決着・下
EXラスボスラッシュ!!+aを聞きながら書きました。聞きながら読むと私と同じ気分に成れてもっと入りこめるかもしれません。つまり、熱くなれる曲を聞きながら読んで貰えるといいわけです。
三月十八日改訂
――才能なんて、始めから無かった
何時も前を歩く背中に羨望と、ほんの少しの嫉妬を混ぜた視線を送るだけ
それが堪らなく悔しくて、惨めで、だから地を這って泥を被ってでも努力しようと決めて
泣くだけの自分とさよならした
それでやっと追いついたと思ったら、自分の追いかけた背中の遠さに気付かされて
諦め切れなかった、本当は認めたくなかっただけなのかも知れない
でも現実は非常で、遙か前を歩む貴方たちのようには成れなくて
それでも何時か、何時の日か必ず、あの人たちの横に立つ そう決めたから――
「やあぁぁぁぁあ!!」
「うっッらアッ!!」
弾く。槍を弾く。一つ一つに明確な殺意と、必殺に値する妖力が込められた漆黒の槍を受け流していく。迫り来る槍の数は今までの比ではない。本気なのだ、ルーミアも。そして僕も。今までにも多くの槍、棘が確かに飛来して来ていた。だが、ただそれだけだ。雄たけびを上げ、自分を鼓舞する。負けない、負けられない、君には絶対に負けない! その想いが2人を更なる高みへと誘う。
(八時方向! 数7、いや9000! 迎撃は間に合わない!!)
「だったら全て弾くまでッ!!」
パチュリーの念話を聞いてからでは到底間に合わない。僕らの闘いは既にそんな一つ上の次元にまで到達している。そこに他人の踏み込む余地は存在しない。僕とルーミア、たった2人だけの世界で僕は歯を食い縛り、拳を振い続ける。
「でェェぇぇやあッ!!」
「はあああああああああッツ!!」
互角、それも全くの。どちらか一方が選択を誤るまでこの状態は継続されるだろう。それは僕か、ルーミアか。だけどそんなの望んでは無い。楽しいんだ。今、僕は生きている。生と死の狭間で、互いに好敵手と認められる相手と死闘を繰り広げることで、僕は生きているというナマの感触を味わうことが出来ている。脳から溢れだすモノは身体を燃やし、身体は更にソレを求め続けている。もっと上へ、もっと先へ。この先にある勝利をこの手に!!
「パチュリーッ! グングニルの構成任せる!!」
(ッツ了解!!)
イメージするのはあのいけ好かない男の槍。必殺必中の名を冠された神の槍。一度この身を貫いたあの魔槍。なればこそ、あの槍の神々しさと神をも射殺すその威力をこの手に宿すことさえ出来るはず。
「ぁぁぁあ゛あ゛! 百万の影槍ッツ!!!」
「二度もそんなモノで…、舐めるなァッ!!」
音より速く、光よりも速くも速く空を舞う。両目は光を放ち、全ての『先』 は僕の手の中。その僕に二度目など通用しない!
「早ッ、私が目で追えない!?!?」
「堕ちろォッ! グングニル!!!」
その名の通り、放たれた神槍は咄嗟に回避行動を取ったルーミアを、それでも右半身を吹き飛ばした。飛び散る血飛沫が闇に満ちた空を紅く染め上げる。それでも僕らは闘いを止めない。どうせこの程度、ルーミアにとっては屁でもない。
「あは、アハハハハッ!! 楽しいね御主人様! 私もう何度もイっちゃったよ!?」
流石は師匠クラスの妖怪。半身を吹き飛ばされたくらいでは怯みもしない。既に吹き飛んだ半身は再生し、五体満足の姿で両腕を大きく広げる仕草を取っている。
「だから御主人様をイかせてあげるねッ!?」
「ッツ、レーヴァテイン!!」
(もう! 無茶言わないでよ!!)
それでも瞬時に構成できるパチュリーはホントに頼りになる。手に持つは燃え盛る炎の大剣。先生の、今ではフランが使う神話の剣。気と魔力の相反する力を籠められた炎剣は、元々炎属性を得意とする僕と、完全に模倣させたパチュリーの構成もあってか。もはやオリジナルを超える程の禍々しさを放っている。
「メシアの抱擁!!」
救世主は世界が滅ぶ時に現れ、この世に救いを齎す。そのメシアが世界の破滅を望んでいるとしたら? 破滅こそが救いだと考えていたら? それを意識したであろうルーミアが放った空間消滅魔法、とでも呼べば良いのだろうか。まるで重力魔法に囚われたかのように、闇に自分と世界が共に押しつぶされていく。
(これ程の手をまだ隠し持っていたって言うの!? 駄目! その剣でもココは抜け出せない!!)
