決着・上
製作時間・約一日。今日暇でよかった…
三月十八日改訂
「さあ始めよう、御主人様。私と貴方たち、勝つのはどちらか一方。貴方をこの身に取り込み、私は更に強大になる」
「負けられない。今までだってそう、僕は何時も自分より強い人たちと闘い、そして勝ってきた。今日、それがまた一つ増える」
「私は何時も通りに妖怪を懲らしめるだけ。博麗の名の懸けて、あんたを倒す」
三者三様に力を滾らせていく。魔力、妖力、そして霊力。各々の力の種類は違えど、その場に充満していく力によって大地が鈍い音を立てて震えだす。この場に常人がいれば気を失うだろう、妖怪なら場を占める力によって消滅するだろう。それ程までに強大な力が渦巻いている。
一瞬、それぞれの身体から爆発的に出されていた力の放出が止まり、大地の震えが止まる。次の瞬間には三者がその場から完全に消え去っていた。
右から聞こえる爆発音。それを察知し右に顔を向けるれば、すぐさま左から爆音が聞こえる。更に後方、上、下。3人はその場から消えたのではない。もはや達人以外の者には影すら映らぬスピードで空を駆け、己の倒すべき存在へと力を振っているのだ。
(突撃する! 零夢、援護を!!)
(任せなさい!)
言葉を交わすのではない。目で語り合うことも必要としない。ただ零夢は大和の背中がそう言っていることを理解し、それをなさせる為に動く。何時も真横でお互いを感じ合ってきた2人には、お互いが何を欲しているのかが手に取るように解っていた。故に、共闘するために一番厄介な意思疎通のタイムラグと言うモノはこの2人には存在しない。
「吶喊!」
触れれば大理石の柱でもバターのように切れる魔力糸を前方に向けて乱雑に放つ。魔力タンクと化した魔女を内包する今の大和の魔力糸なら、いかな妖怪とはいえ当たればダメージは必死。だがルーミアも然る者、それらを闇から創りだした槍で全てを撃ち落とし、迫る大和の迎撃に移る。
その隙間を縫うように飛ぶのは博麗の文字が刻まれた札。突きを放つために振りかぶった腕、その脇の下。僅かに捻られた首を掠るようにして放たれる、一つ喰らえば鬼でも怯む威力が込められた御札がまるで引き寄せられるかのように逃げるルーミアを追尾する。舌打をちしながら回避運動をとる。その対処にルーミアが追われる中、遂に大和が肉薄に成功する。
「なッ!? デコイ!?」
左手に逆手に構えた短剣を突き刺すも、最初からそこに居なかったかのように闇に消えるルーミアの影。己の十八番である幻術もどきで攻撃を凌がれた大和に瞬きよりも短い隙が生じる。
「百万の影槍」
大和の頭上に回避していたルーミアから、その名の通り数えるのも愚かな程の影槍が射出された。ここしかないと言える完璧なタイミング。隙間で覗いている誰もが串刺しにされる大和を幻視しただろう。彼女がいなければ。
「二重結界」
大和の頭上に展開されるは博麗の十八番である結界術。歴代最高と謳われる彼女の結界は影槍の一本も通すことなく大和を守りきる。その光景を見て考えを改めたのだろう、大和よりも零夢に向かって多くの棘を放つルーミア。だが巫女はそれを見ても動揺することはない。彼女が大和を守るように、彼も零夢を守るからだ。
それを同数の、それと全く同じ漆黒の棘がそれを撃ち落とし、相殺させたものがある。
「流石に何度もみさせてもらったからね、模倣するのも楽だったよ」
今までとは一転し、ルーミアと大和の影槍の撃ち合いが始まる。あらゆる角度から迫る圧倒的質量の影槍に対し、それと同数の模倣した影槍、即ち有幻覚によって創られた槍との撃ち合い。全て後手で放っている大和だが、それでも均衡を保っていられるには大きな要因があった。
(たかだか一妖怪が、生粋の魔法使いである私に演算で勝てると思わないことね!)
