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東方伊吹伝  作者: 大根
第六章:君と過ごした最高の日々
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4年越しの異変



―――日蝕異変―――



博麗大結界構築を隠れ蓑に、4年越しの時を経て計画された大異変。日蝕の名の通り、幻想郷の空を明るく照らしていた太陽はその姿を消し、幻想郷は闇の世界に包まれた。人々は混乱したが、それでもどこか安心していた。私たちにはあの2人がいる。だからその内この空も元通りになるさ。



あの時は誰もがそう思っていた。私も含めて。







「見えた! 零夢、行くよ!!」


「射線上には入らないでよ。あんたごと吹き飛ばしちゃうから」



漆黒の空を駆け抜ける二つの光。激戦の末に首謀者たる妖怪を倒した2人だが、幻想郷に太陽は戻らなかった。そして丁度その時、人里は所属不明の妖怪たちによる奇襲を受けていた。








「チッ数が多い。慧音、ちょっと無茶するけど、ついて来いよ!」


「ああ! しっかりと着いて行かせて貰うさ!!」



幻想郷で初めて行われる、人妖間直接戦争。幻想郷は嘗てない程の混乱に突入する。属に言う、日蝕異変の始まりだった。





最初期の奇襲により、人里は退治屋の過半数を失うと言う壊滅的な打撃を被った。そして一方的な防戦に追い込まれた人里の切り札となったのが、歴代最高と名高い博麗の巫女と、隣で彼女を支え続けた彼だった。



「こんな争い、何の意味があるんだよ!!」


「まったく、面倒なことを起こしてくれるわね!」




次々と里に攻め入る妖怪たち。膨大な妖怪戦力に比べ、人間側の戦力はごく僅かにまで減っていた。日に日に憔悴していく里の民。だがそれを感じさせぬ程に、この異変における2人は正に圧倒的だった。時に味方である私たちでさえ、不安と恐怖を抱くほどに。






そしてこの状況を望ましく思っていないあの2人が、遂に動き出す。



「美しく残酷に、この大地から往ね!」


「すまないが主の命令だ。容赦はできない」





「あんたがこの異変の首謀者?」


「そうだよ。さあ、殺り合おうか」


「そんな…××××が…」


















「――――――――――――という夢を見たんだ。どう思う?」


「妄想力が豊富ね、とは言えないのがあんたの能力なのよね…。あんた、誇張してるでしょ」


「それも勘?」


「まあね」



別にお告げと言うわけでも、的中率100%の占いでもないんだけどね。ただ『在り得るかもしれない一つの未来』 という可能性も多いにあるけど。でもこのテの先見は外れたことがないからなぁ。



「とりあえず、里が襲われることは無いと思う。でもこれを期に善からぬことを考える輩が出るかも」


(母さん、近くに居るのなら応えて)


「はぁ、仕方ないわね。…大和は今すぐ里の半獣に夢の内容を知らせて、直ぐに帰ってきなさい。迷惑かけるんじゃないわよ?」


(……なんだい?)


「分かってるって。零夢は?」


(頼みたいことがあるんだ)


「戦闘準備」



御札を構え、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる零夢。最近暴れていないせいか、手に持った御札からは目視出来る程に具現化された霊力が見てとれる。おっかないことこの上ない。



歴代最高の巫女、博麗零夢。昔はそうでもなかったのに、今の零夢って僕より強いんだよね…。どれくらい強いかと言えば…鬼くらい? ほら、僕が都に寄った時に凄い陰陽師の人が勇儀姉さんと殴り合いしてたよね? あの人と同じか、それよりも強いって言えば解ってもらえると思う。


まあ零夢は力を見せびらかす人じゃないからそれ程悔しくない…嘘です悔しいです。うぅ…守ってあげるつもりが守られる側に変わるなんて情けない話だよ…。



「何一人で百面相してるの、早く行ってきなさい。今日の晩御飯は私が作ってあげるから」


「本当!? じゃあ行ってくる!」



笑顔でそう言われると、その期待に応えたくなる。


あの日の夜から、零夢は少しだけ優しくなった。誰も気が付かない程度だけど、何時も一緒にいる僕には手に取るようにそれが解る。たぶん、たぶんだけど、そういうこと……なんだと思う。でも、僕も零夢もお互いにその話をすることはない。別に普段の生活に影響してるわけじゃないから別にいいんだけど…もどかしいなぁ。


