EP 33
決戦! タローマート半額戦争
時刻は午後7時。
夕闇に包まれた王都のスーパーマーケット『タローマート』。
その惣菜コーナーは、昼間ののどかな雰囲気とは一変し、「戦場」の空気を漂わせていた。
「……いいですか、隆史さん。ここからが本番です」
買い物カゴを握りしめたリーザ・マーメイドが、鋭い眼光で棚を睨み据えている。
彼女の視線の先には、売れ残った弁当や惣菜の数々。
そして、それを虎視眈々と狙う、地域の古参主婦たちの背中。
「今日は贅沢をする日……。つまり、自分の金で『夕飯の弁当』を買う日です!」
リーザが宣言した。
今までは隆史の廃棄弁当や、キャルルの奢りに頼っていた。だが、今の彼女には小銭がある。
しかし、定価で買うほどの余裕はない。
「狙うは一点……『半額シール』が貼られる、その刹那!」
ザッ……ザッ……。
店員通用口から、一人の男性店員が現れた。
その手には、伝説の武器――『値引きシール貼り機』が握られている。
「来た……! 『値引きの神(店員さん)』だ……!」
惣菜コーナーに緊張が走る。
談笑していた主婦たちの目が、一瞬で肉食獣の色に変わった。
店員が『のり弁当(定価398円)』の前に立つ。
ラベラーを構える。
カシャッ。
黄色いシールが貼られた瞬間。
【半額】の二文字が輝いた。
「今だぁぁぁぁ!!」
ドガガガガガッ!!
主婦たちが雪崩のように殺到する。
凄まじいプレッシャー。隆史なら一瞬で弾き飛ばされる激流だ。
「甘いですぅッ!!」
だが、リーザは違った。
彼女は姿勢を低くし、主婦たちの足の隙間を縫うようにスライディングした。
元王女の品格などかなぐり捨てた、泥臭い『強欲ダッシュ』。
「なっ、なんだこの小娘は!?」
「速い……!? 残像が見えるだと!?」
主婦たちが驚愕する。
リーザの瞳には「¥」マークが回転し、その動きはS級冒険者すら凌駕する速度に達していた。
彼女の手が、黄金に輝く(ように見える)『のり弁当』へと伸びる。
バシィィィッ!!
リーザは弁当を掴み取ると、そのまま床を回転して主婦包囲網を脱出した。
見事なヒット&アウェイ。
「はぁ……はぁ……! 獲った……獲りましたぁ!!」
人混みから抜け出したリーザは、勝ち取った弁当を高々と掲げた。
『特製・白身魚フライのり弁当』
【398円 → 199円(税抜)】
「やりました隆史さん! 200円以下です! 缶ジュース2本分で、ご飯とおかずが食べられるんですぅ!」
リーザは弁当を頬ずりし、涙を流した。
「こんな贅沢ができるなんて……私、幸せですぅ……!」
白身魚フライ。ちくわの磯辺揚げ。きんぴらごぼう。そして海苔の下に隠れたおかかご飯。
その全てが、今の彼女には宝石箱より輝いて見えた。
「(……たった200円でここまで感動できるとは)」
隆史は、戦場跡でへたり込むリーザを見守りながら、深く頷いた。
「見事な戦いぶりだったでござる、リーザ殿。今夜は祝杯でござるな」
「はい! お水(水道水)で乾杯しましょう!」
その夜。
タロウ・ハイツの食卓には、冷めているが最高に美味しい『半額のり弁』の香りが漂った。
リーザは一口ごとに「ん~っ!」と身悶えし、白身魚フライを最後の一口まで大切に味わったという。
……しかし、このささやかな幸福が、ある「黒服の来訪者」によって打ち砕かれるまで、あと数日。
忍び寄る税金の足音に、まだ誰も気づいてはいなかった。




