EP 37
経費で落とせ! 確定申告作戦
シェアハウスのリビングは「第一回・税金対策緊急ミーティング」の会場と化していた。
ホワイトボード(リベラ持参)の前で、リベラが教鞭を執る。
生徒役のリーザ、隆史、キャルル、ルナは、神妙な面持ちで正座していた。
「いいですか、リーザさん。税金の仕組みは単純です」
リベラがマーカーで式を書いた。
『 収入 - 経費 = 利益(課税対象) 』
「現在、貴女の『収入』は莫大です。ですが『経費』がゼロに近い。だから『利益』が大きくなり、そこにごっそりと税金がかかるのです」
「は、はい……!」
リーザが唾を飲み込む。
彼女の脳裏には、まだマグロ漁船(妄想)の影がちらついている。
「税金を減らすには、真ん中の『経費』を増やせばいいのです。つまり、利益を圧縮する」
「そ、それってつまり……?」
「『仕事のために』お金を使えばいいのです」
リベラの眼鏡がキラリと光った。
「リーザさん。貴女はアイドル(個人事業主)。歌うために、踊るために、そしてファンを喜ばせるために必要な出費は、すべて『経費』として認められます」
「け、けいひ……!」
リーザの瞳が輝き出した。
それは彼女にとって、現代魔法よりも魅力的な言葉に聞こえた。
「じゃあ! じゃあ、この『高級ショートケーキ(ホール)』を買うのは!?」
「却下です。それはただのオヤツ(個人的な支出)です」
「えぇぇ!? 糖分補給しないと歌えませんよぉ!」
リベラは冷酷にバツ印をつけた。
「ですが……例えば『ステージ衣装としてのドレス』なら?」
「えっ」
「あるいは『喉のケアのための最高級ポーション』なら?」
「……!」
リベラがニヤリと笑う。
「それらは全て『消耗品費』および『衣装代』として計上可能です。つまり、税金で持っていかれるくらいなら、仕事道具として豪華な買い物をした方が得なのです!」
「す、すごいです! 魔法です! 経費って無敵の魔法ですぅ!」
リーザが立ち上がり、拳を突き上げた。
恐怖は消え去り、代わりに買い物への欲望が鎌首をもたげた。
「じゃあ、ドレス買います! 靴も買います! マッサージチェアも……」
「待ちなさい。ただ買えばいいのではありません」
リベラが制止する。
「税務署(王宮財務部)は甘くありません。『本当に仕事に必要だったのか?』と厳しくチェックされます。……そこで」
リベラは一枚の地図を広げた。
「『出張』に行きますわよ」
「しゅっちょう?」
「行き先は、王都近郊の『黄金の迷宮』。名目は……『新曲のPV撮影および素材収集ツアー』です!」
「なるほど!」
キャルルが手を叩いた。
「ダンジョン攻略なら、武器も防具も回復薬も、全部『業務用品』になるわね!」
「そうです。移動の馬車代は『旅費交通費』。現地での食事は『会議費』。そしてモンスターと戦うための装備は『福利厚生費』……いえ、『安全対策費』ですわ!」
リベラの口から次々と飛び出す勘定科目。
隆史は頭を抱えた。
「(……完全に、脱税スレスレの悪徳コンサルの手口でござる)」
だが、リーザはもう止まらなかった。
「行きます! 行かせてください! 私、最高級のポーションを経費でガブ飲みしたいです!」
「ふふ、良い返事です。では、明朝出発。……タローマートの半額弁当生活とはおさらばですわよ」
***
翌朝。
『タロウ・ハイツ』の前には、ゴルド商会の豪華な馬車が停まっていた。
「さあ、出発進行ー!」
リーザは意気揚々と馬車に乗り込んだ。
昨日の怯えていた少女の姿はない。今の彼女は、「経費」という最強の盾を手に入れた無敵の戦士(消費者)だ。
「隆史さん! 武器屋に寄りましょう! 一番高い杖を買って、領収書をもらうんです!」
「ルナちゃん! 魔石も買いましょう! 経費です! 全部経費です!」
「……やれやれ。今度は『買い物中毒』になりそうで怖いでござるな」
隆史は胃薬(これは自腹)を飲み込みながら、御者台に座った。
目指すは黄金の迷宮。
そこには強力なモンスターと、そして何より恐ろしい「税務調査」が待ち受けている。
チーム・サスガの、領収書を求めての冒険が始まった。