何か切っ掛けでもあればいいのに。




◇◆◇◆◇◆◇




里に向かうと決まれば早いもので、ほんの少し空を駆ければ里につく。蒼い空に白い雲、こんな清々しい天気が続いているからか、あんな大それたことが起きるとは到底考えられない。むしろあんな事は起きないで欲しい。



「ご主人さまは里に何をしに行くの?」


「ん? 慧音さんにちょっと用事があるんだ」



そのほんの少しの道中でルーミアちゃんに出会った。両手を広げてぷかぷかと空中遊泳しているところを見つけたので声を掛けてみたところ、またしても空腹を訴えてきた。放っておくのもどうかと思ったので人里でご飯を食べさせてあげようと思ったんだけど、驚いたことに要らないと断られてしまった。


困り果てた僕に、一緒に里に行ってもいい? と言われたので、今は隣と飛んでいるのだ。



「へー、どんな内容?」


「ん~。ルーミアちゃんにはちょっと難しい内容だよ」



夢を見たんだよ~、なんて言ったところで馬鹿じゃないの? と言いたげな顔で見られるに決まっている。さて、慧音さんにはどう説明したものか。


里が見えたのと同時に、僕は何をどう説明すればいいのかを纏め始めた。…今更だよねぇ。



「慧音さんは…ああ、いたいた」



買い物かご片手に野菜と睨みあっている姿が見えた。慧音さんって家庭的だよね。ほんと、慧音さんの旦那さんになる人は羨ましいと思う。慧音さんって尽くすタイプだと思うし。



「慧音さん慧音さん、少しいいですか?」


「………ん!? ああすまない、どうかしたのか?」



野菜とのにらみ合いに忙しかったらしく、僕に気付いてくれたのは声を掛けてから少し後。本当に野菜選びに集中していたらしく、隣に僕が立っていることに驚いた様子だった。でもさ、別に一歩下がらなくてもいいと思うんだ。…そりゃあ、いろいろやって来たけどさ…。



「先見です。詳しいことはここでは言えませんが、直ぐにでも対処が必要な案件です」



気にしても仕方がない。ちょっと悲しいけど、今日は零夢の晩御飯だ。美味しいご飯を腹に入れれば、そんな気持ちも吹き飛ぶさ! さあ、早く帰らないと後が怖いぞ!


結局何と言えばいいのか纏まらなかったけど、慧音さんは僕の能力について良く理解してくれている。だから慧音さんなら僕の言いたいことを理解してくれるだろうという、全て慧音さん任せの一言で伝えてみた。それに、こんなに人通りの多い場所で細かく説明してしまうと、里の人達に不安を煽ってしまうことになる。妖怪は人の畏れや恐怖と言った感情を糧にする。差し迫っている状況の中で妖怪に力を強められたら最悪だ。



「…成程、だいたい理解した。直ぐに―――ッツ!?」


「ッ始まった…!」



予想していたよりも随分と早い行動だ…! 大規模な妖力反応と共に空が闇に包まれ、太陽はその姿を消していく。あちこちから人の悲鳴や怒号が聞こえてくるが、それどころではない。この妖力の発生源は、



「わはっ!」


「ヅゥッ!?!?」


「伊吹君!?」



すぐ隣で僕らの会話を聞いていたルーミアちゃんなのだから。


ルーミアちゃんの背後から伸びる、見覚えのある漆黒の棘で腹を貫かれた僕は、大量の血を流しながらその場に崩れ落ちた。貫かれた腹部からは血が噴き出し、生温かい血液が地面に広がっていく。咳き込むと同時に口からも大量の血が飛び出した。止血しようと腹部に当てている手も「―――何時までそうしているつもり?」



「ご主人さま、下手な芝居は止めようよ」


「あちゃ、バレてたのか」



ルーミアちゃんが闇に染まった空に浮かぶ僕を見上げる。地面でスプラッタを晒しているのは幻術で創られた僕だ。悲しいかな、血を吐いて倒れ込むイメージってすごく浮かびやすいんだよね。師匠の扱きのおかげか、やられるイメージなんてものの数秒も掛らずに浮かんでくるという情けなさだけど、今回ばかりは騙し通せた僕を褒めてあげよう。



「お互い様だよ? 私も刺すまで気が付かなかったし。でもご主人さまはどうやって私に気が付いたの? 自分で言うのもなんだけど、完璧な擬態だと思ってたのに」


「確かについ最近まで騙されてたよ。分かった理由は「先見。『先を操る程度の能力』 の応用でしょ?」 …解ってるのなら聞かなければいいのに」


「ごめんね。でも4年間も我慢したの。だからもう…我慢はいいよね!!」



すぐ横にいる慧音さんや、その近くにいる里の人達には見向きもせず、空に浮かんでいる僕に向かって一直線に飛んで来る。口を三日月のように開け、犬歯を剥き出しにして向かって来る様は妖怪そのもの。こうも欲望を向けられると、逆に清々しいものがある。