瞬時にルーミアの技を解析し、それを有幻覚で模倣することが出来たのは七曜の魔法使いパチュリー・ノーリッジの存在があればこそ。有幻覚にとって一番重要なものはイメージだ。だがイメージだけで扱えるほど魔法は単純なものではない。
(魔力にも妖力にも、何かを起こすには必ず構成術式がある。その大まかな部分は大和が感じ取ってイメージにする。私はそれを更に複雑かつ綻びのない魔法構成まで昇華させる。ただそれだけの単純作業)
彼女はこう言うが、言うは易しというものだ。大和の知り合いの中にも戦闘中に敵の攻撃を分析するのならまだしも、そこから新たな魔法を構成できる者など彼女だけだろう。
(操影術の魔道書を読んでいて良かった。そうじゃないとこうも簡単にイメージなんて出来なかっただろうし)
(貴方がこれほどに操影術を理解していることに驚きなのだけどね。よくここまで魔道書を読み込んだわ)
そう、闘いはあの時から既に始まっていたのだ。真正面から闘って勝てる敵など、大和の経験では数少ない。常に自分よりも強い相手を闘ってきた大和には格上に対する対処法と言うモノが、自身の経験と師たちの辛く長い修行によって骨の髄まで染み込まれていた。
「あんた、接近戦が苦手なんだって?」
「ック!」
大和がルーミアを引きつけている内に、お祓い棒に膨大な霊力を徹した零夢が迫る。それを見たルーミアは大和との撃ち合いを切り上げ、お祓い棒を振り上げる零夢に備える。
「消えた!? また幻覚による子供騙し、後ねッ!!」
「残念、そっちが幻術だよ」
「私は真正面よ、馬鹿妖怪」
「なあッ!?」
二重幻術。零夢を周囲に溶け込ませ、ルーミアの視界から消す。始めに迫る零夢を、僕が散々見せてきた幻術による幻だと思わせるために、実際に幻術で出来た零夢を背後に創り出す。結果として本物が目の前にいると言うのに、それを感じさせることなく騙すことに成功した。これが幻術の真骨頂。これが魔法使い、伊吹大和の本質。
「くたばれ!!」
「でも、その程度じゃ私には届かない!」
「そんなの解ってるわよ! 大和!!」
振り降ろされたお祓い棒が自動展開された障壁とぶつかり合い火花を散らす。そのまま押し切ろうとする零夢、揺るがない障壁に微笑を浮かべるルーミア。そのルーミアの余裕を打ち崩すのもまた、武人・伊吹大和である。
「数え抜き手! 壱!!」
最高の師によって鍛え上げられた肉体に気を纏い、人差し指一本で障壁を突く。
「弐! 参!!」
中指、薬指と数を増やしていく技を数え抜き手と言う。師父によって伝承された、対障壁用の秘義の一つ。単純に数を増やして突くだけでなく、一つ一つに特殊な力の練りを加え、変化することで最終的にはどんな障壁をも貫く脅威の技。
「肆!!」
最後に親指を除いた四本の指で放たれた抜き手はルーミアの障壁を完全に貫いた。ガラスが砕けるような音と共に障壁は砕け散った。最後の砦である障壁を無くし全くの無防備な姿を晒す彼女に、大和は全身の気を拳に載せた一撃を放つ。
「雷声砕月!!」
嘗て自身の妹に向けて放った奥の手の一、太極拳の秘法『雷声』。特殊な呼吸法によって横隔膜を振動させ、己を一つの弾丸の如くさせ、そこから放たれる最高の突き。あの頃とは比べ物にならない気と錬度を以て放たれた一撃は、ギリギリのタイミングで腕で防御出来たルーミアを、それでも遙か彼方へと吹き飛ばす。
寸での所で防御が間に合ったが、確実にダメージを負ったルーミアに対しトドメを刺さんとする零夢の周囲に、極大の霊弾が浮かび上がる。全てを浄化する博麗の奥義が今、放たれようとしている。
「これで決まりよ…夢想封いッ…! ゲホッゲホッツ!?」
「零夢!?」
後一歩、後一撃と言った所まで僕らはルーミアを追い詰めた。だがそこで零夢が突然血を拭いて空から降下していくではないか。
―――命を燃料として
まさか、限界なのか? ルーミアが言っていた言葉が頭を過った。どうする? ルーミアを倒す為には無茶をするしかない。とてもじゃないが僕一人では勝てs…何を考えているんだ僕は!? 今、僕は零夢と勝負を天秤に懸けたのか!? 零夢は僕にそう言ったけど、いざとなれば僕は零夢を何よりも優先すると決めていたのに!
