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東方伊吹伝  作者: 大根
第二章:外の世界
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草食系男児

姐御妹紅でお願いします。


 突然で申し訳ないけどここで一つ……いや二つ? 人生とはどういうものか、若干10歳の僕は考えてみようと思う。

 僕の思い描く人生には山あり谷あり。楽しい時もあれば、長いく苦しい時ももちろん多い。生まれてまだ間もない僕にだって、そりゃあもう辛い日や苦しい日があったんだから当然の事だと思う。

 もちろん楽しい日の方が多かったよ? でもさ、まだ10歳でしかない僕でも色んなことを体験をしているんだ。それが20年30年、母さん達ほど長く生きると考えたら、それはもう大変な日々だろうと僕は思うんだ。


「弱すぎだろお前……」


 だからさ、年長の妹紅さんに手も足も出ないのも仕方ないよね。地面に仰向けで大の字に寝っ転がらされたって、それはもう仕方のない事だと思うんだ。


 以上、返り討にあった僕の長い言いわけでした、グスン。


「生意気なことを言うからどれ程のものかと思ってみれば……いくらなんでもお粗末過ぎるだろ…」

「頭抱えないで下さい泣きたくなります」

「むしろ泣け、泣いて謝れ。妹紅さん調子に乗った僕が悪うございましたって」

「妹紅様、調子に乗った僕が悪うございました」

「様は余計だこのヘボ」

「泣いてやる! 本当に泣いてやるからな!?」


 あはは、青い空が何だか曇って来たや……。ああ、どうしてこんな事になったかって?

 それは次の日、それも早朝から始まった妹紅さんとの簡単な模擬戦が原因なんだ。なんでも『自衛くらい出来る』 と言った僕の実力を測る為に始まったってわけ。


 まあ、何と言いますか、僕って調子に乗ってたんだよね。『ふっふっふ、鬼に条件付きとはいえ真正面から勝った僕の実力を見るがいい!』 とかなんとか言った気がする。頭から地面に落ちたから覚えてナインデス。

 とにかく、開始直前までは自信満々だったんだよ。だってさ、条件付きとはいえ母さんに勝ったた実績があるんだよ? それに油断だってしてなかった。昨日の妹紅さんの闘いぶりを見れば実力差は明白だし、むしろ何時も以上に注意して模擬戦に入ったんだ。


 にもかかわらず結果は惨敗。

 文字通り手も足も出なかった。最初こそは身体強化の魔法で突っ込んで掻き乱せたようだったけど、少し時間が経つと完全に妹紅さんのいいようにやられ始めた。脚を引っかけられて転ばされたのはとても悔しいです、はい。勢いよく突っ込んだ時だったから、あの時は顔で地面を抉れるんじゃないかと思ったね。

 でも本当に、世の中にはまだまだ強い人が沢山いるんだね。今までの僕の世界は妖怪の山だけだったし、そこでは白髪の妖怪退治屋なんて噂を一度も聞いたことが無かった。なのに本人はこんなにも強いんだから。

 フッ、流石世界は広いな……なんて一人前らしく考えてみたり。



「う~、母さんには一撃入れれたのに……」

「その母さんが弱かっただけだろ」

「そんなことないよ! 母さんは鬼なんだから弱いはずがない!」

「なら、大方手加減でもされてたんだろよ。お前が鬼に勝つなんて逆立ちしても無理だからな。むしろ産まれる前からやり直せ。じゃないと無理だ」

「妹紅さん酷くない!?」

「何にせよ、お前は弱いことに変わりはないんだよ。私見だけど、昨日の大蜘蛛とどっこいじゃないのか?」

「さいですか…」


 文とにとりとの集中鍛錬でちょっとはマシになったと思ってたのになぁ……。でも妹紅さん的にはそう見えるのか。僕だってあの大蜘蛛ぐらいは倒せる…なんとか、たぶん、どうにかして……良くて相討ち? と思うけど。やっぱり力不足なのは確かなんだろうなぁ。いったい母さんはどれだけ手加減してくれたんだろ。

 こうして一人になった今に初めて解るけど、僕には足りないものが多いんだね。

 力然り、知恵然り。妖怪の山で学べたことは、過ごした時間に比べたら数える程しかないのかも。

 ―――でも、この旅の中で僕は皆に追いつくんだ。守られるだけの存在じゃない、僕が守る側になるためにも頑張るって決めたじゃないか。


 ……だからと言って、たった一人で強くなれると思うほど自惚れてなんかいないわけで。自分のことくらいちゃんと把握してるさ。僕ってば、憶えが悪い方なんだよね。

 だからやらなければならないことははっきりとはしている。僕に必要なのは努力すること。それも一緒に切磋琢磨する良き競争者か、姐さんみたいな先生とか師匠が必要だと思う。そもそも、僕だけじゃどう鍛えればいいのかも解らない。腕立てに腹筋? これくらいしか思い浮かばないよ。


