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Nate2.~無理~

 ドクン。

 ドクン。

 ……風邪、かな?

 風邪ということにしておこう。

 今は…な?

 家に帰っても落ち着かなかった。

 スマホを開く。閉じる。開く。閉じる。

 ネッ友のグループチャットに打ち込む。

俺、今日美女と帰った。

 送信。

 既読1。

ついに脳が限界迎えた?

 はったおしたやろうか?

 翌日。

 体育祭のリレー順が張り出された。

 俺の名前は――

 アンカー。

 は???????

 いやいやいや待て待て待て待て。

 クラスの命運を握るポジションを、なぜ俺に託した??

 嫌がらせか? 罰ゲームか?

 周囲がざわつく。

「広川って速かったっけ?」

「いや普通じゃね?」

「なんなら遅い方」

「ならなんでアンカー?」

 俺が一番知りたい。

 そのとき、担任の熱血クソ教師が言った。

「去年の持久走、学年で上位だったろ。タイム見て決めた」

 ……あ。

 忘れてた。

 あれはたまたまだ。

 雪解け直後の寒さで体がバグってただけだ。

 奇跡の一回だ。

 なのに。

 視線を感じる。

 白鷺月詠。

 こっちを見ている。

 あの“確信”の目で。

 ――前はさ、もっとちゃんと走ってたよね?

 頭の奥で声が反響する。

 昼休み。

 逃げるように屋上……は立入禁止なので階段の踊り場にいた。

「アンカー、おめでと」

 振り向く。

 またお前か稲妻女。

「呪いの言葉にしか聞こえないんだが」

 彼女はくすっと笑う。

「期待してるよ」

 その一言で、胸がざわつく。

「やめろ」

「なんで?」

「どうせ無理だ」

 口が勝手に動く。

 いつものやつだ。

 期待される前に、諦める。

 傷つく前に、逃げる。

 でも。

「無理って決めてるの、広川くんでしょ」

 静かな声だった。

「私と小学校、同じだったよ」

 世界が止まる。

「まぁ小学生の頃は目立たなかったからなぁ」

 それに続けて彼女は言った。

「六年生のとき、転んで膝血だらけでさ。みんな止まって心配してたのに、それでも君は最後まで走ってた」

 覚えてる。

 覚えてるに決まってる。

 あのときは、負けたくなかった。

 誰よりも一番になりたかった。

「……それがどうした」

「かっこよかった」

 直球。

 逃げ場なし。

「だからさ」

 一歩近づく。

「今の君、カッコ悪い」

 グサッ。

 でも不思議と、痛いのに嫌じゃなかった。

「本気出すの、怖いの?」

 沈黙。

 図星すぎて笑える。

 怖いよ。

 頑張って、ダメだったら。

 また笑われたら。

 また自分が嫌いになるのが。

 彼女は少しだけ首をかしげる。

「私は、もう一回見たいだけ」

「……何を」

「最後まで走る君」

 心臓が暴れる。

 ドクン。

 やめてくれ

 努力…またしてみたくなったじゃないか。

 体育祭当日。

 空は北海道らしく、広いかと思いきやあいにくの曇り。

 バトンが前の走者に回ってくる。

 あいつだ。

 ビリ。

 やっぱりな。

 ――どうせ無理。

 頭の中の俺が囁く。

 でも。

 走ってくるあいつ。

 白い鉢巻の下で、

 あいつがこっちを見ながらどんどん近づく。

 あの確信の目で。

 ――期待してるよ。

 ……くそ!

 地面を蹴る。

 肺が焼ける。

 足が重い。

 もう歩こうか?

 でも止まらない。

 止まらない

 止まっちゃいけないんだ。

 転ばない。

 いや、転んでも。

 その瞬間、足がもつれる。

 視界が傾く。

 ――あ。

 地面が迫る。

 でも。

 手をついて、即座に立ち上がる。

 痛い。

 でも。

 走る。

 走りたくない。

 それでも…

 走れ!

 ゴール。

 アニメのように倒れ込む。

 結果?

 ビリ

 当たり前だ。

 ろくに準備なんてしてないんだ。

 当たり前なはずなのに…

 空が滲む。

 汗か涙か知らないけど。


 息も絶え絶えの俺の横に影が落ちる。

「最下位なっちゃったね。」

 彼女はこの前のように囁くようにして言った。

 笑っていた。

 彫刻のように美しい。

 その肌はシルクのように滑らかだ。

 本当に生きているのか?

 心臓が、マグニチュード7.0くらいで揺れてる。

 そんな僕は汗だくのクソ陰キャ

 ああ。

 俺、終わった。

 多分。

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