行しにきたらしい。
僕よりも早くそれを察知した優秀な護衛によって取り押さえられたので実害はなかったけれど……正直少しは自重してもらいたい。枷が無くなったと言っても、何でもやって良いわけじゃありません。結局そのあと二度寝しに帰って行ったけど、当の僕はあまりの出来事に二度寝なんて出来なかった。頼りの護衛も食糧庫を漁ってくると言ってさっさと出て行ったし…。
だから僕も図書館で本を探して帰ろうと訪れたお日様おはようの時間帯、既に図書館で活動をしていたパチュリーを見つけたので話掛けてみたらこれだ。
「そもそもの原因は貴方よ。薄々感じてはいたんでしょう?」
「まぁ……それなりに」
「呆れた……だったら直ぐに答えてあげればいいじゃない。それがどんな答えであれ、あの子は受け入れるわ」
「本気でそう思ってる?」
「…………………」
「そこは言いきって欲しかったよ……」
だからなんだよなぁ、僕が直ぐに返事を返さないのは。返したところで余計に話が捻じれるだけだと言うのが目に見えてるから先延ばしにしているのに…。輝夜にも言えることだけど、この問題を解決するには僕がYESかハイと言うしか解決策がないんだ。情けないことだけど…。あぁ、あとは僕が自分から誰か違う人と恋仲になるとかもアリだろう。そうすれば流石に身を引いてくれる………なんて希望的観測を持っていたり。
「それで? 此処へは何の用事で来たのかしら?」
「こらこら、此処は僕の場所だというのを忘れないように……。二つほど相談事があってね。一つは魔道具の製作に必要な本。人里の魔法店からの依頼でね、実用的な物が欲しいって言われたんだ」
「……その魔法店の店主、本気? いえ、正気かしら? 貴方にそんなことを頼むだなんて、世界が滅ぶと言われても私には出来ないわ」
「言い過ぎだよ。……でもほんと、僕も初めてだから困ってるんだ」
「ふぅ……小悪魔、ちょっと頼まれてくれる?」
「お任せ下さいパチュリー様、初心者入門からでいいですか?」
「そうね、全て貴方に任せるわ。大和もそれでいいでしょう?」
「もちろん。小悪魔さん、頼みますね」
「では少々お待ち下さい」
そう言って頭を下げた小悪魔さんは、ふわふわと本を探しに飛んで行った。ずっとここにいるパチュリーの使い魔なんだ、図書館の蔵書についてもそれなりに理解しているのだろう。本来の所有者である僕はパチュリーにまかせっきりだからなぁ……少しは手伝ったりしたほうが、と言うより整理したほうがいいのだろうか? 正直、僕もこの図書館の蔵書を把握出来てないし…。有効的に活用するとなると、目録でも付けるのが一番いいだろう。
とは言うものの、この広大な図書館の本を全て管理するとなるとどれだけの日数がかかることか…。この際本気で使い魔召喚魔法を調べてみようかな? 手助けが増えるのは嬉しいし、小悪魔さんみたいな美人な使い魔だったら大歓迎だ。
「まだ呼びだしてからそれ程日数は経ってないけど、あの子は司書として一生懸命働かせているわ。これからは探している本があればあの子に……ちょっと、聞いてるの?」
「えっ? あ、もちろん聞いてるよ? で、何だっけ」
「……馬鹿者、鼻の下が伸びてるわよ。私じゃなくて、貴方が用があって来たのでしょう?」
「別に伸びてないですよ…?」
ただ美人さんにちやほやされたいと思うのは男の性なので……。なんて説明しても解ってくれないだろうから黙っておく。僕の周りにも綺麗所が多いけど、冗談じゃすまないほど我の強い女性ばかりだからね。そんな人達を相手にするのはね……色々と疲れるんだ…。だからほんわかした柔らかい雰囲気の女性って希少なんだ…。ま、こういうことは里の男衆しか話が通じないから辛いんだけど。
「……いい加減、要件を言って貰えないかしら? 私も暇じゃないのだけど」
「それもそうだね……じゃあ少し真面目な話をしようか。――――――――先生の研究ノート、何処に隠した」
「……何のことかしら?」
先生の残した膨大な魔道書、そして研究ノート。僕がこんなにも早く有幻覚を使えるようになったのは、この二つがあってこそ。生前に先生が有幻覚の魔法体系を綿密な計算の上に確立させていたから僕はそれに従い、少しのアレンジを加えるだけでよかった。
