真実と決心
「情けない…ッ!」
零夢が逝って、何も出来なくなって
「何時かこうなることくらい解ってたくせに…ッ!」
皆に心配されていることに気付いている癖に、それでも立ち直れない。立ち直ろうとしない
「いざその時になったらへこたれて…皆に迷惑かけてッ!!」
終いには助言してくれた映姫様からも逃げた
「零夢が今の僕を見たら、きっと鼻で笑うんだろうな…」
情けないと言うだろう。らしくないとも言うだろう。…それで最後には一緒に悩んでくれるんだろう。でも彼女はもういない、もういないんだ。いくら泣き叫ぼうが、今更何かが変わる訳じゃない。
「なら何時までも沈んでいるわけにはいかない。そうだろ、大和」
直ぐに何時も通りとはいかないだろう。でも前を見て歩いて行けなければ、それは死んでいることと同義だ。ルーミアとの闘いでアレだけの傷を負っても尚、僕は生きている。だったらそれには意味があるはずだ。
零夢は最期のその瞬間まで先を見据えていた。零夢は僕に、僕の力をこれから巫女の役を引き継ぐ者のために役立てて欲しいと言った。ならそこからもう一度始めよう。零夢との約束を果たすことが、生き残った僕のやるべきことなのだと思うから。
「辛くても立ち上がれ、か。何だ、普段の修行と変わらないじゃないか。…でもその前に一つ、確かめないとならないことがある」
映姫様はもう一度自分の周囲を見ろと言っていた。どう言うことかイマイチ解らないけど、おそらくそれが今の僕に一番必要なことなのだろう。閻魔様の言うことだ、絶対に意味が有るに違いない。そして僕の周囲を知ることが零夢の…零夢が『死んだ』 ことと関係しているのかもしれない。そうとれるような言葉も映姫様は言っていた。『そうすれば彼女も…』 と。
だから僕は知らなければならない。そうしないと駄目なんだけど…
「いったい、何をどうすればいいんだろう?」
非常に情けないことながら、何をどうすればいいんだろうね? いきなり言われて、はいそうですかとも行かないよ、これは。
◇◆◇◆◇◆◇
「もう一度自分の周囲を知るとなると、今までのように主観ばかりなのは不味い。じゃあ周囲の人に聞くのがいいんだろう。僕と僕の周囲に詳しい人となると…何故だろう、友人よりも母さんが最初に浮かんでくるのは…」
気付いたら常に傍にいるからなぁ。姿は見えなくても霧状になって隠れているなんてザラだし。別に嫌ではないんだけど、そろそろ放っておいて欲しいなぁ…なんて最近は思ってみたりもする。僕もいい歳だしさ…いろいろとあるんだよ。
まぁそんなこんなの嬉しいやら鬱陶しいやら複雑なんだけど、僕のことを一番見て理解しているのは母さんだろう。
「と言うわけでルーミアちゃん、母さんが何処にいるか解る?」
「鬼さんが『何処で何をしているのか』 は知らないよー」
「知らないのかー」
「そーなのだー」
ならどうしようか? 大陸時に一緒に生活していた紅魔館にでも行く? レミリアやフランはともかく、パチュリーや美鈴なんかは客観的に物事を捉えてくれてそうな気がするし。アルフォード? 最初から選択肢にないです。
「でもね―――――――ご主人さまのことなら何でも知ってる」
ゾワッ
紅魔館へ行く算段をしているところに、重く圧し掛かるような妖気と、身の毛もよだつ様な低い声がルーミアちゃん…いや、ルーミアから放たれた。何時解いたのか、手には外された封印符が持たれている。姿は小さいままだが、放たれている圧力が尋常ではない。それに当てられたのか、急激に変わった空気を察知した身体が反射的に力を籠め、臨戦態勢に入ってしまう。
「別にご主人さまを傷つけるつもりはないから安心していいよ。ちょっと脅かしてるだけだから」
「…襲うつもりが無いならそのプレッシャーと、結界の展開を止めて欲しいね。居心地の悪さに今にも逃げ出したいくらいなんだから」
「一瞬でも私と対等に闘った人の言葉じゃないよ。…私はね、ご主人様を試してるの」
「試す?」
「うん。これから私が話すことは、こんな脅しすら笑いに変える程の真実。だから全力で試すの。―――ここから先、本当に聞きたい?」
「ぐっ………!!」
