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東方伊吹伝  作者: 大根
第七章:未来を見据えて
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拗ねて落ちて卒業して

第10部まで改訂完了。よければそっちも見てみてください


「昨夜はお楽しみだったようね。元気が出る薬、いる?」




竹林からの木漏れ日が届くこの永遠亭では、その住人と弟子一人が談笑しながら朝食をとっていた。



僕に輝夜、師匠にてゐちゃん。皆で一つの食卓を囲む心地良い時間。永遠亭でのお泊りの際には僕が食事担当となるのだけど、何故か今日は師匠が作ってくれた。疲れているでしょう? と気遣われた時には何事かと、今日は本格的に矢が降るのかと恐怖したけど、師匠が何事もなく朝食を作りだしたのでそれを眺めるに終わった。


だから今日は師匠が作った、それはもう絶品と言える朝食を食べていたんだ。…平和だった。本当に平和だった。




師匠が爆弾を投下するまではね!!




「…し、師匠……。一つ言わせてもらうとすると……五階です」


「ここは一階よ」



だ、駄目だ…。額に滲む汗がこの上なく鬱陶しい。何も疾しいことはない、疾しいことはないはずなのに動揺が止まらない…! ニヤニヤしているてゐちゃんに、解ってるわ、とでも言いたげな師匠の視線が辛い…! そんな目で見ないで、僕はやってないんだ。…それでも僕はやってないんだ!!




「輝夜からも何か言ってやってよ! 誤解は解いた方がいいだろ!?」


「…腰が痛くてね、それどころじゃないの」


「ふぉおおおおおおおおおお!? 大ちゃんやるぅ! 見直した!!」


「誤解だーーーーーーーーーーーー!!」


「…五回も? 我が弟子ながらあっぱれね」




師匠! 貴方解ってるでしょう!? 解ってて僕を虐めてるんでしょう!? ほら、すごい笑顔じゃないですか! さっきのは誤解だと気付いてますよね!? …そうだと言って下さいよ師匠!!




「輝夜ぁ!!」


「大和、何も言わなくても解ってるわ。…それはもう、激しい一夜だったわ。大和に何度も何度も求められて、私はそれに応じたの。あれほど燃えたのは初めてよ。妹紅の炎なんて比じゃなかったわ…」


「うわーぉ。大ちゃんもやっぱ男だね。やる時はやるんだ。気をつけないとてゐちゃんの貞操もピンチかも」


「やるのはいいけど、程々にしときなさいよ? 盛った獣じゃないんだから」




頬を染めて冗談じゃ済まない嘘を吐く輝夜。自身の身体を抱きしめて、まるでケダモノでも見るような目を向けてくるてゐちゃん。もはや笑顔すら隠さずに、それでも淡々と事務的な注意を促す師匠。




「みんな大嫌いだチクショー!! 」



朝食なんて食べてられるかこの野郎! 向けられる視線に居た堪れなくなった僕は全力でその場から逃げだした。みんな酷いよ! 誤解なのに! ここの皆は僕の敵…いや、女性そのものが僕の敵だ! 信じないぞ! 僕はもう信じないからね!!





◇◆◇◆◇◆◇





「てゐ」


「あいあいさー。連れ戻せばいいんでしょ?」


「ええ、頼むわ」



やれやれ、少しからかっただけなのに逃げ出すとは。あの子のああいった初心な所も可愛いのだけど、そろそろいい歳なのだからそれなりの対応を覚えてもらいたいわね。師匠としてもそうだし、私も一応はあの子の母親なわけだし。



「あの子の調子はどうだった?」


「まだ引き摺ってるけど、ある程度は乗り越えているわ。後は時間の問題ね」




漸く、か。てゐに調査を頼んではいたけど、こうやって実際に会ってみるのが一番あの子の状態が解っていい。輝夜もこう言っているわけだし、もう問題はないのでしょうね。後はあの子がどれだけ現状を理解しているかだけど…。まぁいい、これ以上は関わらないと決めたのだから。私たちは影から応援させてもらうことにしよう。




「それよりも聞いてよ永琳。大和の奴、私が誘っても受けなかったのよ? ふざけた奴だと思わない?」


「ふふ。地上の男達の目を集めていたせいか、自信過剰ね輝夜」


「事実じゃない。これでもそこらの女よりは自信があるの。もちろん永琳よりもね」


「あらあら。恋の病に薬無しと言うけどこれは重症ね。まぁ程々に頑張りなさいな」


「当たり前よ。見てなさい、巫女なんて目じゃないわ」




輝夜を前にしてお預けとは、大和も中々どうして意志の固いことで。それだけあの巫女を想っていたのか、それともただ手を出すに出せなかったのか…。気になる所ではあるけど、私も馬に蹴られて死にたくないから見て楽しむだけにしよう。


