表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

EP 38

社員旅行という名のダンジョン攻略

 王都近郊、冒険者たちで賑わう『黄金の迷宮ゴールド・ダンジョン』の入口。

 そこに、場違いなほどハイテンションな一行がいた。

「さあ、皆さん! 買い物です! 狩りです! 経費の無駄遣いですわよー!」

 新品の冒険者風衣装(タグ付き)に身を包んだリーザが、高らかに宣言した。

 彼女の後ろには、撮影機材(隆史の『雷霆』)を担いだ流賀隆史、やる気満々のキャルル、そして照明係のルナが続く。

「リーザ殿、声が大きいでござる。『脱税ツアー』だとバレたら衛兵が飛んでくるでござるよ」

「失礼な! これは正当な『PV撮影のためのロケハン』です!」

 リーザは鼻息荒く、ダンジョン手前の高級武具店『ウェポン・タロウ』へと突撃した。

 ***

 【経費計上バトル 1回戦:武具店】

「店主さん! この店で一番高い防具をください! 領収書(宛名:リーザ・マーメイド様)で!」

 リーザが指差したのは、ショーケースに飾られた『純金製・聖騎士のフルプレートアーマー(金貨500枚)』だった。

 全身が黄金に輝き、ダイヤモンドが散りばめられている。

「これなら防御力も完璧! しかもステージ衣装としても映えます!」

「却下です」

 背後から、リベラの冷徹な声が響いた。

 彼女はバインダー片手に、赤ペンでバツ印を空中に描いた。

「えっ? なんでですかリベラ様! 安全対策費ですよね!?」

「リーザさん。貴女のポジションは? アイドル(後衛)ですわよね?」

「はい」

「後衛が、重すぎて動けないフルプレートを着る必要性がありますか? ……これは『過剰な設備投資』、および『私的な贅沢品』とみなされます。経費否認(自腹)です」

「自腹ぁぁぁ!?」

 リーザは鎧から手を離した。金貨500枚の自腹など死んでも嫌だ。

「じゃ、じゃあこの『ダイヤの杖』は!?」

「単なる装飾品です。否認」

「この『最高級エリクサー(飲む宝石)』は!?」

「貴女、カスリ傷ひとつありませんわよね? 否認」

 ことごとく却下される高級品たち。

 結局、リーザの手に残ったのは、ワゴンセールで売られていた『初心者用・革の胸当て(1,980円)』と『薬草(100円)』だけだった。

「……世知辛い。経費の世界も世知辛いですぅ……」

 ***

 気を取り直して、ダンジョン内部。

 薄暗い通路を、一行は進んでいた。

「はい、カメラ回しますよー。テイク1、アクション!」

 隆史が『雷霆』の録画機能を起動する。

 あくまで「仕事」という体裁を保つため、本当にPVを撮影しなければならないのだ。

「みんなぁ〜♡ 迷宮の奥で、私と握手! ……きゃっ、モンスター怖い〜(棒読み)」

 リーザがわざとらしくポーズを決める。

 その時。

 通路の奥から、黄金色に輝くブヨブヨした物体が現れた。

 『成金スライム(レアモンスター)』

 体内に消化しきれない金貨や宝石を取り込んでいる、冒険者垂涎の獲物だ。

「出た! お宝です!」

「リーザさん、チャンスですわ!」

 リベラが眼鏡を光らせた。

「あのスライムを倒すために消費したアイテムは、全て正当な『業務上の消耗品』として認められます。……さあ、使いなさい! 高いアイテムを!」

「はい! 今こそ無駄遣いの時!」

 リーザは懐から、先ほどリベラに「戦闘中なら許可する」と言われてしぶしぶ買った『爆裂魔法のスクロール(特上)』を取り出した。

「くらえ! 金貨10枚分の爆発ぅぅ!!」

 リーザがスクロールを投げつけようとした、その瞬間。

 ボヨヨンッ!

 成金スライムが高速で跳ね、リーザの腰巾着(財布)に体当たりした。

 衝撃で、チャリンと銀貨一枚がこぼれ落ちる。

 ジュワァ……。

 スライムは落ちた銀貨を瞬時に取り込み、体内で溶かし始めた。

「あ」

 リーザの動きが止まった。

「……私の……銀貨……」

 銀貨一枚。約1,000円。

 それは、昨日の『なめらか焼きプリン』8個分に相当する。

「私のプリン代をぉぉぉぉぉ返せええええええ!!」

 ブチィッ!!

 リーザの中で何かが切れた。

 彼女は『爆裂魔法のスクロール』を放り投げ(隆史が慌ててキャッチした)、スライムに向かって生身でダイブした。

「魔法なんてまどろっこしい! 物理的に吐き出させてやるんですぅ!」

 ガブゥッ!!

「ひぃぃぃ!? く、食ってる! アイドルがスライムに噛み付いてるでござるぅ!?」

 リーザはスライムの黄金部分に食らいつき、野獣のように引きちぎろうとしていた。

 もはや経費もPVも関係ない。

 あるのは、奪われた1,000円を取り戻すという、純粋かつ強欲な殺意のみ。

「リベラ様! これ、経費になりますか!?」

「……いえ。武器を使わず、己の牙で戦っているので……『原価ゼロ』ですわね」

 リベラは冷酷に記録した。

 結局、リーザはスライムを噛み殺し、溶けかけた銀貨を回収したものの、高価なスクロールは未使用のまま返品(経費計上ならず)となった。

 

 タダ働き(戦闘)だけさせられたリーザの悲鳴が、ダンジョンにこだまする。

 

「もっと……もっと高いものを使わせてよぉぉぉ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