効率よく敵を倒す。そのために戦闘時には非情にならなければならない時もある。2人の師の教えだけど、今はそう育てられた自分が厭らしく、腹立たしく感じた。だからここまで。下で僕らを見上げている妹紅に零夢を預けて、ここからは僕一人でやる。そう決めて零夢の下へと行こうとした時だった。
「まだよ! まだ私は闘える!!」
「む、無茶言うな! そんな身体で何を…!」
「前を向きなさい! もう一度仕掛けるわよ!!」
「~~~~ッ!」
血反吐を吐きながらも吠えるように声を張り上げる零夢。私を足手纏いにしないで! 零夢の釣り上がった目からはそう強く訴えているように感じた。博麗の巫女として一緒に闘ってもらうか、零夢として大人しく引き下がってもらうか。握った拳から血が滴り落ちる程に悩んだ挙句、僕は最後まで博麗の巫女としていようとした零夢を選んだ。
「…やってくれたね、御主人様。ここまでコケにされたのは初めてよ。でもそれも終わりのようね。彼女はもう限界よ。御主人様だけは私に勝てない」
「…ざけんな。ふざけんじゃないわよ!」
自分に限界が近いことを悟っているのだろうか。後方から札を放つという時間の掛ることは考えず、零夢は『ういた』。ルーミアから放たれる影槍は全て零夢を通り抜ける。こうなった零夢は、もう誰も止めることは出来ない。僕達からは触れることすら出来ない。だというのに零夢からは思い通りに攻撃を仕掛けられる。博麗の秘奧・夢想天生。今の零夢を止められる者は幻想郷にもいないだろう。
為す術もなく有効打を与えられていくルーミア。再構築したであろう自動障壁は展開こそされているが、全ての事象から浮いている零夢に対してはその意味を全く為していない。拳や蹴りは全てルーミアに吸い込まれていく。
だが、その振われる拳にもだんだんと力が失われていく。身体を覆っていた霊力も力なく消え去っていく。気付けば、零夢はもう空を飛んでいることが限界の状態にまでなっていた。
「…気は済んだ?」
「ハァ…ハァ…。ま、まだ…」
「御主人様、この巫女を退けて頂戴。私は花の妖怪とは違って虐めるのは好きじゃない」
「…零夢」
もういい、もういいんだ。一人で飛ぶことすら侭ならない零夢の肩を抱いて地面に降りる。
「ごめん妹紅。零夢を頼む」
「…お前、死ぬつもりか?」
「まさか。まだ答えを貰ってないのに死ねるわけないじゃないか」
死ねるわけない。人生で初めて好きになった相手から、何の解答も無しに死ねるわけないじゃないか。
「ああ、クソッタレ。こんなことにならない様にあれから鍛えて来たってのに。またお前に全部預ける形になっちまったじゃねえか」
「はは、じゃあそれは次の機会に」
「馬鹿野郎、こんなのは二度とごめんだ」
肩で息をする零夢を妹紅に預け、再び空を目指す。その前に零夢に声を掛けられた。柄じゃないけど、流石に今回は神様にでも願いたい気分だ。でもそんなに都合のいい神様なんて幻想郷を探してもいない。だから僕の女神様にでも肖ろう。…柄じゃないなぁ。
「行って来るね」
「…行ってらっしゃい」
まるで夕飯の買い物にでも行くかのような簡素な言葉を交わして、僕は再び空を目指した。
◇◆◇◆◇◆◇
「ごめん、待たせたね」
「ホントに。挨拶は済ませておきなさいって言ったじゃない」