それにしても、教え子と息子が結ばれると言うのは中々複雑な心境ね。






◇◆◇◆◇◆◇






「タケさんタケさん。僕ね、実は虐められてるんだ。…前からだけど」


「…………」


「みんな酷いんだよ? 僕な~んにもしてないのにさ。それなのに勘違いされてさぁ…」




お師匠様に言われて探しに来たけど、流石のてゐちゃんもこれには引くね~。ドン引きだよ。何せ永遠亭を飛び出した大ちゃんがタケノコ相手に話かけてるんだよ? それも綺麗な三角座りで。思わずこのてゐちゃんが突っ込みそうになったよ。




「君たちはいいよね~。僕に見つからなかったら後は大きくなるだけなんだからさ。羨ましいよ。…僕も昨日大きくなったのを見つけられなかったのは幸いだったけどさ」



ブフォッ!? 卑屈な顔から発せられた不意打ちの下ネタに思わず噴き出してしまった。この状況で…、しかもわたしが近くにいるって言うのに。仮にも武人なんだし、普通は気付くだろ…くっくくくく…あっははははははは!! だっ駄目ウサ、これじゃあ腹筋が割れる…ッ!


それにしても大ちゃん、そり立ってたわけか…。これは報告することが更に増えたウサ。




「お~い大ちゃん、そんなとこで拗ねてないで帰るウサ」


「…帰んない」


「ただ皆してからかってただけだからさ」


「…その冗談が、人を苦しめることだってあるんだよ」




こりゃ重症だ。まったく、みんなして大ちゃんをからかい過ぎウサ。それにもっと計画的にからかった方が面白…もとい、傷は浅くなるって言うのに。こんなヘタレを連れ戻す役を任されたわたしの身にもなって貰いたいね。



「今回はお師匠様の重大発表があるって聞いてたんだけどな~」



ピクッ、とヘタレの肩が動いた。よしよし、掴みは成功みたい。



「それも永遠亭のこれからの方針~とか言ってたような、言わなかったような…」



ピクピクッ。耳が兎みたいにピクピク動いてるウサ。ウシシ、大ちゃんは確実にわたしの話に興味を持ったようだね。後は釣れるのを待つまでだ。



「大ちゃんにも大事な話があるから呼んだって言ってたのにな~。本人がこれじゃあ意味はないよね…。うん、お師匠様にはちゃんと言っておいてあげるから帰るといいよ。姫様にはわたしからキツく言っておくからさ」


「…あ、あの~、それって本当の話…?」




釣れたーーーーーーーーー!!



「本当だよ。聞きたい?」


「う、うん」


「だったらこうしてはいられない。さあ早く! 付いて来るウサ!!」


「わ、わか―――――――――――――――!?」




立ち上がって一歩を踏み出した大ちゃんの姿が一瞬にして視界から消えた。巧妙に隠されていた私の落とし穴に嵌ったのだ。いやーむしろ不思議だったよ。何で真後ろに落とし穴が有るのに落ちてないの? ってね。まさか壊れてるかと思ったけど、壊れてないようで良かった良かった。…見つかる心配? やめてよね、てゐちゃんの罠がトーシロに見破れるわけないじゃない。それに言っただろ? 計画的にからかった方が面白いって。