パチュリーの全魔力と僕の力で以て剣を振っても尚、この空間から抜け出せない。更にパチュリーの魔力も限界が見えてきた。この闘い、まだパチュリーの援護が必要になる。無駄な消費は出来ない。未来から取り寄せるか? 無理だ、時間が足りない。こうなったら…!
(ッ止めなさい大和! それは日に一度しか…!)
イクシード、起動。更に三倍の魔力を上乗せにする。ビキビキと身体の組織が無理な魔力行使によって壊れていくのが解る。それでも諦めることなんて出来ない。信じて待ってくれている人の前で、無様に倒れる姿を見せるのは男じゃない!
「こん、のおおぉぉオオオオオオオ!!」
全身を駆け巡る鋭い痛みに大声を上げながら耐え、そのまま上段に構えた剣を振り下ろした。
◇◆◇◆◇◆◇
「永琳! どうなっているの!?」
「解らないわ…。でも、あの魔道機関は身体への影響を考えると日に一度しか使えない。無理な行使は身体の組織に相当なダメージを与えているはず。不味いわね…」
◇◆◇◆◇◆◇
「小僧、よくも俺の槍を…」
「旦那様、押さえて下さい。御息女様たちが怯えになっております」
「む…。すまん、気をつける」
「で、でもヤマト大丈夫かな…?」
「パチェ?」
「…………」
「ッお嬢様! パチュリー様が!!」
「パチェ!? しっかりしなさい、パチェ!!」
◇◆◇◆◇◆◇
「あッァ…~ッツ。くそっ、傷が深い…」
「…チェックメイト、御主人様」
「ック!」
膝を着いている僕に対して、こちらも満身創痍のルーミアが剣を僕の首筋に突きたてる。僕もルーミアもボロボロ、自分の魔力はもう空。気は…まだ戦闘出来る程度にはある。でも身体が動かない。一日に二度イクシードを使ったせいか、反動が大きすぎる。
(パチュリー…まだ魔力はある!?)
(……………)
返答がない。少し辿ってみると繋がっていたラインが途切れているのが解った。あれだけの大魔法と呼べる物を受け続けていたのに怪我がそれ程負っていないのは、パチュリーが守ってくれたのかもしれない。だから魔力切れを起こしたのか。
それでも万事休す、か。ルーミアも今までの戦闘で消耗が激しいみたいだけど、魔法を使えない僕では全く勝てる気がしない。何か、何か手は無いのか…!?
「楽しかったよ、御主人様…。こんなに楽しかったのは始めてかも。あは、私の初めてまで持っていっちゃったね。…でももうお終い。じゃあね、ばいばい」
振り下ろされる死神の鎌。身体は動かない。妹紅が何かを叫ぶのが聞こえた。
『この…馬鹿息子!!!!!!』
薄皮一枚。刃が首を切り堕とす瞬間、突如響き渡った声によって剣が止まった。
『誰が負けていいと言った!? 何時か母さんより強くなって、わたしを守れるくらい強くなるって豪語したのはどこの馬鹿だ!? 伊吹の名に傷をつけるんじゃないよ!!』
どこから現れたのか、僕たちを覆う様に空に浮かぶ無数の隙間。そこからはこの闘いを見ていたのだろう、多くの面々が見てとれる。
『まあ、私としても大和さんが死ぬのは嫌ですねー。だからそんな妖怪、ちゃっちゃと片付けちゃってください』
『こら~大和~! まだまだ実験に付き合ってもらわないといけないんだぞ! 早く終わらせて山に来いよ~!』
文、にとり。初めて出来た親友。一緒に遊んだあの時と変わらない、気の抜けた声を出す2人に少し苦笑が零れた。
『四季様、大和が死ねばここで働かせるってのはどうです?』
『それもありですね。久しぶりにあの微妙な味のご飯が食べたいと思っていた頃です。ああ、でも死んでも死ななくてもまた来なさい。少しお話をしましょう』
『おー怖。災難だなぁ大和』
『…小町、貴方は今からです』
『げえぇっ!?』
心優しく不器用な閻魔と、その閻魔に仕える死神。相も変わらぬ2人の関係に、他の隙間からも笑い声が聞こえてくる。
『ヤマトなら大丈夫! なんたって紅魔館の執事だからね!!』
『大丈夫ですよ、大和さん。落ち着いて内功を練って下さい。それで少し楽になります』
『ふん、貴様などそうやって地を這っているがいい』
『旦那様、ここは空気をお読み下さい。…執事足る者、如何なる時も完璧であれ。そう教えたはず』
紅魔館の面々。その中にレミリアも居た。真っ直ぐに僕の瞳を見つめてくるレミリアは少し不安げに、しかししっかりと胸を張って立っている。
『後でゆっくり、紅茶でも飲みながら話をしましょ? その時は皆で貴方の勝利を祝ってあげる』