ごめんごめん。でも良く待ってくれたと思うよ。普通なら攻撃されても仕方ないんだけど。
「始めから言ってるでしょう? 御主人様だけが狙いだって」
「…それに、本当は勝っても負けてもどっちでもよかった?」
普通、あれだけ自分の弱点を出す格上の人なんていない。更には自動障壁だなんて最後の奥の手までわざわざ僕の目の前で見せてきた。達人ではありえない失態。何か別の思惑でもあると考える方が普通だ。
「やはり貴方こそ私の御主人様に相応しい…。私の、私だけの主様。でもまだ足りない…私より弱い人を私は認めることが出来ない!」
「何を言ってるか知らないけど、君を倒すことに異論はない!」
今までも本気だったのだろう。しかし、今まで零夢に向いていた槍も僕に向かって来る。圧倒的な数の暴力。素手で受け止めれば、気や魔力で強化していようとも切断されるのは必至だ。
だが恐怖心は感じない。死と隣り合わせの世界で、自分の気持ちを最小限まで沈める。それ即ち『静』 の者の極地、明鏡止水なり。師父の言だ。そしてその境地の一つ、桜花制空圏。降り注ぐ槍と棘の中を、僕は舞い散る桜花弁のようにユラユラと舞う。花弁が動くか? 花弁が考えるか? 否。花弁はただ前からくる流れを嘲笑うかのように躱し、ただ後へ流すのみ。
「桜花制空圏」
制空圏を薄皮一枚まで絞り込んで攻撃を察知し、回避する。
(何時まで続きそう?)
(話掛けないで! 始めから限界…ッ!)
一見完璧に見えるこの技。確かに師父である武天が使えば完璧に使いこなすのだと思う。でも師父は僕に必要最低限のことしか教えてくれなかった。そこからは僕自身の技に昇華しろと。
「だからって、こんな不完全な技じゃ…!」
しだいに掠る棘の数が多くなってくる。このでは串刺しになるのは時間の問題だ。
(アレしかない…。師匠と再会した時に一度だけ出来たあの状態をもう一度…!)
炎を生み出し、一度巨大な爆発を起こして距離を取る。
「右手に気、左手に魔力…ッ!」
桜花制空圏を纏った状態での気と魔力の融合。だがルーミアはもう待ってくれない。次々と飛来してくる槍に思考を乱され、思う様に発動できない。これさえ発動出来ればあの一撃も十分耐えられるはず。ならば一撃を貰う覚悟を以て発動しようと試みるも、心は素直に飛んで来る槍を恐れてしまう。
「何をするのか知らないが、早くしろ! 長くは持たない!!」
「ナイスだよ妹紅!」
僕の前に妹紅が炎の壁を張ってくれた。僅かな力しか籠められていないからそう長くは持たないだろう。だけどそれで十分だ!
炎壁が破られ、影槍が迫る。僕はそれを素手で掴んだ。
「待たせたね…。これが僕の秘奧、その第一段階だ!!」
気と魔力、相反する力を合成した新たなる力を僕は身に纏った。
久しぶりに二日続けてのじらいです。頑張った私を褒めてくれてもイイノデスヨ? しかし全力疾走で書いたために穴だらけ。戦闘描写、ほとんどノリです。その上くどいと言われても仕方ないほどに単調。なんでこんなに難しいんですか戦闘描写!? 誰かタスケテ…。変な所があればご報告を
今回は決着・上。次回は決着・下といったところです。そして大和の奥の手、第一段階発動。と言うことは、第二段階があるわけです。かなりのご都合なので覚悟だけしておいて下さい。では