 ……でもさ、目の前にちょうど勝手のいい人もいることだし、駄目元で頼んでみようと思うんだ。


「妹紅さん、都につくまで僕に闘い方を教えてくれませんか?」


 弱いなら強くなるように努力する。母さんたちが口酸っぱく言っていた『結局世の中は力が全て』 という言葉が、今の僕には少し分かる気がする。


 ―――どれだけ綺麗事を言っても、それを為すだけの力がなければ意味はない。それが知恵であれ、腕っ節であれ。


 皆は口を揃えてそう言っていた。そして力の無いものは"母さん達のいる世界"じゃ通用しない。自分のやりたい事すら出来ない。僕がここに居られるのは、奇跡的に僕の力を母さんに示せたからだ。

 けれども、僕は妹紅さん相手に何もできなかった。だから自分を鍛えて、精一杯の努力をする。今の僕に出来ることはそれだけだと思うから。


「いいさ、私もただ歩くだけじゃつまらないと思っていたところだ。それにこのままのお前じゃ何処かで野たれ死ぬだけだろうし。でも覚悟しろよ、私は甘くないぞ?」

「どんと来いです!」


 でも弱いってことは、喜ぶべきことだと思うんだよね。弱いから、これからまだまだ強くなる余地があるんだから。幼いということは、まだまだ成長できるということなんだから。


「それと思ったんだがな……あー、なんと言うか」


 頭を手で掻きながら言葉を選んでいるのか、あーでもないこーでもないと一人ごとを言っている妹紅さん。僕の修行方法でも考えてくれているのだろうか? そう思った僕は少しでも力になれればと話かけてみることにした。


「何ですか?」

「それだ! その喋り方!」

「え? 失礼だったかな?」


 考えていることとは全然違うことだったので少し驚いた。僕なりに年長者の妹紅さんに対して失礼のない言葉を選んでいるんだけど、何か気に入らない点でもあったのかな……?


「違う違う、お前の話し方は堅苦しいんだよ。そんなんじゃ舐められるぞ。お前は見た目がアレだし、中身も弱いんだからせめて話し方ぐらいもっと男らしく話した方が良い」

「うぇえ!?」


 お、男らしく!? 男らしい話し方って……どんな!? ぼっ、僕のことを"俺" とか言っちゃうわけ!?

 むっムリムリ、無理だって! だって僕が"俺" だとか……ねえ? 似合わないよ。それに今までもこの話し方だったから、急にはちょっと……


「僕じゃなくて『俺』 だ。これからはそうしろ。じゃなきゃ、やっぱり一人で都に行くんだな」

「おっ俺? ……いや、やっぱり似合わないからなかったことに」


 一人で都に行けとか、この苛めっ子! 勘弁してください!


「駄目だ。私のことも妹紅と呼べ」

「その点に関しては賛成です」

「よし! …ってそこだけ簡単に納得するなよ!?」


 だって妹紅って言いやすいし。それに、そんなに歳が変わらなさそうな人を"さん" 付けで呼ぶのも好きじゃないし。妹紅さんじゃなくて、妹紅ちゃんならいいけど。


「じゃあ妹紅、これからもよろしく」

「……まあいいさ。でも覚えておけよ。自分を強く見せるのも大切だからな」

「妹紅もそうなんです…、そうなのかー?」


 どうやら俺発言は流してくれるみたい。やったね。


「私もこんななりでも女だからな。いろいろと、な……」


 ……妹紅のような女の子がたった一人で妖怪退治をしているなんて、それこそ余程の事情がないとありえないことだろうしね。何か特別な事情がないとそんな危険な事を親が許すわけがない。だって僕の知っている親は何時だって子供の味方。だからもしかしたら妹紅の両親はもう……。髪が白髪なのもそれに関係してるのかも。あまりの出来事に髪の色が変わる人もいると聞いたことがあるし。

 憶測が当たっているとしても、それはおいそれと人に話せることでもないだろう。だから僕から深く聞くことはしない。妹紅が自分から話してくれることを気長に待つよ。だからこの話はここでお終いだ。


「それじゃあ行くぞ」

「うん!」


 都に向けて、僕らはゆっくりと歩き出した。







~オマケ珍道中 とある村で~


「喜べ大和、お前のために特注の重りを手に入れたぞ」

「すごい、どこで手に入れたの?」


 足腰を鍛えるため、と妹紅が何処からともなく石を砕いた重りを持ってきた。丸いのやら△のやら、どこか萃香が付けていたものと似ている。


「秘密だ。じゃ、とりあえず足にこの重りをつけて都まで行ってもらうから」

「修行の最中も!?」

「これも修行だ、たぶん」


 始めは嫌がる大和だったが、形を見ては母を思い出してニヤけるのであった。何処からどう見てもただの10歳だったとは、後の妹紅の談である。



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