強く優しい、誇り高い吸血鬼。大陸で出会った実の妹のような子。母親が死ぬ切っ掛けとなった僕の罪を共に背負うと言ったあの時の様に、彼女は淀みなくそう宣言した。まるで運命がそう言っているかのように。
『勝て。私はそう言ったはず。だったら何をすべきか、解らない貴方じゃないでしょう?』
『全く、暇で暇で仕方ないわ。こんな勝敗の解りきった闘いを見るのは。だから早く終わらせて遊びに来なさいよ』
隙間に背を向け、顔は見えないようにしている2人。だけどその背中だけでも2人の想いは十分に伝わってくる。厳しい言葉に、素っ気ない言葉。これがこの2人なりの激励だ。この人たちの期待に応えたい、そう強く思う。
『地底から勇儀姉さんとその仲間たちだ! おいこら大和、この馬鹿弟分!! お前は強い! 私の次には強くなった! だから負けるな!! いつか姉貴である私を倒すまで、絶対に負けるんじゃない!!!』
はは、久しぶり姉さん。相変わらず豪快そうで何よりです。母さんから聞いたけど、地底の暮らしはどうですか? 地底と地上は関係を持たないって聞いたけど…型破りの皆のことだ、言っても無駄なんでしょうね。
『強くなったの、大和。じゃがちと惜しい。あと一皮剥ければ辿り着けるやもしれん。私たちの領域に、の?』
大母様に、鬼の皆。一つしかない隙間を取り合う様に次々と顔が移り変わっていく。あの頃と変わった僕。変わらない皆。でも胸に抱く想いはあの時のまま。貴方達の横に、僕は立ちたい!
「お前ってホント解らない奴だよな。見ろよこの光景。大和の為にこんなにも集まってくれたんだぜ? だったら何すればいいかぐらい解るだろ?」
ああ解るさ妹紅…! こんなとこで座ってる場合じゃない。僕は…、僕は…!
震える膝に必死に力を込めていく
『さあ立つんだ、私の最高の息子。――――――この光景を見ている者に告げる! 残念なことに、我が息子には才能がない。運命がこの子に味方しなかったのかもしれない! ―――それがどうした!? 今、私の息子はこれだけの面々に支えられているではないか! それは大和が自分の運命に打ち勝ってきた証拠じゃないのか!? いいか? 運命なんてブチ壊せるものだって、諦めない悪足掻きがどれだけの力を持つか、しっかりその目で見ておけ!!! そして刻め!! 伊吹大和の、私の息子の勇姿を!!!!』
「う…がぁぁぁぁぁぁああああああああッツ!!」
「うそ…。もう立てるはずないのに…」
『よし! 偉いぞ大和!! それでこそ私の息子だ!!』
な、なんとか立ち上がることが出来た。でも身体が動かない。少しでも気を抜けばまた倒れって、うわっ!? 案の定、力の無い足腰では自分を支え切れなかった。
「まったく…。あんたって奴は本当にどうしようもない奴ね。私がいないと何も出来ないんだから」
「…お互い様だろ、零夢」
そんな僕の肩を支えてくれる人がいる。あの日から堅く結ばれた僕たち2人の絆は、誰にだって負けやしない。
「…そうね。だって、もうあんたがいる事が当たり前になっちゃってるんだから」
嬉しいことを言ってくれるねぇ。男名利に尽きるとはこのことだよ。
「夢想封印。最後の特大の一発よ。一分、時間を稼ぎなさい」
「撃てるの?」
「巫女舐めんな。あんたこそ、2秒で倒れたりしたら承知しないわよ」
「そっちこそ、魔法使い舐めんな」
後に下がる零夢を守るように前に出る。目の前に立つルーミアは驚愕の表情を浮かべ、その後にと満面の笑みを浮かべる。
「あ~あ、ここまで粘られるとは思ってなかった。こんなの見せられたら本気で勝ちたくなっちゃうじゃない。いいよ、すごくいい。もう私も限界。だけどね、これほど勝ちたいと思った勝負は初めてだよ!!」
再び、空を覆い尽くした槍が迫る。
―――桜花制空圏とは、全ての流れに身を任せることから始まる
―――幻覚の中の有幻覚。有幻覚に潜む幻覚。真実を解き明かそうとすればするほど、謎は深まるわ
―――未来を視ろ。先を読め。最善ではなく、最高の一手を完全に読み切ることが出来る君が私は羨ましい
―――夢想天生? そうねぇ…。敢えて言うなら全部に身を任せる、かしら。気付けば『ういて』 るのよ
イクシード、三度目発動。桜花制空圏、気と魔力を融合。
『『『『『なッ!?!?』』』』』
