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EP 5

異議あり! 悪徳(?)弁護士リベラ

 シェアハウス『タロウ・ハイツ』201号室。

 築30年、2LDK。家賃・金貨3枚。

 そこに現在、男1人、女3人が暮らしている。

 字面だけ見ればハーレムだが、実態は「保育園」に近い。

「ルナ! あんたまた廊下で『キノコ栽培』したでしょ! 踏んで滑ったじゃない!」

「ごめんなさいキャルルちゃん……食費の足しになるかと思って……」

「プロデューサーさん! 今日のパンの耳は『高級食パン』のものですよ! バターの香りがします!」

「よかったなリーザ……(涙)」

 流賀隆史は、リビングの隅で膝を抱えていた。

 災害級エルフ・ルナを拾ってから数日。

 彼女が良かれと思ってやる行動(室内に光合成ライト設置、水道から聖水を出す等)のせいで、隆史の胃壁は限界を迎えていた。

 そんなある日の午後。

 玄関のドアがドンドンドン! と激しく叩かれた。

「商業ギルドだ! いるのは分かっているぞ! 開けろ!」

 隆史は飛び上がった。

 商業ギルド。この街の経済を牛耳る組織だ。

「ひぃっ! 借金取り!? いやNHK(集金)か!?」

「タカシ、あんた何かしたの?」

「してないでござる! ゴミ拾いしかしてないでござる!」

 恐る恐るドアを開けると、強面の男たちがズカズカと踏み込んできた。

 彼らはリビングにいたルナを指差した。

「いたぞ! 通貨偽造の重要参考人、ルナ・シンフォニアだな!」

「え? 私?」

「先日、市場で使用された『大金貨』。あれが今朝、ただの石ころに戻ったという被害届が殺到している! 詐欺罪および通貨偽造罪で連行する!」

 ガーン。

 隆史とキャルルは顔を見合わせた。

「あいつ、やっぱりやりやがった……!」

「3日で戻るって設定、忘れてたのね……」

 ルナはキョトンとしている。

 「あれ? おかしいな。永遠に輝くように魔法をかけたはずなのに……あ、賞味期限設定しちゃったかも?」

 悪気ゼロ。それが一番タチが悪い。

「問答無用! 署まで来てもらおう。有罪なら……強制労働100年の刑だ!」

 男が手錠を取り出した瞬間。

「――待ちたまえ」

 凛とした、しかし鈴を転がすような美しい声が響いた。

 開けっ放しの玄関に、一人の女性が立っていた。

 仕立ての良い紺色のスーツ。知的な銀縁メガネ。

 手にはなぜか、湯気の立つティーカップとソーサーを持っている。

「誰だあんたは!」

「ご紹介にあずかりました。彼女の弁護人を務めます、ゴルド商会顧問弁護士、リベラ・ゴルドですわ」

 リベラは優雅に紅茶を一口すすると、眼鏡をクイッと押し上げた。

「彼女を連行する? 証拠隠滅や逃亡の恐れがない場合、不当な拘束は人権侵害ですわよ?」

「なっ、ゴルド商会だと……!?」

 ギルドの男たちが怯む。

 大陸屈指の大企業『ゴルド商会』。その令嬢であり敏腕弁護士のリベラの名は、業界では「死神」として恐れられていた。

「そ、そうは言っても! 偽造金貨は重罪だ!」

「偽造? 異議あり。彼女は『金貨』を作ったのではありません。『金貨の形をした3日間限定の芸術的オブジェ』を譲渡しただけです」

 リベラは平然と言い放った。

「えっ」

「受け取った商人が、それを勝手に通貨として流通させた……これは商人の鑑定眼不足、いわば過失ですわ。私のクライアント(ルナさん)は、純粋な善意で『綺麗な石』をあげただけ。そうですよね?」

 リベラがルナにウインクする。

 ルナはよく分かっていないが、とりあえず頷いた。

 「うん! 綺麗な石だよ!」

「屁理屈だ! 裁判になれば負けるぞ!」

「あら、裁判? 構いませんけれど……その場合、ゴルド商会は貴殿のギルドとの全取引を一時停止し、徹底的に争わせていただきますが?」

 脅迫である。

 法廷闘争どころか、経済制裁をチラつかせた。

「ぐぬぬ……! だが、被害者が納得しないぞ!」

 場が膠着する。

 ここで、リベラが隆史に視線を送った。

 その目は語っていた。『さあ、貴方の出番ですわよ』と。

 隆史は悟った。

 これは、アレを出すしかない。

 刑事ドラマの定番、取調室の最終兵器。

「……ギルドの御仁。話がこじれているようでござるな」

 隆史はトングをカチリと鳴らし、男たちの前に進み出た。

 善行ポイント、残り8000pt。惜しみなく使う時だ。

「腹が減っては議論もできぬ。まずはこれを食すがよい」

「あぁ? なんだお前は」

「食らえ! 勝利の女神の微笑み……『特製・カツ丼』!!」

 ドンッ!!