◇◆◇◆◇◆◇






「随分とまぁ、土に塗れたものね」


「てゐちゃんの落とし穴に嵌ったんですよ…。あの兎〆ていいですか?」


「やめなさい」



無理です。あの兎、絶対いつか痛い目に合わせてやる。



永遠亭の一室。ここには僕と師匠の2人しかいない。輝夜とてゐちゃんは師匠のお願いでこの場にはいないのだ。何でも、僕と師匠…師弟の2人きりで話合うことがあるとか。



「私の弟子、伊吹大和。貴方に話があります」


「はい。何でしょうか、師匠」




居住まいを正す師匠に、僕も背筋がピンと伸びる。余程重要な案件なのだろうか、師匠の顔は今まで見た中で最も険しい部類のものだった。




「前に言ったことを覚えているかしら? 弟子は卒業だと」


「はい、覚えてます。でもあれは僕を月との戦いから遠ざける為の口実だったんですよね? …まさか!」


「察しの通りよ。今日を持って貴方は正式に弟子を卒業する。もうここで辛い修行の日々を送ることはない」


「それは…喜ぶべきなんですよね、普通は」




でも何故か、手放しで喜ぶことが出来なかった。死ぬやら殺されるやら、辛いやら苦しいやらと苦言や泣き言を何度も言ってきたけど、それももう無いと思うと少し悲しいものがある。あの辛く厳しい修行を耐えきったから今の僕がある。そう思うと、何とも言えないモノが込み上げてきた。




「それから…私たち永遠亭はこれ以上貴方を手助けすることは一切ありません」


「そっそれはどういうことですか!?」


「当たり前でしょう? もう弟子ではないのだから私たちは手を貸さない。降りかかる火の粉は自分で払いなさい。一人前の大人というのはそう言う者を言うのよ」


「…紫さんのことですか」


「…何か気付いたことでもあるの?」


「はい。実は…」




つい先日、ルーミアちゃんから聞かされた事実をそのまま師匠に話した。話している間、師匠は目を瞑って何かを思案しているように見えた。おそらく僕の聞いた話を深く理解しようとしているのだろう。月の頭脳とまで言われた人だ、1言えば100を理解するなんて屁でも無いに決まっている。




「…そのルーミアと言う妖怪は結界を張って話をしたのね?」


「そうです」


「なら何も問題ないわ。…ああ、でも一つ教えて頂戴。全てを知った貴方は、これからどうするつもり?」


「…今は耐える時だと思ってます。その時が来るまで、何も知らない道化のフリでもしておきます。幸いにも向上心のある者だと思われているので、対策を練っていてもまた変わった事でもしているのだと思われるだろうし…。裏はルーミアに任せるつもりなので」


「そう」


「…やっぱり、助言はしてもらえないんですね」


「これは貴方の問題。自分で解決しなさいな。私から言えることは、師の名前を辱めるようは行為はするな、くらいよ」




…手厳しい。けど、誰もがこうやって大きくなっていく。それは誰も変わらない。僕にも漸くその時が来ただけだ。守られるだけの存在じゃない、僕が守っていく存在になる。昔、心に決めた誓いが、今初めて形になり始めたんじゃないか。




「解りました。では、これからは此処に来ることも少なくなると思います」


「何言ってるの、此処には定期的に顔を出しなさい。修行でなくとも、私たちは貴方が来るのを楽しみにしているのだから。…確かに修行はもうないけど、組手の相手ならしてあげるわ。もう手加減は出来ないけどね」


「…! わかりました!」




よかった、別に顔を出すくらいならしてもいいんだ。関係を切るとことと同じことを言われたと思ったから、てっきりもう会うことはないのかと勘違いしてしまってた。これでも師匠たちは隠れている身、本来なら外部との接触は極力避けるべきなのだから。




「じゃあ最後に…師から弟子への、最後の手向けよ!」




言うや否や、跳ねるように立ち上がりお互いに距離をとった。師と弟子。武人にこれ以上の言葉は要らない。積もる話はお互いにあるだろう。でも後は、話すことは全て拳で語ればいい。



正面に師と仰いだ人が立っている。…本気だ。今なら解る。師匠が今までどれだけ手加減していたかが、手に取るように解る。…違う、本気になった師匠は全然違う! 向かい合っただけで誰もが戦意を失う程に恐れる。これが月の頭脳の、八意永琳の正真正銘の本気…!



でも、これからはこういった手前を相手にする時が必ず来る。だからこの組手は、それに向けた予行演習。これが師から弟子への最後の手向け。怯んでなんかいられない。最後に弟子としての、今出せる最大限の力で向かって行くんだ!




「はい! し…、永琳さん! …あ~、やっぱり今まで通り師匠って呼んでいいですか? どうも永琳さんとは呼びにくくて…」




今更永琳さんだなんて、そんなの無理だった。卒業しても、この人が僕の師であったことにかわりはない。長らくそう呼び続けていたせいか、今更『母さん』 とも言い難いし…。




「はぁ…まったく貴方って者は…。好きにするといいわ」


「ありがとうございます! じゃあ…いきますッ!!」




僕は貴方が生み出し、育て上げた弟子。覚えが悪くてすいません。泣き言も沢山言いました。悪態も吐いたし、陰口もいっぱい叩きました。でも貴方が居たから僕が生まれて、貴方が居たから僕が居る。…師匠、僕は貴方の自慢の弟子でいられましたか? 貴方の自慢の息子でいられましたか?



