EP 38
社員旅行という名のダンジョン攻略
王都近郊、冒険者たちで賑わう『黄金の迷宮』の入口。
そこに、場違いなほどハイテンションな一行がいた。
「さあ、皆さん! 買い物です! 狩りです! 経費の無駄遣いですわよー!」
新品の冒険者風衣装(タグ付き)に身を包んだリーザが、高らかに宣言した。
彼女の後ろには、撮影機材(隆史の『雷霆』)を担いだ流賀隆史、やる気満々のキャルル、そして照明係のルナが続く。
「リーザ殿、声が大きいでござる。『脱税ツアー』だとバレたら衛兵が飛んでくるでござるよ」
「失礼な! これは正当な『PV撮影のためのロケハン』です!」
リーザは鼻息荒く、ダンジョン手前の高級武具店『ウェポン・タロウ』へと突撃した。
***
【経費計上バトル 1回戦:武具店】
「店主さん! この店で一番高い防具をください! 領収書(宛名:リーザ・マーメイド様)で!」
リーザが指差したのは、ショーケースに飾られた『純金製・聖騎士のフルプレートアーマー(金貨500枚)』だった。
全身が黄金に輝き、ダイヤモンドが散りばめられている。
「これなら防御力も完璧! しかもステージ衣装としても映えます!」
「却下です」
背後から、リベラの冷徹な声が響いた。
彼女はバインダー片手に、赤ペンでバツ印を空中に描いた。
「えっ? なんでですかリベラ様! 安全対策費ですよね!?」
「リーザさん。貴女のポジションは? アイドル(後衛)ですわよね?」
「はい」
「後衛が、重すぎて動けないフルプレートを着る必要性がありますか? ……これは『過剰な設備投資』、および『私的な贅沢品』とみなされます。経費否認(自腹)です」
「自腹ぁぁぁ!?」
リーザは鎧から手を離した。金貨500枚の自腹など死んでも嫌だ。
「じゃ、じゃあこの『ダイヤの杖』は!?」
「単なる装飾品です。否認」
「この『最高級エリクサー(飲む宝石)』は!?」
「貴女、カスリ傷ひとつありませんわよね? 否認」
ことごとく却下される高級品たち。
結局、リーザの手に残ったのは、ワゴンセールで売られていた『初心者用・革の胸当て(1,980円)』と『薬草(100円)』だけだった。
「……世知辛い。経費の世界も世知辛いですぅ……」
***
気を取り直して、ダンジョン内部。
薄暗い通路を、一行は進んでいた。
「はい、カメラ回しますよー。テイク1、アクション!」
隆史が『雷霆』の録画機能を起動する。
あくまで「仕事」という体裁を保つため、本当にPVを撮影しなければならないのだ。
「みんなぁ〜♡ 迷宮の奥で、私と握手! ……きゃっ、モンスター怖い〜(棒読み)」
リーザがわざとらしくポーズを決める。
その時。
通路の奥から、黄金色に輝くブヨブヨした物体が現れた。
『成金スライム(レアモンスター)』
体内に消化しきれない金貨や宝石を取り込んでいる、冒険者垂涎の獲物だ。
「出た! お宝です!」
「リーザさん、チャンスですわ!」
リベラが眼鏡を光らせた。
「あのスライムを倒すために消費したアイテムは、全て正当な『業務上の消耗品』として認められます。……さあ、使いなさい! 高いアイテムを!」
「はい! 今こそ無駄遣いの時!」
リーザは懐から、先ほどリベラに「戦闘中なら許可する」と言われてしぶしぶ買った『爆裂魔法のスクロール(特上)』を取り出した。
「くらえ! 金貨10枚分の爆発ぅぅ!!」
リーザがスクロールを投げつけようとした、その瞬間。
ボヨヨンッ!
成金スライムが高速で跳ね、リーザの腰巾着(財布)に体当たりした。
衝撃で、チャリンと銀貨一枚がこぼれ落ちる。
ジュワァ……。
スライムは落ちた銀貨を瞬時に取り込み、体内で溶かし始めた。
「あ」
リーザの動きが止まった。
「……私の……銀貨……」
銀貨一枚。約1,000円。
それは、昨日の『なめらか焼きプリン』8個分に相当する。
「私のプリン代をぉぉぉぉぉ返せええええええ!!」
ブチィッ!!
リーザの中で何かが切れた。
彼女は『爆裂魔法のスクロール』を放り投げ(隆史が慌ててキャッチした)、スライムに向かって生身でダイブした。
「魔法なんてまどろっこしい! 物理的に吐き出させてやるんですぅ!」
ガブゥッ!!
「ひぃぃぃ!? く、食ってる! アイドルがスライムに噛み付いてるでござるぅ!?」
リーザはスライムの黄金部分に食らいつき、野獣のように引きちぎろうとしていた。
もはや経費もPVも関係ない。
あるのは、奪われた1,000円を取り戻すという、純粋かつ強欲な殺意のみ。
「リベラ様! これ、経費になりますか!?」
「……いえ。武器を使わず、己の牙で戦っているので……『原価ゼロ』ですわね」
リベラは冷酷に記録した。
結局、リーザはスライムを噛み殺し、溶けかけた銀貨を回収したものの、高価なスクロールは未使用のまま返品(経費計上ならず)となった。
タダ働き(戦闘)だけさせられたリーザの悲鳴が、ダンジョンにこだまする。
「もっと……もっと高いものを使わせてよぉぉぉ!!」




