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EP 31

銅貨3枚のロイヤル・ブレックファースト

 シェアハウス『タロウ・ハイツ』201号室。

 この日の朝、リビングには神聖な空気が流れていた。

 ちゃぶ台を囲むのは、いつものメンバー。

 店長・流賀隆史、月兎族のキャルル、エルフのルナ。

 そして、先日のライブで小金持ち(?)になった元王女、リーザ・マーメイドである。

「……リーザ殿。その、目の前にある瓶は……?」

 隆史がおずおずと尋ねた。

 リーザの前には、いつもの「黒く焦げたパンの耳」の皿がある。

 だが今日は、その横に真新しい小瓶が鎮座していた。

 『タローマート・オリジナル 徳用イチゴジャム(98円)』。

 リーザは、まるで王冠でも扱うかのような手つきで、その瓶を撫でた。

「ふふふ……気付きましたか、隆史さん」

 彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「これは、私が稼いだライブの収益(3円)と、その後のグッズ販売の手伝いで貯めた小銭……血と汗の結晶で購入した、『正規の商品』です!」

「おお……! 廃棄でも、貰い物でもなく!」

「はい! 自分のお金で、定価(の安売り)で買ったんです!」

 リーザの瞳が潤んでいる。

 銅貨数枚。されど、それは彼女にとっての経済的自立の第一歩だった。

「では、失礼して……『開封の儀』を執り行います」

 ゴクリ。

 キャルルとルナが固唾を飲んで見守る中、リーザは瓶の蓋に手をかけた。

 ポンッ。

 小気味よい音が響き、甘酸っぱい香りがふわりと漂う。

「はぁぁぁ……♡ イチゴの香り……! 本物のフルーツの匂いがしますぅ……!」

 リーザはスプーン(コンビニのプラスチック製)を震える手で握り、ジャムをたっぷりとすくった。

 そして、それをカリカリのパンの耳の上に、とろりと垂らす。

 黒い炭素の塊に、鮮やかなルビー色の輝きが乗った。

「見てください……まるで宝石です。パンの耳が、王宮のデザートに見えてきました」

「(……それは言い過ぎでござるが)」

 隆史は心の中でツッコミを入れたが、口には出さない。今の彼女にとって、これはミシュラン三ツ星以上の御馳走なのだ。

「いただきます……!」

 リーザは大きく口を開け、ジャムの乗ったパンの耳を頬張った。

 ガリッ、ボリッ、とろぉ……。

 その瞬間。

 リーザの動きがピタリと止まった。

「…………っ!!」

 カッ! と彼女の目が見開かれる。

「あ、あまい……! あまぁぁぁいっ!!」

 リーザが絶叫し、頬を両手で押さえた。

「すごい! 砂糖の暴力です! 脳みそに直接糖分が染み渡りますぅ! パンの耳の焦げた苦味が、ジャムの甘さを引き立てて……これはもう、『焦がしキャラメル・フランボワーズ仕立て』と言っても過言ではありません!」

 彼女の目から、ツーーーッと涙が流れた。

「幸せ……私、生きててよかった……。銅貨を使って買い物をするって、こんなに素晴らしいことだったんですね……」

 パンの耳をかじりながら、恍惚の表情を浮かべる元王女。

 その姿はあまりにも安上がりで、あまりにも幸せそうだった。

 隣で厚切りベーコンを食べていたキャルルが、呆れつつも微笑んだ。

「よかったじゃない。……ま、私のお肉と交換してあげようかと思ったけど、今日はやめとくわ」

「はい! 今日はこのジャムが主役ですから!」

 ルナもニコニコと頷く。

「リーザさん、輝いてます! 糖分でオーラが増してますよ!」

 隆史は、自身のお茶(廃棄)をすすりながら、しみじみと思った。

「(……ジャム一瓶でここまで幸せになれるとは。リーザ殿は、ある意味最強の幸福者かもしれないでござるな)」

 だが、隆史は知らなかった。

 この「小金持ちフィーバー」に入ったリーザの欲望が、食欲だけでは留まらないことを。

 彼女の視線は、次なる贅沢――「美容」へと向かっていたのだ。

「ふふ、お腹も満たされましたし……次は『お肌』のご褒美ですね♡」

 ジャムの瓶を抱きしめるリーザの瞳には、次なる野望(ドラッグストアへの進軍)が燃えていた。

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