「慧音さん、里は頼みます!!」


「すまない! 伊吹君、死ぬなよ!!」


「そんなのほっといて、私と遊ぼうよぉ!!」



慧音さんに大声で一言言い、出来るだけ里から離れるために空を飛ぶ。後を追いかけてくるルーミアちゃんはあの時の球体のようにはなっていないが、その身から放たれている妖力は間違いなく上級妖怪のもの。そのまま闘って、里に被害を与えるわけにはいかない。


それに零夢には言わなかったけど、あの夢には続きがある。


彼女の狙いはおそらく僕。夢でルーミアちゃんはこう言っていた。



「ご主人さまが、ご主人さまが食べたいの!」



これで僕が狙いだということが確実になった。だから僕はわざわざルーミアちゃんに声を掛け、一対一の状況を創りだした。何故なら僕は、今回の襲撃の全貌を視たからだ。そして結末も…。だから神社を出る時に決めた。



この戦いに、零夢は関わらせない。絶対にだ。



だから母さんに頼ってまで零夢の足止めをしている。闇が空を覆ってからもう少し経つ。空間転移ができる零夢が、今この場に現れていないことを考えるに、どうやら母さんは上手くやってくれているようだ。



「僕を食べるって、出来れば止めて欲しいかな!?」


「妖怪は誰でも月の魔力の恩恵を受けてるよ! 私たち妖怪からすれば、ご主人さまからは今の月そのものなの! 食べると元気になるの!」



無視かよ。しかも月って…月の因子のことか!? ルーミアちゃんの言うことが正しいのなら、そりゃあ月の申し子とも言うべき僕は格好の獲物なんだろうね!



「そう易々と食べられるつもりはないね!」


「4年間も待ったの! だから美味しく食べてあげるからね!!」


「そう言うのはもっと大きくなってから言って欲しかったね!!」



後方から黒色の鋭利な棘が幾つも迫って来る。高速で飛んで来るそれらを身体を捻るように回避しながらも、里から離れることを止めはしない。首を捻って後を見てみると、ルーミアちゃんを中心に闇そのものが形作られている。剣・槍・棘…ありとあらゆる武器が闇によって具現化されていく。



「やっぱり基本は操影術…。だったら――――光よ!!」


「眩し!」



後方へ向かって光の魔法を放つ。操影術の対処法はパチュリーと何度も話し合った。闇の弱点は光。簡単だけど、とても分かりやすい事実だ。だったら影が消える程の光を当ててやればいい。


ただ光を出すだけのような簡単な魔法なら僕にだって即興で出来る。思った通り、強烈な光によって照らされたルーミアちゃんの身体からは闇が消えていた。


好機! ここを逃す手はない!!


すぐさま反転。目も使える状況ではないのだろう、手で必死に目を掻いている。こんな小さい子に武器を向けるのことに思うことがないのかと聞かれると、思うことはある。だけれども、こちらとしても引くわけにはいかないのだ。



「う~、漸く見えて「ごめん、先に謝っておく」 え?」



―――魔砲 マスタースパーク―――



魔法媒体でもある短剣の切っ先をルーミアちゃんの胸に突き刺し、零距離からマスタースパークを放った。小さくてもこの子は上級妖怪だ。僕の持つ最上級の威力を誇る魔法とはいえ、所詮は中級の上位程度の魔力しか持ち合わせていない僕だ。この程度なら気絶はともかく、死ぬなんてことは無いだろう。



「でもこれで終わり。これで零夢も「あら、まだ始まってもなくてよ?」 ―――信じられない、無傷だなんて…」



誰だ、君は?