思いは尽きない。その思いを乗せた拳を、僕は精一杯に振った。






◇◆◇◆◇◆◇






~迷いの竹林 入口付近~




…やはり、言い過ぎただろうか。いや、それほど言っては無い。間違ったことは言ってないし、むしろ落ち込んでいるあいつの為に言ってやったんだから感謝されても怨まれることじゃない。ああ、でもあいつ弱いからなぁ。沈み込んだ挙句に自殺なんて…


ああもう馬鹿らしい! なんで私が大和のことでここまで悩まされなきゃならないんだよ! ああ腹が立ってきた! あいつが立ち直ったら絶対に一杯奢らせてやる!




「ん…? 何だあれ…? って、おっおい大和!? そんなぼろぼろで…何があった!?」




噂をすればと言う奴か、何日振りかの馬鹿姿が目に入った。だけどその姿が普通ではなく、何故か全身傷だらけの状態で足を引きずっていた。それは正に、満身創痍の言葉をそのまま身体で体現しているようで、見ている私の方が身体が疼きそうだった。こいつがこれ程の傷を負うなんて、いったい何があったのだろうか。




「は…ははは、妹紅だ。久しぶりの妹紅だ…」


「久しぶりってお前、前会ったじゃないか。…大丈夫か?」




こんな満身創痍の姿でも、前とは違って頼りがいのある存在のように見えた。今の大和は以前のような弱々しさが抜けていて、何時もの大和らしい大和に戻っているようだった。それでも心配になった私はそう尋ねてみたが、返って来る答えはだいたい予測が着いていた。




「うん、もう大丈夫。心配かけたね…。それに…」


「それに…?」


「届いたんだ、この拳が…。僕の尊敬する人に、やっと、やっと届いた。少しだけど、それでも届いたんだ」


「お前…」


「あ~ごめん、もう無理みたい。後頼むよ」


「おっおい!?」




倒れ込むように私に身体を預けてきた。少し体勢を崩しながらも、男にしては少し低めの大和をしっかりと受け止めることが出来た。どうやら気絶しているらしい。無理もない、何があったのかは知らないがこれだけの傷を負っているのだから。


…でも軽いようで案外重いんだな、こいつ。




「おーい妹紅ー。ちょっと頼みが―――」


「ああ慧音か、こいつをお前の家に送ろうと思うんだけどいいだろ?」


「―――ああ、そうだな。それがいい。それと宴会の準備だな。人里を挙げての」


「そうしようぜ。もちろん代金はこいつ持ちだ」


「はは、困りきった顔が今から目に浮かぶよ」


「それくらいしないと、腹が収まらないね」





―――――――――この愛すべき馬鹿には、さ







夏休みって誰の為にあるの? 子供の為? 私は子供のおもちゃじゃないと必死に訴えるじらいです。早速ですがちょっと愚痴ります。近所の子供が素直で胸が痛い。夏コミ行ってみたい。暑い。以上です。どうもすいませんね。



タイトルの卒業が童貞だと思った方、良い病院を教えて下さいw 具体的に言えば腕が折れてもすぐ治るとこを。そして今回の話、正直詰め込み過ぎました。2話くらいでグッと深く食い込むべきだったかもしれません。特に弟子卒業とか、何気に大イベントですし。でもその分原作にグッと近づきました。…言いわけ乙ですね。



詰め込んだ ああ詰め込んだ 詰め込んだ



きっと松島を歌った芭蕉先生も同じ心境だったんでしょうw あれです、言葉に出来ないって意味で。…松尾芭蕉が何を考えて歌ったのかは知りませんけどw すいません、知ったかぶりました。



前書きの通り改訂作業も継続中。改訂前との違いと言うか、大和が少し子供っぽくなったと思います。母さんを思って~、なんて入れてみました。目標まであと28部。夏休み中に終わるわけがない…。


次回はPV100万記念。長らくお待たせしました…が、甘い話なんてしませんよ? ここまでの話で出来なかったネタや、裏話などをちょちょっと書いた小ネタ集のようなものです。題名は今昔大和物語。題名の通り、小さい大和から大きい大和までです。…長くなりそうです



それではまた次回に


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