ルーミアから放たれるプレッシャーが更に強くなる。絶対強者の放つ途方もない圧力に腰が引けそうになるのも、真っ直ぐ前を見据えながら必死で耐える。ルーミアから放たれる妖気が頑丈に立てたはずの家をカタカタと揺らし、重い空気に呼吸が乱れる。
流石は師匠たちと同じ化物クラスの存在といったところか。昔の僕なら気絶してい酷ければ失禁までしてるかも。でもね―――
「聞く。聞かないと、全部知らないとここから先に進んでも意味が無い。そう思うから。だから聞かせて欲しい。ルーミアが知る、僕の全てを」
ニヤリ
ルーミアがそう笑った。
◇◆◇◆◇◆◇
「パチェ、ちょっといいかしら」
「何? 占いの途中だから邪魔しないで欲しいのだけど」
「そんなの後にして頂戴。それよりも私が大和と仲直りするにはどうすればいいと思う?」
「仲直り? 何時喧嘩したの?」
「喧嘩なんてしてないわ。前の話よ」
「律義ね。大和は何も気にしてないでしょうし、そもそも何にも気付いてないわよ。放っておいて構わないと思うけど」
「そんなの解ってるわよ。これは私の自己満足だし、私なりのけじめなんだから。それでパチェ、えっと…その…何か良い案ない?」
「そうやって上目遣いで顔を真っ赤にしてれば済むと思う」
「もう! 真面目に聞いてるのだからちゃんと聞いてよ!」
…大和のこととなるとどこまでも真っ直ぐな乙女なのは相変わらずか。最近は威厳ある紅魔館の主になって来たと思っていたけどそんなことは無かったわね。同じ女としてその気持ちは理解出来るけど、何でそこまで頑張れるのやら。でも頼まれたのなら仕方ない、紅魔館の参報役として知恵を絞るとしよう。
「古より男を満足させるにはまず腹を攻めろと言うわ」
腹を満足させれば男は堕ちる。前読んだ本にはそう書いてあった気がする。美味しい料理を作って家庭的な部分を見せればいいとかなんとか…。大和にも通用するでしょうね。何と言っても、アレが作る料理は不味いから。
「まままままままままッ満足させる!? セッ攻める!? ぱっパチェ! 貴方なんて破廉恥なことを言うの!? そんなのまだ早いわ! で、でも大和がそうしたいって言うのなら…が、頑張る! パチェ! 私頑張って大和を満足させてみせるわ!!」
そう言ったはずなのに何を勘違いしたのか、暴走した乙女が顔を真っ赤にして走り去って行った。おかしい。私は料理を作れと言ったはずなのに何故それをそんな風に履き違えるのだろうか。私の言い方が悪かった? いや、何も間違った言い方は言ってないはず。
まぁいい、アレも少し痛い目を見るべきだ。そうしないとレミィの好意にも気付けないだろう。…フフ、慌てふためく姿が目に浮かぶわ。
「運命の輪…正位置」
中断させられた占いの結果だ。どうやら遂に動き出すらしい。ここから先、辛いことも待ち受けているでしょうね。でもまずは、
「レミィの暴走を止めてもらいましょうか」
出来れば最初にこっちを解決してもらいたい。他はともかく、こればっかりは手伝いようがないし。
◇◆◇◆◇◆◇
「……………」
「これが私の知るご主人様を取り巻く現状」
「…零夢を………本当に、紫さんが……?」
「直接でないにしろ、切っ掛けを創ったのは間違いないよ」
「…そう……なんだ…」
子供の頃から今まで、自分の周りで何が起きているのかも知らず、知ろうともしなかった。大陸では結果的に先生を殺した。幻想郷に来てからはレミリアを苦しめた。そして一番の友人が苦しんでいることに気付かずのうのうと日々を過ごした。
「結局ッ! 何一つ守れてないじゃないか!! いったい何のために強くなったんだよ!? 僕は…僕はァッ!!」
自分のコトだけで精一杯だったなんて言い訳は通用しない。そんな事が良い訳になっていいはずがない。だって僕はあの笑顔を守り切れなかった。それも守り切れなかったのではない。守ることすら出来なかった。鬼の息子だ、魔法使いだなんて大きな力を持っていても、すぐ隣にいた存在すら守れていない。
「畜生ッ…ちくしょぉ………」
情けない自分に涙が止まらない。出来ることなら命を捨ててでも謝りたい。でもそれすら出来ない。ごめん、ごめんよ零夢…。僕、君のことが大好きだったのに…! 気付けずに何も出来なかった僕を咎めず…ッ! そればかりか、僕のこれからのことまで案じて…ッ!