僕を捉えるハズだった槍は、その全てが僕を通過していった。一つも当たらず、掠ることもせずに。
ああ、そうか。そう言うことだったんだ。
修行の合間にふと思い、師匠との再会の後に自宅で行った自主鍛錬。全てから『ういた』 ような感覚。周りに溶け込むような、そんな感覚を求めて何度も練習した。でも上手くいかなかった。
零夢が消えて帰って来た後、僕は同じような魔法があるか探した。でも図書館にはそんな本は無かった。悔しかったよ。だって、次に零夢が姿を隠すような事があったら見つけようがないじゃないか。夢想天生は夢想天生でしか破られない。成程、そう思った。だって『ういた』 相手を探すには、自分も『うく』 しかない。だからあの時の本当に悔しかった。
でも今、僕は零夢の夢想天生に限りなく近い状態になっている。
「さしずめ、無想転成と言ったところかな…。無から転じて有と成る。はは、無能だった僕にはちょうどいいや」
「あ、ありえないッ! だってそれは博麗の『くくく…あっはははははは!!』 五月蠅いわよ小鬼!」
『いや、すまないね。まさか伝説とまで言われた博麗の秘奧を、あの大和が出来るようになるなんて! これを笑わないでどうするって言うんだい!?』
正確には限りなく近い状態だけどね。桜花制空圏の全てに身を任せる舞い散る花弁の動き。在るか無いかの境界線を幻術で弄る。最高の一手、未来を手繰り寄せる『先を操る程度の能力』。僕の持つ全ての能力を総動員して起こした奇跡に近い現象。気と魔力の融合、その第二段階『無想転成』。
「く…でも夢想天生じゃない! だったら当たる可能性だって…!」
「無駄だよ。―――止まれ」
荒れ狂う闇の棘に掌を向けるように右手を掲げる。
「…おいおい、マジかよ。全部止まってるぞ」
「無想転成の第一段階は膨大な身体能力と魔力や気といった力の大幅アップにある。だからルーミアの攻撃を素手ではじく粗技が出来たわけだし。となれば、今の弱ったルーミアになら地力の上がった僕の能力も通用する。…行くよ」
もとより時間は限られてる。3度目のイクシード発動のせいか、もう痛覚や触覚なんて感じられない。目も霞んで見にくい上に、長時間この奇跡を起こしていることは出来ない。例え長く続けられても今の僕ではルーミアを倒すことは不可能に近い。でもこれで十分、僕が拳のみ具現化してルーミア本人と自動障壁を破れれば…!
「この…砕けろ!!」
イクシードに込められていた魔力が急激に減少していく。間に合うか!? いや、間に合わせる! 決死の想いで夢想封印を放とうとしている零夢の為に、必ず間に合わせて見せる。
イクシードの輝きが消え、それと同時に無想転成が解除される。その姿を見たルーミアは、死に体ながらも僕を貫くために最後の一槍を放つ。
身を過る。間に合わない。右肩に当たり、腕を捥ぎ取られた。血飛沫が舞、感じなかった苦痛に顔が歪む。ルーミアは勝利を確信して笑う。でも僕は諦めない。残った左腕で自動障壁に触れる。ルーミアの顔が驚愕で埋まる。こちとら最初から、右手の一本くらい捨てる覚悟は出来てるんだよ!!
「剛堕…浸透掌ォッ!!」
再び自動障壁が破られる。僕の仕事はここまで。あとは任せたよ、零夢!
「これで本当の終わりよ…夢想封印!!」
極大の光弾が防御の術を失ったルーミアに叩きこまれて行く。
「…初めて、初めて勝ちたいと思った相手に勝てないなんて…」
「人生なんて…そんなモノだよ…」
僕が最後に見た光景は、地に伏せたルーミアと、ゆっくりと地面に倒れ込む零夢の姿だった。
鉄は熱い内に叩け! じらいです。冷めないうちに、読んで下さる皆様に最速で届けようと思った次第であります。前書きにもあるように、このBGMを永遠ループしながら書きました。ノリノリです。むしろノリノリで熱い曲を聞きながら読まないと「こいつ頭大丈夫か?」 と思われるかもしれませんねw それ以前に分がおかしいかも知れませんが…
これにて日蝕異変は決着。多くのことを語りたいのですが…時間が無いので割愛。質問は感想でどうぞ~。残りは事後処理ですね。大和の最終形態は無想転成。無想転生のパロであり、夢想天生のパロです。無敵です。無双です…が、大和がそんな大それたことを長時間出来る訳ねぇだろ、です。出来ません。その辺の理由も次回出てくるはずです。…忘れてなければ。
さて、と。明日提出のレポートどうしようかな…。グッバイ睡眠時間!