「あのままでもイケると思ったのだけど、案外頑張るわね。思わず本気になっちゃった」



煙の中から無傷で出てきたルーミアちゃん…いや、ルーミアと呼ぶべきか。鯖読んでもローティーンにしか見えなかった彼女の姿はハイティーンにまで成長していた。そして放たれていたプレッシャーもそれに比例するかのように桁違いにまで跳ね上がっている。



「もうちょっと大きくなってから、ね。あは、御望み通り大きくなってあげたわよ? だから頑張って足掻いてね、御主人様。今の私、たぶん貴方の師匠と同じくらいのバケモノだから」



闇に覆われた虚空に手を伸ばし、そこから一振りのバスターソードを取り出す。その剣でどれほどの血を吸ったのか、刀身は赤黒く変色していた。それを片手で持ち、もう片方の手は鉤爪のように、こちらも赤黒く変色した妖力で覆われていく。


目つきは鷹のように鋭く釣り上がり、今までのような幼い面影は鳴りを顰めた。覚悟するしかない、彼女はホンモノだ。



逆手に短剣を構え、気で身体を覆う。幻術行使の為に、魔力は極力温存しなければならない。



「さあ、やり合いましょう」



戦力差は圧倒的。それでも絶対に負けられない戦いが始まった。




◇◆◇◆◇◆◇




文「第11回質問コーナ~。毎度御馴染射命丸と」


大「大和です。今回は長めです。理由はは母さんと姉さんも来てるからです」


萃・勇「まあ、飲むかい?」


文「お酒を飲みながら聞いた方が面白い解答が聞けるかもしれませんね、今回は。御二人に質問が届いたんですよ。『大和が子供の頃に一番可愛かった時、また恥ずかしいエピソードを教えて』 です。御二人は文字通り子供の時から面倒を見てますし、色々とあったのではないのですか?」


勇「そうだねぇ…。そう言えば大和がまだ歩きだして間もない頃の話なんだけどさ。何故か知らないけど私のことを母親だと思ってた時期があった」


萃「あの時はねぇ…鬱になりかけてたよ…。わたしが母さんなのに、何故か勇儀を母親だと勘違いして歩いて行くんだからさ…。うう、思い出しただけでも涙が…」


大「覚えてないなぁ」


勇「当たり前だろう? まだ1歳になったばかりの話だ。よちよち歩きで私を『かーしゃん』 と呼ぶお前はそりゃあ可愛かったさ。隣で血涙流してる馬鹿がいなけりゃもっと最高だったね」


萃「でもでも! わたしがず~っと付きっきりで面倒を見ている内に、大和がわたしのことを『かーしゃん』 って呼んでくれたんだよ? あの時の大和ときたら、もう死んでもいいくらいに可愛かったよ!」


文「つまり、大和さんは誰が『かーしゃん』 か解らなかったんですね?」


大「いや~、今の僕に聞かれても解らないよ」


萃「いいんだよ! お前は私の子なんだから! 他にも可愛いとこも、大和にとっちゃ恥ずかしいこともたくさんあるよ。たとえば―――」


文「ああっと、もうこんな時間ですか。次の質問に移りたいと思います。これは大和さんにですね。『彼女作る予定ありますか!?』 おおっと! 親の前でとんでもない質問が来たあ!!」


大「ある「ないよ」 …」


萃「あるわけないじゃないか。大和は私の子供だよ?」


大「いや、あ「ないったらない」 …彼女も欲しいし結婚もしてみたいよーーーーーー!!」


萃「……大和。少し、あたま冷そっか。大丈夫、母さんが優しく教えてあげるから。さ、向こうへ行こ?」


大「絶対に彼女をつく―――」


文「そしてそれ以降、大和さんが姿を見せることはなかった…」


勇「こらこら、馬鹿言ってんじゃないよ」


文「あやや、勇儀様は反対しないのですか?」


勇「あの子の人生だ、好きにすればいいさ。あの馬鹿も早くそれに気づいて子離れしなきゃいけないって言うのに」


文「大変ですねぇ。では今回はここまで。次回に会いましょう!」

かなり難産な話でした、じらいです。始めをどうするかで今後の予定が変わるので、プロットというか妄想を決めるのに時間が掛りました。とりあえず、零夢の没後まではだいたい決まりました。また変わるかも知れませんが。



文頭の夢の部分ですけど、ネタが解る人にはすぐにバレてしまうと思います。私もフロム脳なわけでして。Ⅴが楽しみですね、はい。始めは本気であの通りに日蝕異変をやるつもりでした。でも時間も余力も実力もないわけで…。だいぶ縮小された異変になります。ちなみにバスターソードとか言ってますけど、wikiに載っている写真を見て決めただけなので特に意味は無いです。



そして活動報告でも言っていた件ですが、皆様の非常に温かい? 後押しによって真・SuicaENDを書くことに決まりました。やっちゃいましたね! 何か案があればお願いします。むしろそれをそのまま書いてみてもいいかもw 一応こちらに投稿できるものを考えています。「もっと熱くなれよ!」 と言われたらどうなるか解りませんがw



長々と失礼しました。お莫迦な作者ですが、今後もよろしくしてもらえると嬉しい限りです。では

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