「辛いでしょ? 悔しいでしょ? …仇をとりたいと思わない?」
「え…?」
俯いたまま泣きじゃくっている僕の上から、ふとそんな言葉が聞こえてきた。
「ご主人様、八雲紫を××したくない? 私たちね、ご主人様こそがこの幻想郷の管理者に相応しいと思ってるの。それは萃香や鬼達も同じこと。だからこそご主人様を次の管理者に推すんだよ。あいつ、邪魔だと思うな。早めに始末した方がいいと思うなぁ」
「始末…? 零夢の仇を…?」
でもそれは…紫さんを『殺す』 ことだ
「そうだよ。大丈夫、私も手伝うからきっと上手くいくよ。狐が邪魔するだろうけど、私とご主人様なら簡単に倒せる。憎いでしょ? 業が沸くでしょ? …怒りに身を任せてもイインダヨ?」
心の中にあるどす黒いモノが大きくなっていく。憎しみと怨みで激情に狂ってしまいそうな自分と、まだ何処かで律しようとする自分。
アレは敵だ。あれだけ良くしてくれたのに? 零夢を殺した仇だ。敵討ちをして何が悪い。誰も殺さない、殺させないって決めただろ。それを破るのか?
「零夢なら…零夢ならきっと ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――きっと、零夢ならこうする。ルーミア、決心したよ」
「ようやく決心出来た? じゃあ行こうか、あいつらの住処は「敵討ちはしない」 え…? なっ何で!? あいつらはご主人様にとって仇なんだよ!? それなのに何で!?」
「…確かに紫さんが憎い。ほんと、今まで良くして貰ってきたけどこればっかりは許すことが出来ない。…でもさ、僕は一度決めてるんだ。誰も殺さないし、殺させないって。新しい憎しみが生まれるから、なんて難しい考えがあるわけじゃない。ただ僕が臆病だから誰かを殺すことが出来ないだけ。ほんと、こればっかりはどうしようもないんだ」
「だからって…そんなちっぽけなことで敵討ちを諦めるの!?」
「敵討ちはするよ。ただ僕達のやり方でやらせてもらうってだけ。僕と零夢の妖怪退治、意見がぶつかったり仕様もないことで喧嘩になったりしたら何時もしてたことだよ。…相手が泣いて謝るまで、ひたすら殴る・蹴る・組伏せる! ってね」
何度も何度も僕たちはぶつかり合った。時には手も出る時もあった。そんな時、僕たちは何の強化もしない生身のままで感情を剥き出しにして取っ組みあってきた。だからお互いを深く知り合うことが出来たと思ってる。
「そんな…そんな馬鹿な考えだけで私の能力を無効化するなんて…」
「紫さんが何でこんなことをしたのかを聞いてからでも遅く無いと思う。…僕の心の闇を操ったルーミアから一方的に聞かされただけで判断するのは時期尚早だからね。だから真正面からぶつかって勝って、それから気が済むまで殴らせてもらうことにする」
「…ハァ、私の負けだよ。解った、ご主人様がそう言うのなら私は何も言わない。甘いやら青臭いだなんて一言も言わないよ、うん。ただ黙って後を付いて行くのが良いお嫁さんだって言うし」
やれやれ、と頭を振りながら溜息を吐くルーミア。よくもまぁ、人の心の闇まで操って惑わせてくれたものだ。おかげで自分を見失うところだった。
「黙って後を付いて来てくれるのは嬉しいけど、誰がお嫁さんだよ。誰が」
「む~。私が大和のお嫁さんになるの~!」
「小さい子に興味はありません!」
「なんなら大きくなるよ?」
「…それはちょっと考えるかも」
どうしようも無くなった僕たちはお互いにふき出してしまって。花が咲いたように笑うルーミアとは違って涙まじりだったけど、これでいいんだよね、零夢。これが僕なんだから、きっと君も解ってくれると思う。
だから僕が紫さんを倒すまで楽しみに待っておいて欲しい。
僕達のやり方で、最強の妖怪退治といこうじゃないか
長い間待ってくれた人もそうじゃない人もお久しぶりなじらいです。今回の話は難産でいまいち納得いかない部分が多くてどうかなー? なんて少々ビクついております。大和らしさが出てればいいなぁ。
さて、活動報告でも報告した通り、ただいま初期の話を加筆修正? 改訂? しております。良ければそちらもどうぞ。前よりは見やすくなっていると思います。そして活動報告に書き込んで下さった皆さん! 返信出来なくて本当に申し訳ありません! こんな私をお許しください!
次回は輝夜とのネチョR-15を入れる予定…予定です。R-15の限界が何処までか知りませんが、とりあえず限界目指して突っ走ります。夏ですからw ではまた近いうちに逢いましょう!