 テーブルの上に、黄金色に輝くカツ丼が人数分出現した。

 揚げたての豚カツ。半熟卵のトロトロ感。三つ葉の彩り。

 暴力的なまでの出汁の香りが、男たちの鼻腔を直撃する。

「な、なんだこれは……美味そうすぎる……!」

「いかん! これは買収だ!」

「買収ではない。『試食』でござるよ」

 隆史がニヤリと(引きつった顔で)笑う。

 男たちは抗えなかった。箸を取り、カツ丼を口に運ぶ。

「う、うめええええ!!」

「サクサクなのにジューシー! 卵が甘い! 故郷の母ちゃんを思い出す味だ……!」

 【カツ丼の効果:LUCK上昇・精神鎮静・自白促進】

 食べ終わる頃には、男たちの顔からは険が取れ、仏のような表情になっていた。

「……俺たち、少しカリカリしすぎていたようだ」

「そうだな。あれは芸術作品だったのかもしれない……」

「よし、今回は厳重注意処分として処理しよう。なあ?」

 カツ丼の魔力が、彼らの思考を強引にポジティブ(事なかれ主義)に書き換えたのだ。

 男たちは「ごちそうさん」と言い残し、満足げに帰っていった。

 ***

 嵐が去ったリビング。

 リベラは紅茶を飲み干し、ふぅと息をついた。

「ふふ、見事な手際でしたわね、サムライさん」

「いや……リベラ殿の弁舌のおかげでござる。助かった……」

 隆史はその場にへたり込んだ。

 リベラはニコリと微笑み、請求書のような紙を差し出した。

「さて、弁護費用ですが」

「ひぃっ! 金はないでござる!」

「お金はいりませんわ。代わりに――」

 彼女の目が、スイーツ好きの乙女のそれに変わった。

「貴方のスキルで、甘い丼を出してくださる? 『カツ丼』の味から推測するに、貴方なら作れるはずですわ。究極のスイーツ丼が!」

「す、スイーツ丼……?」

 そんなメニュー、牛丼屋にはない。

 だが、スキル【丼マスター】は「丼」と名のつくあらゆる料理に対応している。

 隆史は想像力を総動員した。

「……承知した。これぞ、甘味の極致!」

 「出でよ! 『プリン・ア・ラ・モード丼(生クリーム増し)』!!」

 ボロンッ!

 丼鉢の中に、巨大なプリン、フルーツ、アイス、そして山盛りの生クリームが鎮座する、カロリーの爆弾が召喚された。

 もはや丼である必要性は皆無だが、器は丼だ。

「まあっ……!!」

 リベラが眼鏡を外した。

 一口食べた瞬間、彼女はとろけるような笑顔になり、頬を赤らめた。

「んふぅ……♡ 甘い、濃厚……幸せ……!」

「(キャラが変わったでござる……)」

 完食した後、リベラはキリッとした表情に戻り(口元にクリームがついているが)、宣言した。

「気に入りましたわ! 貴方たち、私がスポンサーになります。このアパートの家賃も、今後の食費も私が持ちましょう!」

「ほ、本当ですかリベラ様ーっ!?」

 リーザが歓喜の声を上げる。

 キャルルもガッツポーズ。

「その代わり、私の専属シェフ兼、トラブルシューターとして働いてもらいますわよ? 特に貴方のその『カツ丼』……今後の裁判や交渉で大いに役立ちそうですわ」

 リベラの目が怪しく光る。

 隆史は背筋が寒くなった。

(あれ? これ、借金取りより怖い人に捕まったのでは……?)

 こうして。

 チーム・サスガに「最強の頭脳(兼スポンサー)」が加わった。

 金銭的な危機は脱した。

 だが、それは同時に、隆史が「裏社会の交渉人」として駆り出される日々の始まりでもあった。

「あの、拙者、明日はコンビニの早朝シフトが……」

「あら、シフトごと店を買い取りましょうか?」

「やめて! 店長(国王)が喜ぶだけだからやめて!」

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