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EP 9

中二病砲、発射!

 視界を埋め尽くす魔物の軍勢。

 大地を揺らす足音。

 そして、鼻をつく獣の臭い。

 流賀隆史は、世界の終わり(とバイトの遅刻)を前にして、極限状態にあった。

「あ、あ、あ……」

 彼の膝はガクガクと笑い、手にした錆びた鉄パイプはカチャカチャと音を立てている。

 逃げ場はない。

 後ろにはキャルルたちがいる。

 前には死の軍団。

(死にたくない……! 死にたくないでござるぅぅぅ!!)

(死んだら……シフトに穴が空く! 店長(太郎)に怒られる! リベラ殿に借金(家賃)を返せない! 人生が詰む!)

 生き残りたい。

 邪魔な敵を排除して、定時にタイムカードを切りたい。

 その、あまりにも純粋で強烈な「生存本能」と「労働意欲」が、手の中の鉄塊に届いた。

 ドクン!!

 鉄パイプが、赤く脈動した。

 雷霆の意思:『……素晴らしい。これほどまでに濃密な「渇望」は数百年ぶりだ』

 雷霆の意思:『主よ、貴様は言ったな。我を「トイレ掃除用」だと』

 雷霆の意思:『理解した。眼前の「汚物(魔物)」を水に流せということだな? よかろう、我が全霊をもって洗浄(殲滅)してやる!!』

 バキバキバキッ!!

 隆史の手の中で、鉄パイプの錆が弾け飛んだ。

 中から現れたのは、青白い雷光を放つ流体金属。

 それは隆史の右腕に絡みつき、見る見るうちに巨大な質量へと膨れ上がっていく。

「な、なんだ!? 拙者のトイレ棒が!?」

 金属は複雑に展開し、彼の肩に担ぐほどの巨大な砲身を形成した。

 SF映画に出てくるような、あるいはロボットアニメの最終兵器のような、禍々しくも美しい**「超長距離殲滅砲バスター・ランチャー」**へと。

「す、すごい……!」

 後ろで見ていたキャルルたちが息を呑む。

 だが、一番驚いているのは隆史本人だ。

「な、なんでござるかコレェェェ!?」

 重い。

 そして熱い。

 砲身の中心にある赤いコアが、臨界点に向かって高鳴っている。

 撃て。撃て。撃て。

 本能がそう囁いている。

 その瞬間。

 隆史の脳内で、何かが弾けた。

 極度の恐怖と、手にした「最強の武器」という状況が、彼の中二病回路を暴走させたのだ。

(……フッ。そうか。これが拙者の「真の力」……!)

 彼は震える足を踏ん張り、口元をニヤリと歪めた。

 演技だ。演技をしなければ、恐怖で失禁してしまうからだ。

「くくく……見せてやるでござる。我が右腕に宿りし暗黒の力……深淵アビスの輝きを!」

 隆史は叫んだ。

 魔物の先頭集団まで、あと数百メートル。

「ターゲット・ロックオン!」

 隆史の右目に、魔法の照準円サイトが浮かぶ。(※雷霆の自動照準機能)

「アンカー射出!」

 彼は左足をダンッ! と地面に踏み鳴らした。(※ただの足踏み。アンカーはない)

「エネルギー充填120%! 対ショック防御!」

 彼は空いている左手で、顔を覆うポーズを取った。(※ただのかっこつけ)

最終安全装置ファイナル・セーフティ……解除パージ!」

 隆史は砲身にある、なんかそれっぽい突起をカチリと押した。(※ただの装飾)

 キュィィィィィィン……!!

 砲口に、青と紅が混じり合った膨大なエネルギーが収束する。

 大気が悲鳴を上げ、周囲の空間が歪む。

 魔物たちが、本能的な恐怖に足を止めた。

「消え去れ、汚物ども!!」

 隆史は引き金を引いた。

「コスモギャラシック砲! 発射ああああああああ!!」

 チュドオオオオオオオオン!!

 音すら置き去りにする閃光。

 砲口から放たれた極太のビームは、一直線に魔物の群れを貫いた――だけではない。

 着弾と同時にエネルギーが拡散し、扇状に広がる衝撃波となって平原そのものを薙ぎ払った。

 オークも、ゴブリンも、オーガも。

 断末魔すら上げる暇なく、光の中で蒸発していく。

 ズガガガガガ……!!

 地平線の彼方で、巨大な爆発が起きた。

 空に向かって、禍々しいキノコ雲が立ち昇る。

 スタンピード? そんなものはもうない。そこにあるのは、綺麗に整地された(焦土と化した)更地だけだ。

 シーン……。

 静寂が戻った。

 砲身は粒子となって消え、元の「錆びた鉄パイプ」に戻って隆史の手の中に収まった。

「……ふぅ。またつまらぬものを斬って(撃って)しまったでござるな」

 隆史はキメ顔で髪をかき上げた。

 内心は(やった……! やった! これでバイト行ける!!)と歓喜の涙を流していたが。

 後ろでは、仲間たちが口をポカンと開けていた。

 リーザが震える声で言う。

「す、すごいよプロデューサーさん……! 花火みたい!」

 ルナも拍手をする。

 「わあ、私の魔法より派手ですね! 今度やり方教えてください!」

 そして、キャルル。

 彼女は呆れたように、しかし確かな称賛を込めて、煤けた隆史に近づいた。

「……凄いわ、隆史さん」

「フッ、これくらい造作もないことでござるよ(震え声)」

「うん。威力は文句なしのS級ね。でも、今のポーズとセリフ、無駄な動きがあったような?」

「……ッ!?」

 隆史の動きが止まった。

 痛いところを突かれた。

「『アンカー射出』って言ってたけど、ただ足踏みしただけだし。『安全装置解除』も、そこ何もない場所よね?」

「そ、それは……儀式! 儀式でござるよ! 気持ちを高めるためのルーティンというか!」

 キャルルはクスクスと笑った。

「ま、いいわ。おかげで助かったし。……ほら、リーダー」

 彼女は時計台を指差した。

 時刻は16時55分。

「シフト、まだ間に合うんじゃない?」

「――ハッ!!」

 隆史の顔色が「英雄」から「アルバイター」に戻った。

「い、急がねば! 店長に殺される! さらばだ諸君! 後片付けは頼んだでござるぅぅぅ!」

 隆史は鉄パイプを放り投げ、猛ダッシュで街へと駆け出した。

 その背中を見送りながら、キャルルは小さく呟いた。

「……ほんと、変な侍」

 伝説の武具『雷霆』をトイレ掃除棒と言い張り、数万の魔物を一撃で消し飛ばし、それでもバイトに走る男。

 最強パーティ『チーム・サスガ』の名声が、大陸中に轟くのは時間の問題だった。

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