でも最近になってふと感じることがあった。先生はいったい何の為に有幻覚の魔法を確立させたのだろう? 実証されている全ての魔法を網羅し、大魔道の称号すら持て余した稀代の魔法使いがいったい何故? 想像の産物に過ぎない幻想を現実のモノとして具現化出来ると言っても、必要以上の魔力と時間が必要になる。先生ほどの高位の魔法使いならば、そんな工程を無視出来る違う魔法を使った方がよほどスマートなはずなのに。
だから僕は先生の残した研究ノートがまだ隠されているはずだと最近になって思った。もしそれが残っているのなら、『幻想を現実に持ってくる』 なんてふざけた魔法を考え出した魔法使いが残したものをこの目で見てみたい。それが僕の新たな『武器』 になるのなら尚更。まだ知られていない武器が、この先必ず必要になるから。
「惚けないでほしい、暇じゃないのは僕も同じなんだ。『必死』 なんだ、パチュリー。僕も『必死』 なんだよ。もう一度言う、先生の残した研究ノートを何処に隠した?」
「…私はあの人が何について研究してたかは知ってる。でもあれは、あんな馬鹿げた魔法は私でも使いこなせない。幾らその方面に長けている貴方でも『不可能』 よ。だからあの人だって志半ばで倒れた。そんな使えない物を隠し持ってどうするのよ」
「パチュリー!」
「だから、隠してある物なんてないわよ」
「………ごめん、熱くなった。はは……余裕が無いからかな、最近落ち込んだり怒ったり忙しいんだ…」
でも、無いんだ。僕の考え過ぎだったのかなぁ……。やっぱり僕程度が先生の考えを読むなんてことは無理だった「隠してないノートならあるわよ」 ひょ?
「だから隠しノートはないけど、隠されてないノートならまだあるわよ」
「……本当に?」
「むしろ何故有幻覚の魔道書を持って行く時に気付かなかったのかを不思議に思っていたわ」
「気付いていたのなら教えてよ……」
「他人から教わるのは恥だと、その時に言ったでしょう?」
畜生、あの時の僕の馬鹿。ついでにパチュリーの馬鹿。目先の物に目が眩んで一番重要な物を取り逃がしていたなんて!
「それでパチュリー、そのノートの場所は?」
「……貴方が持って言った魔道書のすぐ下の段」
そんな目で見られると照れるなぁ、なんて……………はぁ。
◇◆◇◆◇◆◇
「結論から言わせて貰うと……不可能だろうね、これは」
「同感よ。これだけの術式と規模、それこそ無限の魔力でも無い限り起動することは不可能だと思うわ」
「でも一部くらいなら……」
「規模によるでしょうけど、ここに書かれている数値と貴方の潜在魔力から導き出すに……3分持つか持たないか。それも全魔力を用いることを計算に入れてだから、戦闘には利用できそうもないわね」
「ちなみにイクシードを使ってみたら?」
「三発の弾丸を一度に使って弾け飛んでみる? 骨は拾わないわ」
「それは勘弁……じゃあこっちの――――――は?」
「………それよりも―――――――――の方が現実的ね。グングニルは出せる?」
「アルフォードと比べると魔力雑魚なので中身はスッカラカン。幻術の名に負けぬ見かけ倒しな一品だよ」
「使えないわね」
「酷いっ!」
先生の研究ノートを見つけてきた僕は、小悪魔さんが戻って来るまでパチュリーと共にどの魔法が使えそうかを討論していた。先生の研究成果は思っていた以上に進んでおり、術式の完成まであと数歩と言う所まで迫っていた……と言うのがパチュリーの見解だ。ちなみに僕らはこの魔法が起こすであろう現象を予想して検討している。全て正解とはいかないでも、大きく的を外れていることはないと思う。
……でも本当は、先生は既にこの術式を組み終わっていたのかもしれない。この術式でどんな魔法が起動するのかも予想がついた。だからこそ使うのを躊躇っていた……先生の文面から、僕はそう感じた。
「でも……出来ないことは無い」
「え?」
そしてそのノートには、どう見ても僕に向けて組んだとしか思えない術式が書き綴られていた。幻想を現実へ、夢を現実の物へと変える新たな魔法。数ある魔法は全て穴抜けで、中途半端な物ばかり。でもそれは、先生が僕に残したメッセージなのかもしれない。少ない時間とはいえ、教え子だった僕に向けた最後の出題。そう思えて仕方がないんだ。
「パチュリー。僕は、先生の跡を継ぐ」
「……解っているの? 貴方が今、何を言っているのか? あの大魔道の跡を、貴方如きが?」
「無理だって言うのは簡単だ。違う道を探すのも大切だ。でも僕にはこの才能しかない。幻術以外の才能が無い僕に出来るのは、ただ一つの道を愚直なまでに突き進むことだけ。だから絶対に諦めないし諦められない」
「…はっきり言っておく。もし貴方がここにある魔法を何かの間違いで完成させたとしましょう。でもそれで? 貴方の魔力量では使うことは愚か、術式の起動すら出来ないのよ? ……やるだけ無駄だわ」
「珍しいね、パチュリーがそんなこと言うなんて。魔法使いから探究心を奪ったら何が残るの? 僕は薄暗い部屋で本と一緒に干からびているつもりはないよ」
「………………」
「別に僕だって簡単に出来るとも使えるとも思ってないさ。これはただの探究心と好奇心、それと我儘かな。目の前に新しい可能性があるのに、そこから目を背けるなんてことは僕には出来ない」
先生からこの図書館と莫大な量の魔道書を授かった。だったらその後を継ぐのは教え子の僕しかいない。魔法使いはそうやって後世の者に技と技術を継承させていく。それを教えてくれたのは、他でもない君だろう。
「………わかった、もう何も言わない。どうぞご勝手に、無駄な時間を過ごせばいいわ」
はぁ、と深い溜息を吐きだした後にそう言われた。今までずっと振り回されてきたからか、僕がもう何を言っても意思を曲げないことを悟ったのだろう。僕の想いが通じたみたいで良かった、良かった。……辛辣さは更に増したようだけど。
「なるべく迷惑は掛けない様にする。このことでパチュリーに何か聞くことは無いようにするから」
「当たり前でしょう。……でも………そうね、実は私、最近暇なの」
「………?」
「最近研究していた賢者の石についてもだいぶ煮詰まってきたし、次は何をしようかと悩んでいたところなのよね」
「………………で?」
「…………………」
「もしかして誘って欲しいの……?」
「…………解っているのなら早く言いなさいよ」
「…くっ…くくく……ぶぁっはっはっはっ!?」
「ッ~~~~~~~!!」
ククク……おかしい、おかしすぎるだろこれはッ。散々人を貶しておいて私も研究に混ぜろだなんて、いったい何を考えているんだか!? 何時も最後は助けてくれるお人好し精神がまた発作でも起こしたのかな!? 何にせよ、これほどおかしいことは無いねッ!
「わっ笑わないでよ…!」
そんなこと言っても、顔を真っ赤にしてプルプル震えちゃってさぁ……そんな状態で凄んでも何にも怖くありません。逆に可愛いくらいだよ? こんなパチュリーなんて滅多に見れない。でも残念ながら、からかうことを止めはしないよ? 日頃やられている分を今回で帳消しにさせてもらおうかなぁ?
「ククク……本当は、先生が残した魔法が気になって仕方がないんだよね? ククッ」
「うっうるさい馬鹿! 私はただ貴方だけじゃ何年掛っても出来ないだろうと思って親切心から……」
「あれ~? 迷惑掛けないのは『当たり前』 だったんじゃなかったっけ?」
「~~~~~~~~~ッもう知らない! だったら自分一人でやればいいじゃにゃい」
「………じゃにゃい?」
(ぷるぷるぷるぷるぷる)
怒って後を向いたのは良いけど、身体がすごく震えている。耳も真っ赤で、紫色の髪から僅かに見えるそれは綺麗な紅がに染まっていた。今正面に回ったらそれは愉快な表情を浮かべているんだろうね…! ……このチャンスを逃すわけにはいかない。今こそにとり謹製のカメラでこの珍しいパチュリーを記録に残すのだ! これほど珍しい光景には早々出会えない、そう思うよねにとり!?
「その顔頂き「ロイヤル…フレア…!」 …へ?」
正面に回った僕の目に映ったのは、それほど珍しくないパチュリーの無表情な顔と、非常に珍しい本気の魔法の嵐でしたとさ。
何故パチュリーさんがツンになったのか疑問で仕方がないじらいです。
今回は何故かパチュリーさんの回。山もなく谷もない話でしたが、ちょっとだけ可愛さはあった…はず。最近自分の思っていることが文章にならないもどかしさを感じていますorz 妥協して話が余計にややこしくなっているわけ…ではないはず。何故かは解りませんが、最近になって余計に物書きが難しく感じるようになりました。…スランプ?
さて、本題に入りましょう(キリッ 上記でも言った可愛さと言えばアレです。某動画サイトのMMD。えぇ、皆さん感づかれた人も多いでしょう、アリス(大と小)が踊るアレです。実は私、MMD舐めてました。だからMMDはあまり見なかった方なのですが、ランキングの上位にあったので見ることに…。
新しい扉を開けてしまった気がします…。どんな扉が開いたかは聞かないで下さいorz
ロリコンじゃない…私はロリコンじゃないはず…ッ!